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そいつは慣れた手つきで暖簾をくぐると、光る革靴を脱いで木の下駄箱に入れ、無造作に100円玉(戻らない)を投げ込んだのだった。

  同格といえども先輩は立てるべしと、俺はいつも下座にあたる扉側に席を占めるのだが、約50センチメートルの距離にもくねんと座るその男を横目でちらちら眺めれば、室内を照らす赤い照明を映してテカる頭のバーコード、苦々しげに結んだ口元、眉間に刻まれた深い縦ジワ。どこからみても叩き上げの口うるさい中間管理職である。この世には苦労と面倒とゴルフしか無いとでも言いたげな渋面は毎年のように職場を荒らしては逃散するゆとり社員の故でもあろうか。時折こちらに漂ってくる酸っぱい口臭から察するに胃壁はもうショート寸前、本気で穴あく二秒前。ちなみに俺の脳内設定によると実は意外と本好きで、それもありがちな時代小説とかではなく松本清張あたりのガチガチ国鉄本格推理を好むなかなかの趣味人でもあるのだが、趣味が嵩じて日頃気に喰わない人事部長ダンディの殺人計画を時刻表を繰りつつ練るのを密かな楽しみとしていたが、そのうち余りにも完璧に組み立てられたその計画を実地に試さずにいられなくなり首尾よく仕遂げたはいいものの、些細なミスからアリバイ工作に利用した部下(美女)に見破られて恋人役の刑事に逮捕されることになるわけだがそれはあくまで俺の妄想なのであった。すまんすまん。


 さて次へ進んで四段目または下から二段目ともいうが俺のすぐ下、斜め前方を見下ろせば、まず目に入る真っ赤に熟した二つの裸体。その片方がテロリスト、短く略してテロ男である。どうやら二十代半ばと見えるが、鍛えてないことが如実に分かるぷよぷよお肉、そのくせ妙に毛深い奴で、腕から脚から胸から腋からタオルからはみ出したモミアゲまで黒々と渦巻く繁りっぷりに総務部長が時々羨ましそうな視線を投げるが、そのうちこいつも殺害リストに載るんじゃないかという懸念はさておきその異様な毛深さ、中近東風に頭に巻きつけたタオル、その下からギョロりと覗く金壺眼という第一印象をもって直感的かつ痙攣的にテロ男と名付けた俺であったが、毎週顔を合わせるうち、実はこいつがとんでもないヘタレ野郎だということが分かったのである。


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