04 『そうそうこれくらいがベストなんですよね』
座布団型の『ヌードクッション』を1つ縫い終わり、今度はクッションカバーを縫い始める。
とはいってもカバー自体は本当に簡単に出来るのであっさりと終わってしまいました。
刺繍の1つでもしたいけれど、『裁縫』の講習報酬にあった『初級裁縫セット』にはそういった物は入っていなかったので残念ながら今回はパスすることにします。
後でちゃんとした刺繍道具を用意するまで楽しみは取っておくのですよ。
それに『魔術陣』の講習報酬で貰った『魔法紙』と『魔法ペン』があるので楽しい時間はまだまだ続くのです。
レシピを見れば意味不明の文字や記号が緻密に配置された『魔術紋様』が私を待っている。
見ているだけでうっとりしてしまいそうな細かさ。
まるで私への挑戦のような細かさに胸がキュンキュンしちゃうのですよ。ぐふふ……。
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お昼休憩を含むログアウトを挟んで完成した『魔術陣』は4種類のレシピ各2枚分。
1枚書き上がる毎にどんどん書き上がるスピードが上がったので、それほど時間はかかっていなかったようだけど私にとっては至福の時間だったのであっという間でした。
気づけばもう残りの『魔法紙』はたったの2枚。
『魔法紙』は意外といいお値段がするのが非常に残念です。
『魔法紙』以外にも普通の紙にもかけないことはないけど、『魔術陣』としては完成しないらしい。
素材の耐久値の問題という結論がβテストの情報で挙がっていたりするので、いずれは色々やってみたい。
描くのが楽しいのであれば完成云々は関係ないのではないかと思うかもしれないけど、それはソレ。
私だって【ふろんてぃあーず】を楽しみたいのですよ。
完成した『魔術陣』を『鞄』に片付ける頃には『商人』のLvは目標の15に。
スキルLvを上げれば該当する行動に補正がかかったり『アーツ』などが新しく使えるようになったりする他、Lv10毎にSPが1つ貰える。
一定のLv以上になったスキルは違うスキルへと変化する進化の他にも、新しいスキルを取得できるようになる派生があり、そのどちらにもSPを支払わなければいけない。
上位のスキルほど支払わなければならないSPは多くなる。当然ながらSPはいくらあっても足りないので計画的にいかないとあっという間にSP不足に陥って悲しい事になったりする。
まぁまだまだ序盤も序盤の私にはあまり関係ないことなのでさくっと『アーツ』ゲットですよ!
これで露店を開く準備は完了です。
私が次にやってきたのは、【開拓者組合】にほど近い通り。
もちろん露店を出すためにやってきたのですが、露店はどこにでも出せるわけではなくきちんとエリア分けされたところにしか出せないのですよ。
どこにでも出せたら絶対通行妨害をする人が出てくるから当然の配慮というやつです。
それでも【首都サブリナ】は通りの端で邪魔にならないところならほとんど露店可能エリアです。
でも人が集まるところというのはだいたい決まっているわけです。
特に今はプレイヤーが一気に増えて【開拓者組合】がものすごく忙しくなっている時期なので、その周辺は露店スポットとしては一級品というわけです。
まぁ当然ながらNPCや他の生産者も同じことを考えるので、場所取り合戦は熾烈を極める……というほどではないけどいい場所はもう抑えられているわけです。
【開拓者組合】は東西南北にある4大門の近くに1軒ずつあるので、人も分散すると思われがちですが、それは浅慮と言わざるをえないのです。
【首都サブリナ】から出てすぐの場所は弱いMOBで統一されていても、少し進めばフィールドエリアの種類も出現するMOBも変化が見られるようになるので、段階を踏むなら効率的なのは北門だったりします。
従って北門の【開拓者組合】が今一番人の集まる場所、つまりは最高の露店スポットとなるわけです。
なので私はそういうところは避けて、2番目に効率的だと思われる反対側の南門の【開拓者組合】で露店を開くつもりなのです。
予測通りに南門の【開拓者組合】近くにはそこそこの数の露店が出ている程度。
でも北門の混雑ぶりに嫌気が差したのか、はたまたそれを見越して最初からこっちを利用しているのか、それなりの人数で混雑ニ歩手前といったくらいには人が行き交ってます。
そうそうこれくらいがベストなんですよね。
露店の数もいい感じだし、それを利用するだろう開拓者もちょうどいいくらいです。
行き交っている人達が全部が全部開拓者というわけはないのでこれくらいがいいわけですよ。
【開拓者組合】の近辺の露店エリアはさすがに埋まっているので、少し離れてポツポツと露店が出来ている場所を私も借りることにしました。
販売するのは『カッパーバケツヘルム』とかですし。
ちなみに私はその『カッパーバケツヘルム』を被って初期装備の『開拓者装備一式』の帽子以外を装備している。
『開拓者装備一式』はシリーズボーナスとして生命力に補正が入る初心者装備。
もちろん一式全てを装備しなければボーナスは発生しないので、私にはボーナスなし。
でも別に街中にいる場合は生命力に補正が入らなくても問題ないので関係ない。
見た目的にも丈夫でポケットの多い上下と厚手の手袋に編上げブーツ。
そして『バケツヘルム』。
現実なら明らかに目立つ出で立ちでも、プレイヤーと思しき開拓者はまだまだ装備が充実していないので部分的に金属装備をしている人も多いので似たようなものです。
ちなみに生命力は要するにHPであり、0になると死亡して最後に立ち寄った神殿に戻される。もちろんデスペナルティは存在し、『ゲーム内時間』で30分ほどステータスが3割ほど下がる。
所持金や所持アイテムを落としたりはしないので【ふろんてぃあーず】ではPVPが禁止されていなくても行う人にはメリットはまったくなく、逆に衛兵に追いかけられるなどのデメリットしかない。
さらにPVPの対象はNPCの開拓者も含まれるのでプレイヤーバーサスプレイヤーではない、というのが運営の意見らしい。
ついでにプレイヤーとNPCを区別するにはフレンド登録をして確認するのが一番簡単。
残念ながら従来のゲームのような頭の上に名前が浮かんだり、区別する記号が浮かんでいたりなんてことはないのでぱっと見ではまったく区別がつかないほど。
まぁMOBとすら戦う気がほとんどない私にとっては開拓者と戦うなんてよほどのことがない限りないと思うので、ぴーぶいぴーの呼び方がどうだろうとどうでもいいんですけどね。
『商人アーツ/Lv15/露店開設』を使用すると、まず自分を中心として露店を広げるエリアの選択から始まり、指定したエリアを自分の領域とするためのアイテムの選択になる。
このアイテムはなんでもいいわけではなく、屋台とかテントなど様々な露店用アイテムから指定しなければいけない。
地面にアイテムを置いて露店というのは【ふろんてぃあーず】では出来ないのです。
もちろん私は事前に調べて知っているし、何よりも『商人』の講習でさっき教えてもらったばかりだったりする。
報酬にも露店用敷き布があり、これを使って露店をする予定だったので抜かりはないのです。
実はこれで露店開設自体は完了だったりするけど、これだけでは販売するアイテムが一切ない状態なのでさくさくと値段設定をしてアイテムを設置していく。
値段は『商人』の相場収集能力である程度わかるので、ちょっとだけ安く設定するのも忘れない。
現状ではNPCの生産者にはまったく勝てないから仕方ない。
もちろんそういった一時的な値下げを期待しているプレイヤーも多いので、売れないということは多分ないでしょう。
販売するアイテムが『カッパーバケツヘルム』だけでは寂しいのでさっき描き上げたばかりの『魔術陣』なんかも置いていく。もちろんこれも値下げしているけど、多分売れないと思います。
『魔術陣』は攻撃アイテムとしては優秀ではあるものの、メインの攻撃手段としてはコストがかかりすぎるきらいがある。
スキルとして『属性魔術』を取得すれば、魔力消費や詠唱時間などかかるものの基本的にはノンコストで運用できる。
βテスト時の『魔術陣』の立ち位置はコスト度外視のゴリ押し戦法や攻撃手段を増やすためサブ的手段だったりする。
サブウェポンとしても微妙な位置だけど、それは資金に余裕がない序盤だからの話。
序盤を乗り切れば、βテスト時にもほとんどのプレイヤーが所持していた程度には人気があったりします。
ただしスキルとしてはまったく人気がない。
私は大好きだけど、他の人にはあの細かい『魔術紋様』を描き写す行為というのが不人気一直線だったみたいです。
なので基本的に『魔術陣』はNPCから購入するというのがβテストでは常識だったくらい不人気なスキルだったのですよ。
というわけで販売する『魔術陣』は完全に賑やかし要員だったりするけど、売れたら嬉しいな!
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販売するアイテムの設定も終わればあとはもうのんびり待つだけ。
販売設定をしたアイテムは自動的にリスト化されて、露店から少し離れていても購入することが出来ます。なので基本的には放置していても売れますが、時には交渉などしてくる人もいたりします。
まぁその時はその時と臨機応変にのんびりいきましょう。
カフェで作った『座布団クッション』に腰を下ろして、『初級裁縫セット』を出してチクチク縫い物をしていく。
待ち時間にもこうして色々出来るのが【ふろんてぃあーず】のいいところだと思うんですよね。
作っているのは私のお尻の下で座り心地をだいぶ良くしてくれている『座布団クッション』。
やっぱりゲームとはいえ敷物を敷いただけの上に腰を下ろすのはちょっと抵抗があったんですよ。
まぁだったら折りたたみの椅子でもいいかもしれないんですけど、多少の汚れはストレス排除のためにカットされているのでクッションにしたのです。
何より折りたたみの椅子を作るスキル取ってないですからね!