60 『悩ましいですねー』
ログインしました。
本公開から21日目。『ゲーム内時間』で60日目です。
毎度のことながら朝のログイン時はゲーム内では真夜中なんですよね。
当然NPC店舗はもちろん図書館もやっていません。
とはいえ、必須施設は24時間営業ですし、私には自前の工房がありますからね。
せいぜいお店で買い取った素材を回収に行くくらいで済みます。
それでは今日も元気に生産活動しましょうか!
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お店に設置してある『店舗倉庫』から買い取った素材を回収して生産活動をすること5時間あまり。
『エーク迷宮』産の高ランク素材はかなりの量を買い取れているようです。
でも普通のランクの素材の方が圧倒的に買取量は多いんですけどね。
もちろん最初は『エーク迷宮』産の素材で『ダブルオプション』狙いのアイアン系装備製作をしました。
運も絡むので思ったようには製作できませんが、有用な『オプション』がついた品がいくつか出来たので満足です。
さっそく『専用掲示板』に情報をアップして知り合いに『メール』を送っておきました。
残りはいつもの素材で『シングルオプション品』の製作です。
もちろんこちらも運が絡みますが、『ダブルオプション』よりは有用な品を製作しやすいので問題ありません。
無論『シングルオプション品』でも数値の増減がありますので、出来の良いものは『専用掲示板』に情報をアップしましたけどね。
まだまだ『シングルオプション品』でも知り合い達には欲しがる人がいます。
もちろん『ダブルオプション品』の方がいいのは当然ですが、やはり運の要素が大きいのが問題です。
【開拓者組合】で評価査定を終わらせる頃には『専用掲示板』を見た知り合い達から『メール』が返ってきています。
商品補充の都合上、時間内に返事がなければ販売はできません。
そういった場合は当然ですが、お店の商品となるのです。
今回は『専用掲示板』にアップしたアイアン系装備のうち3点だけ販売となりました。
それ以外は全部ブログで告知してお店に補充です。
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さて補充も知り合い達への先行販売も済ませました。
ここからはお昼のログアウトまで自由時間です。
ですが実はちょっと思うところもあって図書館の情報を『Works』のメンバーだけにでも公開しようかと思っているのです。
今現在でも図書館でプレイヤー開拓者を見ることは少ないです。
掲示板でも図書館の有用性は広まっていないのが現状なのです。
私も散々レシピを入手して大変お世話になっているわけですが、そろそろ独り占めというのも後ろ暗くなってきているんですよね。
でも掲示板で情報を流してしまうと一気に図書館が混む事になりかねません。
もちろん戦闘系プレイヤー開拓者にレシピなんてものは必要ないですが、露店の状況などを見るにさらに生産者の数は増えているように思えるのです。いえ、確実に増えているでしょう。
統計などは取られていないので実際のところはわかりませんが、露店で素材以外の加工品などを販売しているプレイヤー開拓者の数はかなり多くなっていますからね。
何より料理を販売しているプレイヤー開拓者の数が多いんですよね。
ですが販売されている料理の種類はそれほど多くないのです。
その理由はるーるーさんに聞いて知っています。
【ふろんてぃあーず】の食材は現実の食材とは少し違うのです。
同じような食材もそれなりにはありますが、全部一緒というのはほとんどありません。
煮る焼く蒸す揚げるなどの代表的な調理方法1つとっても味が変化してしまうそうです。
なのでるーるーさんはレシピ以外のお菓子を再現するのにとても苦労しているのです。
それはお菓子以外の料理にも言えることで、レシピ以外の料理はまず研究しなければいけないという現状です。
これも『錬金術』に少し似ていますよね。
台所の魔術と言われるくらいですから、『錬金術』に似ているのではなく、料理に『錬金術』が似ているのかもしれません。
閑話休題。
私は生産者ではありますが、料理はしません。
いえ、やったことないのでちょっと怖いというのもあるんですが、料理の研究をするよりは『魔術紋様』を描いていたいです。
ですので、基本的に『空腹度』と『渇水度』を満たすための料理は露店頼りなんです。
図書館の情報を公開することによって新たなレシピが広まればそれだけ露店にたくさんの料理が並ぶということでもあります。
私の楽しみも増えるということなんですよ。
でもさすがに確実に有益な情報とわかっているものを『Works』を無視して広めてしまうのは心苦しいです。
それにまだギブアンドテイクを前提にした情報交換というものをしていませんからね。
まずはやってみるのが一番です。
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「――というわけなんです」
「……ま、まさか図書館でレシピが手に入るなんて……。1万ニルの入館料にこんな意味がっ!?」
「ララルさん、いえ『クランマスター』ならこの情報にどのくらいの価値があると思いますか?」
「……ふむ。そうですね~」
いきなり『Works』メンバー全員に情報を広めるのではなく、まず最初に『クランマスター』である甘ロリさんに図書館の情報を話してみました。
段階を踏むのは大事な事ですからね。
「……以前、バケツさんが初級で作れる糸よりももっと細い糸がないかって言ってましたよね?
あれでどうでしょうか?」
「えっ!? 見つかったんですか?」
「つい最近なんですけど、NPCクエストの報酬でレシピを貰えたんです~。
おそらくはそれでいけると思いますよ?
もちろんそれだけでは足りないのであとは――」
甘ロリさんの提示した報酬は以前親方さんから教わった『追加』の際の素材加工方法に必要な道具を製作するための素材の候補らしき物です。
これがないのでほとんどの素材加工を断念する結果になっていたんですよね。
ですので正直言って、これだけでも私としては十分な報酬だったりします。
でも甘ロリさんは他にも追加で報酬を提示してくれました。
……ふむふむ。悪く無いですね。でもこれではもらい過ぎな気もします。
なのでもうちょっと情報を渡しましょうかね。
『発見』や『集中』は掲示板で私も得た情報ですが、活用方法はそれほど多くの情報はないんですよね。
図書館でも有用だということを教えておきましょう。
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「……ふぅ。バケツさん、ちょっと休憩にしましょう~」
「そうですねー」
なんと言いますか。
2人共情報が吊り合うようになるようにどんどん上乗せ合戦が続いてしまったんですよね。
これは単純に情報の価値が2人共同じではないために引き起こされる悲しい喜劇でしょうか。
Aという情報に私が10という価値をつけていても、甘ロリさんは12の価値があると思っていたりすると、対価として出される情報が吊り合わず、天秤を水平にするためにどんどん情報を出し合ってしまうという結果になってしまったんです。
私も甘ロリさんも相手に損をさせないようにしようと配慮した結果というのがなんとも笑えない話です。
他人だったら私が得している時点で終了しているのですけどね。
「まぁこれはあれです。元々はバケツさんからの情報提供から始まっているので私は多少損失があっても問題ないです。
むしろそれで手を打ってもらえませんか?」
「わかりましたー。話すつもりのない情報まで喋っちゃってますからねー。
もうこの辺にしておきましょうー」
「そうですよ~。『封闇秘剣』ってなんですかも~。
私も怖くてそんな情報知りたくなかったですよ~」
「あははー」
情報の上乗せ合戦の結果、甘ロリさんはマジックインゴットの件や『封闇秘剣』についても知ってしまいました。
まぁ私も色々と甘ロリさんが秘匿していた情報を知ってしまいましたが、ここはお互い様ということで。
それにしても甘ロリさんって私の一回り以上も上だったんですねー。知りたくなかったです。
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「じゃあ、みんなには私の方から報酬について少し話しておきますので、バケツさんは少し得する程度の報酬で勘弁してください」
「了解ですー」
今日みたいな報酬の上乗せ合戦を防ぐために甘ロリさんから先に報酬について話しておいてもらうことになりました。
ギブアンドテイクというのもなかなか難しいものですね。
でもこれで情報交換がしやすくなったのも確かです。
せっかく『Works』に入ったのですから、色々と活かしたいものです。
あ、それと甘ロリさんから次回の合同採取ツアーの計画を教えてもらえました。
次回はさすがに護衛メンバーにミカちゃんと姫ちゃんの『クラン』という、超豪華なメンバーはつかないとは思いますが楽しみです。
『エーク迷宮』へ採取ツアーとか出来ませんかねー。
さすがにまだ『採取』や『採掘』のLvが低すぎて旨味が薄いかもしれないですね。
『エーク迷宮』の採取ポイントはスキルLvが低いと失敗するらしいですし。
失敗でも1回の採取に相当するらしく、何も素材が手に入らず、運が悪ければ消えてしまうらしいです。
まずは地道にLvを上げないといけません。
高ランクの素材も欲しいですけど。SPも欲しいです。
あぁ、悩ましいですねー。
何はともあれ、これで読書仲間が増えることは間違いないでしょう。
『Works』のみんなに情報が行き渡り、しばらくしたら甘ロリさんが折を見て掲示板に情報を流すそうです。
それまでは図書館の常連さんは『Works』メンバーで固定されそうですね。
未だに2階の立ち入り許可も入手出来ていませんけど、まだまだたくさん本はあります。
『解読』のLvが上がれば読みなおしする本も増えるでしょう。
まだまだ図書館にはお世話になりそうです。




