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85 『ありがとうね、姫ちゃん』

 【ふろんてぃあーず】ではセクシャルハラスメントに関してかなり厳しく対処されますし、そのためのシステムも用意されています。

 世界初のVRMMOという広告塔でもあるため、こういった案件に対しては特に敏感なのでしょう。


 ……だからNPC(ノンプレイヤーキャラ)からセクハラ紛いの事をされるとは思ってもいなかったわけです。

 もちろんシステムによる対策はプレイヤーNPC(ノンプレイヤーキャラ)問わずに作用します。

 ですが、アカウントBANによる排除が心理的ブレーキになりやすいプレイヤーよりも、【ふろんてぃあーず】という世界で生きるNPC(ノンプレイヤーキャラ)の方が狡猾のだったようなのです。


 つまりはどこまでシステムが感知するセクハラなのか、その見極めが問題なのです。


「バケツ頭は残念だが、若いねーちゃんに酌して貰う酒はうめーな!」

「録画してますからねー。あとで訴えますからねー」

「がはは! 酌させたくらいで捕まってたらそこら中のやつらが犯罪者じゃねぇか!」

「ぐぬぬ……」


 『(アイテムボックス)』拡張を出来る職人であるハルドリンさんだとわかっていなければ、さすがに私だってこんな事はしません。

 でも拡張してもらうのが目的ですから機嫌を損ねるわけにはいかないでしょう。


 でもさすがにセクハラの見極めがうまいのか体に触ってきたりはしないようです。

 触ったりしたら確実にアウトですからね。

 今私のセクハラ対策は最上位設定ですので。


 ……でも残念ながら、ハルドリンさんの言うとおりに酌をしている程度ではセクハラにはならないようなのです。

 一応録画もしていますが無駄でしょう。

 無駄に狡猾すぎてもうあきらめモードです。


「でもそんなに飲んで作業が出来るんですか?」

「こんなもん酔ったうちにも入らんわ!」

「ちゃんと約束は守ってくださいよー」

「わーっとるわ! ほれ無くなったぞ!」

「はいはいー」


 安アパートのような工房の中は、外観とはまったく違い、上級の設備が置いてある立派な工房です。

 ですがその全てが携帯用で、上級の設備ではあるものの、据え置きタイプよりは性能が低いものです。

 それでも中級の設備よりは上ですので、私の工房よりもここの方が立派なのです。


 全てが携帯用の設備で揃えられているのはハルドリンさんが一所に居着かない性質の人だからだそうです。

 酌をしていると上機嫌で色々話してくるので嫌でも耳に入ってきます。

 でもこれ、私は女性だからこういうパターンなのでしょうけど、男性だったらどうなるんでしょう?

 ていうかミカちゃんはこれ耐えられないと思うんですけど。


 ミカちゃんアレで結構純情ですので、こういうのだめなんですよね。

 きっとすぐに手が出ます。

 今なら刃もついてきますね。

 逮捕されないといいんですけど。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ほれ、これで拡張は完了だ!」

「はー……ありがとうございますー」

「残念だが、コレ以上の拡張はわしにはできん!

 わしにできん以上は他の職人には不可能だろうがな!」

「じゃあこれで頭打ちなんでしょうかー」

「たっぷりと酌をしてくれた嬢ちゃんだから教えるが、実は深い階層の迷宮の奥には使うだけで『(アイテムボックス)』を拡張できるって噂のアイテムがあるらしいぞ」

「そうなんですかー」

「まぁそのためにはまず迷宮を見つけるための開拓で魔樹が問題だろうし、何よりそんな深い階層に辿り着ける猛者達を探すのも大変だろうがな」

「それもそうですねー。では私はこれでー」

「おう! 気が向いたらまた酌してくれや!」

「お断りですー」

「がはは!」


 ハルドリンさんに酌をすること1時間あまり。

 やっと満足したのか『(アイテムボックス)』の拡張をしてもらえました。

 でも酔ったまま作業をするのにはびっくりしました。

 しかも本当に酔っているのか疑わしい精密で繊細な作業でした。

 私もそこそこの生産者と自負していますが、ハルドリンさんの作業はすごいの一言でした。


 携帯用とはいえ、上級設備を完全に使いこなし、それ以上の腕でもって作業を行っているのです。

 これでスケベジジイでなければ尊敬するところなんですけどねー。


 何はともあれ、無事? に『(アイテムボックス)』の拡張は完了です。

 セクハラ紛いの酌を我慢したおかげで何やら情報も貰えましたし、もうここに来ることもないでしょう。


 ちなみにハルドリンさんは最近魔樹の伐採が進んでいる【首都サブリナ】の噂を聞いて【ドトリル】まで来たようです。

 【ふろんてぃあーず】はどこも魔樹の侵攻に怯えていますからね。

 その中でも魔樹の伐採が進んで安全が確保されつつある【首都サブリナ】は誰もが憧れる場所になっているようです。


 まぁゲームである以上、避難民であふれるような事はイベントでもなければないでしょう。

 もしかしたらそんなイベントもありそうな気配はしますが。


 他の国でもきっと同じような事が起こっているのでしょうね。

 スタート地点の国は他にもありますし。

 それらの国に行けるようになるのは当分は先の話です。

 まずは魔樹伐採を進めないと道もありませんからね。


 では短い間でしたが、【ドトリル】ともおさらばです。

 帰りはゲートを使って帰りますので時間もかかりません。

 滞在時間よりも来るまでの時間の方がかかっていたような気がしますが、まぁ仕方ありません。

 特産がなにもないのがいけないのです。

 こちらで頑張って伐採している開拓者の人達が何か目を引くようなエリアを引き当てることを祈っておきましょう。

 まぁ引き当てても私が来るのは現地での素材買取が必要になった場合だけですけど。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「――というわけで『(アイテムボックス)』拡張できたんだけど、正直お薦めしません」

「うわぁー……ありえない!」

「スケベジジイ」

「む、無理ですぅ」

「……無理です……」


 【ドトリル】から戻ってきた後、いつものようにスティール系装備の製作をして夕方以降、いつもの女子会メンバーが集まれる時間になってから今日は緊急の女子会です。

 そこで今日あった『(アイテムボックス)』拡張イベントの話をしたのですが、見事にみんな微妙な反応です。

 まぁ当然ですよね。

 ここにいるのはみんな女性ですし、セクハラを許容するような人もいません。


 特にミカちゃんの反応が顕著です。

 完全に侮蔑の表情になってますし、お怒り気味です。


「仕方なかったとはいえ、私のユリにそんなことをさせるなんて!

 ユリ注いで!」

「はいはい。怒ってくれるのは嬉しいけど、ミカちゃん達どうするの?

 『(アイテムボックス)』の容量厳しいんでしょ?」

「ぐぬぬ……」

「他の方法」

「ないと困りますよぉ~」

「……でもまだ私達は倉庫があるから……」

「そうですけどぉ~。いずれは拡張しておきたいですからねぇ~」

「深い迷宮だっけ? そんなんいつ見つかるのかわかったもんじゃないじゃない!」

「頑張る」

「姫ちゃんファイトー」

「頑張ってください、姫さん~」

「姫さん、ファイト」


 もう完全にハルドリンさんのところで『(アイテムボックス)』の拡張をする気がなくなっているみんなです。

 まぁ気持ちはわかります。

 誰が好き好んでセクハラ紛いのことをされたがるのか。

 私だってもう一回やれと言われても絶対嫌ですからね。


 姫ちゃんにみんなのエールが降り注いで今回の緊急女子会は終了です。


 ……のはずだったのですが、片付けも終わり甘ロリさんとるーるーさんを見送ってもミカちゃんと姫ちゃんはリビングで寛いでいるようです。

 珍しいですね。いつもは我先にと狩りにいくのですが。


「どうしたのー? 狩り行かないのー?」

「お話」

「ん? なになにー?」


 リビングに戻ってくるとどうやら姫ちゃんからお話があるみたいです。

 それを合図に今まで寛いでいたミカちゃんが何やら背筋を伸ばして姿勢を正しています。

 なんでしょう。

 ミカちゃんがこんな感じになる時は大抵バカやって私に迷惑かけて怒られて、反省して謝る時です。


「ミカ」

「はい! 姫様!

 ユリさん、無料で借りっぱなしですみませんでしたー!

 こちらをお納めくださいー!」

「あー」

「ん。お説教した」

「あははー」


 どうやら遂にレンタルしっぱなしで一向に何も返していない事が姫ちゃんにバレたみたいです。

 相当きつくお説教されたのか、ミカちゃんもちゃんと反省したみたいです。

 渡されたお金はそこそこ多いですが、『封闇秘剣』と『ダークショートソード』を買い取れる額には当然及びません。

 でもスティール系装備が3つくらい買えそうな額ですので、ミカちゃんとしても結構な出費でしょう。


「姫ちゃんありがとうね」

「お礼はいい。でもバケツさんも悪い」

「あー……うん。わかってるんだけどねー。

 私ってミカちゃんに甘いからー」

「むぅ」

「まぁでもこれからはちゃんと定期的に徴収するよ。ありがとうー」

「うぅ……。頑張って返すよぅ」

「がんば」

「うん、がんばってねー。

 それだけ良い物使ってるんだから仕方ないよねー」


 ミカちゃんとは小さい頃から姉妹のように育ってきましたし、色々と助けられています。

 喧嘩も何度もしてますが、それでも今までずっと仲良しで親友と呼ぶのにふさわしいくらいに大好きです。

 そんなミカちゃんですから、特別扱いしてしまうのは私の中では当たり前みたいになっていたんですよねー。

 でも今は姫ちゃんという親友もいます。

 悪いところはこうしてちゃんと叱ってくれる大事な存在です。

 そんな大事な人からのアドバイスですので、ちゃんと考えるようにしないといけません。


 ありがとうね、姫ちゃん。



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