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33 『んん? ……んんん? えぇぇぇ?』



 ルンルン気分で【レンタル生産施設】に向かい作業を始めていると、姫ちゃんから『メール』です。

 まだ別れてからそれほどの時間は経っていないのですがなんでしょうか。


「おぉー姫ちゃんも『クラン』に!」


 『メール』に書かれていた内容はいつもの姫ちゃん通りに非常に簡潔な内容でしたが、ちょっと驚きです。

 てっきり姫ちゃんはソロプレイをし続けると思っていました。

 でもそれは私の勘違いだったみたいです。


 姫ちゃんが入った『クラン』は『魔樹伐採特化クラン――キコリドットコル』というところだそうです。

 【ふろんてぃあーず】で魔樹を伐採するのはとても大事な作業です。

 魔樹に侵食されているこの世界では魔樹を伐採し、切り開かなければ新しいフィールドエリアは出現しないのですから。


 どうやら私が甘ロリさんの『クラン』に加入するのが確定となった事で、姫ちゃんも『クラン』に入る気になったみたいです。

 たぶん私がずっとソロだったら姫ちゃんもそうだったんじゃないでしょうか。

 姫ちゃんはとても優しく気遣いの出来る子ですからね。

 でもそのせいでいらない我慢をさせてしまったみたいでちょっと申し訳ないです。


 『キコリドットコル』は魔樹伐採に特化している『クラン』ですし、姫ちゃんもこれから斧が必要になるはずです。

 なので我慢させてしまったお詫びに今私が作れる最高の斧をプレゼントしましょう!


「待っててね、姫ちゃん! すごいの作るよ!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『きた』

『今行くねー』


 姫ちゃんの『メール』から数時間後、やっと納得の行く1本が完成しました。

 『オプション』は狙ってつけるのがとてもむずかしいですからね。どうしても数を作らなければならないのです。


「お待たせ、姫ちゃん。ここからだとカフェの方が近いからそっち行こうか」

「ん」


 普段はお店で待ち合わせなのですが、プレゼントを渡すついでにお茶しようと思ってカフェなのです。

 テラス席は目立つので店内に席を取り、飲み物を注文です。

 夕方近くなのであまり人もいませんのでちょうどいいですね。


「姫ちゃん、『クラン』加入おめでとー」

「ん、ありがと」

「それで、魔樹伐採には斧が必須だよね。これ私からのプレゼント!」

「いいの?」

「もちろんだよー。頑張って作ったからよかったら使ってねー」

「大事にする」


 フェイスマスク越しでもわかるほど喜んでくれる姫ちゃんにこっちまで嬉しくなっちゃいますね。

 ちなみに姫ちゃんにプレゼントした斧はこちら――


 ====

 アメジストフェリングアックス

 斧/★6/ATK+34 CRT+3/魔樹特攻・小 耐久強化・小/耐久120

 ====


 図書館で手に入れた『ブロンズフェリングアックス』という伐採用の斧をベースとしています。

 攻撃力は『ブロンズアックス』よりは低いですが、伐採用の斧限定で付きやすい『オプション』の『魔樹特攻』があるのが魅力です。

 もちろん必ずしも付くわけではないので、『オプション』なしでは微妙な斧になってしまいますけど。

 さらに『細工Lv80』で取得できる『アーツ』――『細工アーツ/Lv80/研磨』で『色鉱石』という素材から宝石を作り出し、『追加』することによって完成させたオリジナルの斧です。


 付きやすい『オプション』とはいえ、運が大きく絡むので『魔樹特攻』と伐採作業で一番有用とされている『耐久強化』の『ダブルオプション』を狙うのがとても大変でした。


「すごい……」

「えへへ……狙った『オプション』は運次第だからね。おかげで他にもいっぱい『アメジストフェリングアックス』が余っちゃったー」

「欲しい。売って」

「え……でも『オプション』がないのもあるし、ランクも低いよ?」

「これをみて」

「んん? ……んんん? えぇぇぇ? ……姫ちゃんこれ……」

「ぶい」


 姫ちゃんから見せられたのはとある動画でした。

 そこに映るのはブロンズの重装備に身を包み、百合の彫刻が施されたフェイスマスクを被った女の子。

 たったひとりで10本もの斧を自在に操り伐採作業をしつつも、MOB(モンスター)を翻弄している、ちょっと信じられない映像でした。


 普通は斧は両手に持っても2本までが限界です。

 それに2本同時に斧で伐採作業をするのもかなり難しいです。

 でも姫ちゃんがメインウェポンとしている『魔導糸手袋』は最大で10本の糸を同時に操ることが可能です。


 ……理屈はわかります。


 姫ちゃんは実際に誰もできない10本の糸を自在に操るという神業を日常的にこなして有名人になったのです。

 でもだからといって糸1本につき武器1本、それを同時に10本も操れたらさすがにゲームバランス的におかしいです。


「こ、これって姫ちゃん大丈夫なの?」

「ん。伐採だから意味がある」

「あ、もしかして、戦闘だと補正がかかるの?」

「ん。マイナス」


 どうやらいざ戦闘となるとマイナスの補正のせいで、ダメージがほとんど与えられないみたいです。

 でも伐採の場合はその補正がかからないらしく、問題なく魔樹にダメージを与えて切り倒してしまうらしいのです。


「でもMOB(モンスター)とも戦ってるよね?」

「妨害は可能」

「あ……確かに倒せてないねー。あ、他の人が倒した。なるほど……姫ちゃんの真骨頂は妨害だしねー」

「ん」


 確かに動画の後半部分までMOB(モンスター)は一切倒されていません。

 後半になって漸くPT(パーティ)メンバーと思しき開拓者が攻撃を仕掛けて倒しています。


 いやでもそれにしたってこれはすごいです。

 10本の斧で複数のMOB(モンスター)を翻弄しつつも、伐採作業をずっと行っているのですから。

 姫ちゃんは一体どこに向かっているのでしょうか。

 でもこれならもっと斧が欲しいのは納得です。


「わかったー。じゃあ残りは売ってあげるねー」

「ありがと」


 さすがに全部をプレゼントするのは気の遣いすぎな気がするので、ちょっと安めに販売となりました。

 使用した宝石の数も結構な数ですからね。

 『色鉱石』は『銅鉱石』よりも高いですし、狙った宝石を入手するには運が必要となるので数を揃えるのは大変なのです。


 尚、アメジストを選んだのは姫ちゃんの誕生日が2月だからです。

 2月の誕生石はアメジストですからね!


 予備も含めて販売すると、あれだけあった『アメジストフェリングアックス』も半分くらいになりました。残りはお店に並べるとしましょう。

 ちなみに大量に作ったのでオリジナルレシピもゲットしていたりします。


 姫ちゃんが入った『クラン』――『キコリドットコル』の話を聞いたりして楽しくお喋りして解散です。

 私も補充用の商品を作らないといけないですからね。

 時間はまだ余裕があるので大丈夫でしょう。

 今回は姫ちゃん優先なのです。お店と親友へのプレゼント、どっちが大切かと言われればそんなの姫ちゃんに決まってます。当たり前ですよね!


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 【レンタル生産施設】に戻って作業の続きをしていると今度はラッシュさんから『メール』です。

 内容は保留にしていたミカちゃんの立ち上げる『クラン』への加入を決めた事でした。

 まぁラッシュさんですから、「頑張ってください」と返信して終わりです。

 さすがに加入祝いのプレゼントを渡すほど親しくはないですからね。


 その後はアイアン製作に向けてのLv上げ兼お店の商品製作、新規取得スキルのLv上げなど、忙しくも楽しい時間があっという間に過ぎて行きました。


 そして遂にアップデートの日です。


 アップデートは24時間の長時間のメンテナンスを挟んで行われるので、その間がとても暇……というわけではありませんでした。

 珍しく他のVRソフトをプレイしたり、情報収集をしたり、ミカちゃんと姫ちゃんが遊びにきたりして時間が流れていきます。


 ミカちゃん達は夏休み中です。

 私は学校には通えないので年中夏休みみたいなものですが、おかげで暇と思う暇もありませんでした。

 とても良い友人を持ったものです。


 規則があるので2人と一緒に過ごす時間も限りがありますが、もうちょっとでメンテナンスも終わりです。

 あとは情報収集なり何なりして時間を潰すことにしましょう。


 本公開から早10日。

 待ちに待った第1回目のアップデートです。


 ミカちゃんと姫ちゃんは出現するだろうレイドボス攻略に意欲を燃やしていますし、私ももうすぐアイアンに手が届きます。


 さぁいざログインですよ!


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