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26 『料理をすると鍋が爆発したりする』



 私の小さなお城――『バケツさんのお店 Lily』では主に重装系装備を中心に販売が行われています。

 でも売られているのは装備ばかりではなく、スキルLv上げなどで製作したポーション類や布や糸、『魔術陣』など結構色んな物が販売されています。

 売上トップは当然装備類なので、他のアイテムは基本的にスペースを取らないように数はそれほど多くないです。

 スキルLv上げのために製作されたアイテムのうち、ランクの高いアイテムは素材加工品として次の材料になったりしているので、売られているのはランクの低い失敗作ばかりだったりします。

 それでもある程度は売れているので、必ずしも失敗作というわけではないのですけどね。


 本日もお店で買取した素材を使って、商品をたっぷり製作して補充に向かいます。

 でも最近は少し変化がありました。

 『バケツさんのお店 Lily』の開店時に目玉商品として抽選で販売された、『トリプルオプション品』の『ブロンズバケツヘルム:百合』のせいです。


 現時点で、『ダブルオプション品』すら製作することができていないプレイヤー開拓者達をぶち抜き製作された『トリプルオプション品』は、はっきりいって話題になりすぎたんです。

 その結果、どうやって製作したのか、その秘密を探るために大勢の人達が私の行動を監視するようになったのです。

 それはプレイヤーもNPC(ノンプレイヤーキャラ)も関係ない状況で、非常に迷惑でした。

 その結果衛兵に証拠の動画と一緒に突き出された人数は10人ではききません。


 まぁ確かに『トリプルオプション品』と行かずとも『ダブルオプション品』を製作できるようになれば、それだけでかなりの大儲けが出来ます。

 それにまず間違いなく一品だけの『トリプルオプション品』よりも、たくさんの『ダブルオプション品』を製作できる人の方が話題になるでしょう。名声と富を一度に手に入れられるとあれば、そりゃあ群がるかもしれません。


 でも普通に考えて、その後に『トリプルオプション品』や『ダブルオプション品』が一個も売り出されない時点で疑問に思わないのでしょうか。

 限られた人にだけ販売しているとでも思っているんでしょうかね。

 まぁ確かにその方が面倒も少なく、販売先も明瞭ですけど。

 それでも掲示板に情報くらいはどうしても流れてしまうものです。

 そういった情報が1つもない現状を疑問に思わず、私を付け回す輩が多すぎたために……今私はトレードマークの『バケツヘルム』を魔改造するはめになっていたりします。


 今日のソレは一見すると装飾過多なフルフェイス型の兜に見える装備ですが、実は中身は『バケツヘルム』に色々なオプションをくっつけただけという変わった装備です。

 ちなみに性能は変化しません。装飾部分は装備とみなされていないらしいのです。

 『完了処理』前に装飾部分をつければオリジナルとして性能も変化したでしょうが、完成品にあとからつけているため、完成後のルールである『一定以上の形状変化』に抵触してしまい装備としてみなされないのです。


 でも別に私は問題ありません。だって目的は変装ですし。


 トレードマークの『バケツヘルム』以外にも全身装具系の装備で『サロペットスカート』を隠してみたり、マントを羽織ってみたり、毎日色んな変装をして監視の目から逃れようと色々やっていたりします。


 おかげで最近は違う【レンタル生産施設】を使っているとか、専用生産施設を購入したとか掲示板で噂が流れているくらいです。

 お店には毎日商品が補充されていますので、嫌気が差して引退したとかいう噂は流れていないですけど。

 フレンド登録している人はログイン状況がわかるので、そういった噂はまず広がらないと思いますけどね。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 最近生産者が少し増えてきて、【開拓者組合(ギルド)】での『製作アイテム評価システム』を利用する人が大分増えているようです。

 増え続けるプレイヤーによる全体人口の増加が結果として、生産者も増やしているというわけです。

 まぁミカちゃん曰く、掲示板の話題を席巻した私の影響も少しはあるらしいですが。


 そんなわけで『製作アイテム評価システム』を利用する人が増えて少し列ができています。

 ちょっと前までは考えられなかったんですけどね。いつもすごく空いてましたし。受付嬢さんに覚えられるくらいに。


 私のトレードマークが『バケツヘルム』という特徴ある装備だからでしょうか。

 最近の生産者はオリジナリティを出そうと躍起になっている節があります。

 『完了処理』でイメージをしっかり持てればオリジナル装備とはいかないまでも、形状をそこそこ変化させられて個性を出すことは可能です。

 そういった試みをしている生産者が多く、自身で装備して評価査定を受けに来ている人が多いのです。宣伝のためでしょうね。

 まぁだからこそ変装が早々ばれないんですけどね。


 私以外にも装飾過多な装備を身にまとった生産者は結構な数います。オリジナル装備の方も数人はいるんじゃないですかね。

 すごい人では幟旗なんかを背中につけている人なんかもいます。お祭りでも始めるのでしょうか。

 でもレシピ化できるかどうかはその後の頑張り次第です。レシピなしで同じものを作るのは実物という見本があっても結構大変ですからね。


 評価査定が終われば適当なお店に入って、変装を解いて私のお城に向かうだけです。

 毎回入るお店は変えているので待ち伏せされることはないです。

 深夜帯などは入れるお店が少なくて苦労しますけどね。

 変装をとけばさすがに見つかってしまいますが、お店に直行するので大した問題はありません。

 強引な手段に出るやつはそれこそ即効で衛兵のお世話になりますし。

 お店の周辺で待ち伏せしている怪しいやつらは、巡回の衛兵が掃除してくれるので、むしろお店の周辺の方が平和なくらいなんですよね。


 面倒でも今は変装などでやり過ごすのが一番です。

 こういった問題は時間が解決してくれますからね。有志の人達の検証結果やスキルLvが上がれば自然と解消されるものですから。

 一応わたしも『トリプルオプション品』製作の真実をありのままに掲示板で報告しているのですが、信じている人の方が少ないという悲しい現状です。


 これが他の開拓者と遭遇することが多い戦闘系なら面倒だったでしょうけど、大半を【レンタル生産施設】で生産している私は外出時に変装するだけですからね。

 ちょっとしたレクリエーション気分です。

 見た目を変えるのはいい気分転換にもなりますし。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「あ、バケツさん。どうも~、時間ピッタリですね~」

「こんばんはー」

「今日のお土産はなかなかですよ~」

「それは楽しみですねー」


 『ゲーム内時間』は今は深夜帯なので私のお店は当然閉まっています。

 ですが開拓者に昼夜は関係ありません。

 訪問者は平均身長の私よりも大分小さくて、可愛らしい愛玩系の顔立ちにぴったりの甘々ロリータファッションに身を包んだ、リラルル・ララルさん――甘ロリさんです。

 彼女は生産者オンリーのクランを立ち上げようとしていて、私を勧誘しているわけですが、最近はクラン勧誘はめっきり鳴りを潜めており、普通のお友達として割りと楽しい時間を過ごしていたりします。

 今日の訪問も事前に約束していたりしますし。


 ミカちゃんの助言のおかげで、適当にあしらって終わりのはずだった彼女とは今では友達です。さすがミカちゃんですね。

 そんな甘ロリさんは『裁縫』をメインにして、軽装系装備や肌着などでオリジナルをたくさん製作しています。

 結構スキルLvも高く、トップ生産者の1人であったりもします。


 手製の看板がなければ、一般的な住居にしか見えない私の小さなお城の鍵を開けて招き入れれば、いつものように休憩スペースで女子会の準備です。

 毎回律儀にお土産を持ってきてくれる甘ロリさんが小さなテーブルに準備を整えている間に、私は『店舗倉庫』に商品の補充です。

 今日もばっちり装備類は売り切れていますね。『魔術陣』のはけ具合もなかなかです。もう少し仕込みましょうか。

 商品を補充して買い取った素材を『個人倉庫』に移せば私の作業は終わりです。


「美味しそう」

「やっほー姫ちゃん」

「姫さんこんばんは~」

「ん、こんばんは」


 そうこうしているうちに姫ちゃんがやってきたようです。

 姫ちゃんやミカちゃんなどの私が特に信頼している人は、お店に登録して鍵がなくても入れるようになっていたりします。


 トレードマークの見事な姫カットに私が作ったフェイスマスク。その他の装備もほとんど私が製作したブロンズ系の『オプション品』で占められています。『オプション品』が製作出来次第、優先的に連絡を入れているので彼女の装備はかなり優秀なはずです。


 彼女のキャラ名はメカクレ姫カット――私と現実でも親友の姫ちゃんです。

 変わった名前ですが、それは私も一緒なので問題ありません。変わった名前仲間です。類友で親友です。

 最近では甘ロリさんの製作したフリル多めの肌着装備も愛用しているみたいです。今も袖口が広く作られた肌着装備はフリルでいっぱいです。


 私も姫ちゃんに釣られてテーブルの上に視線を向ければ、そこには色とりどりの素敵なケーキがあるではありませんか。

 これは確かになかなかのお土産ですね。


「クラン入りが確定したお菓子系生産者の方に特別に作ってもらいました~」

「おぉー」

「すごい」


 フリフリ多めの胸を張って手を広げ、美味しそうなケーキ達を紹介してくれる甘ロリさんの顔は実に嬉しそうです。

 彼女は私以外にも当然生産者を勧誘していて、交渉していた1人の勧誘に成功したみたいです。

 現状の【ふろんてぃあーず】での飲食にほとんど意味はありませんが、現実同様に美味しいものは美味しいのです。

 私にとってはそれだけで十分に意味があります。いえ、全ての女性にとっては意味があります!

 何せいくら食べても太りませんし、健康に気を使う必要もないですからね!


「ミカちゃんの分は後で渡しておくねー」

「はい、お願いします~」

「ん。美味しい」


 一足先にマロンケーキを確保した姫ちゃんの感想はいつも通りの抑揚のない言葉少な目なものですが、いつもよりも嬉しそうなのは伝わってきます。

 ちなみにミカちゃんは今日は欠席です。

 『ゲーム内時間』では深夜でも現実では朝ですので、徹夜明けでは無理だったみたいです。


「おいしー。ケーキなんて久しぶりだなー」

「ん~、やはりなかなかですね~。

 現状の素材ではとにかく研究が必要だそうで、ここまで持ってくるのもかなり大変だったみたいですよ~」

「そうなんですかー。料理は苦手だから尊敬しちゃうなー」

「ん」

「あれ? バケツさんは料理苦手なんですか~。器用だからそっち系も上手なのだとばかり~」

「あははー。経験がないんで実際にやったらどうかはわからないって感じなんですよー」

「なるほど~。今度挑戦してみたらいいですよ~」

「そういうララルさんはどうなんですかー?」

「私は~……」

「大丈夫、誰にでも苦手なのはある」

「あはは~……はは……」


 どうやら甘ロリさんは料理が相当苦手みたいですね。

 もしかして料理をすると鍋が爆発したりするタイプなのでしょうか。ちょっと見てみたいですね。



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