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だがいま思えばその時すでに奴は背広を片手に引っかけ「ゆっとり」の前で足を止めたのだった。

 さて古今東西を問わず蒸し風呂においては、尻を据えた段の高低がそのまま室内における地位(ステイタス)となるというのが不動の規律。何故なら熱せられた空気の分子は低温時よりも活発に運動するため一定の体積に含まれる分子数はより少なくなる、つまり「軽く」なるわけで要するに何が言いたいかというと上にいけばいくほど熱苦しいんだよおおおおぉってことである。ましてや「ゆっとり」の人体耐熱実験場における最上段ときたら正にダンテが描いた地獄そのもの、皮膚はただれ内臓は煮えたぎり両目は眼窩の中でジュウジュウいいながら蒸し焼きになるってなもんで、大袈裟過ぎると思うなら実際に座ってみればよろしいのだ。もしもここの最上段に居すわれるような猛者がいたなら「ゆっとり」を征した勇者として不朽の名声を得ることはおろか世界征服すら可能だろう。当然そんな超人いるわきゃないので、最上段は俺の知る限りずっと空位のままである。ごく偶にテロリストがよせばいいのに挑戦しては、十数える間もなく顔面蒼白で口をおさえて退室し外のタイルにお店をひらく他にはあえてこの高峰に挑もうとする者はない。まっとうな男はすべからく自らの限界をわきまえるべきであり、無謀な挑戦は面子を落とすばかりか周囲に迷惑をかけるしダメ絶対。


 よって二段目からが実際の位階となる訳だが、毎週のようにその壁際に尻を据え置く一匹の男、彼こそ人呼んでヨガ行者。相撲でいうなら横綱にあたるツワモノである。その呼称の由来は某格闘ゲームに出てくる印度人にクリソツな外見で、清々しいまでに毛根の絶滅した頭部といい筋張った長い手足といい、いつ何時ヨォガフレイムしてくるか分からん佇まい。錆びたボイラーが吐きだす熱風と狭い空間に押し込められたおっさん共の呼気と汗そして山羊男の腋下から立ちのぼる殺人的臭気がゆらめく中、火もまた涼しとばかりに軽く眼を閉じ結跏趺坐、緋色のタオルの上で端然と印を結ぶその姿は目を細くして眺めれば3ミリ位は宙に浮いて見えてもいい。そんな今にも悟りを開きそうな姿から視線を下げればそこに見ゆるは三段目。任侠の世界でいうなら若頭にあたる階位に座するはかくいうこの俺、不惑は過ぎても知命にゃ至らぬ苦みばしったナイスミドル、そして総務部長の二人である。衝撃的につづく。



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