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84 『いえいえー慣れてますのでー』


 隣の街【ドトリル】までは定期的に馬車が出ています。

 異変で街道が通れなくなる前までも同じように定期的に馬車が出ていたそうですし、今ではもうすっかり元通りというやつですね。

 ちなみに街道を魔樹の侵食から守るために【開拓者組合(ギルド)】ではほぼ毎日街道沿いの魔樹伐採クエストを発行しています。

 これがなかなかいい稼ぎになるそうです。

 ただし、【首都サブリナ】から件の街道までは少しかかりますし、伐採場所によってはもっと時間がかかります。

 それだけの時間を拘束されるのも含めての報酬の高さのようです。


 【首都サブリナ】から【ドトリル】までは馬車で3時間ほど。

 『現実時間』換算ですと、1時間ですね。

 お昼のログアウトに間に合うように移動しなければいけませんので、今から行けるなら問題なさそうです。

 一度行って『ゲート』の登録をしてしまえば帰ってくるのは一瞬ですし、次に行くのも時間が短縮できます。

 もちろん使用料として『魔石』を徴収されますけど。


 というわけで、やってきました『馬車停留場』。

 北門の『馬車停留場』ですので、基本的には北にある街道を通る馬車が集まっています。

 馬車はある程出発時間が決まっていますので、まずはそれを確認するところからです。

 『馬車停留場』の職員のNPC(ノンプレイヤーキャラ)に聞いてみたところ、ちょうどよくもうすぐ出発の【ドトリル】行きの馬車があったようです。

 ラッキーですね!


 前金で料金を払うと馬車に乗り込みます。

 ちなみに自由席ですが、そこそこ大きな幌馬車です。

 バスみたいに横に4席あり、真ん中に通路があるようです。

 そんな席が4列で合計16席+御者席

 それに護衛の開拓者が4人追従するようです。

 御者席に2人と中の最後尾に2人。


 乗客は私を含めて8人と満席ではないようですが、出発のようです。

 3時間程度ですが、馬車の旅は初めてですね。

 街中でしか馬車には乗ったことがありませんので、外ではどうなるのかは知りません。

 街中は石畳ですし、ストレス排除機能のおかげでほとんど揺れませんでしたが、外はどうなんでしょう。

 敢えて掲示板情報は調べないで来てますからね。

 ちょっと楽しみです。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「うまいもんだねぇ」

「いえいえー慣れてますのでー」

「でも助かったよ。これで【ドトリル】で恥ずかしい思いをしないですむんだからねぇ」

「いえいえー」


 【ドトリル】行きの馬車は街中を走る駅馬車と比べても大して差がないくらいに揺れませんでした。

 ちゃんと街道が整備されているおかげらしいです。

 席は半分も空いていましたが、お隣に座ったNPC(ノンプレイヤーキャラ)のおばちゃんが教えてくれました。

 お礼に解れていた上着のボタンをつけなおしてあげたところ仲良くなって色々と話が弾んだりもしてあっという間に目的地です。


 途中で魔樹伐採クエストを受けていると思われる一団とすれ違ったり、カコーンカコーンと伐採する音がそこらかしこから聞こえたりと、なかなか楽しい道中でした。


 ちなみに護衛の出番は今回はありませんでした。

 魔樹伐採クエスト中の開拓者達がMOB(モンスター)をあっという間に倒してしまうからです。

 そこらかしこで魔樹が伐採されているのでこちらまでMOB(モンスター)がやってくることが出来ていなかったのです。

 まぁ平和なのはいいことですよね。

 それにMOB(モンスター)に襲われればその分到着までの時間が伸びますし。

 お昼のログアウト時間は決まっていますので大幅な遅刻は頂けませんからね。


「はー着いたー」


 3時間とはいえ、ずっと席に座っておばちゃんと話していたので、馬車から下りると背伸びをしたくなりますね。

 まぁ実際は体に負担はかからないので気のせいなのですけど。


 【ドトリル】は【ザブリナ王国】所属の街ではありますが、どこの国に属していようと私たちにはあまり関係ないことです。

 ミカちゃんや掲示板の情報で目新しい素材などはないのはわかっています。

 それどころか、今回親方さんに情報を貰うまでは「行かなくてもいいかな」と思う程度に興味がわかない街でした。

 ですので、こちらにいるのはほとんどがNPC(ノンプレイヤーキャラ)開拓者ばかりのようです。

 【首都サブリナ】近辺の方が開拓されていますからね。

 プレイヤー開拓者はそっちに集まってしまうのは道理でしょう。

 ただこちらでも魔樹を伐採して開拓しようとしているプレイヤー開拓者もいるにはいるみたいです。

 ただ、人数はそれほど多くないので開拓までは時間がかかりそうですけど。


 大きさも【首都サブリナ】の5分の1程度の大きさで、人口はもっと少ないみたいです。

 まぁ【首都サブリナ】は大きいですし、人口も多いので比べるのも可哀想なんですけどね。

 魔樹に侵食されている世界ですので、どうしても小さな村などは生き残れないのです。

 それは街も同じで、魔樹に対抗できる人数や開拓者がいなければ存続すら危ぶまれるのです。


 【ドトリル】はぎりぎり魔樹の侵攻を食い止めている数少ない街の1つです。

 大体このくらいの街の人口がないと存続できないという目安的な街でもあるみたいですね。


 まぁ今はそんなことはどうでもいいです。

 私は魔樹伐採をしにきたわけではないのですから。


 ですが残念ながらお昼のログアウトが迫っています。

 とりあえず、街の案内板を覗いてからログアウトですかね。

 マップ機能があるとはいえ、案内板にはそれぞれの街の特徴が書いてあったりして便利なのですよ。

 【首都サブリナ】にも実は至る所に案内板があるのですが、利用したことがなかったりします。

 まぁ今回は初めての遠出ですしね。

 使ってみるのも悪く無いでしょう。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 お昼ごはんなどの諸々を済ませてログインです。

 案内板には色々な情報が書いてありましたが、基本的には特産などはない街です。

 これといって興味を惹かれる情報はありませんでした。

 ですが、親方さん情報と照らしあわせて『(アイテムボックス)』拡張の職人さんがいそうな場所は大体検討がつきました。


 さっそく向かってみましょう。

 駅馬車も一応出ているみたいですが、それほど大きな街でもないので徒歩で十分です。

 景観を楽しみつつ行くとしましょう。


 とはいえ、基本的な建築様式などは【首都サブリナ】と大して変わりません。

 売っているものもそれほど変わらない程度です。

 それどころか【首都サブリナ】の方がプレイヤー開拓者が多い分露店が賑わっていたりしていますので、【ドトリル】はちょっとさびしいですね。

 露店がないことはないのですが、疎らに点々とあるくらいでとてもではないですが賑わっているとはいえません。


 本当に何かしらの特産や開拓で特別なエリアでも出ないかぎりは賑わうのは無理かもしれませんね。

 まぁ次の街や国への中継地点として見ればありだとは思いますけど。

 こういう中継地点の街がないと移動がすごく大変ですからね。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 さて景観を楽しむのは早々に諦めて、ささっと移動した先は酒場や宿屋がある区画です。

 宿屋は泊まると部屋に居る間は生命力と魔力の回復量と速度にボーナスがつくそうですが、現状ではプレイヤー開拓者にはほとんど利用されていません。

 なぜなら街中にいるだけで宿屋ほどではないにしてもそれに近いボーナスが得られるからです。

 ほとんど街中で過ごしてきた私には実感が湧きませんがあるそうです。

 まぁこれからも戦闘などはしないでしょうし、私には関係ない話ですね。


 向かう先は酒場の裏にある安アパートのような建物です。

 2階建てですが、かなり古い建物ですね。

 ですがここ、工房らしいのです。


 まぁ確かに現実と違って【ふろんてぃあーず】ではシステム的に様々な恩恵があるので、こういった建物でも工房として使う分には問題ないのですけど……。

 正直私は嫌です。


 ですが、今回探している職人さんは一所に留まって生産をするタイプではないみたいなのです。

 職人の情報網があるそうで、親方さんが今回たまたま知っていたので助かりましたが、知った時にはもうすでに場所を移動しているなんて事にもなりかねないのです。

 今回は幸運でしたね。


 ですが、偏屈な職人さんらしいので『(アイテムボックス)』を拡張してもらえるのかはまだわかりません。

 でもせっかくここまできて足踏みしていても時間の無駄ですからね。

 さっそく突撃してみましょう。


「こんにちはー」


 看板の1つもかかっていない、本当にただのアパートの一室にしかみえない扉をノックしてみましたが、待てど暮らせど返事はありませんでした。


 めげずに何度かノックをしてみましたが反応がありませんので、でかけているのでしょうか。

 幸先悪いですね……。


「うるせぇ! 何度も何度も叩くんじゃねぇよ!」


 ですが最後にもう一回だけ、と思ってノックをするとすごい勢いで反応が返ってきたではありませんか。

 粘り勝ちですね。

 でもちゃんと謝っておきましょう。

 私がやられたら出禁物ですし。


「す、すみませんでした!

 こちらハルドリンさんの工房で間違いないでしょうか?」

「あぁ? 確かにここはわしの工房だが、誰だおまえ」

「あ、申し遅れました。私、開拓者のバケツさんです」

「はーん……悪くねぇな、入れ」

「え、あ、はいー」


 私のしつこいノックで憤っていたハルドリンさんでしたが、私を上から下まで値踏みするように眺めると中に通してくれました。

 何やら合格? をもらえたみたいです。

 なんだかよくわかりませんが、話が進みそうですし、ここは1つ流れに身を任せてみましょう。



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