47 『あとは骨ね。骨』
工房が閉まる時間になれば修行も終わりです。
でも今日だけで2つのレシピ化に成功したので戦果は上々といったところでしょうか。
まぁでも比較的簡単なものであったので順当とも言えます。親方さんのアドバイスも的確ですし、設備も中級のものを使っているのですから。
その中級の設備ですが、やはりいいですね。
初級の設備に戻ると違和感が非常に高くなるくらいには馴染んでしまったのもあって、【レンタル生産施設】の設備では不満が大きくなってしまいました。
これは早い所お金を稼いで設備を整えないといけないですね。
それには何を置いてもまずはアイアン系装備の製作です。
でも残念ながらログアウト時間です。
中級設備に馴染んでしまった感覚をクールダウンするのにも時間が欲しかったのでちょうどいいですね。
一晩寝れば大分冷めるでしょう。
ではおやすみなさいー。
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さぁ朝です。
諸々を済ませてログインすると、ミカちゃんから『メール』が届いていました。
そういえば今日はリッチ討伐の決行日ではありませんか。
結局『魔青銅の指輪:百合』は注文分プラスアルファ程度しか製作しませんでした。
まぁでもアイアン系装備はたくさん製作したので、討伐隊のメンバーにもそこそこ行き渡ったでしょう、たぶん。
【首都サブリナ】からリッチがいる街道まではそこそこの距離があるようですが、【開拓者組合】の依頼ですので馬車を出してもらえたようです。
これで到着までの時間はかなり短縮されるはずです。
NPCの強い開拓者も何人か参加していますし、ミカちゃん達の装備の新調も済んでいます。
今回はきっちり倒してくると文面からでも伝わってくるやる気を感じましたので、きっと大丈夫でしょう。
頑張ってね、ミカちゃん。
さて私はと言えば、『ゲーム内時間』は昼タイムの6時を少し過ぎたところ。
工房が開くまでは少し間がありますので、読書をして過ごしましょうか。
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お店で読書をして時間を潰し、店員さん達の出勤を見届けてから図書館に寄って工房へ。
本日も親方さんの丁寧な指導の下、レシピ化に励みます。
もうすでに本日納品分のアイアン装備はちゃちゃっと製作済みなので、あとはひたすら修行あるのみです。
ちなみに地味に『鍛冶・改』のLvも上がっていて、中級設備と道具のおかげか★4がちらほら出来始めていたりします。
しかし納品するにはこれらは規格外です。だめなんです。
なので初級の設備で納品分は作っておきました。違和感すごいので大変でしたけど。
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『【ザブリナ王国】/異変:死者の道が解決されました。
サブリナ北街道が解放されました』
「おー?」
「おぉ! やったか! こりゃめでたいな!」
お昼まで親方さんのアドバイスを貰いながら修行をしていると、突然の『女神インフォ』です。
結構時間はかかったような気がしますが、どうやらミカちゃん達のリッチ討伐は成功したようですね。
工房内もお弟子さん達が手を止めて喜び合っていて、すごいことになっています。
普段はお弟子さん達の手が止まっていると厳しい親方さんですが、今回ばかりは一緒になって喜んでいるようです。
まぁNPCにとって異変は世界の存亡の危機なわけですからね。そりゃそうです。
『ユリー! 倒したぞー! いえー!』
『おめでとうー。お疲れ様ー。今大丈夫なの?』
工房内が普段とは違う騒がしさで満たされているところに、ミカちゃんから早速『コール』がかかってきました。
今はリッチから手に入れたアイテムなんかの分配などの後処理で忙しいのかと思ったのでこちらから連絡は避けたのですが、当の本人からかかってきては仕方ありません。
『死に戻りが大量に出ちゃって、分配なんかは戻ってからだから平気かな。
それよりさー最初のレイドボスとは思えないほど強かったよー。
序盤中盤は前回の経験もあって順調だったんだけど――』
どうやら後処理なんかは戻ってきてからのようです。
忙しくないならちょうどいいので話を聞きたいですね。
工房内も作業をする雰囲気ではないですから。
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『――あの大暴れモードはやばかったわー。
アリミレートさんが止め差してくれなかったらきっと全滅してたよ』
『止めはアリミレートさんだったんだね。さすがだねー』
2回目とはいえ、リッチ討伐はかなり大変だったみたいです。
なんとアイアン系装備で固めた前衛が何人も死に戻りするはめになったそうなんです。
ボスなどの特殊なMOBはHPが一定以上を割り込むと、特殊なモードになるらしく、リッチはそれまでに使用しなかったスキルなどで大暴れを始めたそうです。
その中に魔法防御を下げるスキルなどもあったそうで、連続で使用された全体攻撃魔法で何人ものプレイヤー開拓者が死亡。
『魔青銅の指輪:百合』や『オプション品』で魔法防御の底上げを図っていた開拓者は、同時に使用した盾系の『魔術陣』でダメージを減らしてなんとか生き残ったらしいですが、最早全滅寸前だったそうです。
でもその後すぐの回復などを後回しにした一斉反撃でぎりぎりまで削ったところで、また魔法防御を下げるスキルからの全体魔法攻撃の素振りを見せ、これは終わったと思ったところでアリミレートさんが相打ち覚悟で止めを差した、というのが顛末です。
さすがアリミレートさんです。格好いいですね!
『それでドロップなんだけどさー。結構強力な装備品が出ちゃったりしてさーこれは揉めそうだよぅ』
『でも今回は【開拓者組合】主催のクエストなんだし、その辺はあっちが買い取るって形になるんじゃないの?』
『かなぁ……。でも欲しがる人は大勢いるよあれ。
『闇の聖骸布』と『死者の杖』は特に。2つセットでシリーズボーナスが付く上に現状の杖と布装備の中ではダントツだからね』
『それは大変だー』
『あとは骨ね。骨』
『骨? リッチの?』
『そそ。これはリッチ自体が骨ばっかりだったからか、結構いっぱいドロップしたからいいんだけど、何に使えばいいんだろうこれ。
現状で素材加工して組み合わせた装備って正直しょぼい性能しかないんだけど……』
リッチ討伐の報酬は【開拓者組合】主催のクエストでもあるので討伐報酬と、リッチからドロップしたものになります。
でも人数が人数ですので、当然全員が同じものを手に入れられるわけではありません。
ですので、一点物の装備などは【開拓者組合】が買い取ってお金で分配。
数が多い物は欲しい人に分配してその分を分配するお金から引くといった感じでしょうか。
今回貰えそうなのは『リッチの骨』という素材らしいです。
でも残念ながら現状の【ふろんてぃあーず】では素材を加工し、組み合わせるタイプの装備はあまり性能がいいとは言えません。
だからこそMOB由来の素材装備よりも、金属製の装備などに人気が集中するのです。
「骨かー……」
街道から街に戻ってくるそうで、ミカちゃんとの『コール』は一端お開きになりました。
戻ってきたらみんなを呼んで祝勝会です。
でも期待していたドロップ品は『リッチの骨』だけになりそうですので、ちょっと残念ですね。
「うん? ボスから骨が出たのか!? そりゃあいいな! 『追加』品なら骨は使い勝手がいい!
よかったな! 当たりだぞ!」
「当たり、ですか!」
「そうとも! 溶かしてよし、混ぜてよし、魔法液と相性がいいからな!
他の素材に比べれば骨は『追加』品としてみればかなり上出来だぞ!」
「親方さん! そこ詳しく!」
「お? いいぞ! まずそうだな――」
『鍛冶』のLv50で取得した『アーツ』――『鍛冶アーツ/Lv50/追加』は適切な素材を追加投入することにより様々な変化を与えることが出来るものです。
でも今まで基本的に『追加』する素材はそのままでした。
当初は素材加工での変動も十分に予想されていたのですが、ただ粉末状にしたり、形状を変えるだけでは意味がなかったのです。
最適な加工方法がわからなかったので、仕方ないといえば仕方なかったのですけど。
その上、『追加』可能な素材は結構な量があり、当然ながら物によって成功確率が大きく変動します。
一切成功しないものもあるので、適切な素材を探す所からして結構な難問だったりもするのです。
スキルLvなどにも影響を受けますしね。
結果として掲示板で公開されているデータは加工を施す前の段階での『追加』結果です。
適切な素材探しですら確率変動により膨大な試行回数が必要となるのに、それに加えて加工方法でも確率が変動するとなると最早実験だけでも一苦労というものです。
……まぁ私が実験をするわけではないので、掲示板に情報をアップして逃げちゃいますかね。
『リッチの骨』に関しては親方さんから色々有用な意見も頂けましたので、ミカちゃんの許可が貰えたら試してみたいところです。
ただ成功確率は未知数なので貴重な骨を使用するのは躊躇われますけどね。
でもミカちゃんも使用用途がわかっていなかったですし、恐らく『リッチの骨』を使用したレシピでもなければ実用性は薄いでしょう。
死蔵しておくのも手ですが、ミカちゃんの性格上それは微妙です。
何はともあれ異変の1つが解決して、封鎖されていた街道が解放されたのは喜ばしいことです。
これで魔樹伐採によるフィールドエリア解放以外で前に進めるルートが出来たわけですからね。
まぁ、お店もありますし、私にはあんまり関係無いことなんですけどねー。




