第5話 リコとの高校生活3
――午前中の授業が終わり、みんなが昼飯を食べるころ俺とリコ、そして高貴と薫は屋上で昼飯にしようと思い、屋上へと足を進めていた。屋上への入り口であるドアを開けると、そこには開放的な空間、そして澄み渡る空、絶好の昼飯時と言ったところだろうか。
するとその光景を見たリコは、一目散に前に出てあたりを見渡し始める。
「ご主人! ご主人! 屋上ってこんなに広いんですね! 驚きましたっ!」
興奮を隠せないリコに、「だろ? ここはいつだって昼飯を食べるのに最適なんだ」っと言い返すと、リコは「はいっすごく気に入りました!」とシッポをパタパタと振りながら笑顔でこちらに言った。
リコの言葉に続くように薫も、屋上に入り口を開く。
「へぇ~、初めて来たけど、ここもいいところね。ナオやコウはここには来たことあるの?」
ここに来たことあるのという質問に返そうとしたとき、突然高貴が俺の肩に手を回し、俺が言う前に高貴が説明を入れて来た。
「俺と直人は、だいたいこんな晴れてる時はいつも屋上で食べてるぜ!」
なぜ、肩に手を回す必要があったのかと疑問に思う点があったが、まぁそんなことは問題ないだろうと放置し、高貴の回答に付け足すように話す。
「いつも屋上で食べているけど、ほとんど屋上で食べるのは俺たちしかしないけどな。」
「俺たちしかしない? 何で2人しかいないの?」
やはり疑問に思ったのか、首をかしげながら聞く薫に、奇跡的に俺と高貴の言葉がかぶりを見せる。
「「えっ? だってここ、立ち入り禁止だからな」」
「えっ? じゃないでしょ! どうするのよ入ってるのが生徒会にバレたりしたら!」
当然、立ち入り禁止のところなんかにはいったら、怒られるどころか呼び出しは免れないだろう。
でも、俺たちには生徒会の中にも心強い仲間がいる。。
「バレたって大丈夫だって薫、生徒会には誰がいると思ってるんだよ。」
「誰がいるって、それは……あっ!」
思い出したかのように、気づく薫。
この学校のしきたりとして、生徒が犯した校則違反などはすべては生徒会が引き受けるのだが、その生徒会の現会長にして、うちの母親(理事長)の次に校則違反の処分に対する権限が強いとされる人がいる。
その人物は、俺の昔からの幼馴染みの2人の内の1人にして、この学園の美少女ランキング第1位。
眉目秀麗、才色兼備といった言葉の意味が説明せずとも理解でき、そして何を考えているのか読み取れない表情、さっぱりとしたような性格、まるで南極の氷の上で生活をしているペンギンのように美しい姿にたいし違反した者を凍り付かせるような瞳からクールレディの異名を持つ。
そんな彼女が自分たちのバックについているとなれば心強いというものである。
「やっと気づいたか、ほら大丈夫だろ? 心配すんなって。」
「大丈夫かなぁ……」
薫が不安そうな表情を浮かべていると、ほかに自分たち以外に誰も来るはずのない屋上のドアが開いた音がした。
振り向くと、ドアのところにはある少女が立っていた。
早朝に咲く露草の花のような露草色な髪色。セミロングくらいの髪を飾る結ばれた、何か俺には見覚えのあるように感じる氷晶の模様のスカーフ。
南極の白銀の雪景色のように白く透き通った白い肌。
紫色を帯び暗い感じだがその中にも上品な青色の紺青色の瞳を持った美しい少女が俺たちの元へ近寄ってきた。
「なおとくん、また屋上に入っているの? 僕が君たちの違反をなかったことにするのも大変なのだけれど……」
落ち着いた大人女性のような声で一人称が「僕」というのが特徴的な少女。この少女こそ学園美少女ランキング1位、眉目秀麗、才色兼備、そしてクールレディという異名を持っている少女、氷島雪姫である。
「まぁまぁ、落ち着けって雪姫、俺らが屋上に入り込むのはいつものことだろ?」
「そうなのだけど、今回は2人だけではないみたいじゃないか……」
いつものことを言うのは十分承知の雪姫だが、今回は俺と高貴以外の後ろの2人の方へと目を向けた。
「薫もいるなんて、めずらしいね、あぁ、もしかして高貴くんがいるかr……んッ」
「あっ、ああ! 久しぶり、ヒメ! ……な、何のことかなあ?」
雪姫が最後まで台詞を言う暇もなく、口をふさぐ薫。
そんな薫に何かを察したのか、薫に口をふさがれた手を退かし雪姫はリコの方へと目を向ける。
「んっ、まぁいいけど、ところでそこにいる子は誰かな? 僕は初めて見る子だけど」
興味を示しながら近づいてくる雪姫に、リコは少しオドオドしながら答える。
「は、初めまして! 私は繰時リコって言います! よろしくお願いしますね、雪姫さんっ!」
「僕のことはヒメでいいよ、それよりもいくつか気になることがあるのだけど。その耳とシッポは本物かい?」
当然のように、最初にリコへ疑問を向けるのは、その特徴的な犬耳とシッポである。
しかし、本物かという問いにそのまま「そうだよ」っと答えると、この前高貴に対して答えたコスプレだという問いに矛盾が生じてしまうことを考慮して、今回もコスプレだと言うことにした。
「あっ、それは雪姫、コスプレだよコスプレ! 完成度が高いだろう!」
「それにしては、妙にリアルだね、触ってもいいかな?」
さすが雪姫、高貴と違って単純ではなあたり、油断も隙もない。
もうコスプレとか言う、言い訳も2回目にして早くも使い物にならなくなってきている。
「触ってもいいですよっ」
「そう、それじゃあ遠慮なく触らせてもらうよ」
慣れた手つきで、リコの犬耳をモフモフしたり、シッポをなでたりしている雪姫に対し、リコは耐えてるつもりなのだろうか。耳を触られている時はシッポが、シッポが触られている時にはピンッとまっすぐになっているあたり、相当のテクニックを有しているのだろう。
「あ、あの……もう、そろそろいいですか、も、もうこれ以上は……ッ」
耐えるのももう限界に達してきているリコに、降参とも取れる言葉をもらい手を止める雪姫。
止めてもらったリコは、息切れとともに少し頬が赤くなっていることが分かり、俺はそれをみて「あれは相当なテクだな」と謎の関心を寄せるほどであった。
手を止めたのはいいものの、何やら思いふけるかのように考えてこちらに振り向く。
「どうした雪姫、そんな考え込んで?」
少し考え込んで、何かの結論にたどり着いたのか、頭を上げこちらに向けて、そのたどり着いた結論を言って来た。
「えっと、リコだったかな、この子の耳とシッポのことなんだけど……本物だよね?……」
すぐバレた、ものの見事にバレた、俺の脳をフルに活用させて出てきた結論を、あの数秒で論破されてしまった。
さすが雪姫、才色兼備は伊達でなかった。しかし、俺もこのままでは終われない、どうにかしようとして、また無き知識をフルで活用し答えを生み出そうとし、俺はある結論にたどり着いた。
「嘘ついてすみませんでしたぁぁぁぁぁ!」
ズサァァァァァァァ――
見事な土下座、上下左右どこをどう見ても綺麗な土下座をである。
やはり、天才には勝てない(いや、ただ単に高貴や薫がド天然過ぎただけ何だが)俺の渾身の土下座をみた雪姫は、「やっぱりね」と少しあきれた顔をしておられる。
「な、何で本物だって分かったんだ?」
そんな疑問いたし、逆に何で分からないの?みたいな顔で言ってくる。
「それは、まず一つに僕が耳とシッポを触っているときに、どちらか片方を触っているともう片方が反応していたこと。これは偽物なら反応はしないはずだよ、もう一つは、コスプレだというなら本来ある耳のところに耳がなかったことかな。」
ごもっともとしか言いようがないくらいの理由、「これはだませないわ」としか言えなかった。
いや、そもそもこれで騙されている。高貴と薫がアホすぎて心配である。
そんな、騙されていた、高貴と薫が驚いたように話に入り込んできた。
「「えっ!? 本物なの! コスプレじゃないの?!」」
「うん、本物だよ、俺の家にいた愛犬のリコがなぜか人間になったんだよ……」
さっきまでの土下座での謝罪は何だったのかと思うように、真顔でリコの秘密をしれっと暴露する。
その暴露を聞いた、2人がどんな顔をするのかなぁっと思って期待していると、意外な対応力を見せてきた。
「えっ、何それますますリコちゃんカワイイ!」
「人間になっても耳とシッポは付いたまま、そして美少女!!! いいね! 最高!!!」
リコのことが、もっとお気に入りになって抱きつく薫に対し、ますます変態度数が急上昇してる高貴であった。
その間、薫はちょっと不機嫌な顔を高貴に向けていることをまだ知らないでいた。
「まぁ、バレてしまった事だしリコのことよろしく3人とも!」
「おう! 任せとけ!」
「改めてよろしくねリコちゃん!」
「僕もよろしくねリコくん」
「はいっよろしくお願いしますね、皆さん!」
各々、リコのことを改めて知ってもらい、より一層仲良くなったところで、本来の予定である昼飯を食べる事を行うことにして、雪姫も一緒に食べることにした。
「さぁ、弁当でも食べようぜ、昼休みが終わっちゃう前に」
「そうですねご主人、食べましょう!」
俺とリコがそういうと、皆持ってきた弁当を開き始めた。
高貴は薫の手作りの弁当、俺とリコは母直伝の弁当、雪姫も手作りの弁当と、なんとも愛情のこもっている弁当の数々である。
「わぁ~! 皆さん、すごいお弁当ですねぇ!」
色とりどりのお弁当に、感激しているリコに薫と雪姫が「食べてみる?」と聞いてきたことに対し、リコは「食べたいです!」っとシッポをパタパタさせながら目を輝かせて薫と雪姫の方をみていると、おかずをとってリコの方へと差し出してきた。
「はいリコちゃん、あ~ん!」
「あむっ……んっ~、おいしいですね! さすがです、薫さん!」
「ふふっ、ありがとうリコちゃん」
なんとも微笑ましい光景、いつまでも見ていたいと思う光景にありがとうございますという限りである。
薫のおかずを食べた後に、今度は雪姫のおかずを食べに行くリコ。
「はいリコ、僕のも食べていいよ、あ~ん」
「はいっ、いただきますヒメさん! あむっ……んっ~、こっちのおかずもおいしいです!」
「そう? ありがとうリコ」
薫と同等絵になる、こんなに絵になる光景は相当見たことがないだろう、見れた俺は最高の至福であり、最高の癒やしである。
そんな光景を微笑ましく眺めていると、それに気づいた雪姫が俺の方に近づいてきて俺にもおかずを差し出してきた。
「なおとくんにも、僕のおかずの感想を聞かせてもらおうかな、はい、なおとくん、あ~ん……」
「えっ、い、いや俺はいいよ、自分で食べるから……」
「なんで、僕から食べさせてもらうのは嫌かな?」
少し不機嫌な顔をして、先ほどよりも近い位置に近づいてきた雪姫に、翻弄されつつも耐えようとしたものの、やはり学園一位の美少女からの接近はさすがに心臓が持たない上に興奮せざるを得ない状況に陥ってしまう。というか陥っている……
「い、いや、嫌じゃない、嫌じゃないけどさぁ……というか近い! 近いよ雪姫!」
「近い? いいじゃない僕は別に気にしないよ。嫌じゃないならいいじゃない、ほら、なおとくん、あ~ん」
「いやいや気にしろよ、女の子だろ!……わ、わかった!わかったから!食べるから離れて!」
雪姫の無言の圧に押されて、雪姫から食べさせてもらって小っ恥ずかしい限りなのだが、それと同時にうれしいという感情もこみ上げてくる。
その表情をみた雪姫は、また俺の方へと近づいてきた。
「大丈夫だよ、なおとくん、こんなことするのは男の子中で僕は君にしかしないよ」
「何だよ突然、恥ずかしいこと言うんじゃねーよ……」
唐突に言われた、もはや告白とも取れる言葉に赤面する以外の反応がない。
言った雪姫の顔を見る限り、本当に心から思って嘘ではないことが見てわかった。
そんな俺と雪姫の掛け合いを見ていた、リコが不満げな顔をしながら話に入ってきて、俺にくっついてきた。
「ご主人! 私からもご主人に食べさせてあげます! はいっ、あ~んしてくださいご主人!」
「えっ、ちょ、リコまで……いや、だから自分で食べるから……」
「ヒメさんのは食べて、私のは食べてくれないんですか……」
その言葉は反則。そんな顔しないでほしい……そんな顔をしてもらうと断ることが難しくなる…、というか断ったら謎の罪悪感に襲われそうである。
俺だけでなく、どんな人もこんな場面に直面したら断れる人なんかいないだろう、いたとしたら、仏か何かだけだろうと思う。
「食べます、食べるからそんな顔しないでリコ!」
その言葉を聞いて表情が明るくなるリコ。よほどうれしかったのか、またいつも以上に耳をピョコピョコとシッポをパタパタと動かしている。
「ほんとですか!、じゃあ、はいっご主人、あ~ん!」
「お、おう、あ~ん……」
「おいしいですかご主人っ」
「あぁ、おいしいよリコ」
こんな心なしかいつもよりおかずがおいしく感じる甘々な昼飯時が毎回合ったら、いずれ天罰というか何か不運があってもおかしくはないのでは無いかと思うしない。
その間、高貴がうらやましそうにこちらを見ていたことは言うまでも無い。
それを見ていた薫が「私に言えばいいじゃない」みたいなことを呟いていたことは高貴はまだ知らない。
美少女2人から、食べさせてもらい嬉ながらも恥ずかしい表情がまだ収まらない俺に、クールレディこと雪姫が言い始めた。
「さて、なおとくん、僕とリコから食べさせてもらったけど、どっちの方がよかったかな?」
「えっ…どっちがよかったって……それは…あの…」
なんとも回答に困る事を、聞いてくる雪姫。
それに対しどのように回答したら、どちらとも傷つけないようにするにはと考えているとリコが突然、腕にひっついてきて、笑顔でまたも無邪気な攻撃が俺を襲う
「もちろん、私ですよねご主人!」
ひっついてきた腕に、柔らかい感触が当たって来てることにより心拍数が上がりまくっており、リコにもう少し離れてと言おうとした瞬間、もう片方の腕にも柔らかくリコよりも少し大きい感触が伝わってきた。
「僕だよね、なおとくん」
両方の腕が幸せに満ちあふれている中で、選択肢をどう選べば無事に乗り切れるかという試練も同時に与えられている。
選択肢を間違えてしまえば、リコと雪姫のどっちかが不機嫌になってしまうのは免れない。しかし、ちょうどいい適切な選択肢を選ぶことによってどちらも傷つけず、なおかつ俺自身も罪悪感にやられずにもすむという状況になっている。
「えっ……とそれは、それはだなぁ」
真剣に悩む俺に、双方からの期待の眼差しと腕から伝わってくる、ぬくもりと柔らかい感触により俺の思考回路が混乱してくる。
そんな一生懸命考えている、俺に学校からの救いのベルが鳴り響く。
――キーンコーンカーンコーン……キーンコーンカーンコーン
「あっ、昼休みがもう終わったぞ!、ほら先生が教室に来る前に早く戻るぞ!」
学校のチャイムにより救われた俺は、リコと雪姫に挟まれた腕を惜しみながらもふりほどき急いで、教室に向かう。
「あ! ご主人まってください! まだ答えを聞いてませんよ!」
「ふふっ、救われたねなおとくん、今回は見逃してあげるね。さぁ、薫と高貴も後は僕が戸締まりはしておくから早く行かないと授業に遅れるよ」
俺の逃げたことに、大人なクールな対応を見せる雪姫。その雪姫に言われ急いで片付け俺の後を追いかけていく。
「ごめんね、ヒメ、あとはよろしくね」
「姫、よろしく頼む!」
「えぇ、僕に任せておいて…」
屋上の戸締まり雪姫に任せて、午後の授業に間に合うために教室へとダッシュする俺とリコ、そして薫と高貴。
「やれやれ、なおとくんから感想を聞けなかったのは残念だけど。楽しかったよ、なおとくん……ふふっ」
屋上から去っていく俺たちの背をみて、クスリと笑う雪姫のスカートの後ろが不自然な動きをするとそれを少し驚いた表情で抑える。
「おっと……僕としたことが少し取り乱してしまったようだ。やっぱり君に会うと気持ちが抑えられないね、なおとくん」
スカートを抑えたまま、再び俺たちが去った扉の方へ顔を向け、口を開く。
「なおとくんは、いつ気付いてくれるかな? 僕があの時の……○○だという事に――」
この時の俺はまだ知るよしもなかった。雪姫に初めて会ったはずのあの日よりも前に出会っていたことに。
――チャイムが鳴り終わる頃、俺たちは午後の授業に間に合い教科書を準備をしていた。
午後の授業は、昼飯のあとだったという性もあるが、あんな寿命を縮めるような、状況にあった事もあり、眠くて眠くて仕方が授業になってしまった。
最初は懸命に授業を受けようと思っていたが、授業の後半になってからの記憶がどんどん途切れていった。
「――んっ……んー、っやべぇ寝てた!」
起きたときには、午後の授業は全部終わっており、もうほとんどの生徒は帰宅している状況になっている事がすぐに分かった。
俺が起きたことに気づいたのか、まだ帰ってなかった高貴が話しかけてきた。
「やっと起きたか直人、全然起きないからもうそろそろ起こした方がいいかと思ったところだったぜ」
「いや、もうちょっと早く起こしてくれよ午後の授業全部、聞き逃したじゃねーか」
「起こしたんだぞ。俺は何度もそれでも起きないから、まぁいいかと思ってそのまま寝かしといたんだよ」
どんだけ深い眠りについていたんだよ、そんな不甲斐ない自分に「はぁ…」というため息しかでなくなる。
何度かため息をついたところで、いつもはいるはずのリコがいないことに気づく。
「あれ? 高貴、リコがいないんだがどこに行ったか知らないか?」
「ん? ……あぁそういえばリコちゃんが見当たらないな、どこに行ったんだろう?」
その言葉から察するに、高貴もリコの行方がどこに行ったのか知らないようだった。
俺と高貴が、そこに行ったのか心配していると、まだ帰っていなかったクラスメイトの女子が話しかけてきた。
「リコちゃんなら、さっき何か誰かに呼ばれてどこかに行ってたよー」
「誰かに呼ばれてどこかに行った!? ど、どこに行ったか知らないか?」
何かただならぬ予感がした。
教えてくれたクラスメイトにどこに行ったか居場所を聞くが「連れて行った子達がクラスでも評判の悪い子だって事は分かるけど、場所までは分からないわ」っと言っていることを聞き、俺にはその連れて行った子がどの子かすぐにわかった。
その子達は、リコが転校してきた当初からあまりリコのことをよい眼差しでは見ていなかった。その子達が連れていったってことなら……
「くそっ! リコが危ない!!! おい高貴一緒に探すのを手伝ってくれ!」
「えっ、リコちゃんが危ないってどういうことだ!? 何か分からないけど、よし手分けして探そう!」
リコが危ないと言うことに少し混乱しつつも、高貴が返事をする。このままでリコは危ない目にあう、急いで俺と高貴が手分けして校内中を探し始めた。
「待ってろリコ、今行くからな!――」
――校舎の裏……そこには誰も来ないし来る人もいない、そんなところにリコはいた。
「てめぇ、最近調子のってんじゃねーよ!」
校舎裏のところでしか聞こえない、嫉妬の声。
理不尽にも突然告げられたリコは、その身体を小刻みに振るわすことしか出来ない。
「ご、ご主人、た、助けてください……」
「お前を助けてくれる奴なんざ、ここにはいねぇんだよ、このブスがぁ!」
言葉に出して見るも届くことない声。
その言葉を遮るように浴びせられる罵倒。迫り来る罵声に、声をあげることも出来ずおびえるリコ。
「どこだ!どこにいるんだリコ!……ウッ」
頼む!間に合ってくれ!と願いを込め全力で校内を走る。
走っていく中、なぜか頭の中によぎってくるあのときの夢。そして頭を抱えるほどの痛み、いったいこの夢がどうして今になって出てくるのか俺には、分からなかった。
今の俺には、唯々全力で走ってリコを探すことが何よりの優先事項であった。
危険が迫り来るリコ、そして頭の中によぎるあのときと夢の意味が分かるときが刻々と近づいてきている事に、俺とリコはその時は気づいてはいなかった――




