30 『きっとほしがりますよ、このバケツ』
鍛え上げた『魔術陣』スキルと丁寧に美しく描いた事により、未だに『魔術陣』製作において失敗はありません。
当然今回発見したレシピの『魔術陣』も同様です。
ですが使っている『魔法紙』のランクが低いので使用回数がどうしても少ないです。
『魔術陣』の使用回数を増やすには描かれる元となるアイテムの耐久を上げる以外に方法はありません。
この描かれる元となる素材というのがミソで、一般的には『魔法紙』を使います。
ですが『魔法紙』は耐久が非常に低いアイテムです。ですので使用回数が少ない『魔術陣』が出来上がるわけです。
ならば答えは簡単。耐久の高いアイテムを使えばいいのです。
しかし単純に耐久の高いアイテムといっても、素材には耐久値がないのでまずは加工して耐久値を付ける必要があります。
そうなると比較的耐久が高く設定される盾などが候補に上がるわけです。
実際にβテストの際に同じ結論に至った人が大勢いました。
そして当然試してみたわけです。
ですが問題はここからでした。
基本的に『魔法ペン』で描かれる『魔術陣』ですが、完成した盾に『魔法ペン』で『魔術紋様』を描くことはできませんでした。
では『完了処理』前ではどうか。結果は同じで『魔法ペン』では描けませんでした。
ならば『魔法ペン』以外で『魔術紋様』を描いてはどうか。結果はただの模様にしかなりませんでした。
最終手段として、「彫ってみよう」と幾人ものプレイヤーがただでさえ複雑怪奇な『魔術紋様』の彫り込みを試していき……その全てが挫折したのは最早言うまでもないことでしょう。
当時はスキルLvも低いうちでのチャレンジですし、『魔術紋様』自体を一番簡単に描ける『魔法ペン』で描くのすら大変だったみたいですから。
では私ならばどうなのか。
今現在の『細工』のLvは68です。毎回装備に色々彫っているんですから上がって当たり前ですね。
βテスト当時と比べれば、比較するのもどうかというほどスキルLvは差があります。さらには『魔術陣』をたくさん製作してきた自信もあります。
きっと私ならやれるはず。
『完了処理』後では形状を大きく変えてしまうはずなので、『完了処理』前が勝負です。
さっそく比較的耐久が高くなる『ブロンズラージシールド』を製作して彫り込んでいきます。
しかし1時間くらいかけて半分程度彫り込んだところでわかりました。
……これはだめですね。
今まで『鍛冶』や『細工』を駆使して製作していると、手応えのようなものが必ずありました。
もちろん『魔術陣』製作でも同じで、描いている時に魔力が消費され製作しているという手応えがあったものです。
でも今回はありません。
『細工』としても、『魔術陣』としてもどちらの手応えもなく……やはり彫り終わって『完了処理』を施しても、『ブロンズラージシールド』は装飾過多なだけでした。
オリジナルになるわけでもなく、複雑怪奇な『魔術紋様』が描かれただけの『ブロンズラージシールド』です。
しかも『魔術紋様』は『完了処理』の段階で一部が変化していました。
『魔術陣』のレシピは『魔術紋様』だけですから、おそらくはレシピの防犯機能か何かなのでしょう。
つまりはこの防犯機能が働いている以上はだめということでしょうか。
試しにただの『紙』に『魔術紋様』を描いてみましたが、どうやら私の考えは正しいようです。
先人は失敗にだけ目がいってしまい、『魔術紋様』の一部が変化しているのに気づかなかったのでしょうか。確かによく見ないとわかりませんのでその可能性もあります。
まぁ全部が全部情報として上がっているわけではありませんので仕方ないでしょう。
試行回数も人数も圧倒的に少ない実験だったわけですし。
『紙』や『ブロンズラージシールド』では失敗しても、『魔法紙』なら成功します。
単純に描く対象となるアイテムの魔力が関係していそうな気がしますが、残念ながら魔法や魔力と名の付くアイテムで『魔術紋様』が描けそうで且つ耐久を持つものがありません。
まだ見つけてないだけなのか、それとも『魔術陣』は『魔法紙』に描くものなのか。
まずは素材探しからはじめなければならないみたいですね。
もちろんスキルLv不足という線も考えられます。『細工』ではだめで進化先や派生先に存在するスキルが必須となっている可能性というものは当然あります。
その辺の可能性も探す意味でも、まずは精進あるのみです。
お店に並べる商品も製作しなければいけませんし、実験ばかりにかまけているわけにはいきません。
でも例え失敗したとしても、『魔術紋様』を描いている時間はとても幸せでした。
『魔術紋様』を彫り込むというのも、私にとっては癒やしです。あの手先の微妙なタッチ次第で作り出される彫りの違いは癖になりますね。
『魔法ペン』で描く『魔術紋様』とはまたちがった趣があります。
さてさて浸るのはここまでです。
ガンガン作っていきますよー!
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順調に商品を製作していくと、遂に『鍛冶』がLv100に到達しました。
これは『鍛冶』の最大Lvであり、次の段階へ進むための条件が整った事を意味するのです。
つまりは進化です!
『鍛冶』の進化先はどうやら1つだけのようですね。
掲示板の情報ではLv100進化を達成した人はトッププレイヤーでも一握りです。
生産スキルとなれば私が初となるはずです。
『鍛冶Lv100』の進化先は『鍛冶・改』。
今までの名前の傾向からして予想していた通りですね。
Lv100進化をしたトッププレイヤーも戦闘系でメインウェポンのスキルだったみたいですけど、同じように後ろに改が付いたそうです。
しかし進化というだけあって、戦闘系の場合は目に見えて攻撃力が上がったそうです。
進化にも、もちろんSPが必要なのですが、派生するよりも多くかかります。
『鍛冶・改』の場合は20もかかりますが、今まで他のスキルを順調に育てている人なら問題ありません。もちろん私も問題ありませんでした。
さらには『鍛冶・改』のLv1で新たな『アーツ』を取得できました。
『鍛冶・改アーツ/Lv1/抽出・真』です。
さっそくインゴット製作で使用してみましたが、今まで以上の早さで『ブロンズインゴット』を製作出来た上にランクまで上がっていました。
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ブロンズインゴット
素材/★6
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少しずつ★5が出来始めていた段階でしたが、進化したことによりさらに1段階上に到達するようになったみたいです。
これは確かに目に見えるパワーアップですね。
もしかしたらそろそろアイアンもいけるんじゃないでしょうか!
思い立ったが吉日です。さっそく製作してみましよう。
『アイアンインゴット』の素材である『鉄鉱石』は少しずつ買い取ってあったので、今では結構な量ありますからね。
実は進化したらいけるんじゃないかと用意しておいたのですよ。
『鍛冶・改アーツ/Lv1/抽出・真』を使いつつも、丁寧に丁寧に作業を進めていくと、以前『ブロンズインゴット』を初めて作った時のような酷さはさすがにありませんでした。
ですが例えるなら初めて『カッパーインゴット』を製作した時のような感覚でしょうか。
結果は――
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アイアンインゴット
素材/★3
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ぎりぎりで★3を製作できました。
しかしこの結果が意味するのは、装備を製作するのはまだ早いということです。
今この『アイアンインゴット』を使って装備を製作してもいいとこぎりぎりで★3。高確率で★2や★1が出来上がることでしょう。
ならば答えは簡単。スキルLvを上げるのが一番です。
今までの経験上、あと20もLvを上げれば安定して★3装備辺りが製作できるはずです。
でも進化してLvが低くなったとはいっても、必要となる経験値はもっと多くなっているはずですのですぐには無理でしょう……と、普通は考えます。
私の場合は製作に充てる時間が普通の人よりもずっと多いので、その分早くLvを上げる事ができるのです。
製作に必要となる素材もお店で買取していますので、補充にかかる時間のロスは他の人よりも少ないですしね。
そうと決まればガンガン作っていきますよー!
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商品補充の時間になるまで装備を製作していたのですが、私は進化したスキルのすごさというものを見誤っていたようです。
アイアン系装備がまだ作れないことに若干の落胆はあったものの、今まで主力商品となっていたブロンズ系装備がそのままの性能であるわけなかったんですよね。
そもそもインゴットの時点でランクが1段階上がっているわけです。
よく考えなくてもブロンズ系装備の性能も上がるだろうことは想像に難くなかったわけですよ。
つまりは結果はこうなるわけですよ――
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ブロンズバケツヘルム
頭/重装/★6/DEF+13 MDEF+18 ATK+4/魔法防御力強化・小 攻撃力強化・微/耐久40
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はい、『ダブルオプション』頂きましたー!
しかも片方の効果が小ですよ。
『鍛冶Lv80』で取得できる『アーツ』――『鍛冶アーツ/Lv80/成型・改』を常時使っていても以前はこんなことなかったんですよ。
……もうなんでしょうね。進化すごすぎです。
でもまぁ、当然これは特別にうまくいったパターンです。
他の物は大体★5で『オプション』がついたりつかなかったりのいつものパターンです。
いえ、★5が安定して製作出来ている時点で十分すごいんですけど。
何はともあれ、アイアンの前に成長を実感できる素晴らしい体験を出来てよかったです。
さっそくですが、知り合いに『メール』を飛ばしまくっておきましょう。
ラッシュさん辺りがきっとほしがりますよ、このバケツ。
 




