09 『街から出れない』
事件も一件落着したところで素材の買取のために露店に戻ると、アリミレートさんが手持ちの素材をいくつか売ってくれました。
彼女も狩りを終えて素材の売却のために露店を周ろうとしていた最中の出来事だったらしい。
お礼も含めて少し色をつけて買い取ろうとしたら、その分で素材を多く買って一日でも早く鋼装備を作れるようになってほしいと言われてしまいました。
格好いいですにゃー。
アリミレートさんが去ると今度は周りの露店主さんが代わる代わる私のところにきて災難だったね、と慰めてくれました。
中には私と同じように動画を証拠として撮っていてくれた人もいて、その人は今回の事件を専用掲示板にアップして広めてくれるということでした。
たぶんあの厳つい開拓者は私の作った『座布団クッション』のオリジナルレシピが目的だったのでしょう。
オリジナルの生産物は一定回数以上同じ素材と量で作るとレシピとして登録することが出来、譲渡が可能になります。
レシピがあれば施設を利用すれば簡単にアイテムが作れますからね。
まさにオリジナルのレシピは金の成る木なわけです。そんなオリジナルのレシピのアイテムをこんな時期に売っていた私は今後もオリジナルのレシピを作り出せる美味しい存在とでも思われたのでしょうか。
さらには装備類ではなく、『座布団クッション』というのも着目すべきポイントだったのかもしれません。
何せ序盤も序盤でこういった要素に目を向ける人は非常に少ないですから。
あの厳つい開拓者は最初の脅してくる態度が結構慣れていたように思うので、他にも被害者がいると見ている。
まぁこちらが反撃に出たらお粗末な結果になっていたので被害者はそう多くないと思いますけど。
一応あとで私も専用掲示板の方を覗いておきましょう。
プレイにばっかり夢中で本公開からずっと情報収集もしていないですからね。ちょうどいいです。
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その後は買取も順調でトラブルもなく、ラッシュさんとも無事合流出来『カッパーロングソード』を販売できて恩の字です。
先ほどの事件の事を世間話として気楽に話したら何やらとても心配されたけど、あの程度のことは私にとっては大したことではないのですよ。
私のことをよく知っているミカちゃんにもメールしておいたけど、返ってきた内容が「あたしも混ぜて欲しかった」ですからね。
心配なんて一切してないのですよ。
ラッシュさんからも素材の買取を行ってもまだ資金に余裕があったので、買取を続行しつつも『座布団クッション』を作っていく。
そろそろレシピ登録できそうな気がするので、メニューのレシピ一覧を確認すると案の定未登録品として『ヌードクッション』と『クッションカバー:座布団』が追加されていたので登録する。
これでレシピからの製作を行えるのですが、レシピからの製作は施設にいかなければ使えないのであんまり意味が無いです。それに別々に登録されたところをみると『ヌードクッション』に『完了処理』でカバーをつけるのはできないのかな?
まぁどっちでも私としてはいいんですけどね。
それに『リネンギャンベゾン』とかならレシピがあれば楽になるのでいいんだけど、それには相当数製作しないとだめなのでなかなか辛い。
今度は『魔導ミシン』を使ってしっかりと楽をすることにしましょう。
縫い物は嫌いではなくむしろ好きなんだけど、衣服などのサイズになるとやっぱり勝手が違ってくるんですよね。
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買取を続けているとミカちゃんからメールが来て、専用掲示板でさっきの事件が話題になっていると送られてきました。
ゲーム内では運営の用意した専用の掲示板以外はブラウジングができないようになっており、この掲示板はNPCの開拓者も閲覧、書き込みなどができるようになっている。
そのため、現実の話などは一切禁止となっており、運営の厳しいチェックがあります。禁止事項に抵触した際の罰則も結構重めに設定されていたりしますが、ゲーム内から接続できるのはこの掲示板だけということもあり、なかなかの賑わいを見せていたりします。
掲示板の盛り上がりの原因は主に犯人のお粗末な犯行と私のトレードマークである『バケツヘルム』とアリミレートさんの3点。
まぁ誰だってあの犯人のお粗末っぷりには苦笑を禁じ得ないと思う。でもあぁいう人もいるのがネットゲームの面白さでもあると思います。
私については有望な生産者って書いてあってちょっと嬉しかった。
あとミカちゃんだろう書き込みで名前がバレてたけど、全く問題なかったです。だってバケツさんだし。
特徴的なトレードマークと名前でお客さんが増えてくれるなら大歓迎です。
最後にアリミレートさん。
どうやら彼女は予想通りにかなり強い開拓者のご様子。
【首都サブリナ】近郊のPT向けの難易度の高い狩場でソロ活動をしているらしい。
難易度についてはβテストの情報なので修正などが入っていなければの話だけど、掲示板の書き込みを見る限りでは現状のトッププレイヤー達が3PTで挑んでかなり苦戦している場所らしい。
その難易度をソロで戦えるのなら相当な強さでしょう。
随分とすごい人に助けられたものです。
買い取りをしっかり行いつつも掲示板を眺めて、ある程度情報収集もしておく。
もちろん掲示板情報なので全部が全部鵜呑みにできるものではないけど、そこまで疑うほどのものじゃないです。
結局は取捨選択する自分の判断が大事ってことですね。
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掲示板効果なのか買取希望者が多く私の露店に訪れてくれて、ある程度余裕を残して今回もたくさんの素材を買い取ることが出来た。
もちろん私が欲しい素材だけなので買い取れないものもある。
その辺は周りにもたくさんの露店が出ているので、買取しているところで売るか【開拓者組合】で売るかは自由です。
買い取れないからって暴言を吐くような開拓者は早々いないし、ましてやさっきの事件のようなバカに遭遇するなんてもっと確率が低い。
今回は私のオリジナルレシピ目当てだったみたいだから確率云々ではなかったけどね。
露店を店じまいしてだいぶ減ってきた生地を購入し、【レンタル生産施設】で今回も個室を借りる。
前回『カッパーインゴット』を★4で作る事が出来たので、今度はさらなる向上を目指すということで道具の更新を行うことにする。
講習を受けられる生産系スキルは大体報酬に初級の道具セットが貰えます。
私も『木工』『裁縫』『鍛冶』『道具』『細工』『織』『商人』『皮革』でそれぞれ初級道具セットを貰っている。
『魔術陣』は純粋な生産スキルではないし、初期に必要な物は貰えているのでいいでしょう。
この初級道具セットは例えば『裁縫』なら『れんしゅう針』『れんしゅう糸切りハサミ』『初級レシピセット』などが入っている。
『道具製作』で新たに製作できるのは『縫針』『糸切りバサミ』。
頭にれんしゅうがついたりしない1段階性能が上の道具になるのです。
まぁ初心者脱却ってところですね。
ちなみにれんしゅう系統の道具のランクの高いものを製作するという手は残念ながら使えないのですよ。
何せレシピがないのです。
そうなると自作するしかなく、それならレシピのある次の段階の道具を製作した方が手間もかからないというもの。
れんしゅう系統の道具のレシピがないのはβテスト時の情報によれば、次の段階の道具の製作自体が非常に簡単で、「高ランクの生産品を作りたければ道具も相応のものを用意しろ」という事の第一歩だと言われています。
そういうことなのでれんしゅう系統の道具に拘りはまったくないので、私も次の段階の道具へと進むことにします。
まぁレシピがあるのは『縫針』、『糸切りバサミ』などの単品ではなく、『初級○○セット・改』というセット品になるのですけどね!
『道具製作』は『魔導合成器』で作るわけですから、セット品一括生産もありですね!
そして完成したものの一部がこちら――
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初級鍛冶セット・改
道具/★4/耐久100
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『道具製作』のスキルLv自体は低いのですが、なぜか★4の物が出来ました。
なるほど、確かに簡単だと言われるわけですね。
まぁランクが高い物が出来たのはいいことです。
こういう小さな積み重ねが他の製作でのランク向上に繋がるんですよ、えぇ。
ちなみにその他残りの『初級○○セット・改』も★4で出来ましたよ、えぇ。
その他にも副産物として『魔導合成器』は他の魔導系統の施設よりも多く魔力がかかる傾向があるので、魔力系統の3スキルがメキメキ上がってくれました。
今のところ一番Lvが高い『鍛冶Lv24』と『商人Lv24』以外だとこの魔力系統の3スキル『魔力操作』『魔力回復力強化』『魔力強化』がLvが高いです。
ちなみにLvは20です。ずいぶん上がってます。
他はまぁ、あんまり使ってないので一桁だったり、10代だったりする程度ですね。
全体では今こんな感じです。
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メイン
細工Lv10/裁縫Lv16/織Lv8/商人Lv24/道具製作Lv16/
鍛冶Lv24/魔術陣Lv10/魔力操作Lv20/魔力強化Lv20/魔力回復力強化Lv20
サブ
木工Lv11/皮革Lv7
SP11
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『鍛冶』で装備を作って『商人』で露店をしているので順当な結果というところです。
『織』は現状では糸しか作ってませんので生地を自作する段階になったら。
『皮革』は武器を製作するのにどんどん使うのですぐに上がっていくで事しょう。
しかし改めて見ても生産スキルばっかりですね。
これぞ純生産職というやつです。
ミカちゃんに見せたらきっと「街から出れない」と爆笑されそうですけどね!