58 『検証』
「きた」
「姫ちゃん、いいタイミングー」
狐の人形に毛皮を着せ終わったところでちょうどよく姫ちゃんが到着です。
毛皮は貼り付けて本物感を出すのではなく、着させて可愛らしさを演出する方向で進めてみました。
なので多少木製の部分が目立ちますが、それはまぁいいでしょう。
完全に木製だった頃よりは大分可愛らしさが出ています。何気に簡単でしたし。
「これ?」
「そう、ここの背中を見てー」
「ん」
姫ちゃんに完成したばかりの『木人形獣型・狐』を渡して確認してもらいます。
どうでしょうか。この尻尾の部分なんて完全に覆って尚且つ毛並みを上質なもので揃えてみたんですよ。
私的には結構もふもふ感が良い感じに出ていると思うんです。
「ん」
やりました!
姫ちゃんが尻尾を手に取り感触を確かめてから、仮面を取って顔を埋めています。
そして数秒してサムズアップを頂きました!
まだ姫ちゃんの顔は尻尾に埋もれたままです。
私の勝利です!
「って違うよー!」
「ん。ゴロゴロすると芯が堅い」
「木製だからねー……じゃなくて」
「ん。こう?」
「おぉー!」
つい毛皮部分の感触品評会になってしまいましたが、確かに元が木製である分顔を埋めて押し付けると硬い部分が気になります。
……ではなく、肝心なのは人形の操作です。
ついついボケ2人でボケ倒すところでした。ミカちゃんのありがたみがよくわかりますね。
それにしてもさすがは姫ちゃんです。
私がチャレンジした時にはそりゃあもう見られたものではなかったのですが、本物のように躍動するような動きを再現しています。
どうやってるんでしょうか? 何故か関節部分まで個別に動かせています。
あ、もしかして糸を先端で操っているのではなく、中まで通しているんでしょうか。
どちらにしてもすごいです。まるで本物のような動きですよこれ。
「む」
「お? どうかしたー?」
「『人形使い』取得」
「えっ」
姫ちゃんの操る『木人形獣型・狐』が見事な躍動を見せ、工房内のテーブルを駆け回っていたのに目を奪われている間にどうやら姫ちゃんはスキルを取得していたようです。
しかしその習得したスキルが問題です。
掲示板で存在が噂されていたスキルではありますが、今のところ誰も取得することが敵わなかったスキルではないですか。
『魔導糸手袋』という如何にもな装備があるのです。誰だって連想するのは簡単です。
ですが存在は噂されていても取得条件がさっぱりわからなかったのです。
もちろん取得条件探しに人形やらぬいぐるみやらを自作して操作するなんてことは他の人も行っていることです。
でもその全てで条件を満たすことはなかったのです。
でも姫ちゃんは取得したようなのです。
「な、なんで? 何が条件だったんだろう?」
「……人形?」
「えっ……まさか!」
思い当たるのは今まで検証に使われたであろう人形達がレシピを元に製作されたものではない点です。
毛皮を着せてはいますが、すでに『完了処理』済みですのでアイテムとしては変化していませんので、この狐の人形は『木人形獣型・狐』です。
オリジナルでもなく、レシピの通りのものなのです。
つまり『木人形』のレシピで製作された人形を『魔導糸手袋』で操ることが取得条件……?
「検証」
「うん!」
すでに取得条件を満たし、取得してしまった姫ちゃんでは検証はできません。
でも未だにスキル取得一覧に『人形使い』がない私なら検証できます。
もちろん私1人では確実な検証とはいえませんが、第一歩にはなります。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「出た!」
「やた」
スキルの『魔導糸手袋』を取得し、念のため最初に『アイアンホビングローブ』なしで糸を引っ張って操ってみましたが、それでは取得できず、『アイアンホビングローブ』を装備して操ると取得できました。
あと2,3人検証して取得できれば検証としては十分と言えるでしょう。
『人形使い』の取得SPは5です。
SP不足に悩んでいる私には少し重いですね。
姫ちゃんみたいに上手に操れるわけでもないですし、取得はちょっと見合わせますか。
これはただの取得条件の検証ですからね。必ずしも取得しなければいけないわけではないですし。
それよりも気になるスキルを見つけてしまったんですよね。
『人形使い』の取得検証前にはなかったはずなんですが、『人形使い』を取得できるようになったら出てきたんです。
「姫ちゃん、『人形製作』って取得一覧に出てきた?」
「……ない」
私のスキル取得一覧には『人形製作』があるのですが、姫ちゃんにはないようです。
恐らく『人形使い』を取得可能で人形を製作したことがあるのが条件なんでしょうか。
とにかくこれがあればレシピが使えます。
取得SPは『人形使い』と同じく5です。
『人形使い』では重いと思いましたが、『人形製作』ではそうは思いませんね!
もちろんノータイムで取得です。
「人形はバケツさんにお任せ」
「任された!」
「でも検証」
「オリジナルじゃないからレシピの譲渡は出来ないかなー」
「残念」
『Works』のメンバーにも木工を専門にしている人はいないですし、こっちの検証はいいでしょう。
検証魔の姫ちゃんは残念そうにしてましたが、そう言いつつも私達の周りを『木人形獣型・狐』が走り回っているのです。これは相当気に入っていますね。
他にもレシピを発見したら作って姫ちゃんにプレゼントしてあげたいですね。
本物みたいに活き活きと動き回る様子は見ているだけで楽しいです。さすが姫ちゃんですね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
しばしの間姫ちゃんの操る『木人形獣型・狐』と戯れて解散です。
イベントも終盤となり、今は姫ちゃんもとても忙しいんですよね。
そんな忙しい中を縫って駆けつけてくれたのですから感謝です。
ちなみに『木人形獣型・狐』はもちろん姫ちゃんにプレゼントしておきました。
私ではうまく操れないですからね。
休憩時に『クランメンバー』を和ませたりするのに大活躍必至でしょう。
ログアウトまではまだまだ時間もあります。
新たなレシピを入手するために『魔術言語・改』と『解読』を鍛えてもいいですね。
『エーク迷宮』産の素材は使いきっていますが、それでも『オプション品』を製作できないわけではないのでアイアン系装備を製作してもいいです。
取得したばかりの『人形製作』を鍛えてもいいです。
色々とやれることが多いので順番にやっていくとしましょう。
何せまだまだ時間はありますからね。ちょっとずつ区切ってもそれなりには出来るでしょう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アイアン系装備を少し製作したあとは、読書タイムを満喫しました。
人形の新しいレシピはありませんでしたが『魔術言語・改』と『解読』のLvはそこそこ上がってくれています。
その後に行った『人形製作』が一番の収穫でしょうか。
まだ1つしかレシピがないので同じものばかり製作していましたが、こんなものができていたりするのです。
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木人形獣型・狐
人形/★6/ATK+12/攻撃力強化・小/耐久30
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確かに『人形使い』というスキルがあるのです。
戦闘に人形が使えるという発想は当然のものでしょう。
実際に掲示板でも『人形使い』は戦闘スキルとして考えられていましたし。
だから驚きはないのですが、実際に見てしまうと他にも掲示板に書かれていたことが現実味を帯びてきます。
それは人形に武器防具を装備させた戦闘方法です。
現在は狐の人形のレシピしかありません。
ですが、人型の人形を製作するのは難しくはありません。
精巧に作るわけでもなければ簡単なパーツにわけてしまえばいいだけです。
『魔導糸手袋』で武器を操る場合、過剰なまでのマイナス修正によりほとんどダメージを与えることができません。
それもあって人形に武器を持たせても結果は一緒ではないかと言われていたりしますが、『木人形獣型・狐』についた『オプション』がそれを否定しているように思えます。
……考えていても仕方ないですね。
実際にやってみればわかることです。
とはいっても私ではうまく操れないですので姫ちゃんに『メール』しておきましょう。
検証するだけならすぐに出来るはずです。
今も姫ちゃんは魔樹を伐採しているわけですから、戦闘には事欠かないでしょう。
あ、ちなみに『人形製作』のスキルのおかげでレシピが使用可能になり、完成品のランクも上がって尚且つ時間も倍以上の速度で製作できるようになりました。
やはりレシピは便利ですよね。
もう生産には無くてはならない存在だと思います。




