67 『まったくもー』
ホムちゃんを愛でた後はさっそくスティール系装備の製作です。
今回はさすがにPT分の依頼はされなかったのでミカちゃんと姫ちゃんの分だけで済みそうです。
あとは準備出来た分から専用掲示板に載せて知り合い優先での販売ですね。
でもスティール系装備はアイアン系装備よりもずっと値段が高いので、ミカちゃん達みたいに一気に装備を更新する人は少ないんじゃないでしょうか。
あ、でも開拓された新エリアで狩りをしている人は素材の売却額だけでも結構な額になるからそうでもないのかな?
高ランクの素材は1つ下のランクの素材の倍くらいの値段になりますからね。
そんなところで活動しているプレイヤー開拓者はお金持ちになってしまうのも必然というわけです。
そんなお金持ちなプレイヤー開拓者が私から高額な装備を購入してお金を落としていくのです。
そしてそのお金で素材を買い、製作をする。
見事に経済が回っています。
というわけで今回も一般販売が始まったら行列が出来るのでしょうね。
すでに名物と化していそうな気もします。
店員さん達もベテランさんですので任せて大丈夫ですし、気にせずガンガン製作しましょう。
あ、ホムちゃんはこっちの素材を使って製作をお願いします。
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スティール系装備の製作を続けること6時間あまり。
スティール系装備は必要素材数が急激に増えるアイアン系装備の次の装備だけあり、必要となる素材は更に増えています。
素材加工もいくつもしなければいけませんので、最終段階の素材数自体は少ないですが、加工前の素材も合わせればものすごい数になるんです。
ですが、レシピだけは入手済みだったので、何が必要となるのかは知っていました。
必要素材がわかっていればあとは買取を行うだけです。
もちろん入手難度が高い素材だとなかなか買い取れないのですが、スティール系装備はそれほどでもないので問題なく数を集めることが出来ました。
素材があり、安定生産が可能なスキルLvや設備、道具が揃っていればあとは製作だけ。
とはいっても加工だけでも結構な時間がかかりますので、6時間かけても製作できた数はアイアン系装備と比べると半分くらいになってしまいます。
利益幅を考えたら半分も出来れば十分ですけどね。
でもアイアン系装備以上に戦闘系開拓者に行き渡るまでに時間を要する事になりそうですね。
後追いの生産系プレイヤー開拓者達が追いつくにはまだまだ時間が必要でしょうけど、現在でもアイアン系装備は『オプション』なしでも結構な人気商品です。
もちろん『オプション』付きの方が遥かに人気ですけどね。
ミカちゃんと姫ちゃんの分の装備は製作し終えているので『メール』をしておきましょう。
すぐに飛んできそうですので、急いで評価査定を済ませてこないといけませんね。
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「おめでとうございます、バケツさん様。【開拓者組合ランク/★5】への昇格が可能になりました。
昇格試験を受けることが出来るようになります。
いかがなさいますか?」
「試験ですかー」
査定評価を済ませると狐耳の受付嬢さんからこんなお話が。
試験内容を確認させてもらったところ、討伐、納品、護衛と色々選べるようですが、どれも結構難しそうな内容ばかりでした。
でも私としては討伐や護衛なんかは無理です。
ですので選択肢は自然と狭まるわけです。
「えーと、じゃあこの『ブロンズ以上でのオリジナル重装系装備の納品』を受けますー」
「かしこまりました。では昇格試験を発行致します」
受けないという選択肢はありません。
【開拓者組合ランク】を上げる事は開拓者に取ってはメリットしかありませんからね。
それに【開拓者組合ランク/★5】になれば確かオークションに参加する権利が取得できるはずです。
現在プレイヤー開拓者では取得が難しいような素材もオークションには出品されるはずです。
そういった素材を入手できる可能性が出てくるだけでも十分ですが、何よりオークションって楽しそうですよね。
出品される物を見るだけでも楽しめそうです。
それに【開拓者組合ランク】は開拓者以外の人達にとって開拓者を信用する目安にもなっています。
初対面などでも【開拓者組合ランク】が高ければNPCクエストが発生する可能性が高まるほどです。
恐らく図書館の2階の閲覧許可もこの辺が絡んでくるはずです。
まぁまだ推測の域を出ない話ですので、一先ずは昇格してからでしょう。
昇格試験の『ブロンズ以上でのオリジナル重装系装備の納品』はタイトルそのままでブロンズ以上の重装系装備でオリジナルを製作して納品するようです。
ただし、ランクに制限があり、ブロンズの場合は★6以上でなければいけないようです。
ブロンズ以上の場合は段々とランクが低くなっていくようで、スティール系装備なら★3でもいいみたいですけど。
でも私ならこれは普通にクリアできそうです。
ただしオリジナルですので、レシピ化していない場合は時間がかかりそうですけどね。
私の場合は『バケツヘルム』がオリジナルですので楽勝っぽいです。
というか今すぐでも納品は可能ですが、現在『鞄』に入っている『バケツヘルム』は現在私が装備している『スティールバケツヘルム』だけです。
ここで脱いで納品するのはちょっと躊躇われますね。
まぁすぐにクリアする必要はないのでまた今度にしましょう。
ミカちゃん達もそろそろ工房の方に来ていそうな気もしますし。
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「おっそーい!」
「おか」
「ただいまー。昇格試験の話聞いてたからねーごめんー」
「お? ユリも遂に★5? 何の試験受けたの? 納品?」
「選択肢がそれしかないからねー。まぁオリジナルはこの『バケツヘルム』でクリアだから平気だよー」
「さすが」
「まぁユリだしねー。
それよりスティール! 早く! みんな待たせてるんだよー!」
「はいはい、でもまだ2人の分とあとは少ししかないからね」
「大丈夫大丈夫。さすがに今回は全部揃えたら素寒貧だから!」
「ん。高い」
「まぁそれは仕方ないねー」
ソワソワしながら待っていたミカちゃん達にさっそくスティール系装備の販売を行います。
一部位だけでも結構な値段がするスティール系装備をほぼ全身分更新するわけですから、2人の出費は生半可なものではありません。
むしろよく全部一気に更新できるものです。
「危なかったー……。ちょっと足りなくなるところだった」
「ぎりぎり」
「一気に更新するからだよー」
「だってスティールだよ! 現状でわかっている装備の中で最高峰じゃん!」
「ん。借金してでも揃えるべき」
「まったくもー。
2人共お金ないとポーションとか買えないでしょ?
素材あったら買い取るよー?」
「さすがに回復アイテムの備蓄くらいはあるわ!」
「買って」
「姫!? あ、でも私も買ってください」
「まったくもー」
戦闘系トッププレイヤー開拓者の2人をして金欠に陥らせる金額なのがスティール系装備なのです。
まぁ元々素材は私に売るために持ってきていたようですけど。
でもこれで2人の装備は頭1つか2つ分くらいは抜けた性能になったわけです。
「あ、そうだ! 『封闇秘剣』の『オプション』の効果の検証終わったよ!」
「おー。結構かかったねー。どうだったの?」
「それがさー。発生確率が低くて地味に検証が大変だったのよ。
迷宮攻略もあったし。
んで効果なんだけど、斬りつけた相手を闇に引きずり込んで拘束するって感じ。
拘束時間は相手によるかな。
でも最短でも10秒は動けなくするから発動すればフルボッコよ!」
「おぉー」
「すごい」
『封闇秘剣』の『オプション』――『E:封』はどうやら拘束系のようですね。
ミカちゃんが嘆くくらい発生確率は低いみたいですけど、その効果は絶大のようです。
さすがは★9の凶悪な武器なだけあります。
ショートソード系では『スティールショートソード』よりも攻撃力が高い上に、『オプション』の効果も絶大とは……。
やはり掲示板に情報を上げないで正解でしたね。
これは色んな意味で危険物です。
「よーし、さっそく狩り行くかね!
迷宮攻略までもう少し! ひゃっほーい!」
「ん。ボクもラストスパート加速」
「頑張ってね、2人共ー」
スティール系装備は鈍い銀色をしています。
でもミカちゃんが装備するととても綺麗に見えるので不思議ですね。
すごく格好いいです。
姫ちゃんの場合は甘ロリさん製作のゆったりめの服の効果なのか、スティール系装備が見える部分が少なくなっていますが、チラチラと見えるくすんだ銀色がロマンを感じさせます。
それもこれも全部『スティールホビングローブ』の影響ですね。
指の先まで覆う鋼がすごくロマン溢れてます。
そして姫ちゃんの肩には牙や爪、尻尾をスティールに換装した『木人形獣型・狐』もいます。
その動きはもう完全に人形使いではなく、魔物使いの領域ですね。
さすが姫ちゃんです。
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2人を見送った後は製作の続きです。
まだまだ知り合いへの優先販売分を作らなければいけませんからね。
ラッシュさんやアリミレートさんの分です。
特にアリミレートさんは約束を果たすためにも優先しなければいけません。
約束ともいえない約束なので、当人は忘れているかもしれません。
でも私にとっては目標の1つでもありました。
そしてその目標である約束が果たされる時が来たのです。
アリミレートさんの欲しがっていた部位はまずは軽めの体装備です。
でもNPC店舗などでの販売数の少なさからいって他の部位を更新できているとは思えません。
オークションという手もあるでしょうが、競争相手は他にもいるでしょう。
一先ずは軽めの体装備を製作してあとは本人に聞けばいいんです。
ログアウトの時間まではまだ少しあります。
一式分作るには足りませんが、そこそこの数は製作できるでしょう。
それにまだ『ゲーム内時間』で深夜帯ですからね。
『メール』するのは昼タイムに入ってからにしたほうがいいでしょう。
開拓者は昼夜を問わないとはいえ、一応の配慮は必要ですからね。
さぁ頑張りますよー!




