07 『BAKETU=SAN』
前回同様に南門の【開拓者組合】のある大通りで露店を設置して作ったものを販売リストに登録していく。
時刻は『ゲーム内時間』で深夜近くなので、ほとんどのNPC店舗は営業を終了しています。
でも目の前の一通りはそこそこ多い。これは開拓者に昼夜の区別なく行動するものが多いからです。
特にプレイヤーは夜タイムなんてものはただのゲーム内の変化にしか過ぎず、眠くなることもない。ではNPCの開拓者はどうなのかというと、開拓者として女神から祝福を受けている者ならば睡眠時間が少なくて済むこともあり、プレイヤーと同じような行動を取っている者もそれなりにいるご様子。
それでも大多数のNPCは昼タイムに行動し、夜タイムは休息に充てているみたいですけど。
そんなわけで夜タイムというのはNPCの店舗という強力なライバルがいない素敵な時間。
要するに値下げしないでも売れる確率がぐっと増すのです。
もちろん店舗が開くまで待ってから購入するプレイヤー達もいるでしょう。でも大半は待ちきれないのですよ。
というか『ゲーム内時間』ですでに1日目が終わろうとしている状態なので、早いところでは店舗から初心者用の装備が品切れになっているところも出ているはず。
スタートの時点で何カ国かに別れているとはいえ、ものすごい数のプレイヤーが装備を買い求めているわけですからね。
βテスト時にはここからNPCがその優秀さを遺憾なく発揮して、プレイヤーの生産者に初っ端から大打撃を与えてしまったわけですが、修正も入っているので今回はそんな悲劇は起こらないはず。
それでもβテストの悲劇を多くの人達が知っているために生産者がだいぶ少なくなっている現状です。
結論から言えばカッパー装備はあっという間に売り切れてしまいました。
やはり私の予想は正しかったみたいです。
夜暗を切り裂く魔導灯の明かりの下、販売リストに残っているのはお馴染みの『魔術陣』各種と待ち時間に製作した『座布団クッション』が数点のみ。
お財布事情もすでに初期資金の3倍近くまで膨れ上がっています。
さっそく素材の買取を始めれば【開拓者組合】よりも高く買い取ることもあり、どんどん集まってきてあっという間に萎んでいく私のお財布ちゃん。
次への投資なので仕方ないことです。
素材買取時に興味を持ってくれた人が『座布団クッション』を購入していったりしましたが、やっぱり『魔術陣』はまだ無理なようですね。
でももう少ししたら開拓者にも余裕が出来て購入するタイミングが来るはずです。
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お財布がだいぶ寂しくなり、買取を終了した時点で露店は閉店です。
もう深夜を少し過ぎていますが、酒場なんかはまだまだ元気に営業しているようです。
というか営業している店舗は酒場と24時間営業の【訓練所】と【開拓者組合】くらいなものです。
その酒場も大体のところは深夜3時くらいで閉店するみたいですけど。
料理や飲物はNPCが生活しているので普通に存在し、プレイヤーでも製作できます。
そのためのスキルもちゃんと存在するのですが、残念ながら現在の食事の意味はほとんどありません。
スキルLvが上がれば追加効果が出るはずですが、序盤も序盤ではそれも望めない。NPC店舗では追加効果が出る料理はかなりお高めなので相当余裕がなければ食べられないのです。
ゲームなのでお腹が空くことも喉が乾くこともないのは楽でいいですね。
逆に甘いものや美味しいものを大量に食べても太らないので、お金に余裕ができたら食道楽したいです。
諸事情で非常に健康的な生活を余儀なくされている私にとっては自由に飲食できるのは嬉しいですからね。
そんなことを思いつつも次の製作のために新たなスキルを取得しました。
防具は『成型』と『完了処理』でほとんど単一の素材だけで製作できますが、なぜか武器はそうはいかないのです。
防具よりも武器の方が値段も高く設定されているので恐らくその兼ね合いだと思うのですが、まぁ要するに武器を製作するには複数のスキルがあった方がいいということです。
新たに取得したスキルは『木工』と『皮革』。
初期に選べるスキルでもあるので、取得するのには各それぞれSPが1必要ですが、それなりにLv10を超えたスキルが多い私には問題ありません。すぐに取り戻せるでしょうし。
ありがたいことに24時間営業の【訓練所】で2つ共講習をこなして、報酬を貰ってきたら楽しい楽しい製作のお時間です。
今回は複数のスキルを使うのでいちいち施設をレンタルし直していてはお金がいくらあっても足りません。
その辺も考慮して個室代は残しているので、今回から個室をレンタルすることにします。
早くも共有スペースは卒業なのですよ。
個室にはたくさんの機材がぎっしりと詰め込まれていて、あまり広いとはいえないですが1人で作業する分には問題ないでしょう。
数人で借りるような大型の部屋もあるようですが、私には縁がないと思うのです。レンタル代も個室の5倍以上しますし。
個室を借りるようになってもやることは変わりません。
買い取りした『銅鉱石』をお馴染みの『カッパーインゴット』にする作業からです。
前回よりも買い取った量は増えていますが、新たに取得した『鍛冶アーツ/Lv15/抽出・改』のおかげで時間は大幅に短縮することができました。
さらには今まで★3ばかりだった『カッパーインゴット』がなんと★4にグレードアップしています。これは嬉しいですね。
段階が上がると『アーツ』はかなり強力になるようです。
素材のランクが高くなれば自ずと製作するアイテムのランクも上がりやすくなるというものです。
必ずしも上がるというわけではないのはスキルLvや作業状況に大きく依存するからですね。
それでは一番簡単そうな武器から作っていきましょう。
まず製作するのは『カッパーダガー』。
『鍛冶アーツ/Lv1/成型』でどんどん形を作っていきますが、★4の『カッパーインゴット』は★3だった頃に比べてなんだか形が作りやすいような気がします。
一度冷やして柄に『皮革』の講習で製作した『ローキャタピラーの革』を巻きつければ完成ですので『完了処理』で仕上げです。
若干荒かった箇所があった剣身も『完了処理』によるイメージと魔力の補正により、レシピに載っている画像のものと比較しても十分な品になっています。
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カッパーダガー
短剣/★3/ATK+7 HIT+1/耐久70
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ちなみに鞘なんかは『完了処理』時におまけとして付いてきたりします。
もちろん鞘の自作もできますが性能面に影響はありません。
鞘自体に特殊効果が付与されている場合はその限りではないようですけど、βテスト時には発見できていないようです。ちなみに情報源はPVなんですけどね。
★4の素材を使用したので少しは期待していたけど、結果は★3。
スキルLvや素材のランクが高ければ追加効果がランダムで付く場合があるけど、それもなしなのでちょっとがっかりです。
まぁLvの低い『皮革』で作った『ローキャタピラーの革』を使っているし、★2や★1なんてことにならなかっただけマシと思うようにしましょう。
尚、完成したこの『カッパーダガー』は私用にすることにしました。
初期に攻撃系統のスキルを『魔術陣』しか取っていない私には初期武器が配布されてませんからね。いつまでも丸腰というのも寂しいものです。ゲームなのですから武器とか装備してみたいですしね。使うかどうかはまた別問題ですし。
初の武器製作の記念ということでまったく使っていなかった『細工』のLv上げも兼ねて名前でも彫っておくことにしました。
この手の作業は得意分野ですし、『BAKETU=SAN』と彫ったので割りと簡単にできました。
ついでなので今被っている『バケツヘルム』の内側にも彫っておきましょう。
……うん、『鍛冶』よりもこっちの方が好きだなぁ。
あぁ……『魔術陣』描きたくなってくるにゃー。
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というわけで気分転換に『魔術陣』を一枚描いちゃいました。
いやぁやっぱりこういう細かい作業は楽しいです。ほんといい気分転換ですね!
テンションも上がったのでどんどん他の武器を製作していき、結果はこんな感じ――
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カッパーロングソード
長剣/★3/ATK+14/耐久80
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カッパーショートスピア
短槍/★3/ATK+10/耐久70
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カッパーアックス
斧/★3/ATK+17 HIT-2 CRT+2/耐久50
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カッパーリング
アクセサリー/★3/DEF+1/耐久10
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まぁ普通ですね。
いや、★2になってないのですから上出来でしょうか。
ちなみに『カッパーリング』には『細工』でちょっとした花と葉の意匠を施してみたのですが、残念ながら性能面には何の影響もなしでした。
その代わり見た目はちょっとだけ華やかです。
まぁこの程度の意匠だと『完了処理』でつけられますしね。『細工』のLv上げにはよかったのでよしとしましょう。
これだけ作るのにも3時間くらいかかっていますので、初めてとはいえ武器の製作は大変ですね。
まぁ慣れも多分にあるのでしょうからこれからに期待です。
レンタル時間もちょうど終わりなので一旦ログアウトですね。
私の場合、『第一次制限』とか関係なく予定の時間をオーバーしようものなら強制的にログアウト確定ですので、時間はしっかり守らないといけないのですよ。