悠side
静かに眠りにつく遙。
頭を暫く撫でていたけど、
よく考えたら冷えピタもタオルも額に乗せていないことに気づき、
取りに下におりることにした。
今日は晴れだけど、
遙は天気がぐずつくと頭痛がする体質でもある。
冷たいものも基本苦手で、
俺は冷えピタではなく、タオルを水を張った洗面器に漬け込み、額に乗せることにした。
リビングに置いてある洗面器に水を汲んでいると、
ガチャガチャと鍵が開く音が聞こえ、自分でもわかるほど俺は顔をしかめた。
「ただいま」
「お帰りなさい、叔母様」
帰ってきたのは、父親の妹。
持っていた鞄を廊下に落とし、スーツのジャケットを脱ぎ捨て、ソファーに座った。
「……てか、あんたたち学校は?」
「…………」
遙が体調を崩したから。
そう言ってしまうと駄目なのを俺はわかっていた。
でも良い言い訳がなく黙り込んでいると、叔母様は溜息をついた。
「まーたあの子体調崩したの?」
「……ええ、まぁ…」
「放っておいて良いのに。お兄ちゃんも大変ね」
俺は愛想笑いを返し、洗面器にタオルを浸し、2階の遙の部屋に戻った。
「お兄ちゃん……ケホッ」
「遙。起きていたのか」
「ん……叔母様、帰ってきたの?」
どうやら鍵や扉の音で起きてしまったらしい。
俺は頷き、遙の額にタオルを乗せた。
「冷たっ……」
「おっと。悪いな、大丈夫か?」
「平気……」
遙は俺から目を逸らす。
無理している時、何か後ろめたいことがある時、我慢している時は俺から目を逸らす。
普段はしっかり、俺の目を見て話す子だから、すぐにわかる。
「遙。我慢しなくて良いぞ」
「大丈夫。
それよりお兄ちゃん、学校行って?」
「だから言っただろ?」
「僕が休んでいるからって休んでほしくない。
お兄ちゃんは真面目に学校に行って」
「……遙…」
「叔母様に怒られちゃうでしょ。
僕なら大丈夫だから、行ってきて良いよ」
遙は俺を見て笑う。
だけど視線は、俺を通り越しているように見えた。
「遙」
「悠、お願い。行って?」
熱のせいなのか、潤んだ瞳で言われる。
俺がこの潤んだ瞳に弱いのを、遙は知っている。
「……わかった。
行ってくるけど、約束しろよ」
「わかってる。
何かあったらすぐに隠さないで連絡、でしょ?」
「絶対だからな。
隠し事なんてしたら許さねぇから」
「うん。
気を付けてねお兄ちゃん、行ってらっしゃい」
俺は渋々、制服に着替えて家を出ることにした。
「叔母様。
俺学校に行ってくるので、遙をお願いします」
「はいはい。わかったわよ」
面倒そうな叔母様。
役に立たねぇだろうけど、叔母様は案山子じゃねぇから大丈夫だろ。
俺は玄関で靴を履き、玄関から真っ直ぐ伸びる階段を見上げる。
この上には遙がいる。
「……行ってきます」
俺は静かに扉を閉めた。