44 『まずは実際に作ってもらおうか』
図書館に寄って読み終わった本を返して新しいのを借りてきました。
まだまだ読んでない本はたくさんありますし、当分は楽しめそうですね。
さてそれでは件のNPCクエストに挑戦してみますか。
何気に私は【開拓者組合】の普通のクエストもやったことがないので初クエストじゃないですかね。
まぁでも気負いとかはありません。
今回は基本的に修行メインのはずですからね。先生役の人が怖くなければ別に構いませんよ!
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図書館から歩くことしばし。
とはいっても割りと近い場所にあるのでほとんど時間はかかってませんね。
ケデリック商会は私が不動産屋さんに見せてもらった、南門大通りにあった大きな空き店舗の目の前にありました。
……もしかしてケデリック商会と潰し合いをして負けたんでしょうか。いやいやまさか。
ケデリック商会は重装系装備を主に扱っている大店です。
店舗の広さも見学した空き店舗に勝るとも劣らない面積を誇っています。
たくさんの装備がずらっと並ぶのは壮観ですね。
私のお店のように棚2つで限界なんてことはなく、広々としたスペースを活かしたゆとりある展示方法です。
羨ましいとは思いますが、こんなにスペースがあっても商品が足りません。
1人で製作するにはどうしても限界がありますからね。
見学しつつもレジの方に進んでいるのですが、色んな装備がある割りにはそのほとんどがカッパーとブロンズをメインにした装備ばかりです。
しかもその全てが★3であり、それ以外のランクは一切見当たりません。
初級レシピで作れるものにアレンジを加えたものもあれば、レシピそのままのものもあります。
アレンジを加えているものは多少お高めですね。
性能が一緒でもデザインで差が出ているんでしょう。もちろん性能面で優っているものは言わずもがな。
修行したらこういうアレンジ品のレシピも貰えるのでしょうか。
レジの近くに展示してある装備はスティール系装備ですね。
今までのマネキンに着せてあったり、棚に展示してある方法とは違い、ガラスケースの中に入っています。
お値段もさすがスティール系装備です。
アイアンでもブロンズの5倍程度はします。
しかしスティール系装備はそのアイアンのさらに10倍はしますね。
性能もそれに見合う十分なものでしょう。
……でも売っているのは重装備の中でも特に防御面を重視した『スティールプレートメイル』で、かなり重そうです。
アリミレートさんが欲しがっていたのはもっと軽量化された『スティールブレストプレート』ですから、重量面でみたら倍以上重いようです。
他にスティール系装備はまったくないですね。アイアンもですが。
これは予想以上にNPCへの修正がきつめだったみたいですね。
すでに本公開から『ゲーム内時間』では一ヶ月は過ぎているわけです。
βテストの際には数日で対応してしまい、お店には装備が普通に陳列してあったわけですし。
まぁプレイヤー開拓者の装備状況がアイアンに進み始めているのも関係しているでしょうけど、1つもないのはなかなかどうして厳しいものです。
だからこそ私に指名依頼が来たのでしょうけどね。
「すみません。【開拓者組合】から指名依頼を受けてきたんですけど」
「いらっしゃいませ。ただいま確認致します。
バケツさん様ですね。【開拓者組合】から連絡は受けております。
ただいま担当者をお呼びしますので少々お待ちくださいませ」
レジの他にも店員さんは至る所にいましたが、身なりなどからレジの近くで店内に目を配っていたナイスミドルな方に聞いてみたところ、打てば響くといった感じですぐさま対応してくれました。
二度手間になってもいやでしたからこの人を選んでみましたが、大正解だった模様です。
すぐに担当の人がやってきて応接間に案内してくれました。
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案内された応接間はさすがは大店といった感じの素晴らしい内装でした。
嫌味になるような豪華さはなく、配置された調度品などにより見事な調和を演出しています。
きっとかなりランクの高いものばかりなのでしょうね。
配置済みの家具は許可なしには性能を読み取れないのが残念です。
『鑑定』系のスキルがあれば別みたいですけど、まだ取得方法がわかっていませんので無い物ねだりです。
案内されるとほぼ同時に用意された紅茶に少し手をつけたところで、とても質の良さそうな服を纏った年配の男性がやってきました。
体は引き締まっているとはとてもいえませんが、肥満体型というほどでもないです。
何より眼光がかなり鋭くてちょっと緊張します。
座っていたフカフカのソファーから立ち上がり挨拶をすると、やはりこの人がケデリック商会会長――ケデリックさんでした。
「この度は依頼を受けてくれて感謝する。
専属の話は残念だが、有望な者に修行のチャンスを与えるのは女神様のお望みでもある。
だが無料というわけにはいかん。
素材はこちらで用意するので、こちらの指定するアイアン系装備を納品してほしい。
その代わり、うちの専属鍛冶師の中でも最も優秀な者をつけよう。
その者に修行をつけてもらうとよい。
うちの設備はレンタルよりも遥かに品質が良いぞ。それだけでも十分な価値をもつほどだ。
まだ十全に扱うのは難しいだろうが、どんなものか知っておくだけでも十分な経験となるだろう。
ではあとは鍛冶場で打ち合わせてくれ」
「あ、はい。ありがとうございます」
ケデリックさんは話すだけ話すと、すぐに席を立ってしまいました。
大店の会長だけあり、やはり忙しいのでしょう。
でもそんな忙しい中を縫って、直接相手をしてもらっただけでも扱いとしてはかなりいい方なのでしょうね。
これだけ大きな商会なのですから、会長自ら相手をする必要は普通はないでしょう。
ケデリックさんと入れ替わりに入ってきたのは最初に声を掛けたあのナイスミドルな方でした。
どうやら鍛冶場まで案内してくれるようです。
おじさん趣味はなかったはずですが、やはり格好いいものは格好いいですね。
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「ではここからはこちらのメルリゲントが担当となります!
メルリゲント、件の依頼のバケツさん様です! よろしくお願いします!」
「おう、任せとけ!」
「それはで私はこれで失礼致します!」
「はいーありがとうございましたー!」
ナイスミドルな方に案内された先はたくさんの『魔導炉』が並ぶ広大な部屋でした。
その部屋に入るまではしなかった金属を叩く音が今はかなり煩いです。
そのため基本的に会話は大声で行われています。
設備を置く部屋は基本的にシステム的に防音となります。
もちろん自分で設備を設置する場合にも同様です。防音処理をするために余計な設備やお金が必要にならないのは楽でいいですね。システム万歳です。
設置されているのも『魔導炉』なので、現実の鍛冶場みたいに熱くないです。
もちろん私は現実の鍛冶場なんて入ったこともありませんけど。
「嬢ちゃん、わしはメルリゲントだ。ここの工房長をしとる! 親方と呼んでくれ!
話はケデリックの旦那から聞いている!
有望な開拓者らしいな! まずは設備の案内からといくか!」
「はい、お願いしますー!」
親方さんと話している間も他の鍛冶師さん達は作業の手を休めることなく製作に励んでいます。
おかげで煩い煩い。
まぁでも私も作業中は似たようなものですので仕方ありません。
この辺はストレス排除の対象にはならなかったのが残念です。
設置されている設備の説明を親方が順番にしてくれます。
全部が全部優秀な設備というわけではないようです。
ここにいる鍛冶師さん達はどうやらみんながみんな『鍛冶』のLvが高いわけではなく、修行中の人も多いみたいです。
『鍛冶』のLvが低い人に中級以上の設備を使わせても当然扱いきれません。
ですので身の丈にあった設備が必要ということなのでしょう。
それでも製作されるカッパー系装備やブロンズ系装備は十分に商品になります。
もちろん『鍛冶』のLvが高い人達もいるみたいですが、よく見ているとどうも皆さん作業速度がかなり遅いようです。
レシピも使っているようにみえるのですが、それでも私が製作するスピードの倍以上の時間がかかっています。
「気づいたようだな!
おまえさん達は女神様の祝福が強い開拓者だが、わしらのような者は祝福がそれほど強くはない!
同じレシピ、同じ設備、同じスキルLvでも祝福の強さに応じて優劣が付く!
本来はわしらのような祝福の強さで十分なはずなんだがな!
それだけ今回の異変は危険というわけだ!」
「なるほどー!」
女神様からの祝福の強弱によって様々な影響があるということを教えてもらえました。
どうやら本公開でのNPC生産者への修正というのはこういった形で行われているようです。
公平性の問題でプレイヤー開拓者への祝福は同じでしょうが、NPCは一定ではないようです。
例えば親方さんはプレイヤー開拓者ほどではなくてもそこそこ強い祝福のようですが、今修行しているお弟子さん達は親方さんほどは祝福が強くないようです。
そのために製作時間も長くなり、スキルLvの上がりも悪いようです。
結果としてプレイヤーの生産者が駆逐されることはなくなっていますので、成功といえるかもしれませんね。
スキルLvの上がりが悪いとはいっても上がらないわけではないようなので、時間をかければ上がっていくでしょう。
もし今回の修正でもプレイヤーの生産者が増えなくても、ある程度は時間が解決するようになっていたのかもしれません。
「説明はこんなもんだな!
さぁて、まずは実際に作ってもらおうか!」
「わかりましたー!」
親方さんの説明が一段落したところで今度は私の番のようです。
もちろん否やはありませんけどね!




