80 『久しぶりの女子会です』
「――だから今回スタートダッシュしまくりよ!」
「羨ましい」
「でも私達の方でも色々と製作できてますよ~。
難しいレシピだと貰えるポイントも多いから追いつけるかもしれないですねぇ~」
「『シャドウケーキ』にはびっくり……」
「あー……でもあれ美味しいですよねー」
「まさか専用武器じゃなくて料理で特攻効果を得られるとは思わなかったわ……」
「マロン……」
今日は久しぶりの女子会です。
9月に入って少し涼しくなってきたようですが、まだまだ残暑が厳しいようなので空調はいつでもフル稼働です。
まぁ現実の話はいいとして、夏休みが終わり、ログイン時間の減ったミカちゃんと姫ちゃんですが、装備が他のプレイヤー開拓者よりも良いおかげで順調にイベントでポイントを稼いでいるようです。
特にウサ耳元気っ子のミカンことミカちゃんは私からレンタルしている『封闇秘剣』と『ダークショートソード』が猛威を振るっているようです。
今回のイベント――『異形なる影の下僕』ではフィールドエリアの各所に出現する影を纏ったちょっと形が変わったMOBを倒す事により、イベント専用のポイントを入手できます。
そのポイント上位のプレイヤー開拓者には賞品が出ますし、前回のイベント――『魔樹伐採強化月間』と同様に公式で大々的に入賞者の発表がされるようなので、そういう名誉が好きな人は特に頑張っているようです。
ちなみに『魔樹伐採強化月間』では私製のフェイスマスクを愛用してくれている驚異的な『人形使い』――メカクレ姫カットこと姫ちゃんが見事1位を獲得しています。
2位との差がダブルスコア以上と聞けばその驚異的なすごさがわかると思います。
姫ちゃんはほとんどの人が諦めた10本指での糸の操作を事も無げに成し遂げているのです。
しかもその10本の糸によるMOBの行動妨害や操作など、補助に徹した時の凄まじさは圧巻です。
そして10本の糸を駆使することにより、糸1本に付き1本の斧を操るという離れ業で1位をゲットしたのです。
本当にすごいですよね、姫ちゃん。
「まぁまぁ、姫さんの大好きなマロンで今るーるーさんが研究中みたいですから~」
「やた」
「まだ少しかかりそうですけど……頑張りますねぇ」
「楽しみ」
イベントMOBからドロップする素材にはイベント専用のものがあります。
イベント専用アイテム――『影の欠片』には様々なレシピが用意されていて、イベントMOBを倒せない私達のような生産専門のプレイヤー開拓者は『影の欠片』を使用したレシピでアイテムを製作することでポイントを得ることができるのです。
生産者にも優しいイベントですよね。
前回の『魔樹伐採強化月間』ではまったく参加できませんでしたから、今回は参加できて嬉しいです。
そんなイベントレシピですが、レシピ外でも色々と出来るようです。
お菓子を専門にしているちょっと気弱なるーるーさんですが、【ふろんてぃあーず】の素材を使用したお菓子の研究ではトップクラスの人なんです。
最近では私達にも慣れてきて口数も多くなってきているので仲良くなってきた感じが大きいです。
特に姫ちゃんとは気が合うようで、彼女が大好きなマロンを使用したお菓子の研究には余念がありません。
「そういえば姫さー。1位の賞品って光晶だったんでしょ? 魔晶じゃなくて。
何個セットだったの? 公式には個数までは書いてなかったんだよね」
「10個ずつ」
「うは~! すごいじゃないですかぁ~!」
「光晶って魔晶の上位アイテムですよね?」
「確率が高い……?」
「そうそう。未だに入手例が少ないかなりのレアアイテムだよ!」
「ぶい」
公式のイベントだけあって現時点ではかなりのレアアイテムの詰め合わせが賞品だったようです。
魔晶は装備の強化に使用するアイテムですが、こちらも結構レアなアイテムです。
装備の強化は次の段階の装備に移行するまでに時間がかかる場合にはとても有効です。
ですが、次の段階の装備にすぐ移行できるならそっちの方が効率がよかったりするのも確かです。
でも今現在、私が製作しているスティール系装備が最高峰の装備です。
NPC店舗でも極々稀に入手できるものですし、レシピも初期から入手可能です。
ですが製作できるようになるのは、かなり大変です。
えぇ、実に大変でした。
でもその分性能は折り紙つき。
もちろん相場もとても高いです。
ですが、今までは次に製作できるだろう装備類が大体わかっていたのでよかったのですが、スティール系装備以降はまったくわかりません。
一応『ダークショートソード』とか、『封闇秘剣』などで少しはわかっているものの、これらは偶然製作できたようなものです。
ですので、現在装備を強化するならスティール系装備が最も有力です。
姫ちゃんは全身一式スティール系装備で固めていますので、魔晶や光晶はいくつ合っても足りないでしょう。
魔晶よりも強化成功確率が高い光晶ならば、単価がとても高いスティール系装備に使うのもいい手だと思います。
装備の強化は低確率ですが、失敗すると装備自体が消滅する可能性がありますからね。
それにまだスティール系装備のランクは★3が限界です。
★5以上になると装備強化に安全圏という成功確率100%の領域が登場します。
ランクを上げる事は『オプション』が付きやすくなったりする他にもこういった恩恵があるのです。
「それで、もう使っちゃった?」
「まだ」
「じゃ、じゃあさ!」
「ん。『オプション』待ち」
「ですよねー!」
「そろそろ★4になりそうですか~? バケツさん」
「んー……。まだちょっとかかりそうな感じですねー。
『鍛冶職人』になってからLvの上がりもまた悪くなりましたからねー」
「うわ~……。私なんてまだ『裁縫・改』で四苦八苦してるのに、バケツさんでもそんなにかかるなんてぇ~」
「大丈夫ですよー。ララルさんならすぐ職人になれますよ。
今でも十分職人ですしー」
「ん。新作感謝」
「えへへ~。今回はですね~。ポイント交換でゲットした『翠糸』を使ってみたんですよ~。この辺とかポイントなんですよ~」
女子会では恒例となりかけている我らが『クラン』――『Works』の『クランマスター』甘ロリさんことリラルル・ララルさんの新作発表アンドファッションショーですが、主に標的は姫ちゃんです。
姫ちゃん自身も喜々として着ていますし、彼女自身が甘ロリさんの作品のファンですから問題ありません。
それにフェイスマスクで隠れていますが、姫ちゃんはとても綺麗な顔立ちをしています。
体型はちょっと、いえかなり幼児体型ですが、甘ロリさんが製作するのは主にフリフリ成分が多めで体型を意識させないタイプの服が多いのでとても似合っています。
私達も見ていてとても楽しいですし、本人達はもっと楽しそうです。
まさにウィンウィンの関係ってやつですね。
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「あー……。もうこんな時間かー。ポイント稼ぎの続きしないとなー」
「【首都サブリナ】近辺の『ララビット』エリアを抜けた先以降に出るけど、開拓したエリアには出ないんだっけ?」
「そうなのよー。新しく開拓されたところを攻略しようとするとポイントが稼げないのよねぇ」
「伐採中も出ない」
「なんだか微妙な感じの出現位置ですね……」
「まぁまだ始まったばかりですし~。きっと中盤後半辺りから他にもポップするんじゃないですかねぇ~?」
「あーありそうですねー」
イベント開始当初は張り切っていたミカちゃんですが、イベントMOBの出現位置の問題で悩ましい事態になっているようです。
それでもイベントには参加したいので、新たに開拓されたところの攻略を一時的に中止してポイント稼ぎに奔走しているようです。
前回のイベント――『魔樹伐採強化月間』のおかげで開拓されたフィールドエリアはそれなりの数あります。
そのうちの1つ『エーク迷宮』はミカちゃん達のPTが最初の攻略者だったりします。
自他共に認める戦闘系トッププレイヤー開拓者であるミカちゃんですので、そういった新たなフィールドエリアは是非とも攻略したいみたいなんです。
『エーク迷宮』のようにトップ攻略ともなれば掲示板でも騒がれますし、ミカちゃんの功名心も刺激するみたいですね。
「じゃあこれで解散かなー?」
「そうねぇ~。でも今日はたっぷりお喋り出来たし、楽しかったー!」
「ですねぇ~。やっぱりこのメンバーでの女子会はとても楽しいですよ~。
もっと時間を見つけてやりたいですねぇ~」
「ん。同意」
「ですねー。ミカちゃんも姫ちゃんも学校始まっちゃったし、ララルさんとるーるーさんはお仕事がありますもんねー。
なかなか難しいですねー」
「まぁ今回みたいに週末ならみんな時間合うし、週1になっちゃうけどそれがベストじゃない?」
「ですねぇ~」
イベントのラストスパートだったり、攻略のラストスパートだったりでなかなかみんなの時間が合わずに開けなかった女子会ですが、これからは週1くらいでは開けそうです。
私はログイン時間が長いので大体いつでも時間は合わせられるので問題ありません。
まぁログイン時間は長くてもスケジュールはきっちり守らないといけないので、そういう面ではみんなと同じようなものですけどね。
徹夜とか絶対禁止ですし。
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久しぶりの女子会も十分に堪能できました。
やっぱり仲の良いみんなとのお喋りは楽しいですね。
イベント関連の情報交換も出来ましたし、とても有意義でもありました。
みんなを見送ってすっかり寂しくなった工房のリビングですが、すぐに生産作業を始めるので問題ありません。
でもホムちゃんを呼び出しておきましょう。
ちょっとだけ愛でてから作業開始です!




