悠side
ぽんぽんと、俺に背を向ける弟の頭を撫でる。
何も声をかけたりしないのは、きっと泣いているから。
少し生い立ちが俺と違うため、弟は優しくされると弱い。
でもプライドが高いから、涙を人に見せたりしない。
俺も例外じゃない。
「遙。
俺食器洗っているから、何かあったら呼べよ」
背を向けたままこくりと頷く遙だけど、本当に言うかわからない。
食器を洗いつつ、こまめに見に来ようと決め、俺は台所に行き、水を流してお椀を洗った。
遙が残した玉子粥は、俺が全て平らげた。
体調を崩す度何も食べ物を受け付けなくなる遙は、慢性的に胃が細い。
基本体調を崩さず、好き嫌いもなく食べられる俺とは正反対だ。
思えば遙と俺は正反対な部分が多すぎる。
自画自賛ではないが、俺は周りの奴と仲良くなるのが上手く、頼られることが多い。
自然と周りには人が集まり、いつだって輪の中心は俺だった。
卒業してしまった元生徒会長の先輩の卒業論文を手伝ったことが影響し、
今はその先輩から生徒会長の座を、1年生ながら引き継ぎ、生徒全体をリードする。
生徒会長という肩書きを汚さぬよう、勉強も努力を欠かしたことはない。
スポーツは基本苦手だけど、出来る限り努力し、その姿が先生の目に留まり、体育の成績も良い。
先輩後輩仲良く出来ているのは良いことだし、多くの人と知り合った方がメリットは大きい。
そう思い、困っている人がいたら自然と声をかけるようにもなっていた。
反対に遙は、基本人と接することが苦手だ。
幼い頃はずっと病院にいたこともあり、俺と違い同級生と過ごす機会が少なく、
かなりの時間を要しないと他人に心を開かなくなった。
勉強はまあ出来るものの、学校に行くことが少なく、出席率が悪いため成績は中ぐらい。
運動は体力がなく、すぐに息切れしてしまい、見学が多いため赤点ギリギリ。
前よりは丈夫になったけどまだまだ体が弱いから、学校に行く機会がなく、
友達もいない。
「…………」
俺は12月の出来事を思い出す。
ある冬の日、俺は保健室に弟が運ばれたことを知った。
遙は保健室に行くことが多いため、養護教諭とは俺も顔見知りだった。
学校内で、唯一遙に優しくする人だと言っても過言ではない。
保健室で咳き込む遙の顔には、見るも悲惨な赤黒い痣があった。
そこで俺は、養護教諭から弟がクラスでいじめにあっている事実も知った。
俺は怖くなって、すぐにぐったりしている弟を連れ早退した。
学校に行けば殴られ蹴られの暴力を受け。
『兄には絶対言うな』と口止めされたり。
教室に怖くて入れず、廊下で咳き込んでいた所、養護教諭が通りがかり、
遙のいじめが発覚したという。
「……兄失格だよな、俺も」
俺は水を止め、手を拭きつつ遙の元へ行く。
遙は体制を変え上を向き眠っていて、苦しそうに息を吐いて眠っている。
今日はいつも通り学校がある。
だけど、俺は寝間着姿のまま遙に寄り添う。
「早く熱が下がると良いな」
滑らかな触り心地の頬に触れ、俺は遙の手を握った。