71 『無理ですー』
無事遅刻せずケデリック商会までやってきました。
というか少し早めに着いたので、親方さん達にも挨拶しておきましょう。
ちゃんと親方さんやお弟子さん達の分のおみやげも買ってきましたからね。
ケデリック商会の工房へと寄って挨拶とお土産のお菓子を渡したところで、あのナイスミドルな紳士さんがやってきていつもの応接間に案内されました。
親方さんには今日私が来ることが伝わっていたようで、お菓子を渡している間にお弟子さんが知らせに行ったみたいです。
正面に回る手間が省けたのでちょうどよかったですね。
出された紅茶を飲んで待っていると、10分くらいでケデリックさんがやってきました。
「待たせたな。
さっそくだが、要件なのだが……。
バケツさん、あんた【開拓者組合ランク】が★5になったそうだな」
「あ、はい。つい先日の話ですけど」
「それにスティール系装備の生産も安定して可能なほどの腕にもなった」
「はい、それもつい先日の話ですー」
確認のようにケデリックさんから掛けられる言葉に正直に答えていますが、肝心の要件は一体何なのでしょうか?
スティール系装備の納品なら製作できる数が数なので、お店の方を優先させてもらいたのですけど。
「そこでだ。
【開拓者組合ランク/★5】からはオークションに参加する権利が与えられるのは知っているな?
無論競りも出品もどちらも可能な権利だ」
「はい、【開拓者組合】で特典の冊子をもらっていますので、目を通してありますー」
「よろしい。
国営のオークションが近日開催されるのも当然知っているな?」
「えぇ、何か面白そうな素材があったら競ってみたいですねー」
「ふむ。やはり競りの方で参加か」
「出品するには期日もないですしー」
オークションの話が出た時点でなんとなくは思っていましたが、この流れはやはりそうなのでしょうか。
でも期日がないのは事実です。
いくら大店といえど、国の定めたルールを破るのは無理があるでしょう。
それとも何か秘策でもあるんでしょうか。
まぁその前に出品依頼なら製作するアイテムも重要ですけどね。
『オプション』なしのスティール系装備程度では当然ダメでしょうし。
「察しの通りだ。
出品してみないか?」
「先程も言いましたが、期日がありませんし何より出品できるようなものを作れないですよー」
「そうでもあるまい。
『封闇秘剣』レベルのものなら十分に意味がある」
「……無理ですねー」
ちょっと驚いて一瞬間が空いてしまいました。
ミカちゃんには『封闇秘剣』の事は緘口令を敷いているはずです。
でもPTメンバーには性能は知らせています。
一緒に戦う人達に隠してもどうせバレますからね。
だとしても『封闇秘剣』は納刀していれば『アイアンショートソード』と見分けがつかないはずです。
まぁ抜刀した状態では漆黒の刀身のせいで『アイアンショートソード』とは似ても似つかない事になりますが。
抜刀するような状態は戦闘中ということになります。
ミカちゃん達は今『エーク迷宮』の攻略に勤しんでいるはずですし、攻略もトップのはずですから戦闘を見られる可能性も低いはずなんですが……。
「何を驚いている。
これでも大店の商会長だぞ。その程度の情報なら朝飯前だ」
「はーさすがですねー」
「それで、もう一度聞こう。
出来ないか?」
「無理ですー」
「……ふむ。やはりメルリゲントの見方は正しかったわけか。
あれは何かしらの条件が揃わなければ製作できないのだな?」
「はいー。今の私では恐らく再現できないですねー」
「そうか。ならば仕方あるまい。
だがもし、オリジナルでスティール系装備を超えるものを製作できれば、ケデリック商会でオークションに枠を確保することができる。
期日は確かにそれほどないが、一般の出品期限よりは少し猶予があるからな。
これが大店枠の出品期限だ。
何か出来れば遠慮なく連絡をよこしなさい」
「あ、はい。もし出来たらお願いしますー」
「まぁ出来なくても特に問題はない。
要件は以上だ。ではな」
いやーさすがは大店の商会長さんですね。
情報網だけでも凄まじいものがあります。
それに国営のオークションでケデリック商会枠ですか。
大店ってやっぱりすごいんですねー。
一般の出品期限までには日はほとんどありませんが、大店枠なら少し長いみたいです。
でも期日が延びたとはいえ、『封闇秘剣』レベルのものが製作できるとは思えないんですよねー。
お店で買取を始めた『リッチの骨』はまったく買い取れていませんし、親方さんに教わった『追加』素材の加工方法は試してみましたが、思ったような効果は上げていません。
まぁもちろんスティール系装備の製作で忙しかったのもありますけど。
『追加』を試すにはスティール系装備ではスキルLv不足です。
そうなるとアイアン以下で試すことになりますが、『リッチの骨』のような元々の加工前の素材が半端じゃなくレアな場合以外は劇的な効果は期待できません。
アイアン系装備の『トリプルオプション』なら胸を張って出品できると思うのですが、現在の加工素材では難しそうです。
それに例え『トリプルオプション』が付いたとしても、有用な『オプション』でなければ微妙です。
せっかくオークションに出品するなら微妙な『オプション』では興ざめでしょう。
それ以前にケデリックさんに断られそうです。
まぁまずは『トリプルオプション品』が出来なければ意味がありませんが。
もう少し加工素材で実験をしてみましょうかね。
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本日最後のログアウトまではスティール系装備を少し作り、残りの時間は加工素材で色々と実験をしてみました。
まぁ結果からいって『トリプルオプション』なんて無理なんじゃないでしょうか?
まったく出来る気がしません。
でもまったくの無駄という事ではないです。
親方さんから教わった加工方法で加工を施した『追加』素材は、加工前のものを『追加』するよりも難易度が大分低くなります。
それでいて効果はほとんど変わらないという話ですからすごいですよね。
まぁその効果のほどは体感できるようなものではないのが困ったものですが。
大体は『オプション』の発生確率やランク自体を上げたりする感じになりますからね。
『オプション』の発生確率は言わずもがなですが、ランクを上げるという効果もなかなか体感できません。
もうちょっとでランクが上がるという状態でなければ効果としては弱くて意味がないからです。
まぁこの辺は加工前の素材のランクやスキルLv、設備などが強化されていけば体感できるほど効果に上がりそうなんですが。
詰まるところ、現時点ではやはりゾーンにでも入らないかぎりは『封闇秘剣』レベルどころか、『トリプルオプション品』も無理っぽいですね。
なんとか入れませんかね、ゾーン。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
おはようございます。
本公開から25日目。『ゲーム内時間』では72日目の夜タイムの24時です。
現実では朝の8時ですけどね。
さて今日も実験……と言いたいところですが、スティール系装備の製作から始めましょう。
一先ずはお店の開店までに出来るだけ製作して、補充を終えてから実験を再開したいと思います。
まぁあまり期待はできないのですけどね。
そもそも加工前の段階の素材でレアなものを用意できなければ劇的な効果は生み出せないのですし。
あー『リッチの骨』買い取れないですかねー。
ミカちゃん売ってくれないかなー。今なら金欠だろうから売ってくれそうな気もしないでもないんですよねー。
『封闇秘剣』を作った時はなんだかんだで有耶無耶になってしまって買い取れていないわけです。
その後は『追加』素材の加工自体あまりしていませんでしたし、お店の方で買い取れたらいいな、くらいにしか気に留めていませんでした。
まぁ悩んでいても仕方ありません。
ミカちゃんに『メール』を送っておきましょう。
今はログアウト中みたいですが、彼女は昼夜が完全に逆転している生活になってますので連絡が来るのは少しあとになるでしょうね。
もうすぐ夏休みも終わるのに大丈夫なんでしょうか?
では製作を開始しましょうかね。
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評価査定と補充を済ませると工房に戻ってきて、ちょっと休憩です。
露店で買ってきたミルクティーとるーるーさんのお店から買ってきた新作のお菓子でぷち贅沢ですね。
まぁやろうと思えば毎日でも贅沢が可能なだけのお金は稼いでいるんですけどね。
最近女子会も開けていませんので、こうやってゆっくりお菓子を食べるのも久しぶりな気もします。
夏休みも残り少なくなってきてミカちゃんと姫ちゃんはラストスパートに余念がありませんし、甘ロリさんもるーるーさんも社会人ですので私達みたいには時間をそう多くは取れません。
少ない時間も生産活動で潰れてしまうので、土日くらいしか長時間のログインはできないみたいです。
まぁラストスパートが終わったらミカちゃんと姫ちゃんとだけでも女子会を開くのでそれまで我慢ですね。
元々3人でやっていたことですし。
ぷち贅沢をしながら少し読書をします。
あ、そうそうミカちゃん達はいませんが、寂しくないようにいつも『召喚』で2人ほど呼び出しているんです。
ですのでテーブルにはホムちゃんとゴレ君がいたりします。
ただホムちゃんはお菓子などを食べられるみたいですけど、ゴレ君は食べれないみたいです。
完全に人選ミスですね。
お鶴さんにすればよかったでしょうか。
まぁどっちにしても会話は成立しないんですけどねー。
要雰囲気です!




