36 『いいからお金払ってねー』
頼まれた装備を製作し終えた頃には、すでに『ゲーム内時間』で深夜24時を回っていました。
やっぱりずいぶんかかってしまったみたいです。
でもおかげで色んなスキルのLvがかなり上がっています。
本は読んでいる暇がなかったので、『言語』と『魔術言語』は一切あがってませんけど。あと『魔術陣』も。
まぁこの辺は仕方ありません。
今回のLvアップで『裁縫』と『商人』がLv100に到達したようです。
『裁縫』はともかく、『商人』はお店が開いてないと上がってないはずなのでずいぶん前にはLv100になっていたと思います。まぁ集中して製作していたので気づかなくても仕方ないでしょう。
SP回収のために取得したスキル達のおかげで、多少はSPに余裕が出来ていたので、今回Lv100になった2つは進化させてしまうとしましょう。
『裁縫』はSP20を消費して、『裁縫・改』に。
『商人』はSP15を消費して、『商人・改』になりました。
『裁縫・改』は『鍛冶・改』同様に色々と実感できるでしょうけど、『商人・改』はどうなんでしょう……。
相場情報の収集では非常に役に立っていますけど……。
そんな『商人・改Lv1』で取得できる『アーツ』は『商人・改アーツ/Lv1/契約・改』です。
どうやら『契約』では決まった事柄しかできなかった契約が、合意があり且つ運営の定めた条項に引っかからないかぎりは個人間でも可能となるようです。
これと新たに実装された『レンタルトレード』を使えば、素材持ち込みの依頼などで大いに活躍してくれるでしょうね。
……つまり私には微妙ってことですね。『商人・改』に進化させたのは失敗だったでしょうか。
まぁもうやってしまったんですから仕方ありません。
それに『商人・改』は勝手に上がってくれるでしょうから、お店が開いている時間に装備しているだけでいいんで放置です。放置。メインスキル枠を占領している時点で問題ではありますが!
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ミカちゃんに装備製作完了の『メール』を出して、【開拓者組合】へ向かいます。
評価査定はもちろん、個人WEBスペースの手続きもしなければいけませんからね。
大分時間も経ちましたし、そろそろ混雑も解消している頃でしょう。
まぁ結論から言えば私の考えは少々甘かったですが、多少時間はかかったものの無事手続きは済みました。
『課金』はまだちょっと検討中というか、するのは確定なのですが、どのサービスを購入するかで迷っているので、今のうちは無料のものを取得しておくのですよ。
待ち時間中に返ってきたミカちゃんからの『メール』で、待ち合わせはいつもの私のお店になっています。
ミカちゃんはシステム的にお店にいつでも入れるようになっているので、中で待っているそうです。
「お待たせー」
「待ちくたびれたー。っていうのは冗談で、やっぱり混んでた?」
「アップデート直後よりはマシだったけどねー」
「そっかー。んじゃあたしの『ルーム』いこか!」
「わーを、もう購入したの?」
「当然! 3ヶ月パックで購入済みよ! もうお小遣い使いきったわ!」
「うわぁ……」
どうやらミカちゃんは色々な『課金サービス』をパック購入できるタイプを3ヶ月コースで購入したみたいです。
期間が長ければ長いほどお得になるわけですが、学生のミカちゃんにとっては3ヶ月パックはかなり懐に痛いはずです。思い切りましたね、さすがミカちゃん。
「じゃじゃーん。これがあたしの『ルーム』に直通の鍵よ!」
「へーこれでいくんだー」
ミカちゃんが取り出しのは絵本に出てきそうな重厚な鍵です。
声紋でも指紋でも網膜認証でもない、とても古いタイプの物理的な鍵ですね。
でも大きくて装飾も凝っている、これぞ鍵! といった実に鍵鍵しい鍵です。私あぁいうの嫌いじゃありません。
「ヒラケドアー!」
ミカちゃんが空中に向けて鍵を差し込むと同時に謎の呪文を発すれば、鍵が差し込まれた場所を中心としてキラキラのエフェクトと共に扉が出現しました。
この呪文とエフェクトいるんですかね。毎回必要だったらちょっと考えものなんですけど。
「ようこそ、あたしの部屋へ!」
「お邪魔しまーす」
ミカちゃんの『ルーム』はカタログで確認していたよりもずいぶん広々としています。
天井も高くて、家具が少ないからか開放感も大きいです。
でも最低限の家具はそろっています。
「へー……こういう感じなんだー」
「結構広いよね。家具はまぁ……初級のだけしかないんだけど」
「だねー。あ、トイレある。意味あるの?」
「ないみたい。でもちゃんと流せるよ。あ、お風呂あるよ。こっちも意味ないけど」
「うわー……。凝ってるけど意味なーい」
キャーキャー言いながら『ルーム』を見て回りましたが、一般的な家屋に必須とされるものは揃っているようです。
でも【ふろんてぃあーず】はゲームです。
色々とストレスとなる要素は排除されているので、トイレもお風呂も意味がありません。
「あーでもね、ベッドは危険よ」
「ベッド? あーもしかして寝るとログアウトしちゃうとか?」
「ビンゴ! いやー罠だったわー」
トイレやお風呂があるのですから当然ベッドもあるわけです。
そして寝たらログアウトしてしまうとか罠以外の何物でもないでしょう。
むしろ【ふろんてぃあーず】で寝るという行為が可能だとは思いませんでした。
状態異常では定番の睡眠は【ふろんてぃあーず】では存在しないですし、眠くなることもありませんから。
「生産施設は置けないんだっけ、ここ」
「そうみたいだね。追加できるのは新しい部屋や元々あった部屋の拡張くらい? あとは購入できる家具だけっぽいよ」
「そっかー……。私は『ルーム』いらないかなぁ」
「ユリはもうお店あるしねー」
個人で持てる部屋ですから、淡い期待はしていました。でも『ルーム』のカタログには書いてなかったので、「やっぱりか」という気持ちの方が強くてがっかりはしていません。
「じゃあ案内はこの辺にしてー」
「はいはい、こちらがご注文の品になりますー」
「おおー! さすがユリ! 愛してるー!」
「はいはい、いいからお金払ってねー」
「うわーい、これでほとんどなくなったぞー。稼ぐぞー! あのリッチ絶対ぶっ殺すぞー!」
アイアン系装備はブロンズ系装備の倍近い性能を持っているので、当然値段も相応になります。
それをPTメンバー分全部となれば、戦闘系トッププレイヤーのミカちゃんといえど軽いものではないみたいですね。
まぁ後からPTから徴収するでしょうけど。
「リッチ? レイドボスってリッチだったの?」
「あれ? 言ってなかったっけ? 雑魚のアンデッドを大量召喚するリッチだったよ。
でも召喚限界でもあるのか途中で途切れて本体が襲ってきたんだけど、それがめっちゃ強かったんだよねー」
どうやらレイドボスの正体は、リッチと呼ばれる有名なアンデッドの上位MOBみたいです。
アンデッドのMOB自体が【首都サブリナ】近辺ではほとんど見られないので、ミカちゃん達も驚いたみたいです。
初見ということもあり、特化した対策も立てることができていなかったのもあって、物量とリッチ本体の強さに押し負けた形でしょうか。
「それで『魔晶』の方は数集められたの?」
「んー……微妙。他のやつらも考えることは同じなんだよね。とはいってもあたし達はユリのおかげでアイアンを強化できるからマシなんだけど」
「まぁそうだよねー。ブロンズでも強化すればそれだけ強くなるわけだし」
「あとはアンデッド対策だね。光系の『属性魔術』を主軸にして弱点ガン攻めかなー。
『魔術陣』の光はないの?」
「残念だけどまだ見つけてないかなー。でも探してみるねー」
「うん、よろしくー。次仕掛けるのは準備が整ってからだからまだ時間あるし、ぎりぎりまでは待てるから」
「りょうかーい」
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「じゃあ次は姫ちゃんとララルさんも呼んでこっちで女子会しよー」
「いいねー! でも姫もララルさんも『課金』するんじゃない?」
「その時は順番に回していけばいいんじゃないかなー」
「じゃあやっぱりユリも『ルーム』購入した方がいいんじゃない? パックのがお得だし」
「んー……結局そうなりそうだねー」
「ん? あーユリごめーん。あいつらから『メール』すごいきてる」
「まぁ仕方ないよー。今回はリッチ討伐優先じゃない?」
「ごめんねー」
2人だけの女子会だけど、ミカちゃんとなら話題は尽きません。
でも私からアイアン系装備を受け取ることは他のPTメンバーにも連絡済みだったみたいで、そろそろ終わりです。
ミカちゃんの『ルーム』から出るとそこは入った時同様私のお店です。
入ったところにしか出れないという『ルーム』の仕様通りですね。
『ルーム』内に誰か1人でもいる場合は大体同じ場所にしか扉を出現させることもできないみたいですし。
「それじゃ、またねーん」
「うん、またねー」
ミカちゃんと別れてからすぐに『課金』しました。
『課金』の内容はミカちゃんと同じ3ヶ月パックですが、内容は多少異なります。
パックは色んなサービスを自分で選択できますからね!
これで私も『ルーム』持ちです。
生産施設がおければ最高だったんですけどねー。




