64 『紫色の謎の液体を流し込みますよー』
依頼品や補充商品の製作などを行っている間に時間はそこそこ経過していました。
数を作るのにはどうしても時間がかかりますからね。
でもそろそろ【開拓者組合】にも『花の密林』の情報がある程度集まっている頃でしょう。
まだまだ開拓が成功して間もないのですから大体の目安となる情報程度で十分ですしね。
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「こちらが今現在までに収集された『花の密林』の素材情報になります」
「ありがとうございますー」
エルフの受付嬢さんから受け取った情報によると、『花の密林』で入手できる素材は名前のとおりに花の素材が多いようです。
既存の花系素材の場合は高ランク品が入手できるようで、やはり『錬金術』をメインとする開拓者からは歓喜の声が上がっているようです。
花素材の他には関連品としてやはり植物系の素材が上がっていますね。
他にも土などの素材も高ランク品が手に入るようで、『農業』を取得した開拓者からも喜ばれているようです。
『ミズーリの村』が開拓されてから『農業』を取得するプレイヤー開拓者が急増していますので、渡りに船といったところでしょうね。
まぁつまりは私にとっては微妙ってことですね。
でもまだ『花の密林』の攻略は始まったばかりです。
現在の情報が全てというわけはないはずなので、今後に期待でしょうか。
評価査定の結果を受け取って工房に帰りましょう。
時間は『ゲーム内時間』ですでに深夜です。
NPC店舗はほとんど閉まっていますが、露店はそうでもありません。
むしろ『花の密林』帰りのプレイヤー開拓者が露店をここぞとばかりに開いているので、いつもより混んでいるくらいですね。
まだ【開拓者組合】でも素材の買取価格が確定していないので、ここぞとばかりにぼったくり価格で露店に素材を並べている人なんかもいます。
中にはそんな値段でも購入する人がいたりするのかもしれません。
まぁ私は必要ないので食料を購入して去るだけですけど。
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依頼品の製作も早くも終わりです。
まだ納期までだいぶ余裕がありますね。ちょっと急ぎすぎたかもしれません。
でも意外とこの規格に合わせて製作するという作業は熱中できるものなのですよ。
なんかゲームみたいなんですよね。
あ、私ゲームの中でゲームしてますよ。ミニゲームですね!
とりあえずこれでいつでも納品にいけるのですが、昼タイムにならなければNPC店舗は開きません。
その上、実は今日は2回目の合同採取ツアーがあったりします。
今回はミカちゃんや姫ちゃんといった豪華な護衛メンバーではないですし、『Works』も全員参加ではないようです。
でも主催者の甘ロリさんとるーるーさんは参加するようですし、問題ないでしょう。
私も素材云々よりもSP確保のためにスキルLvを上げたいんですよね。
ですのでもちろん参加します。
もう『鍛冶・改』のLv100到達には時間もかからないでしょうから、尚更参加すべきです。
でも待ち合わせの時間まではまだあります。
補充用の商品をもう少し作っておきましょうかね。
工房の設備の新調もしたいですので、お金はいくらあっても足りません。
次は中級の『魔導合成器』が欲しいかなー。
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夕食や入浴などのログアウトを挟んで、せっせとアイアン系装備を製作していると『メール』の着信です。
さてさてどなたでしょう?
「おやー?」
差出人は甘ロリさんとるーるーさんの連名でした。
そういえばるーるーさんからはまだ図書館の情報の報酬を受け取っていませんでしたね。
どうやらそのことに関して相談したいみたいです。
2人との合同採取ツアーの待ち合わせ場所もうちの工房ですし、ついでに話し合いたいみたいですね。
特に問題もないのですぐに返信しておきました。
もし相談の時間が余ってもそのままお喋りしていたらいいだけですしね。
ぷち女子会ですね!
「というわけで来ました~!」
「はやっ!」
『メール』を返信してすぐに玄関から甘ロリさんの声です。
そりゃ驚きますよ。
工房の前で『メール』を送ったんでしょうか。そうじゃなければこの早さはありえないでしょうし。
「来てたなら『メール』じゃなくてもいいでしょうに」
「いや~そこはやっぱり社会人として? バケツさんの邪魔しちゃ悪いわけですしね~」
「ごめんなさい……驚かしちゃって……」
「いえーいいんですよー。犯人はララルさんですし」
「この対応の差~」
「今更じゃないですか?」
「それだけ仲良くなれたってことですよね~!」
「もしかして酔ってます? 酔ったままプレイするのはあまりよろしくないんじゃ……」
「そんなことないですよ~。大丈夫ですよ~。ちょっとだけですよ~」
なんだかほんのりうざい感じの雰囲気の甘ロリさんにカマをかけてみればどうやら本当に酔っているみたいです。
【ふろんてぃあーず】では基本的に泥酔状態でなければログインが可能です。
だから一応は大丈夫だと思うのですが、オンラインヘルプにも「アルコールを摂取してのプレイは控えましょう」って書いてあるんですけどねー。
数時間後には合同採取ツアーもあるんですけど、本当に大丈夫なんでしょうか?
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「本当にコレでいいんですか……?」
「私的にはコレで十分ですね。というか結構放出してると思いますよ? 研究結果なわけですし」
「バケツさんがそういうのでしたら……」
「あ~……う~……」
「ほら、ララルさん水ですよー。意味ないかもしれませんけどどうぞー」
「う~……ありがとぉ~……ごじゃいますぅ~」
るーるーさんとの交渉の結果、図書館情報に関しての見返りは彼女の最新の研究結果となりました。
るーるーさんはお菓子製作をメインにしていますが、【ふろんてぃあーず】の素材は現実とは少し違うので研究がかかせません。
その結果副産物として得られた成果もそれなりにあったりするのです。
るーるーさん的には副産物でしかないので価値が低いようですが、私としては欲しかった情報などもあったので十分に釣り合いは取れていると思います。
特に親方さんから教えてもらった『追加』素材の加工に必要な方法が一部とはいえ見つかったのは朗報です。
ちなみに甘ロリさんはリビングの椅子に座った途端テーブルに突っ伏して、ついさっきまで微動だにしていなかったのですが、話し合いが終わった途端動き出しました。
その動作は非常に緩慢で頭が痛そうな感じでこめかみを抑えていますけど。
もしかして二日酔いなんでしょうか?
私はお酒を飲んだことがないので情報としてしか知りませんけど、こんなに早く二日酔いになるものなんでしょうかね?
「大丈夫ですか?」
「大丈夫~……体質なんですよ~。すぐ収まりますので気にしないでくださいぃ~」
「ゲーム内でも体質って影響するんですねー」
「ララルさんの場合……たぶん気のせいかと……」
「あ~……う~……」
交渉が終わってちょっと気が抜けたのか、るーるーさんの甘ロリさんへの評価がちょっぴり厳しいです。
でもそれだけるーるーさんが気を許しているからかもしれませんね。
私やミカちゃん相手ではこんな風には弄ってくれませんし。
いや、甘ロリさんが弄られキャラだからかもしれませんね!
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二日酔い風味だった甘ロリさんも合同採取ツアーまでには復活したみたいです。
るーるーさんが渡した謎の小瓶に入った紫色の液体が効いたのかもしれません。
飲んだ直後の甘ロリさんが苦さのあまりに床を転げまわっていたのはなかなか見ものでしたし。
味覚が完全に再現されている【ふろんてぃあーず】ではもちろん苦味も再現されています。
こればかりはストレス排除の対象にはならなかったみたいです。
ですので過度の苦味を与える飲料というのもあるのです。
掲示板でもその製作方法がアップされてからチャレンジする猛者が後を絶たず、阿鼻叫喚の地獄絵図になっていたのを知っています。
実際に転げまわる甘ロリさんを見て非常に納得ですけどね。
コレは確かに危険な代物です。
でも残念ながらMOBには効果がないようですけどね。
「はぁ~はぁ~……。るーるーさん酷いですよぉ~」
「効果は抜群みたいですね……」
「確かにさっきまでしてた頭痛が吹っ飛びましたけどぉ~!」
「それよりほらもう時間ですよ。そろそろ出ないと」
「うえ!? もうですか!? なんだか私ここに来てから醜態を晒していた記憶しかないんですけど~!?」
「まぁ大体いつも通りかとー」
「そうですね……」
「そんなぁ~!」
るーるーさんと2人で甘ロリさんを弄りつつ、集合場所の南門まで急ぎます。
今日の合同採取ツアーは『Works』からの参加者は私達3人だけですが、外部からの参加者もいるんです。
護衛も知り合いがいる可能性の方が低いですし、遅刻は洒落になりません。
特に甘ロリさんは主催者ですからね。
今回の合同採取ツアーも大体3時間程度の予定です。
遅刻して時間が減るのは私も嫌ですからね。
ほらほら甘ロリさん、急がないとまた紫色の謎の液体を流し込みますよー。