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27 『ぶい』



「そういえばもうすぐアップデートですよね~。

 おふたりは何か準備はされてます~?」

「私は特にないかなー」

「街道」

「街道? 確か魔樹のせいで進めなくなってるっていう?」

「ん」


 私達がスタート地点として選んだ国――【ザブリナ王国】の【首都サブリナ】はNPC(ノンプレイヤーキャラ)の開拓者達が侵攻してくる魔樹をなんとか抑えている状況です。

 私達プレイヤーの開拓者は女神によって選ばれた者達で、世界中で起きている異変の対策として【ふろんてぃあーず】の世界にやってきているという設定です。


 【首都サブリナ】周辺の異変は現在確認されているだけで4箇所。

 そのうちトッププレイヤーが接触できた異変は姫ちゃんが言った、街道の異変です。

 他の異変に関してはNPC(ノンプレイヤーキャラ)の開拓者の報告だけで、プレイヤーはまだそこまで到達できていません。


「次の街への街道封鎖でしたっけ~?」

「ん。たぶんそこでレイド」

「あー、なるほど。イベント的にレイドボス戦って感じなのかなー?」


 街道の異変は魔樹の異常侵攻による街道封鎖です。

 現在【開拓者組合(ギルド)】でも大規模な伐採作業のクエストが予定されているとか掲示板でも噂されています。

 時期的にアップデートに合わせてクエストが発行され、伐採作業後にレイドボスと呼ばれる何組ものPT(パーティ)で協力しなければ倒せない超強力なボスが出現するのではないかと予想されているみたいです。


 ミカちゃんもレイドボス戦に向けて動いていて、追い込み用の『魔術陣』を発注してくれています。

 お店でも『魔術陣』の販売数が増えているのはその影響でしょうか。


 ミカちゃんなどの親しい人からの製作依頼は受けますが、私は基本的に知らない人からの製作依頼なんてものは引き受けません。

 お店の方にもその旨を張り出していますし、販売リストにある告知欄にも書いてあります。


 でもそれでも製作依頼は後を絶たないようです。

 店員さん達にもそういった依頼は全て拒否してもらっていますが、中にはしつこい人もいます。

 特に態度が悪く脅しに近いようなやり方をしてくる人もいたらしく、衛兵に通報したことも何度かあるみたいです。

 お店には防犯用の録画機能が標準でついているので、証拠はばっちりですし店員さんや他のお客さんに危害を加える事はシステム的に不可能です。

 直接私に依頼をするなど言って店内に居座ろうとしてくる人も実際にいたので、滞在制限も1時間で設定していたりします。

 店舗には様々なシステムがあるので有効活用しまくりですね。


 店員さんも店員経験がある人ばかりなので、システムを熟知してくれていてよくやってくれています。

 ちなみに衛兵に通報まで行った人は容赦なく出禁処理してあったりします。

 本当はこういったシステムは使わないならその方がいいのですが、仕方ありませんよね!


「ララルさんは何か準備してるんですかー?」

「私は特にないですね~。クラン設立に向けてたくさん作ってるくらいでしょうか~」

「あ、何か新作ありますー? 最近変装に凝ってるので色々欲しいんですよー」

「あります! ありますよ! これなんてどうですか! これはですね――」


 まったりとケーキを堪能しながらのお喋りがにわかに活気を帯びだします。

 姫ちゃんも甘ロリさんの作る服はかなり好きみたいですからね。

 私はフリフリが多すぎる服はちょっと厳しいんですけど、彼女はその辺も考慮してくれて私が好きなタイプの服も色々作ってくれているんです。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「次」

「ララルさんはすごいですよねー。よくこれだけ作れるもんですよー。大したもんです」

「いえいえ私なんて『公式メール』が送られてくるようなバケツさんに比べれば大したことないですよ~」

「あー……あれはしつこいバカをなんとかするために仕方なくですよー」

「え、それ私知らないです~教えて下さい~!」


 姫ちゃんが甘ロリさんの新作を装備して、狭い休憩スペースでファッションショーを開催している横では、少し前に起きた『公式メール』事件に話題が移っていきます。


 開店の目玉になった『トリプルオプション品』。

 掲示板でも抽選会の行方が生中継され、専用スレが立つほどの大盛況でした。

 結果として製作方法に何か秘密があるではないだろうかと監視され、変装しなければ外を歩くのも面倒になるほどでした。

 中には私が不正を行い製作したのではないかという意見も結構な数出ていました。

 もちろん私は不正なんて一切行っていませんので気にもしていなかったのですが、【ふろんてぃあーず】の運営側にたくさんの問い合わせがあったみたいです。

 実は【ふろんてぃあーず】は同一案件に対して一定数以上の問い合わせが合った場合のみ、「プレイヤー側の要請に応じて調査を行う」と公言しているのです。

 このプレイヤー側の要請というのが肝で、条件さえ整っていればどんな小さな問題でも調査するというのですから驚きです。

 まぁ条件を整えるのがまず難しいとは思いますけど。ゲーム内での問い合わせしかカウントされないし、ひとり一回しか同一案件にはできませんので、一定数以上というのはかなり大変です。


 でも今回はソレを満たしてしまう案件でした。

 まぁ同じものを今すぐ作れと言われてもできませんので、そう思われても仕方ないでしょう。


 そして行われた運営からの調査結果は、白。

 私に不正は一切なく、バグなどの利用または不具合も確認されないという結果でした。


 今回の件は私個人が調査対象という案件でしたので、キャラ名の公表権や『公式メール』での発表時期なども私がある程度決めていいというものでした。

 そんな運営からの確認が来ていたタイミングで、監視や直接私から秘密を聞き出そうとする連中が動き出したのです。

 変装をしだす前だったので、それまでにも何度か同じような輩はいたのですが、今回は沸点の低いバカが大勢の前で不正だなんだと大騒ぎを始めたので、ちょうどいいタイミングだと『公式メール』への対応をその場で決めたのです。


 まぁさすがに運営への返答の『メール』を送ってすぐに対応されるとは思わなかったので、今回は衛兵を呼んで証拠動画を渡して終わりにしようと思ったのですが……なんと送ってすぐに『公式メール』が全プレイヤーへと送信されたのです。

 当然騒いでいたバカにも『公式メール』は届き、周囲の自分への態度がおかしくなったことに気づいたバカも内容を読んでオロオロしていました。


 その後すぐに衛兵が駆けつけて、騒いでいたバカは証拠の動画と『公式メール』という、NPC(ノンプレイヤーキャラ)にとっては女神様からのお言葉によって私の無実は証明され、結構な罪となったようです。

 おかげで堂々と私からありもしない秘密を聞き出そうという輩はいなくなりましたが、監視の目が増えたのでこんな結果です。


「そ、そうだったんですねぇ~……。なんというか~お疲れ様です……」

「まったくですよー。面倒な人が多くて困ります」

「ん、面倒」

「姫ちゃんも大変だったんだよねー」

「姫さんもですか~?」


 姫ちゃんも掲示板に専用スレがあるくらいの有名人ですし、私と違って【レンタル生産施設】に引きこもっているわけではありません。

 なので実害はどちらかというと姫ちゃんの方が多いくらいなんです。

 でもそんな姫ちゃんは我が道を行くタイプの典型ですので、周りの目なんて気にしないし面倒な人達は実力で排除しちゃう感じです。


 【ふろんてぃあーず】での対人は、行う人にまったくメリットがないどころかデメリットしかないので色々な手段を使っているそうですが、『魔導糸手袋』はその辺でもものすごく使いやすいそうです。

 気付かれないように武器の軌道をちょっとだけ変えたり、MOB(モンスター)の動きを操作したりなど、姫ちゃんじゃなければ出来ないような事を平然とやっちゃうんだそうです。


 【ふろんてぃあーず】の対人判定はダメージ(・・・・)を与えたり、特定のスキルを使用しないと発生しないので、姫ちゃんのやり方では恐ろしいことに対人判定が成立しないのです。

 ダメージも与えないし、スキルも使ってませんからね……。


 私よりもよっぽど調査案件だと思うんですけど、そこは姫ちゃんです。隠すのがうますぎて、今では姫ちゃんの近くで監視行動をすると異様に動きのいいMOB(モンスター)に襲われたり、自分の動きがおかしくなるなど変な噂が流れていてパッタリといなくなったそうです。


「あ、あの噂って姫さんが実際にやってたんですか~……」

「姫ちゃんすごいもんねー」

「ぶい」


 若干引いてる甘ロリさんの反応が普通なのはわかっていますが、私にとっての姫ちゃんはすごい子なのです。これが姫ちゃんなのですよ。

 姫ちゃんに比べれば掲示板でちょっと騒がれている私なんて全然すごくないのですよ。


 まぁ否定されるだけですのでいいませんけどねー。


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