43 『バケツさん様宛に指名依頼が入っています』
本日の最終ログアウト時間までひたすら『魔青銅の指輪:百合』を製作してました。
経験値がいいのはもちろん、『細工・改』のおかげでより細かいところに手を出せるようになったのが嬉しいです。
これなら指輪のような小さな面積に『魔術紋様』を彫り込めるようになるのもそう遠くないような気がします。
あ、やっぱりまだまだ無理です。
今できるのはせいぜい慣れている百合の意匠を彫り込む程度ですね。
さて時間ですのでログアウトです。
また明日ー。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
朝の諸々を済ませてログインです。
本公開12日目。『ゲーム内時間』では33日目に突入したばかりです。
朝のログインはいつもゲーム内では深夜なんですよね。
昨晩は『魔青銅の指輪:百合』の製作に明け暮れていて食事をするのを忘れていました。
『空腹度』と『渇水度』が危険域ですね。
視界上で真っ赤に点滅している2つのアイコンがあります。
『空腹度』と『渇水度』は0%になると、アイコンが真っ黒になり色々とペナルティがあります。
でも1%でも残っていればペナルティはありませんので、真っ赤に点滅したアイコンが真っ黒になるまでは猶予期間があるわけです。
でもゲーム内でお腹が空くという感覚がないので、各それぞれの%を確認するか設定されている%以下になった時にお知らせするアイコンで確認するしかないんです。
もうちょっと早い段階でアイコンが出るように設定しておきますか。
デフォルトは10%以下で出るみたいです。
露店で購入してあるサンドイッチをいつもより多めに食べて、ミルクティーで喉を潤します。
どちらも美味しいのですが、まぁ普通です。
★3なので特に追加効果なんかもありませんので、単純に『空腹度』と『渇水度』を満たすだけですね。
でも現実では食事にも制限がありますから、仮想空間といえど好きなモノが食べられるのは嬉しいです。
まぁ食事よりも生産作業の方に熱中しちゃうのが私なんですけどね。
ある程度『空腹度』と『渇水度』が回復したので、注文分の『魔青銅の指輪:百合』を仕上げてしまいましょう。
昨晩製作した分と合わせればもう少しです。
でも時間はかかりますけど、経験値もいいですし、有用な『オプション』を目指すのも悪くありません。
『オプション』なしのはお店に並べてもいいですし。
ミカちゃん達がノータイムで欲しがるものですから、お店に並べてもすぐに売り切れるでしょう。
なのでもっと作っても問題ないはずです。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
お店の開店時間まで延々と作業を続けました。
でもさすがに指輪ばかりでは飽きてくるので、オリジナルレシピ化出来た時点で違うのも製作してみました。
====
魔青銅の耳飾り:百合
アクセサリー/★5/MDEF+7 ATK+5/攻撃力強化・微/耐久10
====
====
魔青銅の腕輪:百合
アクセサリー/★4/MDEF+7 DEF+2/防御力強化・微/耐久10
====
====
魔青銅の首飾り:百合
アクセサリー/★5/MDEF+7 CRL+7/クリティカル強化・微/耐久10
====
もちろん『オプション品』でないものはもっとあります。
『オプション』がつくのは完全に運ですので仕方ないです。
しかしやはりなかなかお目当ての『オプション』はつかないものです。
また物欲センサー先生が頑張っていらっしゃるのでしょうか。遠慮して欲しいです。
ちなみに指輪以外はまだレシピ化してないのもあって簡素なものです。
装飾なども百合の意匠だけですので、とてもシンプルですね。まぁこういうのも悪く無いと思います。
メインは性能ですし。
しかし性能面は基本的に『オプション』でしか個性が出ませんね。
もっと色々やれば違った性能が得られるのかもしれませんが、それはレシピ化してからでも遅くありません。
アクセサリーばっかり製作していたのでちょっと肩がこりました。
いえ、実際にはゲーム内ですので、ストレス排除の一環でそういった現象は当然起こりませんが、ずっと精密作業ばかりでしたからね。なんとなくです。
気分転換はやはり『魔術陣』でしょう。
さぁ私の癒やしちゃん、出ておいでー!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
癒やしタイムが終えればお店に向かう時間です。
少し遅くなってしまいましたが問題ありません。問題ないったらないんです。
呼び出したマナちゃんを今日の変装である全身装具の中に隠して【開拓者組合】に向かいます。
現実ならガッチャガッチャ、と音が鳴るものですが、【ふろんてぃあーず】ではその辺もストレス排除の一環なのかありません。
まぁ若干重いですけど。
若干で済んでいるのもゲームだからでしょうね。
その若干感じる重さだって『重装』などのスキルのLvを上げれば感じなくなるらしいですし。
評価査定では新しい装備だからか、狸耳の受付嬢さんにニッコリと微笑まれてしまいました。
これは私がバケツさんであることがばれていますね。
前にもアイアン系装備を持ち込んだ時に微笑まれましたし。
まぁ別に構いません。他のプレイヤー開拓者にバレなければいいんです。
でも今日は微笑まれるだけではなかったみたいです。
「すみません、バケツさん様宛に指名依頼が入っています」
「指名?」
「はい、ご説明させていただきたいのですが、お時間よろしいでしょうか?」
名前のところだけは小声で配慮してくれた狸耳の受付嬢さん。
でもちょっと時間も押しているので今からは無理ですね。
「すみません。今からだとちょっと無理です」
「そうですか。わかりました。ではお手すきの際にでもおいでくださいませ」
「わかりましたー」
指名依頼とはいえ、別段強制されるものではないですので、こちらの意志を尊重してくれるようです。
でもなるべく早く確認した方がいいでしょうね。
指名依頼は【開拓者組合ランク】がある程度高くないと出来ないはずです。
なのでプレイヤー開拓者ではまだ出来ないはずなので、相手はNPCでしょう。
指名依頼を発行するだけでも結構な額が取られるし、受ける受けないは指名された開拓者の自由です。
例え受けなくても発行手数料は返ってきませんので、事前に根回した上で行うのが普通です。
でも私は寝耳に水でしたので、多少の発行手数料など物ともしない相手の可能性があります。
そういった相手は無視するのも怖いので、早めの確認がいるというわけです。
お店でさくっと補充を済ませて買取品を『個人倉庫』に移したらとんぼ返りです。
さっそく狸耳の受付嬢さんに話すと別室での対応となるようです。
指名依頼ですのでこれくらいは当然ですね。
「こちらが依頼となります。ご確認下さいませ」
「はいー」
依頼主はやはりNPCですね。
しかも商会の名前付きです。
つまりこれは個人ではなく、商会単位での依頼です。ますます怖いですよ。
「ケデリック商会……? あれ? どこかで」
「南門大通りに店を構える大店ですね。主に重装系装備全般を取り扱っている商会です」
「うわー……」
どこかで見たことある商会名だと思ったら、南門大通りに大きなお店を構えている大商会でした。
嫌な予感がしますが、とりあえず依頼を読み進めてみることにしましょう。
受ける受けないは私の自由ですし。
内容を要約すると、ヘッドハンティングっぽい感じですね。
でもすぐに、というわけではなく、まずは専属の鍛冶師の下で修行からになるようです。
修行と言っても私が女神に選ばれたプレイヤー開拓者であることはあちらも承知しているようで、自由に学んで欲しいということでした。
ちなみに「っぽい」とつけたのは理由があります。
完全なヘッドハンティングではなく、商会に入る気がなくても専属鍛冶師のところで修行していいそうです。
その場合は別クエストとして発行されるらしいです。
所謂NPCクエストというものですね。
このNPCクエストは【開拓者組合】を通さない個人間の依頼で、当然【開拓者組合】では評価されません。
でも【開拓者組合】では受けることができない類の依頼が多く、こういったNPCクエストを攻略していくと他では入手できないレシピが貰えたり、スキルが取得できるようになったりと様々な恩恵があります。
βテストでもNPCクエストは様々な物があり、たくさんのプレイヤー開拓者が攻略に励んでいたものです。
βテストの情報では基本的に生産者向けのNPCクエストは難易度が高かったので、私ももう少しスキルLvを上げてから挑戦するつもりでした。
まぁβテストではNPC生産者が特に優秀でしたからね。
NPCの開拓者が攻略してしまって、プレイヤー開拓者にまでクエストが回ってこなかったというのもあります。
NPCクエストは当然NPCから発行されるものなので、同じクエストを何度も出来るものではありません。
NPCも【ふろんてぃあーず】で生きているわけですから、必要に応じて発行されるものなのです。
なので基本的にNPCクエストは早い者勝ち。
今回のようなクエストはある程度実績を残した開拓者に直接発行される類のものです。
βテストでも1度だけあったみたいですし。
つまりは私もNPCに認められるだけの実績を残したということでしょうか。
確かにお店は大繁盛といえるレベルで繁盛してますしね。
大商会とはいえ、専属になる気はないですが、専属鍛冶師の下で学べるのは大きいです。
特にレシピとか貰えたらとてもいいですね。
マジックインゴット系のレシピなんかだったら特に欲しいです。
でも相場情報がさっぱりありませんし、この辺は期待薄でしょうか。
オリジナルでも似たようなものなら『商人アーツ/Lv80/相場自動収集・真』で収集できるはずです。
それもないとなると、大手でも難しいでしょう。
まぁ他の持ってないレシピでも嬉しいですけどね!
「えっと、先方に直接行けばいいんですよね?」
「はい、お断りになる場合でしたらこちらで対応致しますが、お受けになる場合はそうなります」
「わかりました。条件2の方で受けますー」
「畏まりました。では依頼主にはそのようにお伝え致します」
「お願いしますー」
深々と狸耳のついた頭を下げる受付嬢さんにこちらも軽くお辞儀をして応えると別室を後にします。
条件2は当然別口のクエストで受ける方です。専属にはなる気はありませんので。
それに甘ロリさんの『クラン』に入るわけですから、専属はまずいでしょう。
……いや関係ないのかな? まぁどっちでもいいですけど、専属にはなりません。
【開拓者組合】からはすぐに連絡が行くでしょうけど、図書館に寄ってから向かってみますかね。
初のNPCクエストですからちょっと楽しみです。
あ、大商会の専属鍛冶師なわけですから、当然設備もいいもののはずです。
【レンタル生産施設】の初級の設備しか触ったことがない私としては、先行して体験できるのはありがたいですね。
いずれ購入するだろう自分の工房に設置する設備の参考にも出来ます。
これは俄然楽しみになってきましたよー!




