32 『畑で育てる魔法講座……?』
『召喚』の講習を受けて戻ってきました。
さっそくお手伝いさんを呼ぶことにしましょう。
とはいってもお手伝いさんのスキルLvは召喚補助スキルのLvの半分にしかならないので、手伝えることはかなり限られます。
でも今のところは、『召喚』のLv上げによるSP回収が主な目的なので問題ありません。
今のところスキルLvが低くても需要があるのは、『錬金術』『織』『皮革』『木工』辺りでの素材加工とポーション製作ですかね。
今日のところは『錬金術』で『生命のポーション・小』を作っていて貰いましょうか。『濃縮魔法液』の前段階ですし、『生命のポーション・小』自体も需要はありますからね。
メインスキルに『錬金術』と『召喚』を装備すれば準備は万端です。
『召喚』以外のメインスキルに装備しているスキルが召喚補助スキルになります。もちろん対象外のスキルもあるので全部がなるわけではないです。
「いでよ、『ホムンクルス』!」
別に口に出す必要はないのですが、雰囲気作りというやつですね。
実際はウィンドウの召喚対象リストから選択するだけです。
講習で学んできた通りに、リストから選んだ子が魔法陣からゆっくりと現れます。
この時に攻撃を受けるなどの何かしらの妨害が発生すると召喚失敗となります。召喚するまでが結構長いので外では注意が必要ですね。私には関係ないですが。
たっぷりと3分くらいかけて召喚された子は、私の身長の半分くらいしかないちっちゃさで、中性的な容姿の子です。
この子は『ホムンクルス』。
元ネタは錬金術で生み出された擬似生命体でしたっけ?
まぁ【ふろんてぃあーず】では『召喚』によって呼び出されるお手伝いさんです。
「じゃあ、ホムちゃん。あそこの『魔導錬金鍋』で『生命のポーション・小』を作ってくれますか? 道具と材料はここにあるのを全部使って構いません。足りなくなったら言ってくださいー」
「ほむー」
『ホムンクルス』なのでこの子の名前はホムちゃんです。
安直というなかれ、わかりやすいというのはとても素晴らしいことです。
まぁ名前はつけられないので、私が気分的に呼ぶだけですが。
ホムちゃんのLvは私の『錬金術』の半分なので37です。
今現在『錬金術』はLv75なので、どうやら切り捨て計算のようですね。
でも37もあれば『生命のポーション・小』製作には問題ないはずです。
召喚された子は一部を除いて独自の言語で喋るみたいで、ホムちゃんは「ほむ」という単語で構成される言語みたいです。なんとなく雰囲気でわかるので問題ありません。
ちょこちょこと動いて、『錬金術』の機器が置いてある場所で用意を始めるホムちゃんは微笑ましい感じがしてかなり和みます。
私がほっこりしている間に準備が終わったのか、さっそくゴリゴリと材料を『乳鉢』と『乳棒』を使ってすりつぶし始めました。
『アーツ』もLvに応じて使えるみたいなので、工程的にはいつも私がやっているのと変わりませんね。
そしてあっという間に『生命のポーション・小』を1個製作してしまいました。
『錬金術Lv37』の頃ってこんなに早く作れてましたっけ?
もしかして私がドン臭いだけ?
むむーん、と唸っている間に2個目が完成していますので、やっぱり早いと思います。
一応確認で詳細を見てみましたが――
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生命のポーション・小
アイテム/★3/HP+50/使用回数3回
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……普通ですね。
まぁいいです。目的はSP回収なんですから、出来るアイテムはおまけなんですし。
でもホムちゃんに負けないように私も生産作業に励むとしますか。
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『発見』と『集中』をガンガン使いながらも各所で『アーツ』を使用していますが、進化した魔力系3種スキルのおかげもあって魔力不足に陥ることはまったくないですね。
進化すると性能がかなり上がりますので、進化前では多分魔力不足になっていたかもしれません。ホムちゃんを召喚して最大魔力量も減っていますからね。
でもこれが戦闘となったら、きっとそうも言ってられないのでしょうね。まぁ私は戦いませんが。
『発見』と『集中』に関してはLvが低すぎて実感はさっぱりありません。
でも経験値稼ぎということで割りきって使っていますので問題無いです。
今回製作した『ダブルオプション品』の情報は、すでにみんなに『メール』してありますのでさっそくお店に向かうとしましょう。
結局ホムちゃんはあれから素材が尽きるまで『生命のポーション・小』を製作し続けてくれました。
素材は買取し続けた結果ものすごい量あったのですが、それを全部使い切るほどずっと作ってくれたので在庫がすごいです。
その後は『生命のポーション・小』以外の作れる物をとにかく作ってもらいました。
ホムちゃんってものすごく優秀ですね。
もちろん召喚補助スキルのLvも必要ですが、単純作業を延々とこなしてくれるので素材加工などで非常に役立ってくれそうです。
ただ問題はどうしてもLvが低いので作れるものには限界があるということです。
その他にも1つ指示するとそれだけしかやらないので、臨機応変に行動させるのは無理ですね。
まぁその辺は私が色々指示してあげれば問題なかったのでいいんですけど。
これでインゴットの大量生産が可能になったのですが、基本的にはランクが高いものは無理です。何せスキルLvが半分ですからね。
今現在、ブロンズ系で『ダブルオプション品』などを製作する場合は、ランクが高いインゴットを使わないと無理なので、初心者への販売用にしか使えないのが残念です。
……私がカッパー系を今更作るのもどうかと思いますしね。新規生産者の邪魔をするのは頂けません。まだまだ生産者も少ないのですから。
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ホムちゃんは外では目立つので、変装用のマントの下に隠れられる小さな体格の子を召喚して移動開始です。
ちなみに召喚したのは『魔力強化・改』を召喚補助スキルにした『マナサークル』のマナちゃんです。
進化スキルを召喚補助スキルにする場合は、一定以上のLvが必要ですが『魔力強化・改』はLv15だったので大丈夫みたいです。
『鍛冶・改』の方はLv9でだめみたいですので、Lv10がボーダーだと思います。スキル毎に違わないなら、ですけど。
それにしても後から進化させた魔力系3種の方が『鍛冶・改』よりもLvが高くなってしまいましたね。
『発見』や『集中』、『召喚』に『アーツ』と至る所で魔力を消費し続けているので納得ですが、ちょっと悲しいのも事実です。
まぁLvが上がることはいいことなので全体的に見れば収支は黒字ということで。
マナちゃんは黒いサークル状の体の不思議生命体です。
召喚したあとは周囲の魔力回復力をLvに応じて強化してくれる能力を持っています。
近くにいればそれだけで効果を発揮する子なのですが、残念ながら常時展開型の能力は経験値の入りが悪いみたいです。
でも移動中には小さい子じゃないと隠せないので仕方ありません。
『召喚』を取得した事がバレれば、連れ歩いているだけで特定材料になりますからね。変装の意味がなくなってしまいます。
もちろん私以外にも『召喚』を取得している開拓者はそれなりにいますし、連れ歩いている人もいます。
でも【レンタル生産施設】を利用している開拓者ではまずいないのですよ。
お手伝いさんとしては非常に便利なので掲示板に情報を上げようと思っていますが、少し時間を置かないと普及はしないでしょうから。Lvも半分ですし。
マナちゃんを連れてお店までやってくると、『ゲーム内時間』は深夜帯ですので当然お店は閉まっています。
先に来ていたラッシュさんに挨拶して休憩スペースに招き入れれば、マナちゃんの紹介と『ダブルオプション品』の販売です。
私の製作した有用な『オプション品』で固めているラッシュさんの装備は、プレイヤー開拓者の中でもかなり強力な部類です。さらにはβテスト参加者で相当動ける強者です。
そのせいなのか、彼も『クラン勧誘』に悩まされているらしくそろそろ適当な『クラン』に入ってしまうべきかと相談されました。
つい先日私も甘ロリさんが立ち上げる予定の『クラン』に入ることが決まりましたので、その経験も踏まえて色々助言をすることができました。
ラッシュさんの相談に乗っている間に姫ちゃんとミカちゃんが到着したので、2人にも助言を求めたところ、ミカちゃんのPTが立ち上げる『クラン』に誘われていたりしました。
返事は今のところ保留ですが、ミカちゃんのPTは戦闘系トッププレイヤー集団ですからね。
誘われるだけでも十分すごいことです。さすがラッシュさん、戦ってるところ見たことないですけど。
2人にも装備や『魔術陣』の販売をして、ラッシュさんが帰った後は女子会です。
さすがに女3人の中に男性1人では辛かったみたいですね、彼。相談が終わった後は速やかに撤退していっちゃいました。
今日は甘ロリさんは不参加ですが、3人でのお喋りでも話題が尽きません。
でもやっぱり話題の中心は目前に迫ったアップデートですね。
『現実時間』であと1日ちょっとです。『ゲーム内時間』では4日くらいですね。
事前のアップデート内容の告知は、大まかな部分しかされていないので非常に楽しみです。
アップデート後も公式での告知は今までの経験上簡潔に済まされるはずです。
【ふろんてぃあーず】という、タイトルに恥じない開拓者として切り開き見つけ出せってことですね。
賛否両論あるこの運営方針ですが、私は嫌いじゃないです。
当然ミカちゃんも姫ちゃんも同じで、「早くアップデートこないかなぁ」とぼやいていました。
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女子会自体は1時間ほどで解散です。
私のログアウト時間が迫っていましたからね。
夕飯など諸々を済ませてログインした頃には図書館も開いている時間なので、そのまま変装して直行です。
もちろんマナちゃんを呼び出すのも忘れてはいけません。
道中、『発見』で何か見つけられないかと色々試してみましたがまったく効果はありませんでした。残念。
ですが、図書館で使用してみれば多少Lvも上がったこともあり、ほんの少しだけ反応がありました。
「畑で育てる魔法講座……?」
その結果見つけることが出来たのはちょっと意味不明なタイトルの本でしたが、読んでみるとなんと新たな『魔術陣』のレシピをゲットできました。
もうこれは隅から隅まで『発見』を使う必要がありますね!
意味がわからないタイトルで敬遠していた本でも有用なレシピが手に入る可能性があるんですから。
ですが図書館は意外と広いし、一度に読める量も借りられる量も多くはありません。
あまり欲張ってもしょうがないので1冊だけここで読んで、あとは借りられるだけ借りて行くことにしました。
まだまだ図書館にはお世話になりますからね!




