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俺はいつものごとく苦行に励んでいた。その日は調子がよく1分位は記録更新できそうな予感がしていた。

これは、とある寂れたスーパー銭湯におけるサウナ風呂の最上段をめぐる、熱き男達の戦いの記録である。


テーマは「ダンディズム」そして「昭和」。”Man Always Remember Love Because Of Romance Only. ”(男はいつも本当の愛を見つけるために恋をする)ンー、マールボゥ。喫煙が本人及び周囲の人々の健康に害を及ぼすのは確かですが、映画や小説、漫画等のシーンから紫煙が消えてしまうのは何だか寂しいと思いませんか。ぼくは思います。吸わないけど。

 とにかく「そいつ」が現れるまでは俺達は平和に過ごしていたのであった。山羊男はあい変わらず哀れっぽく鳴き声をあげながら強烈な悪臭を放っていたし、ヨガ行者は空中浮遊に専念し、総務部長は殺人計画の練り直しに余念が無く、テロリストは脂ぎった汗を流しながら自爆のカウントダウン真っ最中、そして骨皮ジジイは今にも死にそうな様子で小刻みにプルプルと震えていた、と書くとぜんぜん平和そうにみえないかもしれないが、こいつらは年中この調子だからこれでいいのである。俺も含めて総勢六人、男の中の男達がこの日集いしこの場所は、天の川銀河系オリオン腕太陽系第三惑星地球上の日本国なる関東地方、某県某市のとある裏通りにある寂れたスーパー銭湯「湯っとり」に併設されたサウナ風呂。二十一世紀も四半を過ぎて、温暖化真っ只中の猛暑を耐え抜き、今や秋もとば口に入った平日のけだるい午後なのであった。


 毎週欠かさずこの風呂に通い続けて早や半年、狭い空間異様に高い温度設定、そこはかとなく漂う不潔感そして山羊男のどぎつい体臭に耐えきれず続々と脱落してゆくタマ無し野郎共を尻目に苦行と鍛錬を積んだ結果、俺はようやくひとかどの闘士として奴等に認められたらしかった。らしかった、というのはこのような場における紳士の嗜みとして我々は一言たりとも口をきかないからである。武士の心構えと禅の精神と茶道の一期一会を合わせたようなモノだとでも言っておこうか、とにかくタオル一枚まとって(勿論タオルは必須である、大事な所を隠すのは最低限のマナーだとかいう以前の話で濡れタオルも持たずにここのサウナに入るような馬鹿はあっという間に干からびて死ぬ)、この鉄火場に来たからには地位も年齢も関係無い、一個の肉体と精神をひっ下げ無言でこの場に座するのみ。己が裸体がそのまま名刺なのである。おっ、今カッコいい事言ったな俺。まあそんなわけで俺はこいつらの名前も知らないわけだが、毎週のように顔をつきあわせている間柄、いつまでも脳内名無しのままでは礼を失する。というか数十分も熱気と悪臭に耐える以外何もせずにだんまりを続けているとだんだん脳が溶けていくような気がするし何よりとにかく暇なので、俺は天性の観察力を駆使して奴らに各自の本質を突いたあだ名を鋭く進呈し、普段の生活ぶりや学歴職業女の趣味好きな酒の銘柄など想像の限りを尽くすことで滞室記録を順調に伸ばしてきたのであった。まあそんなわけで、親愛なる読者貴兄にも熱気の中の濃い面々を紹介していこうと思う次第である。強制的につづく。



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