恋
僕は大学二年生で、好きな人がいる。その人は僕と専攻が同じ物理学で、入学式に声をかけられたことがきっかけで、仲良くなった。仲良くなってからは、色々なところへ出かけた。カラオケやボウリングはもちろんのこと、夜景の綺麗なレストランにも一緒に行った。
おそらく、相手も僕のことが好きに違いない。好きでなければ、夜景の綺麗なレストランなど、男子と二人きりで行くものだろうか。もし、僕の感覚が世間とずれているのであれば、それはただの勘違いとなってしまうわけだが。
今まで、僕は彼女というものができたことがない、というよりあまり興味がなかった。男色というわけではない。ただ、一人で読書をすることに生きがいを感じていた僕にとっては、通勤時間も彼女とデートしている時間も、読書を邪魔する時間、と、同じ括りと考えるほどだった。そのため、女子に好意をよせるということが全くなかった。しかし、あの人は違う。全くの別物だった。読書なんかしている時間はいらないから、少しでもあの人と一緒にいたい。あれほど譲れなかった読書の時間がちっぽけに思える。それくらいの大恋愛だった。
今日しっかりと「好きだ」と伝えよう。この気持ちを、ずっと野放しにしているのは僕が辛い。この「好きだ」という気持ちは、野原をかけまわり、やがて僕自身の心にまで噛み付いてくるに違いない。待ち合わせはあの子の家の前だ。今日も、夜ご飯を一緒に食べに行く約束をしているのだ。ガチャ…ドアの音がした。目の前には、僕がこの世界で最も綺麗だと思う衣服に身を包んだあの子がいた。
「ごめん、待った?」
確かに言われてみれば、おそらく5分は経っている。僕にとっては、待っている間の時間、ずっと気持ちの整理をしていたわけで、まったく気にならなかったが、感覚を戻すと、身体が冷えきっているのを感じた。しかし、あの子の気遣いによって、心からだんだんと、身体の芯からぬくもりが膨らんできたように感じた。
「ううん、待ってないよ」
少し微笑みながら、そう伝えたあと
「実はね、君に言いたいことがあるんだ」
本題へと、話を移した。その子は、きっと昔から気付いていたのだろう。あと、オッケーをしてくれるのだろう。そんな雰囲気の中、その子は落ち着いた声でうなづいた。
「君のことがずっと好きだよ」
「嬉しい。ただ、毎回そこまでかしこまらなくてもいいのに。だってもう付き合って一年よ?」