77 『ん。会いたい』
オークション会場は普段は立ち入りが禁止されているエリアです。
さすがは国が主催するだけあり、大きな会場がいくつも立ち並びライトアップされている様はなかなかのものです。
普段は立ち入り禁止のエリアですが、システム的にはそうなっていないようで、興味を惹かれたプレイヤー開拓者が侵入してみたことがあるのですが、すぐに警備のNPCに捕まっていたりします。
不法侵入だけだったのですが、結構重い罪になり、掲示板で情報を上げた以降は誰もその人を見ていなかったりするほどです。
今回は参加資格もちゃんとありますし、私達の馬車は問題なく会場エリアへと向かっていきます。
たくさんあるオークション会場ですが、大きな建物だけあり、移動するだけでもかなり大変です。
国主催のオークションですので、身分の高い人もたくさん参加するので基本は馬車での移動のようですが、私達のようなプレイヤー開拓者は自前の馬車なんて持っていません。
今乗っている馬車はケデリック商会で用意してもらえたものなので、一応会場移動にも使えるのですが、今回はゆっくり楽しむために1つの会場だけに絞ってあります。
もちろんその会場で取り扱われる品は素材関係が中心です。
ミカちゃんと姫ちゃんも特に狙っている品物があるわけでもないので、私に付き合ってくれるそうです。
初めてのオークションですからね。
まずは参加してみて雰囲気を掴むところからでしょうか。
それに夏休み最後の大イベントとして、楽しむために来ているというのもあります。
ミカちゃんと姫ちゃんはもう夏休みも終わりです。
これまでのような長時間のログインは休日以外できなくなります。
今日まで攻略にイベントに奔走していたので、最後の日はゆっくりと優雅に楽しむと決めていたようです。
さぁもうすぐ目的の会場につくみたいですよ!
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目的のオークション会場は『アクアマリン宮』という名前の建物です。
確かにアクアマリンのように真っ青な壁がライトアップされていて、とても綺麗です。
他にも『トパーズ宮』や『エメラルド宮』など、宝石の名前を冠する建物もオークション会場です。
そのどれもが大きく、たくさんの人達を収容できる規模を誇っています。
ですが、その中でも特に大きな『ブルーダイアモンド宮』と『レッドダイアモンド宮』の2つは今回は使用されないようです。
この2つの建物は宮殿と言える程の規模と華やかさを誇っています。
数年に1回開かれるという特別なオークションの時にだけ使用されるというのですから驚きです。
いつかは私達も中に入ってみたいですね。
でももちろんその特別なオークションに参加するには【開拓者組合ランク/★5】程度では無理です。
まぁ数年に1回ですから、まだまだ猶予はたっぷりあるでしょう。
私達ならきっと参加できるだけのランクを手に入れることが出来ると思いますし。
会場の前のロータリーで馬車を降りるとさっそく入場です。
ですが、入場待ちをしている人もそれなりにいるようで、なかなか前に進みませんね。
参加資格の確認はシステムがやってくれるので待ち時間が発生することは無いと思うのですが、何かあったのでしょうか。
「なんか揉めてるみたいよ?」
「なんだろう? 資格持ってなかったのかな?」
「違う。ドレスコード」
ドレス姿にも関わらずにぴょんぴょん飛び跳ねて、前方の確認をしているミカちゃんにはちょっと色々と言いたいことがありますが、それ以上に姫ちゃんがすごいです。
今日はドレス姿なのは私達と変わりなかったはずなのですが、いつの間にかその手には『スティールホビングローブ』が装着されていて、木人形が近くの街灯の上にいました。
どうやら木人形の視界を使って確認しているみたいです。
『人形使い』を取得して鍛えている姫ちゃんは様々な専用『アーツ』が使用できます。
その1つに『視界共有』というものがあるみたいです。
なかなか面白そうな『アーツ』ですよね。
「まさか普段着で来ちゃったのかなー?」
「鎧装備」
「うはー。バカじゃないの? 仮にも国主催のオークションに鎧姿で来るとか」
「ちゃんと正装が義務付けられてるってカタログにも書いてあったのにねー。
もしかして鎧が正装?」
「あはは。尚更バカじゃん!」
件の人物は衛兵に取り押さえられて退場となったようですが、オークションのカタログにもちゃんとドレスコードについて書かれています。
オークションに参加する以上、どんなものが出品されるのか知らなければ楽しめません。
ですのでカタログを購入していないとは思えません。
出品物ばかりに目がいって最低限のルールを確認し忘れたのでしょうかね。
でもそんなことは自業自得です。
トラブルも解消されてからは滞ることなく人が流れ、私達も会場に入ることができました。
参加資格も問題ありませんでしたので、そのまま席を確保しに行きましょう。
会場は1階が自由席となっており、2階は指定席のみとなっているようです。
2階は特に身分の高い人達が使用するようですので、私たちには当分は縁がないですね。
前すぎず、後ろすぎずなかなかいい位置を確保できたので、そのままオークション開始まで3人で雑談をして過ごすことにしました。
一応競りの参加の確認なんかもしていますけどね。
競りはシステムで管理されています。
ですので、専用のウィンドウを操作することで簡単に参加することが出来るようになっています。
システムで管理されているので、誰が現在の最高額を提示しているのかはわからないようになっていたり、なかなかの情報戦が要求されたりするようです。
まぁ私達はオークション初心者なのでまずは雰囲気を掴む所からです。
カタログで確認しているとはいえ、特にどうしても欲しいという素材はなかったのも影響していますね。
出来れば欲しいのはありましたけど、決して無理をしてでも手に入れなければいけないようなものではありません。
気楽に楽しむのですよ!
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オークショニアの宣言と共に『アクアマリン宮』のオークションは開始されました。
一際明るくライトアップされている壇上では次々と珍しい素材が競り落とされていっています。
私も練習がてら入札をしてみたりしていますが、競り勝つ気が全然ないのでこれまで競り落とした品はありません。
でもやはりシステム的に管理されたオークションというのは楽ですね。
初心者の私達でも簡単に参加できています。
オークショニアが巧みに盛り上げてもいるので、会場の熱気はかなりのものになっています。
素材とはいえ、国主催のオークションに出品されるようなものですから、欲しがる人は多いようです。
まぁ私はあまりピンとこないのですが。
例えば『虹トカゲの尻尾』とか、何に使ったらいいのかよくわかりません。
ちなみにコレは160万ニルで落札されています。
少し足せば中級設備が2つ買えちゃう値段ですね。
スティール系装備なら一番高いものと同じくらいの値段です。
それが素材たった1個と同等なのですから怖いですよね。
まぁもちろんランクが並ではないのは当然ですが。
よく知りもしない素材を高額で競り落とすのは、とてもではないですが出来ません。
ですので私の狙っているものは使い道を理解している素材に限られます。
「虹トカゲってどこに行ったら会えるんだろうね?」
「……ミカちゃん、オークションだからあの値段なんだよ? 普段ならもっと安いはずだよ?」
「ん。会いたい」
「姫ちゃんまで……」
当然ですがオークションですので、相場よりもずっと高い値段で競り落とされているはずです。
ですので、相場だったらもっと安くなるはずです。
ただ、オークションに出品されるような素材ですので、どう考えてもランクが高すぎます。
きっと普通に狩っても出ないようなランクの素材――レア中のレアなのでしょうね。
でも2人が狩りに行きたいのもわかります。
相場では安くなってもそれでも相当な値段にはなりそうですからね。
半分でも80万ニルです。
安いスティール系装備なら少し足せば購入できるんですからね。
美味しいなんてものではないでしょう。
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順調にオークションは進み、一応の私の目的の素材の出番がやってきました。
これまでに少しずつ競りに参加して大体の雰囲気は掴んであります。
序盤の動きに慌ててはいけないのです。
勝負は後半戦。
資金はスティール系装備の販売で大分余裕がありますが、全部使えるわけではありません。
自分が決めた額までに競り落とせなかったら潔く諦めるつもりです。
『それでは続いての品は――『リッチの頭蓋骨』です!
皆様もご存知のようにザブリナ北街道を封鎖していた元凶である闇の賢者――リッチの素材であり――』
さぁオークショニアの解説が始まりましたので、もうすぐオークション開始です。
『リッチの頭蓋骨』はミカちゃん達が苦戦の末倒したあのリッチのドロップ品の1つです。
骨が大量にドロップした他には『闇の聖骸布』と『死者の杖』がドロップしているのは知っています。
でも頭蓋骨に関しては骨と一纏めにされていて知りませんでした。
でも他の『リッチの骨』とは区別される素材であり、ランクも割りと高いレアアイテムなのです。
『闇の聖骸布』と『死者の杖』がドロップしたのが全て悪いんでしょうね。
明らかにこの2つの方がレアアイテムですからね。
親方さん情報で『リッチの頭蓋骨』の使用用途は当然知っています。
だからこそ狙っているのですけどね。
「――では『リッチの頭蓋骨』、オークションスタートです!」
さぁ戦闘開始ですよ!




