89 『さぼったな……』
夕方のログアウトを挟んで『エンチャントマジックインク』を量産して、『魔術陣』を大量に描きました。
いやー非常に癒やされました。
『エンチャントマジックインク』自体は使用回数を伸ばすだけなので、描き上がるまでの時間などに変化はありません。
ですがその効果は顕著です。
使用回数が伸びれば自然と相場も上昇します。
元々それなりの値段がする『魔術陣』ですので、その上昇具合も結構なものです。
特にレアアイテム――『影の大結晶』を素材とする『魔術陣:破影結界』はその上昇具合が著しいですね。
とはいえ、割合で増えているみたいなのでせいぜい2割程度ではありますが。
でも大量に描けばその2割が大きく効いてきます。
これでまた上級設備の購入へと一歩近づきそうですね。
描き上がった『魔術陣』のうち、売れ行きの良い物は優先販売用の掲示板に情報を載せておくとして、『魔術陣:破影結界』はミカちゃんに『メール』しておきましょう。
絶対購入するでしょうし。
さてそれでは癒やされてばっちりやる気も大幅アップです。
がっつりお金を稼ぐにはやはり『魔術陣』よりもスティール系装備ですので、今度はこっちを製作しましょう。
さぁやりますよー!
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「まいどー」
「うおおおぉぉお金がないいいぃいぃ!」
「まぁ仕方ないよねー」
「くぅぅぅ! これで新エリアにもイベントMOBでなかったら大損かもぉぉぉぉ!」
「その辺は私はなんとも言えないなー」
「まぁでも強MOBに使うとめっちゃ楽になるのは確認してあるからね。
まったくの無駄ってわけじゃない……はず!」
スティール系装備を製作していたらミカちゃんから返信が届いて、約束の時間に『魔術陣:破影結界』を販売しました。
さっそくミカちゃん達は『魔術陣:破影結界』を使ってみたみたいですけど、その効果は抜群のようです。
『魔術陣:破影結界』の効果範囲にいるイベントMOBは纏い付いている影が剥がれて無属性攻撃の耐性が著しく落ちるらしいです。
完璧になくなるわけではないみたいですが、それでも通常の攻撃手段でダメージが十分に与えられるようになるので大幅に助かっているみたいです。
ただし、結界の時間はそれほど長くはないので雑魚に使うのは効率的ではないようですし、金銭的にも負担が大きいようです。
なので使いドコロは『影の大結晶』をドロップする強MOBとなるようです。
ただ『影の大結晶』も確実にドロップするわけではないのでじりじりとミカちゃん達の財布はすり減っているようですけど。
そんなミカちゃん達ですが、現状のイベントMOBでは当然ながら不満気味です。
新エリアの攻略を中断してイベントポイント稼ぎをしているわけですから仕方ないとはいえ、新エリアの方にも出て欲しいのが本音です。
ミカちゃん達の読みではイベント中盤辺りから他のエリアにもイベントMOBが出現し始めると思っているようです。
何せ新エリアは強いMOBが出ますからね。
最初は弱いところで感覚を掴んでもらい、徐々に難易度を上げていく。
ありきたりですが、イベント中ずっと適正Lvを大きく下回る雑魚狩りではさすがにフラストレーションも溜まってしまうでしょうからね。
私もその意見に賛成です。
もっと『影の大結晶』がドロップしてくれれば『魔術陣:破影結界』をいっぱい描けますからね。
是非とも新エリアの強いMOBもイベントMOB化してドロップするようになってほしいところです。
イベントと言えば『ミニコット』ですが、私が狙っている『ミニコット/ネコソギキャット』にはまだイベントポイントが足りません。
でも『魔術陣:破影結界』の製作で得られるイベントポイントはレアアイテムを使っているだけあって破格です。
この調子でたくさん描けたら『ミニコット/ネコソギキャット』を得られるのもそう遠くなさそうですね。
さらに新エリアの強いMOBからもドロップするようになればさらに上の『ミニコット』も狙えるかもしれません。
ちょっとこれは是が非でも新エリアにもイベントMOBが進出してほしいですね。
まぁ『影の大結晶』がドロップするという前提の話ではあるのですけどね。
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就寝ログアウトの前のお店の大休憩で一端補充を済ませてきました。
あと『ゲーム内時間』で3時間程度でログアウト時間です。
補充のついでに買取した素材の回収もしてきましたが、『影の大結晶』の買取があったみたいです。
店員さんが教えてくれたのですが、これもどうやら『ゴスペル』の方が売りに来てくれたみたいです。
さすがはミカちゃん達と肩を並べる戦闘系トッププレイヤー開拓者ですね。
ミカちゃん達は運が悪かったのもあってドロップしてなかったみたいですが、彼らはゲットしていたようです。
こうしてレアアイテムをうちに売りに来てくれるのは大変嬉しいですね。
優先販売の枠に追加してもいいくらいです。
装備がよくなればもっとたくさん良い素材を売ってくれるようになるでしょうし。
今度会ったら話してみましょうかね。
……いつ会うかわかりませんけど。
彼らとはフレンド登録をしていませんので連絡を取りたい場合は『クランホーム』辺りを尋ねるか、フレンド登録している人を探すか、掲示板で呼びかけるか、お店に素材を売りに来た時にでも店員さんにお願いするか。
まぁでも今でも優先販売出来る品はそれほど多くありません。
これからスティール系装備で『オプション品』が出来るようになればあの掲示板の利用頻度もあがるでしょうけど。
ですので偶然会ったらでいいでしょう。
【開拓者組合】には評価査定のために結構な頻度で足を運んでいますので、きっとそのうち会えるはずです。
さてそれでは短いですが自由時間です。
さすがにスティール系装備ばかり製作していは飽きてしまいますからね。
上級設備の資金集めは大切ですが、息抜きも大切です。
え? 『魔術陣:破影結界』を描いただろうって? それはソレです。
可愛い『魔術紋様』達が私を待っているのですよー!
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おはようございます。
朝の諸々を済ませてログインです。
昨日は実に楽しい時間を過ごしました。
夢の中でも『魔術陣』が描けて朝からとてもいい気分です。
まぁ『ゲーム内時間』は深夜ですけど。
さてそれでは良い気分のまま生産作業に入りたいところですが、『メール』の着信が視界にあります。
寝ている間に届いたのでしょう。
きっと双子からですね。
開いてみればずばり予想は的中です。
『エンチャントマジックインク』の交換条件に提示した、『鞄』拡張のクエスト内容が書かれています。
やっぱり私の時と内容が違うようです。
さすがに小学生の男の子達にお酌をさせるほど特殊な性癖の持ち主ではなかったようですね。
ミーとムーのクエスト内容は『錬金術』で製作できる中間素材の納品だったようです。
そこそこ難しい中間素材を要求されたようですが、双子にとっては問題なかったみたいです。
あっさりとクリアして拡張に成功したようですのでよかったです。
ミカちゃん達にもこの結果は回しておきましょう。
セクハラ紛いのクエスト内容じゃない場合もある実例です。
……ただミーとムーは男の子ですからね。
ミカちゃん達も私と同じ目に合う可能性は否定できません。
それでも『鞄』の拡張は倉庫を頻繁に利用できない戦闘系プレイヤー開拓者にとって非常に重要です。
一応交渉という手段がある以上、前例を知っておくのはいいことです。
ミカちゃん達には頑張って欲しいものですね。
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「――お?」
一心不乱にスティール系装備を製作していると視界に『メール』着信の合図がいつの間にかありました。
一体いつ届いたのでしょうね。
集中して作業をしているとあれだけわかりやすい合図でも、ついうっかり見逃してしまいます。
差出人はミカちゃんでした。
え、ミカちゃん今日学校じゃなかったっけ?
なんでこんな時間に?
「さぼったな……」
一応『メール』にはちょっと具合が悪くて休んだと書いてありましたが、具合が悪いならなんでゲームしてるのか、ちょっと小一時間問い詰めたいですね。
本当に具合が悪くなったらどうするんだか、まったく!
お説教はあとで必ずするとして、内容ですがどうやら『鞄』拡張クエストに挑んできたようです。
事前にお酌以外の例を知っていたのもあって、それを交渉材料に出来たみたいです。
最初はミカちゃんのPTメンバーの女性と一緒にお酌を要求されたそうですが、男性メンバーは違う内容だったのでそこを思いっきり突いたところ全員で討伐に内容が変更されたみたいです。
やはり交渉が通じるようですね。
おもいっきり舌打ちされたみたいですけど。
でもこれは朗報です。
これで姫ちゃん達も『鞄』拡張に安心して挑めます。
よくやりました、ミカちゃん!
……でもPTメンバー全員で行って来たみたいですから事前に約束していたんでしょうね。
これは確信犯です。
まったく……。
返信した『メール』には新たに製作した『魔術陣:破影結界』の販売について書いておきました。
もちろんお説教については書いていません。
のこのこ現れたミカちゃんにサプライズでお説教です。
じゃないと来ないでしょうから!
ちゃんと学校に行かないとだめですよ!




