表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/154

03 『……とか思ってた頃もありました』

 私のトレードマークとなる予定の『バケツヘルム』は円柱形のフルフェイス型。

 有視界範囲もスリットが入っただけという一見とても狭いものだけど実際には違う。

 被ってみるとわかる視界の広さ。防具の形状でストレスをあまり与えないための措置らしい。さすがゲーム。

 ただまったく視界が阻害されないわけではなく、視界の端が少し隠れる程度には狭くなっている。まぁこれを狭いというのはどうかと思いますけど。

 被り心地も悪くはない。元々装備による行動の阻害はストレス排除のために低くなっているのでほとんど感じない。


 でもやっぱり少しは感じるものです。

 ならば改善しましょう。


 【ふろんてぃあーず】の生産の良い所は完成したあとでも色々後付が簡単に行えること。

 さすがに大きく形状を変化させたり性能を変化させることは難しいけど、性能に影響しないものをちょっと追加する程度ならとても簡単に行えます。


 生産には専用の機材が必ずしも必須というわけではない。

 もちろんあると便利だし、色々助かる。さらには『アーツ』などを使わなくても現実と同じ作業を行えば物は作れる。

 なのでちょっとしたものを作る程度なら、新たに施設をレンタルする必要性はないのですよ。


 講習(チュートリアル)報酬で貰った素材でちょちょいと簡易的なクッションを製作して、『バケツヘルム』の中にくっつけていけばあっという間に完成です。

 金属のヘルメットなだけでは被り心地はお察しなのを、クッションをつけてカバーしようという事なのですよ。

 ちなみに簡易的に作ったクッションはアイテムとしては認識されない程度の素材の塊みたいなものらしく、組み込んでこそ真価を発揮するよう。


 ====

 カッパーバケツヘルム

 頭/重装/★3/DEF+7/耐久40

 ====


 完成したものがこちら。

 え? 変わってないって? そりゃ性能面での向上は完成したあとでは難しいですからね。

 クッションつけたくらいで変化したらすごいことになりますよ。


 性能面では変化はないけど、実際に被ってみるとあら不思議。柔らかいコットン生地で作ったクッションがジャストフィットで非常に優しい感触。

 ストレス排除のために様々な工夫が施されている【ふろんてぃあーず】では汗や蒸れなんかもない。

 なのでフルフェイス型のヘルムをずっと装備していても安心安全なのですよ。


 ちなみに講習(チュートリアル)報酬でたくさんの初歩的なレシピをもらっています。

 レシピは『魔術陣』の時の『レシピ/魔術陣:火弾』のようにB5サイズの板で様々な手順や画像、動画が載っている優れものです。

 『魔術陣』は2次元データだけで十分だから画像だけだけど、『鍛冶』などの場合は『アーツ』の使い方や完成形の立体映像までついている。

 だからといってレシピ通りに作らなければいけないというわけではありません。

 私が作った『カッパーバケツヘルム』だってレシピ通りの物ではないです。

 この辺は作り手のセンスと工夫の賜物ってところでしょう。

 まぁしっかりとした完成形のイメージがないと失敗したりするらしいんですけどね。


 レシピ通りに作った物には自動的に名前が設定されるけど、オリジナルが一定以上入ると自分で名前がつけられるようになる。

 私が参考にしたレシピは『レシピ/鍛冶:カッパーヘルム』だけど、全然形状が違うのでオリジナルと判定されたらしい。

 もちろん狙ってやっているので当然の結果だけど、おかげでしっかりと名前をつけることができましたよ、『バケツヘルム』と。


 まぁ性能的には『カッパーヘルム』と変わらないんですけどね!


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 簡易クッションをつけて被り心地の増した『バケツヘルム』を被って、残りの『カッパーインゴット』を『カッパーバケツヘルム』へと変える作業を続ける。


 自分の分が完成したので次は販売用の製作です。

 私が作る頭装備は全部『バケツヘルム』で決まっているのでこの辺は譲れませんよ。


 NPC(ノンプレイヤーキャラ)の生産者には初期の時点ではまったく勝てないので、販売する時も工夫が必要になる。

 プレイヤー側の生産者の少なさは周りを見ればすぐにわかるので、絶対に売れないということはないはず。

 そういった工夫という名の値下げ(・・・)を期待しているプレイヤーも多いはずなので、その需要を狙うのですよ。


 カンカンカンカン、イメージしながら叩くだけの作業をしてチクチクチクチク、簡易クッションを縫ってさぁ完成!

 無事に1つの失敗もなしに★3の同性能のものが5つできました。


 性能が高い物を作ろうと思ったらまずは何を置いてもスキルLvを上げることが重要。

 もちろん使用する素材も機材も重要だけど、高いランクの物を扱うにはスキルLvが必須。なのでまずはスキルLvなのです。

 スキルLvを上げるにはとにかく関連する行動を行うことが大事。さらには丁寧に根気よく行えばそれだけ経験値になる。

 丁寧に根気よくというのは私の得意分野なので万事おまかせあれなのですよ。

 一先ず『鍛冶』をするには素材もなくなったし、時間もちょうどいいところなので次の行動に移ることにします。

 初期資金はまだ残っているので無理をすればもうちょっと『鍛冶』を行うことはできるけど、別に急いでないので問題なし。


 【レンタル生産施設】に入ってから2時間も経っているので、さすがに大通りの人混みも解消している。

 でも間違いなく今度は近場の狩場が大混雑しているんだろうね。

 戦闘する気のない私には関係ないことだけど。


 メニューのマップを見つつも周囲の景色を楽しみながら散歩気分で歩いていけばすぐにお目当ての場所を発見。

 お次はここです、【ザブリナ王立図書館】。

 ちなみにこの私が選んだスタート地点の国は【ザブリナ王国】というところで、今いる街は【首都サブリナ】。

 【最初の街】という身も蓋もない通称があったりするけど、基本的な施設は全て揃っているかなり大きな街です。

 当分はここだけで十分楽しめるほどには色んな物がある。ゲーム的には先の街に行ったほうがいいのだろうけど、NPC(ノンプレイヤーキャラ)が経済を回しているのでランクの高い素材も手に入らないことはなかったりする。

 まぁもちろん輸送費やなんかやでお値段は現時点ではまったく手がでないし、スキルLv的にも同様です。


 【ザブリナ王立図書館】の外見は小さなお城といったところ。

 紙は普通に販売されているので本も希少品ということでもない。

 本屋も普通にあるけど、初期資金ではちょっと手が出ない程度の値段だから自然と選択肢は狭まってくる。

 まぁ普通に図書館があるんだから利用しない手はないでしょう、という簡単なお話なんですけどね。


 入り口までの階段を登って扉を開ければ、すぐに大きめのエントランスとその奥に見える本の山。

 蔵書量はβテストの頃から話題になるほどだったので圧巻です。

 まずは受付を済ませてさぁ読むぞ!


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ……とか思ってた頃もありました。

 βテストの結果から様々なところに修正が入っている【ふろんてぃあーず】なのですが、まさか図書館にも修正が入っているとは思ってませんでした。


 βテストの頃には無料解放されていた【ザブリナ王立図書館】は、本公開に合わせて初期入館料を取るようになったのです。

 しかも初期資金ではまったく手がでないお値段。さらには新たに増えたスキルまで必要という悲しい現実が待っていました。


 修正情報は結構膨大な量だったので、大きな部分しか公式HPには記載がなかったりするのが【ふろんてぃあーず】の運営方針。

 基本はプレイヤー達自身の手で開拓して見つけ出して欲しいというやつなのでしょう。何せ私達は開拓者という設定なのですから。


 だめなものは仕方ないので次に行くことにしましょう。

 本当ならプレイヤーが最初の狩りを終える頃まで図書館で時間を潰す予定だったのですが仕方ない。

 予定を繰り上げて街の散歩をすることにします。


 街の散歩というのも私のような生産者プレイをするプレイヤーにとっては結構大事な事です。

 何せ作ったものが売れなければ次を作る素材すら買えない。

 まぁ自分で取ってくるという手もあるにはあるけど、私のスキル構成では難しい。


 アイテムを売るにはいくつかの方法がある。

 1つ目はNPC(ノンプレイヤーキャラ)のお店に売りに行く。

 ただ、どこのお店でも買ってくれるというわけではないのです。

 NPC(ノンプレイヤーキャラ)もこの【ふろんてぃあーず】で経済を回して生活しているので需要という物が存在する。

 さらにはいくらでも買ってくれるわけでもない。NPC(ノンプレイヤーキャラ)がそれぞれ必要とする分までしか買ってくれないし、そこで粘っても足元を見られ、買い叩かれたりもする。

 もちろん相手も生活がかかっているので最初から値段交渉が必要になる場合も多いらしいです。


 2つ目は開拓者に販売する。

 プレイヤーはもちろんNPC(ノンプレイヤーキャラ)にも開拓者は当たり前のようにいます。

 装備を整えるのは戦う者にとっても、素材を集める者にとっても当然のこと。

 しかも現状ならプレイヤーは新規ばかりなので需要が急激に高まっている。

 βテストの時にも同じことが起こり、NPC(ノンプレイヤーキャラ)のお店から装備が一時的に消え去るほどの状況が起こったらしい。

 NPC(ノンプレイヤーキャラ)のお店にも在庫という制限があるので、一斉にプレイヤー達が購入すれば当然の結果となります。

 そこでプレイヤーの生産者の出番となるはずだったのだが、優秀なNPC(ノンプレイヤーキャラ)はあっという間にこの事態に対応してしまって、結果としてプレイヤーの生産者は出鼻を挫かれ、次第に数を減らして最終的には駆逐されることになったのです。


 でも今回は公式HPに記載されるほどこの辺の対策が取られているので大丈夫のはず。

 まぁそれでもNPC(ノンプレイヤーキャラ)が優秀なのは変わりないので、ちょっと怖いところでもあるのですけど。


 私が取るのももちろん2つ目の方法。

 というか1つ目の方法ではスキルLvが低い現状では買い叩かれるのがオチなので選べません。

 そこで役に立つのがこのスキル『商人』。

 装備すると効果を発揮するメインスキルの10個のうちに装備しておくと、スキルLvに応じて周辺の相場情報を自動的に集めてアイテムの詳細欄に記載してくれるという便利スキル。

 これで値段付けに困ることは少なくなるはずです。

 さらに『商人』のLvを上げていくとLv15で『商人アーツ/Lv15/露店開設』を使えるようになる。

 使用すると決められたエリア内でなら自分のお店を出すことができるようになります。

 もちろん名前の通りに露店なので、店舗ではなく地面に露店用の布を敷くだけという非常に簡単なものですけど。


 【ふろんてぃあーず】は本物のお店のような値札やポップをつけて店頭に並べるという商売方式も出来ます。でもシステム的に万引きや盗難を簡単に防げるので、基本的には販売リストを使用した方式になる。

 露店を開けば同じように販売リストが扱えるようになるので口下手な人でも商売が比較的簡単に行えるようになります。

 私は別にそういうわけでもないけど、便利なものは活用するべき。


 というわけでまずは『商人』のLv上げのために街を散歩して相場情報を集めていく。

 『商人』の初期のLv上げにはこれが一番効率がいいのはβテストの情報でわかっています。

 まぁNPC(ノンプレイヤーキャラ)の店舗周辺を重点的に散策しているということもあるんですけどね。アイテムがいっぱいあればそれだけ相場情報も集まるということです。


 色々な店舗を見てわかるのは、どのお店も品揃えが豊富なのに対して武器や防具を販売している店舗には初心者が扱うような物がほとんど残っていないという点。

 βテストの時にも起きた品切れ現象なのはすぐにピンときました。

 残っているのはかなり頑張っても手が届きそうにない値段の装備ばかり。

 NPC(ノンプレイヤーキャラ)の生産者がどこまで修正されているかで、プレイヤー側の生産者の進退が決まる。

 まぁどうなってても私はゆっくりのんびり楽しむだけなんですけどね。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 『商人』は10分ほどの散策でもうすでにLv10にまでなっている。

 【訓練所】で講習(チュートリアル)を受けているのでLv5にはなっていたんだけどそれでもかなり早いです。

 6倍くらいの時間をかけて鍛えた『鍛冶』がまだLv8なのを見ると、本当にLvが上がるのが早いのがわかる。


 でもさすがにLv10を超えると伸びが著しく悪くなってくる。

 相場情報を集めるだけでは限界になってくるのがこの辺りらしいです。

 ゆっくりと色んな店舗を隅々まで見て回ればLv15までいけるらしいけど、もっと簡単にLvが上がる方法があるのでそちらを実行に移すことにします。


 まぁぶっちゃけただ買い物するだけなんですけどね。

 ただ懐事情は非常に寂しいので、その辺との兼ね合いもあるので必要なものしか購入は無理でしょう。


 必要なもの……それは当然、布や糸です!

 中世ヨーロッパ調の世界観なので当然化学合成繊維なんかは売っていません。

 この辺は仕方ないので諦めるしかない。でもファンタジー系統のゲームである【ふろんてぃあーず】には代わりになる不思議素材がいくらでもあるのですよ。


 例えばコレ!


 ====

 スライム布

 素材/★3

 ====


 名前に少し躊躇しそうになるけど、実際にはさらっとしなやかな真っ白い布。

 ポリエステル素材が感じとしては一番近いかな?


 他にも色々と必要な物を購入すれば『商人』はあっという間にLv14。

 でももう懐がだいぶ寂しいので我慢我慢。


 今いる布屋さんの近くにオープンカフェがあるのでそこで一休みすることにしましょう。

 ミルクティーを頼んでのんびりとさっき買った布やら何やらでチクチクと縫い物を始める。

 【レンタル生産施設】にいけば魔導ミシンを借りられるけど別になくても裁縫は出来ます。

 なかなか美味しいミルクティーをのんびり嗜みながらの縫い物はとても贅沢な気分にしてくれる。


 このチクチクチクチク少しずつ縫っていくのが私は大好きです。

 暖かな日差しと美味しいミルクティー。

 まだ狩場に人が集中しているせいもあってオープンテラスから眺める通りは人通りもそれほど多くなく、静かすぎず煩すぎずの絶妙なBGMを奏でてくれている。


 あぁ……とても贅沢な時間です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ