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78 『まじかよ!?』

「あー……これ完全にこっちの予算読まれてるよー……」

「これは無理っぽいわねー」

「無念」


 さっそく競りが始まった『リッチの頭蓋骨』でしたが、競り合う相手はどうやらオークションに相当慣れている人なようで、巧みに私や他の人が追加する金額を読んでいるような気がします。

 いえ、これは絶対に読まれています。

 だって遂に私の予算を少しだけ超える金額に達したのです。


 ほんの少しの時間で、しかも私はまだ本気で競りに参加したのは今回が初だったのに、一体どうやって予算を読むんでしょうね。

 オークション怖いです。

 結局『リッチの頭蓋骨』は競り負けて入手できませんでした。

 ちょっと悔しいです。

 でも元々出来れば手に入れたい、といった程度の気持ちでしたし、いいんですけどね!


 ……むぅ。


 ミカちゃんと姫ちゃんに慰められながらもオークションは次々と進行していきます。

 まだまだ出品される品は残っているので気持ちを切り替えて私も楽しみましょう。


「それでは次の素材はこちら!

 なんと新発見の素材でございます!

 少々ランクが低いのが玉に瑕! ですが新しいもの好きな皆様には朗報でしょう!

 名称は『影の結晶』!

 閉じ込められた影が渦巻くミステリアスな結晶にございます!

 新発見ですので、まだまだ使用用途も不明です!

 では開始は50万ニルか、ぐあッ!」

「なっ!?」

「敵襲」

「へ!?」


 楽しもうと気持ちを切り替えた途端に、出品された新発見の素材からMOB(モンスター)が出現して、近くにいたオークショニアが弾き飛ばされてしまいました。

 突然のMOB(モンスター)の襲撃に会場の空気が一変したのを感じます。

 一瞬の静寂のあとには悲鳴と怒号が巻き起こりパニックが引き起こされてしまいました。


 でもそんな中でも冷静なのはプレイヤー開拓者と思しき参加者です。

 ミカちゃんも姫ちゃんも『(アイテムボックス)』からすぐさま武器を装備しています。

 正装のせいで防具の装備が一瞬では済まないので、防御力はほとんどない状態です。

 でも戦う気満々です。


 一斉に出口に向けて殺到する人達とは逆に、出現したMOB(モンスター)を包囲する形で前に出るミカちゃん達。


「あたしは『ミストナイツ』のミカン!

 近場のメンバーとPT(パーティ)組んでレイド申請!

 一匹も逃がしちゃだめよ!

 姫、申請処理よろしく!」

「了解」

「ユリ、『魔術陣』は?」

「多少なら!」

「よし! じゃあ姫にガンガン渡して!」

「う、うん!」


 突然の状況に慌てることなく、ミカちゃんが率先して対応しています。

 あたふたして姫ちゃんの後ろに隠れていた私にはとても真似できません。


 ミカちゃんの指示に異議を唱える人は皆無のようで、みんながミカちゃんの指示通りにPT(パーティ)を組み、姫ちゃんにレイドPT(パーティ)の申請が舞い込んできます。

 ミカちゃんと姫ちゃんとは事前にPT(パーティ)を組んでいたのもあったので、PT(パーティ)編成で時間を取られることもありません。


 私も言われた通りに『(アイテムボックス)』から支援用の『魔術陣』を取り出して姫ちゃんに渡していきます。

 レイドPT(パーティ)申請と『魔術陣』の使用を並行してこなしていく姫ちゃんはさすがです。


 包囲する形でほんの少し膠着状態だったのが、レイドPT(パーティ)の申請を全て処理した途端動き出しました。

 まだ姫ちゃんによる『魔術陣』の支援は完了していませんが、もう敵は待ってくれないみたいです。


 包囲に穴を開けようと次々と襲い掛かってくるMOB(モンスター)ですが、何もないところで転んだり、誰も居ないところを攻撃したりといきなり大きな隙を晒して周囲の開拓者達に痛烈な反撃を受けているようです。


「姫ちゃんすごい」

「ぶい」

「ナイス姫!」


 MOB(モンスター)のおかしな行動は姫ちゃんによる妨害行動の結果です。

 私から渡される『魔術陣』による支援を続けながらやっているのですから、本当にすごいです。

 ただ全部が全部妨害できるわけではないようです。


 ミカちゃんや姫ちゃんのように武器だけを装備して戦っているのは他の開拓者達も一緒のようで、そのため防御力はほとんどありません。

 普段前衛で盾をしているような開拓者にはとても不利でしょう。

 でも姫ちゃんはそんな人達を中心として盾系の『魔術陣』を率先して使用しているようで、今のところ大きなダメージを負った人はいないようです。

 盾系の『魔術陣』ならばある程度のダメージは肩代わりしてくれますからね。

 それにしても姫ちゃんの見極めはすごいです。

 盾を持っているからわかりやすい人もいますが、そうでない人もいるのです。

 そんな中でも的確に『魔術陣』を使っているようで、レイドPT(パーティ)状態で使えるレイドPT(パーティ)に参加している全員と繋がる特殊な『コール』――『レイドPT(パーティ)コール』では的確な支援に感謝する言葉が続いています。

 盾役の開拓者に対して支援の漏れがないのは、『レイドPT(パーティ)コール』で支援要請がこない事が証明しています。

 MOB(モンスター)の妨害行動も継続中ですし、いったい頭のなかはどうなっているのでしょう?

 本当に姫ちゃんはすごいです。


 私も次々に『魔術陣』を消費する姫ちゃんにどんどん追加を渡して支援を続けます。

 防具がない厳しい状況ですので、『魔術陣』の大盤振る舞いは仕方ないでしょう。

 特に盾系の『魔術陣』がなければ死に戻りが出てしまいそうなくらいにはMOB(モンスター)の数が多いです。

 ミカちゃんには多少と答えましたが、私の『(アイテムボックス)』には『魔術陣』は結構な量ストックされていますからね。

 枯渇する恐れはまずないでしょう。


『くそ! ダメージがあんまり通らないぞ!?』

『全部が通らないわけじゃない! 半分くらいは通ってる! 集中攻撃しろ!』

『『剣豪バニー』の攻撃はよく通ってるぞ!?』

『属性攻撃中心に切り替えて! こいつら無属性攻撃に耐性があるみたいよ!』

『『属性魔術』使えるやつ! ヘイト管理に気をつけろ! 盾の過信は禁物だ!』

『おう!』

『任せて!』

『いくぞ!』


 なかなかMOB(モンスター)の数が減らないのはどうやら、無属性の攻撃に耐性を持っているからみたいです。

 いち早く見抜いたのはやはり『剣豪バニー』――ミカちゃんでした。


 『剣豪バニー』とはミカちゃんの二つ名です。

 ウサ耳でシステムアシストなしで二刀流を駆使して戦闘を繰り広げる姿はまさに剣豪。

 本人は恥ずかしがっていましたが、結構浸透している二つ名だったりするんですよね。

 ただ別にシステム的な補正などはないものですけどね。


 『属性魔術』を中心とした攻撃に切り替わったおかげで、どんどんMOB(モンスター)が打倒されていっています。

 でもその分『属性魔術』を使用する開拓者にヘイト――敵視が集まり、敵が殺到しかけていますが、指示通りにうまく管理して他の開拓者に分散するように動いているようです。

 私にはとてもではないですができなさそうです。

 みんなすごいですねー。


『『影の結晶』を破壊するわ!』

『任せた! 後衛! 集中!』


 MOB(モンスター)の数が大分減った所でMOB(モンスター)を出現させた元凶と思しき『影の結晶』の破壊にミカちゃんが動きます。

 でもまだMOB(モンスター)が『影の結晶』の周りを守るようにしているので、突っ込めば防具のないミカちゃんでは一溜りもありません。

 ですが『属性魔術』の攻撃が集中し、MOB(モンスター)の防御に穴が空き、進路の確保に成功していました。

 そこからはほとんど一瞬でした。


 ミカちゃんが空いた穴をすごい速度で突破し、『影の結晶』を一刀両断。

 2つになった『影の結晶』はそのまま光の粒子となって砕け散ると、残っていたMOB(モンスター)達も同様に光の粒子となって消えてしまったのです。


『……終わった?』

『周辺警戒! まだ残りがいるかもしれないわよ! 姫! オークショニアは?』

『回収済み。軽症』

『さすが!』


 出現したMOB(モンスター)はもう影も形もありませんが、それでもまだミカちゃん達は警戒を解きません。

 さすがは戦闘系プレイヤー開拓者ですね。

 終わったと思った瞬間こそが一番奇襲を受けやすいのだそうです。

 確かに私なんてMOB(モンスター)が光の粒子となって消えたので、ホッとして気が抜けていましたからね。


 それにさすがは姫ちゃんです。

 最初に被害にあったオークショニアをいつの間にか回収して戦闘の邪魔にならないようにしていたようです。

 その上、治療も施していたようなのです。

 『魔術陣』での的確な支援、敵の妨害、被害者の回収。

 姫ちゃんの活躍が凄まじすぎます。

 一見派手に戦っていたミカちゃんの方が活躍していたように見えますが、本当は姫ちゃんが一番活躍しているんですよね。

 いえ、ミカちゃんも他の人達よりもMOB(モンスター)を倒した量は比べ物にならないくらい多いでしょうけど。

 最初から属性を持った武器を持っていたのもありますしね。


『速報が上がってるわ。

 他の会場にも同じように出現してるみたい。

 結構死に戻りが出てるらしいわね』

『防具なしだからな……。俺達も死に戻ってないのが不思議なくらいだ。

 的確な支援の賜物だな。ありがとう』

『姫もよくやったけど、あの大量の『魔術陣』はユリ……バケツさん提供よ』

『おぉ! さすがバケツさんだ! ありがとう!』

『ありがとう、バケツさん! あ、『スティールロングソード』愛用させてもらってます!』

『私まだ買えてないのよー! 今度こそ手に入れてみせるわ!』

『しかし、そうなると相当な枚数の『魔術陣』を使ったんじゃないのか?』

『25枚』

『『『『まじかよ!?』』』』


 どうやら掲示板にさっそく速報が書き込まれたようです。

 他の会場でも同様にMOB(モンスター)が出現し、結構大きな被害が出ているようです。

 みんな防具なしで戦っているのですから仕方ない話なのでしょう。

 『アクアマリン宮』のみんなは姫ちゃんの的確な支援により誰一人として死に戻りはありませんでしたが、そのおかげで『魔術陣』は25枚も消費してしまいました。

 1枚で結構な値段がするものですからね。

 みんな驚くのも無理はないでしょう。


 まぁみんな無事ならそれでいいですけどねー。

 勢いのまま組んだレイドPT(パーティ)ですけど、私にとっては初ですからね。

 初めてのレイドPT(パーティ)で他の会場みたいに被害甚大なんて悲しいですし。



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