75 『すまない、あなたはバケツさんで会っているかな?』
「ありがとーユリー! 愛してるぞー!」
「はいはい。でもレンタルだからね?『封闇秘剣』と同じように買い取れるようになったらちゃんと買い取ってね?」
「もちろんよ! でもユリのことだからその前にもっと強いの作りそうな気がする」
ミカちゃんに『封闇秘剣』同様にレンタルトレードで『生命力吸収』の付いた『ダークショートソード』を貸し出しましたが、一応買取の念押しはしておきました。
でも確かにお金が貯まる前に私がもっと強い武器を作り出すのは否定できません。
「むむー……それはちょっと否定出来ないかも。
でももうわかっている装備でこれ以上上のものはないし、今回みたいに『リッチの骨』のようなレアな素材がないと作れないと思うよ」
「それならすぐに手に入るかもしれない!」
「あーオークション?」
でも『ダークショートソード』も『リッチの骨』というレアな素材があってこそ製作できたものです。
今のところレアな素材を入手するにはボスを倒すか、オークションか、強いNPC開拓者に伝手を作るかでしょうか。
その中でもオークションは私も出品予定ですし、もちろん素材の競りにも参加したいところです。
そこでレアな素材が手に入れば今回みたいな事がまたあるかもしれません。
「あー、それもあったね。
でも違うよ!『エーク迷宮』のラストの迷路をもう少しで抜けられそうなんだよね。
迷路に入る前から見えてるどでかい門が多分ボス部屋の扉だと思うし、ボスを倒したらきっとレアな素材がゲットできる!」
「なるほどー」
ミカちゃん達は『エーク迷宮』の最前線を攻略していますからね。
確かに言われてみればボスと最初に戦う可能性があるのもミカちゃん達です。
しかももう目前まで迫っているようですし。
でもまだその門がボス部屋への入り口と決まったわけではないと思うんですけどね。
【ふろんてぃあーず】での迷宮は『エーク迷宮』が初めてなわけですし、他のボスはリッチくらいしか知りませんしね。
でもある程度期待は出来そうです。
「じゃあレアな素材がドロップしたら売ってねー」
「もちろんよ! すでに『封闇秘剣』の前例もあるし、今回の『ダークショートソード』でもう決まり!
他のところに持ち込むなんてありえないわ!
元々他のところになんて持ち込む気もなかったけどね!」
「じゃあ楽しみにしてるねー」
「任された! ではあたしは寝る! もう限界!
おやすみぃ~……」
「はいはい、ゆっくり休んでねー」
ミカちゃんの普段に比べても異様な元気っぷりはどうやらやはり徹夜明けのハイテンションの残りカスだったみたいです。
約束をすると燃料が完全に切れたのか「ぷしゅー」という擬音が似合いそうな感じでぱったりと倒れるようにログアウトしてしまいました。
工房のリビングでログアウトしてもミカちゃんは許可済みですので、再スタートは同じ場所です。
許可がなければ再スタートしても工房の外に弾き出されますけどね。
許可がない人が私がいないときにログインして、工房を好き勝手されると困るので妥当なシステムでしょう。
店舗や住居は基本的に全部こういったセキュリティシステムで守られているので安心です。
ミカちゃんや姫ちゃんなら許可を出しても安心なので当然問題ありません。
さすがに2人以外には出してませんけどね。
さて予定通りミカちゃんには一番いい『ダークショートソード』を貸し出しました。
あとは残りを持ってケデリックさんに見せるだけですね。
あ、でもいきなり行ったら失礼ですからちゃんとアポイントメントを取らないとだめですね。
まだ『ゲーム内時間』では深夜ですけど、『メール』なら問題ないことはケデリックさん本人に許可をもらっています。
でもさすがに本人から許可があっても非常識だと思うので朝方にしておきましょう。
それまではいつも通りにスティール系装備を製作していましょう。
実験が思った以上に時間がかかってしまったので、補充品の製作がまだですからね。
さぁガンガン作りましょー!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
昼タイムになったのを見計らってケデリックさんには『メール』を送っておきました。
スティール系装備は5時間くらい製作していたのですが、やはり大した数は出来ていません。
どうしても中間素材の加工量が多いのが原因ですね。
でも『召喚』で呼び出せる子達に頼むとどうしてもスキルLvが足りないので難しいんですよね。
それに中間素材の加工でもスキルLvがどんどん上がっていきますからSP確保の面を見ても有益です。
大した数は出来ていなくてもそろそろ補充しに行かねばならない時間です。
評価査定もしてこなければいけないのでこれ以上製作する時間はありませんね。
ブログの更新は評価査定の待ち時間で行っておきましょう。
まだスティール系装備で『オプション品』は出来ていませんので、優先販売の掲示板には特に書き込みはしなくてもいいでしょうし。
では忘れ物がないか『鞄』と工房を確認して【開拓者組合】に出発です。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
8月ももうすぐ終わりですので、夏休みの最後の期間を【ふろんてぃあーず】で満喫するためにログインしている人もかなりの数に上るようです。
それでもお盆の時期に比べると大分人数が少なくなっています。
もちろんこれが『現実時間』の夕方以降ならば社会人などのログインがあるのでさらに大盛況になるんですけどね。
そんなそこそこの混み具合の【開拓者組合】で評価査定待ちをしていると、ケデリックさんから『メール』の返事がありました。
こんなに早く連絡があるとは思わなかったみたいで驚いていたようですが、早いならば越したことはないと「店が開いているうちなら何時でもいいので見せに来い」とのことです。
ならばお店に商品補充をしたらさっそく行ってみるとしましょう。
そんな評価査定の待ち時間でしたが、今日はいつにも増して視線が多い気がします。
数が少ないので並んでも購入するのが難しいスティール系装備を現状唯一販売しているのが私ですからね。
仕方ないことだとは思います。
でも昨日までならこんなに視線が集まってくることもなかったはずなんですが、どうしたんでしょうね?
何かあったのなら掲示板で情報が拾えるかもしれません。
少し探してみますか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「すまない、あなたはバケツさんで会っているかな?」
「はい? えぇそうですけどー」
掲示板を閲覧していたら珍しく話しかけてくる開拓者がいました。
一部がスティール系装備で残りはアイアン系装備で大盾を背負っていますので、タンク役の人でしょう。
その後ろには彼のPTメンバーと思しき人達も続いています。
スティール系装備をしているのはタンク役の彼だけみたいで、残りは全員アイアンか軽装備で固めていますね。
それにしても一体何の用でしょうか。
製作依頼は知り合い以外はすべて断っているのはすでに周知の事実のはずです。
しつこくしようものならお店は出禁となり、警備兵が飛んで来るのですからね。
最近はこうして知らない人から話しかけられるのも非常に稀なくらいです。
「私は『クラン』――『ゴスペル』のイズリールという。
実は今私達のPTは『エーク迷宮』の最深部と思われる辺りを攻略しているんだ」
「はぁ、そうなんですかー」
どうやらミカちゃん達の攻略中の迷路に挑んでいるみたいですね。
でも彼らの装備はアイアン系装備などが多いので、ミカちゃん達に比べるとどうしても見劣りします。
これならミカちゃん達が先に攻略するのは見えていますね。
「『エーク迷宮』で入手した素材もあなたの店でよく買い取ってもらっている。
そしてこの『スティールラージシールド』はさすがの逸品だ。
是非お礼が言いたくてね。ありがとう。
これからもランクの高い素材やレアな素材はあなたの店に卸そうと思っている。
頑張ってほしい」
「あ、はい。それはご贔屓にして頂いてありがとうございますー」
「では」
「はいー」
……なんというか拍子抜けというか、製作依頼ではなかったみたいです。
ちょっと身構えていたのがバカみたいですね。
彼の後ろにいたPTメンバーも一礼したり、手を振ったりしてにこやかに去っていきました。
まぁでもこうしてお礼を言われるのは悪い気分にはなりませんね。
お役に立てているようで嬉しいですよ。
もっと素材をたくさん売ってくださいね!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
評価査定も終わり、商品の補充も終わりましたので、手土産を購入してケデリック商会へやってきました。
さぁケデリックさんを満足させる事ができるのでしょうか。
ちょっと心配ではありますが、それは見せてみなければわかりません。
とてもではないですが、『封闇秘剣』レベルではないですが、スティール系とくらべても悪くないはずです。
まぁ最初から名前がついていたのでオリジナルではないですが、他でみたこともない武器なのは確かです。
『オプション』だってシングルでもダブルでもなく、トリプルです。一応。
とにかく見せてみてダメなら諦めましょう。
さすがにもう『リッチの骨』の量も芳しくありません。
これ以上は製作できませんからね。
まぁでも最初からダメでもともとな感じだったんです。
気負わずに行きましょう。




