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97 『炒飯でもいいよ!』

 明けて翌日。

 本日も残暑が厳しそうな窓の外でしたが、【ふろんてぃあーず】は相変わらずの快適さです。


 時に、【ふろんてぃあーず】には『空腹度』と『渇水度』というパラメーターが存在することを覚えているでしょうか。

 『空腹度』は食料全般を摂取することにより回復し、『渇水度』は飲料全般を摂取することで回復します。

 どちらも0%になると『飢餓』というバッドステータスが付与されるので、戦闘をするにも生産をするにも食事をするのは大事です。

 当初は『飢餓』を防ぐために食事を摂っている人がほとんどでした。

 私もその類でしたね。

 ですが最近はスキルLvの上昇や進化が進み、食料の種類も豊富になり研究も進んでいるためとても美味しいものが増えてきています。


 ゲームの中ですので、現実ではもちろん栄養にはなりません。

 いくら食べても満腹になることもないですが、味を感じることは出来るのです。

 そしてつい最近になって『飢餓』対策と味以外にも恩恵が出るようになってきました。


 それは食事ボーナスです。

 これは装備などの製作でいうところの『オプション』効果となるようです。

 狙って付けるのは難しいですが、スキルLvや進化具合、設備や素材のランクが高ければ高いほど良いものがつくのは変わりません。


 食事ボーナスが付いた食料は現状ではどんなものでもかなりの人気です。

 元々美味しくなるように製作しているのもあって、どれもとても美味です。

 まぁ中にはゲテモノ料理を作る人もいるみたいですけど。


 そんな料理ですが、我らが『Works』にはお菓子専門の生産者――るーるーさんがいます。

 当然彼女はお菓子に関してトップクラスの生産者ですので、食事ボーナスが付いたものをいくつか製作出来ています。

 ただ現状ではほとんど戦闘系に偏っているらしく、私達生産者には恩恵がありません。

 でも掲示板の情報では数は少なくても生産系の食事ボーナスが存在することも確認されています。


 食料はもちろんお菓子だけではありません。

 今私の目の前にある食料も当然お菓子ではなく、主食となるタイプのものです。

 そして例の食事ボーナス付きです。

 しかも生産系のボーナスです。


「これがそうなのか」

「はい~。詳細欄の説明通りに素材加工の際にボーナスが付くようですよ~」

「最近掲示板で話題だよね」

「素材加工だけじゃなくて、製作終了時にボーナスが付くタイプもあるよね」「「でも全然手に入らない!」」

「素材加工のボーナス……いいですね……」

「素材加工は生産者にとってとても大事ですからねー」

「で、だ。

 加入希望なんだろ? オレは別に構わんぞ」


 そう、私が所属している生産者オンリー『クラン』――『Works』に遂に新しい人が加入するかもしれないのです。

 生産系トッププレイヤー開拓者ばかりが加入している『Works』にはこれまでもたくさんの加入希望者が現れています。

 ですが、そのほぼ全てが甘ロリさんの審査によって不合格となっているのです。


 理由は簡単です。

 生産系トッププレイヤー開拓者の私達にとって害となってしまう可能性が高かったからです。

 要するに高ランクの中間素材が目当てだったり、転売目的だったり、設備目的だったり。

 理由は様々あったようですが、甘ロリさんのお眼鏡に叶う人は居なかったのです。


 ですが、『Works』へ加入する方法は簡単です。

 まず甘ロリさんの審査に合格し、そのあと私達全員の承諾があればいいんです。

 簡単とはいいましたが、一ヶ月くらいの間に訪れたたくさんの加入希望者の全てが不合格だったことを考えればかなりの難関であることは変わりません。

 掲示板でも他人を加入させない身内『クラン』などと言われていたりもしています。

 ですが、【開拓者組合(ギルド)】の『クラン募集掲示板』でも募集はしています。

 加入させる気がないのなら最初から募集などしませんので、ただのやっかみですね。


 そして遂に甘ロリさんの審査で合格をもぎ取ったプレイヤー開拓者が現れたのです。

 甘ロリさんの審査は人柄、加入動機、製作物の3つを重視しています。

 私達にまで話が来たということはこの3つはクリアされているということです。

 特に最後の製作物ですね。

 今目の前にある食事ボーナス付きの食料がそうなのです。

 つまりは加入希望者はるーるーさんと同じ料理人です。

 とはいえ、るーるーさんはお菓子専門――つまりはパティシエですが、加入希望者は主食となる料理が専門のようです。


「まずは食べてみましょう~。

 冷めてしまっては美味しくなくなってしまいますからね~」

「「「「いただきます」」」」


 これは……外はぱりっと中はふんわり、溢れ出るスープが最高です。

 羽根のさくさく感も素晴らしく、付属のタレもとてもマッチしています。

 そう、これは『羽根付き餃子』!

 一口サイズの小さなタイプですが、手軽でいいですね。


「んん~美味しい~!」

「ビールが欲しくなるな」

「僕麦茶!」

「ボク紅茶!」

「「ホットで!」」

「白いご飯が欲しいですねぇ~……」

「餃子、久しぶりに食べましたよー」


 みんなご満悦のようです。

 もちろん私も久しぶりに食べた餃子に大満足ですね。

 現実での食事は完全に管理されていますので、好きなものを食べることはできません。

 色々制限もあるのでなかなかこういったものは食べられないんですよね。

 そんな生活が長いので、あまり食事に興味がなかったのですが、やっぱり美味しいものは美味しいです。


 ただまぁ、私にとってみればやっぱり『魔術紋様』を描いている方が楽しいんですけどね。


「ボク賛成!」

「僕も賛成!」

「「大賛成!」」

「わたしも賛成です……」

「私も問題ないと思いますー。

 何よりララルさんが人柄などを審査しているわけですしねー」

「決まりだな」

「では満場一致ということで~」


 ちなみに甘ロリさんの審査の詳細はすでにもらって読んであります。

 ですので、どういった人なのかはわかっているのです。

 決して餃子に釣られたわけではないのですよ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「お初にお目にかかるネ。クールーと呼んでほしいネ」


 『Works』7人目のメンバーは中華風の調理着を着たなんとも言えない、まさに料理人な人でした。

 誰がどう見ても料理人です。


 大きな中華鍋を背中に背負、フライ返しやお玉などがはみ出ています。

 右手には大きな中華包丁。

 左手にはなぜかネギです。

 誰がどう見ても……。


「よ、よろしくおねがいしますー」

「すげーなそこまでロールされると逆に新鮮だ」

「中国の方……なんですか……?」

「肉まん!」

「あんまん!」

「「角煮マン!」」

「いや普通に日本人ネ。

 ただのロールネ。よろしくネ」

「サプライズ成功ですね~やった~」


 クールーさんの見た目にみんな唖然としてしまいましたが、どうやら甘ロリさんのサプライズだったみたいです。

 確かにこれは普通に驚きますね。

 【ふろんてぃあーず】はネットゲームですので、当然ネタ装備や縛りプレイで楽しんでいる人も少なからずいます。


 特に装備は発想次第で自由な見た目で製作できますので、ネタの幅が広いのです。

 さらには生産系プレイヤー開拓者は戦闘系プレイヤー開拓者と違って装備の用途が完全におまけ状態なので自由度が高いんですよね。

 私もずっと『サロペットスカート』に『バケツヘルム』のままですし。


 ともかく、新しい仲間の誕生です。

 なかなかおもしろそうな人ですし、あの『羽根付き餃子』でわかるようにとても美味しい料理を作れる人です。

 あまり興味がなかった食事面にも少し興味が出てきました。


 まぁ当然ながら私は食べる側に徹するつもりですけど。

 ただでさえ現状の製作物で忙しいですからね。

 料理は素材の研究が必須ですので、そこまで手を出すつもりはありません。


「あ、そうそう。クールーさん、お店出すそうですよ~」

「南門通りに出すネ。みんな是非食べに来て欲しいネ。

 名前は『クールー飯店』ネ」

「ほほー。それは行かなきゃな」

「カレーはないのー?」

「ラーメンはー?」

「「炒飯でもいいよ!」」

「わたしは杏仁豆腐が食べたいです……」

「回鍋肉が食べたいですね~」

「研究中の料理が多いネ。でも再現できたのは作れるから安心するネ。

 メニューは20種類くらいネ」

NPC(ノンプレイヤーキャラ)店舗よりも多いですね~」


 露店以外でプレイヤーメイドの料理が販売されているところはかなり少ないです。

 特にお店となるとその数は片手で数えられるほどになります。

 食事ボーナスがなければ『空腹度』と『渇水度』の回復がメインになってしまいますからね。

 もちろん美味しいに越したことはありませんけど。


 NPC(ノンプレイヤーキャラ)店舗もあるので、料理店は今まであまりメリットがなかったんです。

 完全に趣味の領域とすら言われていたくらいです。

 でもクールーさんの料理は食事ボーナスが付く場合があります。

 それは『クールー飯店』にとって目玉となるでしょう。

 効果時間も物によって違いますが、最低でも6時間はもつものです。

 なので、ゆっくり食事を摂ってから狩りに行っても大丈夫です。

 ただ最後に食べた食事ボーナスしか効果がないので、食事ボーナスを大量にブーストすることはできません。

 それでも『クールー飯店』の繁盛は間違いないでしょう。


 今度みんなで食べに行きたいですね!



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