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54 『その意匠は百合』



 気づけばあっという間に2時間も経っていました。

 最初のフィールドエリアは採取初心者の私のために数回の採取行動をして通過し、目的地でもある2つ先のフィールドエリアが本番です。


 ここは魔樹ではない普通の木々に覆われた森で、『採掘』が有効な採取ポイントが多いところです。

 森なので『錬金術』に必須の薬草系素材や、『織』に使える素材も入手が可能です。

 もちろん『採掘』が有効なので、鉱石系の素材も大いに狙えます。


 2つ先のフィールドエリアですので、出現するMOB(モンスター)も雑魚ばかりではありません。

 でも護衛するメンバーは戦闘系トッププレイヤー開拓者達です。ミカちゃんや姫ちゃんなのです。

 苦戦なんてどこ吹く風でばったばったとなぎ倒しています。すごいですね。


 特にミカちゃんがすごいです。

 戦闘は当然武器をもって行います。

 でも一般人が武器をもっても、凶暴なMOB(モンスター)をすぐに相手に出来るかと言われれば、答えは否でしょう。

 もちろん【ふろんてぃあーず】はゲームなのでその辺にもしっかりと配慮がされています。

 マウスをクリックしてオートで攻撃が出来るという昔のゲームとは違うのですが、オートで攻撃が出来るという部分には少し似通ったものがあります。


 戦闘系スキルを装備していると、対応する武器で攻撃することによりシステムのサポートが入るのです。

 それは構えであったり、力の入れ具合であったりと、多岐に及びます。

 これにより戦闘の心得など無い一般人でも凶暴なMOB(モンスター)と戦う事が出来る様になるのです。


 でも、システムのサポートはどこまでいってもサポートでしかありません。

 最終的に必要になってくるのは本人の力量です。


 ……例えば私が『剣』スキルを装備して『アイアンソード』でMOB(モンスター)に攻撃してもシステムのサポートで補っても相当な苦戦を強いられるでしょう。

 それが雑魚中の雑魚である『ララビット』でも。


 まぁ私の場合は運動音痴というレベルを超えているので仕方ありません。

 では元々運動が得意で、戦うことになれていたりする人はどうなるのでしょう。


 ――こうなります。


「あははは! 遅い! 弱い! 無謀!」

「ん。転べ。回れ。はい、万歳」

「ナイス姫!」

「後ろ」

「余裕! あはははは!」


 システムのサポート? なにそれ美味しいの?

 ミカちゃんは家の都合で中学まで古流剣術を習っていました。

 親戚ですのでよく知っています。

 ミカちゃんは毎日何人もの大人を相手に稽古をしていたものです。

 そしてそんな大人たちを差し置いて免許皆伝を授かっていたりするほどの天才と呼ばれる部類の子だったりするのです。


 システムのサポートはオンオフが出来、ミカちゃんは当然オフです。

 ミカちゃん曰く、勝手に体が動いて気持ち悪いのだそうです。


 姫ちゃんは使っている武器が『魔導糸手袋』です。

 システムのサポートが適応されるのは糸を束ねた攻撃の場合のみなんです。

 十指でそれぞれ糸を個別に操るのにはシステムのサポートは適応外。

 詰まるところ姫ちゃんもシステムのサポートは受けていないのです。


 そんな2人の力量は周りの護衛メンバーとは比較になりません。

 傍目から見ても素人の動きからシステムサポートによって突然鋭くなる他のメンバーの動きには、どうしてもタイムラグが生じているように見えます。

 システムサポートも万能ではありません。

 サポートされるのは対応するスキルに関連したところまで。

 全ての動きをサポートされるわけではないので、どうしても素人の動きと玄人の動きが混ざってしまうのです。

 それは端から見てもチグハグで違和感丸出しなのです。


 でもミカちゃんと姫ちゃんは違います。

 ミカちゃんの動きは攻防一体。

 流れるような動きで攻撃と防御が一致していて、無駄な動きが皆無といえるほどに洗練されているのがわかります。

 昔からよく見ていて知っていましたが、ミカちゃんの動きは舞っているかのような美しさがあり、まさに戦場の華といえます。


 対して姫ちゃんはほとんど動きません。

 ですが齎される戦果はすさまじいの一言。

 MOB(モンスター)が勝手に転んだり、自分の爪で自分を引っ掻いたり、防御しようとした腕が勝手に動いて無防備になったりと、最早それは見ている方にとっては笑えるくらいにおかしなものです。


 でもそんなMOB(モンスター)の突飛な行動は全て周囲の護衛メンバーにとっては攻撃のチャンスなのです。

 MOB(モンスター)にとっては悪夢でしょう。

 転んだところに振り下ろされる『アイアンハンマー』。

 自分の爪で自分を引っ掻いて一瞬硬直したところに突き出される『アイアンランス』の穂先。

 防御するための腕が勝手に万歳をして直撃する『アイアンフェリングアックス』。

 全てが全て致命的です。


 これらが全て姫ちゃんによって起こされているのです。

 その阻害効果は最早たったひとりで作り出される戦果とは到底思えないレベルです。


 ミカちゃんもすごいですが、姫ちゃんも凄まじいです。

 でもそんな彼女達には敵わずとも周りの護衛メンバーもすごいです。

 採取行動によって集まってくるMOB(モンスター)の数はかなり多いです。

 それがそこそこに広がっている採取者である私達に一切近寄ることが出来ていません。


 ミカちゃんや姫ちゃんがどれだけすごくても全てを賄えるわけでは当然ありません。

 空いた穴をうまくカバーする連携。

 数多く押し寄せるMOB(モンスター)を効率よく仕留めていく戦力。

 さすがは戦闘系トッププレイヤー開拓者といったところでしょう。

 ミカちゃんを小さな頃から見ていた私には素人の動きが多いのが目につきますが、それでも十分にすごいです。


 それによく見れば護衛メンバーの全員が同じ意匠の彫り込まれた武器を持っているではありませんか。

 ミカちゃんのPT(パーティ)メンバーは当然でしょうが、『キコリドットコル』のメンバーもそうなのです。


 もちろんその意匠は百合。

 私の製作した武器達です。


 そういえば私が採取行動を終えて周りを観察しているところで、気づいた護衛メンバーが武器を掲げて何やら決めポーズを取っていた事が何度かありました。

 もしかしてアレはそういうアピール?

 「あなたの製作した武器、愛用してますよ!」的な?


 ……気づくのが遅れてすみません。ご購入ありがとうございます。もっといっぱい買ってね。


 ちなみに姫ちゃんにプレゼントした『アメジストフェリングアックス』は攻撃力ではもう『アイアンフェリングアックス』よりも大分下になってしまっています。

 でも未だに愛用してくれているのは嬉しいですね。

 ただし残りの9本の糸の半分程度で『アイアンフェリングアックス』を操っています。

 それにMOB(モンスター)相手ではマイナス修正がかかっているので、攻撃力の面では大して変わらないのかもしれませんね。


「じゃあ移動しましょう~」


 採取行動が終わる頃には周囲のMOB(モンスター)も護衛メンバーによって殲滅されています。

 明らかに過剰戦力ですよね。

 でもそれだけに安心して採取が行えます。


 さぁ私もみんなに負けないようにいっぱい採取しますよー!


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「お疲れ様でした~! 皆さんのおかげで安全に採取することができました。

 またの機会があればよろしくお願いします~」

「こっちこそまたよろしくね!」

「ん。楽しかった」

「ではここで解散です~。本日は皆さんありがとうございました~!」


 『Works』初の合同採取ツアーは特に問題もなく、無事終了しました。

 大体3時間程度のツアーでしたが、初めてのことばかりだった私にはとても濃密で楽しい時間でした。

 生産作業も楽しいですが、みんなでワイワイと行動するのも楽しいものですね。

 今度は一般募集されているクエストの方にも参加してみたい気もしますが、今回の護衛メンバーが特別にすごいことは肝に銘じておかねばならないでしょう。

 下手な合同採取ツアーでは護衛メンバーがしょぼくて採取者にMOB(モンスター)が到達して死に戻りしてしまう事例もあったりするそうですし。


 ミカちゃんと姫ちゃん達はこれから【開拓者組合(ギルド)】に行って報酬を受け取ってからまた狩りに行くそうです。

 姫ちゃん達の場合は狩りという名の伐採ですけど。

 護衛中に得たMOB(モンスター)のドロップ品は護衛メンバー達での分配になります。

 私達が採取で得た物は各自で持ち帰りとなります。

 3時間で得られた量としてはそこそこでしょうか。

 まぁ護衛費以外は無料みたいなものですけど、お店で買取していた方が楽なのは確かです。

 でもそれでは得られない色んな物があると思います。

 今後も是非参加したいですね。


 そういうわけでミカちゃんと姫ちゃんとは残念ですが、ここでお別れです。

 まぁすぐにまた女子会で会うことになりますけど。


 『Works』メンバーも向田さんとミーとムーはお店の方角が違うのでここで別れます。

 残りのメンバーはみんなお店も近場ですからね。

 一緒に帰るついでに露店などを見て回ることになっています。


「今日は楽しかったですねー」

「うんうん。またやりたいですね~。いえ、絶対やりましょう~!」

「はい。とても楽しかったです。わたし……他のツアーではあまり喋れないので、今日は本当に楽しかったです……」

「るーるーさん今日はいっぱい喋ってましたもんね~。

 ちょっとびっくりしましたよ~」

「ぁ、そ、そのごめんなさい……」

「何謝ってるんですか~。いいことじゃないですか!

 もっといっぱい喋って、いっぱい仲良くなりましょう~!」

「は、はい!」


 女子会でも聞き役に徹することが多いるーるーさんでしたが、今日は普段よりもずっと積極的でした。

 もちろん知らない護衛メンバーに話しかけるようなことはなかったのですが、私や甘ロリさん、ミカちゃんに姫ちゃんとはたくさんお喋りしていました。

 特に姫ちゃんとは入手した栗のことで大いに盛り上がっていたものです。


 ……森に入っての後半戦はかなりの間るーるーさんと姫ちゃんのトークが白熱していたように思えます。

 それでもMOB(モンスター)の阻害をし続けた姫ちゃんはすごいです。

 『魔導系手袋』を十全に扱える姫ちゃんだから出来ることでしょうねー。


 何せ、るーるーさんの隣をずっと離れないでお喋りし続けてましたから。

 まぁ姫ちゃんは相変わらずの単語系トークでしたけど。

 そのおかげでるーるーさんが喋る機会が多かったのかな? いいコンビに見えます。


 露店をみんなで見て回り、私のお店に到着すればそこで解散です。

 何せ隣が甘ロリさん。後ろにはるーるーさんのお店ですからね。


「ではここで~」

「またー」

「またです」


 今日は本当に楽しかったです。

 ログアウト時間までまだ少しありますので、入手した素材を整理したり、読書をしたりしてゆっくり過ごしますかねー。


 あー楽しかったー!


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