23 『たのもー!』
『ブロンズインゴット』の製作にたっぷり時間を裂き、合間に借りてきた本を読んでいればあっという間に時間は過ぎてしまいました。
『ゲーム内時間』で昼タイムの8時を過ぎれば、ほとんどのNPC店舗は開店していますので、当然目的の不動産屋さんもやっています。
前回行った南門付近の物件を取り扱っている不動産屋さんでもう一度住居なしの商売専用の安めの物件を見せてもらいましたが、やっぱり変化なしですね。
まぁ時間も全然経ってないので当たり前です。そんなにポンポン物件が空いていたら逆に怖いです。
一応目をつけていた南門の大通りから1つ通りを挟んだところにある、比較的【レンタル生産施設】にも【開拓者組合】にも近い物件を借りることにしました。
南門の大通りに面した物件はないことはなかったんですが、明らかに値段が違います。
開店までに露店や掲示板などで宣伝しておけば、一本くらい通りを挟んだところでもたぶん大丈夫でしょう。いざとなったらまた露店に戻ってもいいですし。
でもまずは見学からですね。
見てみないことにはなんとも言えないのでさっそく担当の人と一緒に物件見学へと出発です。
「ここが大通りの一番大きな空き店舗ですかー。びっくりするくらい広いですねー」
「以前の持ち主はそれなりの商会の方でしたので相応の広さとなっております。
2階が居住スペースとなります。今いるここが販売スペースとなりますが、広さは仰るとおり【首都サブリナ】でも有数の広さです。
奥には生産施設を置けるスペースも確保されておりますので、前途有望なお客様のような方には特にお薦めです」
「有望かどうかは知りませんが、いずれはこういうお店も持ちたいですねー」
「いえいえ、ご謙遜を。バケツさん様は手前どもの間でも大変な有名人でございます。将来有望な方にこそこういった物件はご紹介させていただきたいのです。
とはいえ、バケツさん様にもご都合がございましょうし、希望されていらっしゃる物件もございますのでこちらは参考程度にお留め置き下さいませ」
一応ということで大通りに面した物件も見学させてもらいましたが、大きなところはやっぱりいいですね。
自分専用の施設が置ける広さがある物件が最終的には欲しいです。
でもこれほどの広さの販売スペースはちょっといらないですね。商品の補充が大変ですし。
こういうところはたくさんのクランメンバーと共同で使ったりするのが理想でしょうか。あとは出品料金などを取ったりして場所を貸したりでしょうかね。
というか不動産屋さんにまで私の情報が回っているみたいですね。NPCも掲示板は利用できるので当然といえば当然でしょうか。
にこやかな笑みを絶やさない不動産屋さんに曖昧な笑顔で誤魔化して、本命の物件に移動です。
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わかってはいましたが、私のお城になるお目当ての物件はとても小さいです。
特に大きな物件を見た後だと尚更ですね。
居住スペースなしなので、販売スペースと休憩用の2部屋だけです。
在庫などは『個人倉庫』やお店専用の『店舗倉庫』を借りられるので、そこに入れておけばセキュリティ面でも利便性でもバッチリです。
ただしまだ私は『個人倉庫』を借りていないので、忘れずにあとで契約しておきましょう。
『店舗倉庫』に関しては契約を済ませれば使用することができますが、設定されている枠は店舗ごとに決まっているので、この場合は一番小さいものになります。
それでも今使っている拡張済みの『鞄』よりも枠がありますので、早々困ることにはならないでしょう。
小さい物件ですので見学も本当にあっという間に終わりです。
問題も特にないのでここで決定ですね。
そのまま不動産屋さんに戻って早速契約です。
初回の契約は『ゲーム内時間』で30日の賃貸契約にしておきました。
継続するなら忘れずに再契約しないとだめですね。
物件情報の閲覧や見学は特に何の制限もありませんが、契約段階になると『商人』のLvが必要になってきます。
これは露店を開くのに『商人アーツ/Lv15/露店開設』が必要なのと同じで、店舗を購入または借りる際に『商人アーツ/Lv50/契約』が必要になるからです。
もちろん私は『商人』のLvが50以上あるので問題ありません。露店を延々やっていましたので当然です。
ちなみに開拓者は一切の税が免除されているのでその辺は考慮に入れなくても問題ありません。
開拓者から税を取ると貴重な戦力が居つか無くなる恐れがあるなど、魔樹に対抗するためにただでさえ人出がほしい国にとってデメリットでしかないから、らしいです。
契約時に30日分の賃料を支払い、鍵を受け取ればもうお店の確保は完了です。
掃除などはシステム的に必要ないですし、販売スペースに必須となる棚などは備え付けのものがあるので問題ありません。
もう1つの部屋にも小さなテーブルと椅子があるので休憩スペースとしては十分でしょう。
必要ならあとで自分で作るなり買ってくるなりすればいいですしね。
これであとは店員さんを決めれば営業を開始できます。
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さっそく自分のお城へと向かいます。
さっき見学したばかりですが関係ありません。あの時点では私のお城ではありませんでしたからね!
「ミカちゃんと姫ちゃんにも『メール』しておこっと」
ルンルン気分で『メール』を飛ばし、戻ってきましたよ、私のお城ちゃん!
鍵を開けて入り、備え付けの『魔道具』の照明をつければ小さな販売スペースが顕になりお出迎えです。実に小さいですね! 5人も入れば満員になってしまうレベルです。でもそこがいい!
備え付けのカウンターの奥には販売スペースよりも小さな休憩スペースです。
店員さん2人と私が一緒に休憩したらいっぱいになりそうですね! 実に狭いです!
テンションが上がりすぎて自分でもちょっとおかしいとわかりますけど、楽しいんだから仕方ないです。
小躍りしちゃいそうですよ!
無駄に『店舗倉庫』を開け閉めしたりして、3脚しかない椅子とちいさなテーブルのレイアウトをちょっとずつ移動してみたり、色々と遊んでいると姫ちゃんから「着いた」と『コール』が来ました。
「いらっしゃいませー!」
「ん。おめでとう」
「ありがとう、姫ちゃん! 私のお城だよー嬉しいよー。ミカちゃんの言うとおりに行動してみてよかったよー」
「ん。羨ましい」
「えへへー」
お客さん第一号は姫ちゃんです。
販売スペースを案内すること20秒。次は休憩スペースです。こちらは10秒とかかりませんね! 狭いです!
「次は店員」
「そうなんだよねー。一応候補の情報は貰ってきたからミカちゃんが来たら一緒に決めよー」
「ん」
狩りを中断して駆けつけてくれた姫ちゃんから素材を買い取ったり、耐久値の減った装備の修復をしたりして販売スペースを試しに使ってみましたが、特に問題はありませんね。
販売も買取も設定ができるので店員さんが間違うこともないでしょう。
基本的にはシステムがほとんどやってくれますので、店員さんはシステムで設定できないことへの対応です。
店員さんで判断できない場合は私に『メール』か『コール』が来ますし、私がログインしていなければいないで臨機応変に対応してくれるはずです。
曲がりなりにも【開拓者組合】からの紹介ですのでそのくらいは問題ないそうですよ。
姫ちゃんとお店ごっこをしていればお客さん第二号のご到着です。
「たのもー!」
「いらっしゃいませー!」
「らっしゃい」
「おーせっまいねー。でも最初だしこんなもんだよね。
今の段階で店舗契約できるプレイヤーなんてほんの一握りなんだし、狭くても全然ありだよ!」
「ん。次は大きいところ」
「大きいところも見学だけしてきたよー。大通りの空き店舗」
「あーあったあった。あそこかーどうだった?」
「どう?」
「びっくりするくらい広かったよー。2階は住めるし、1階の奥には施設をいっぱい設置できるスペースがあったくらいだよー?
それでも店舗スペースがもうすんごい広いんだからびっくりしちゃったよー。
それに案内してくれた職員さんがね――」
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3人でたっぷりとお喋りしたあとは店員さん候補の選定をしたり、ミカちゃんから頼まれていた『魔術陣』の残りを販売したりしました。
楽しい時間はあっという間で、ミカちゃんに『コール』の嵐が来たところで解散となりました。
トッププレイヤーの1人であるミカちゃんは狩りに忙しいのです。
彼女は前衛の要なのでミカちゃんがいないと効率が悪くなってしまうそうです。
人気者は辛いですね。
残念ですけどたっぷりお喋りもして英気も養えたので大丈夫です。
私も色々やらなければいけないことが山積みですからね。
「開店の日取りが決まったらちゃんと『メール』するのよ」
「待ってる」
「もちろんだよー。2人には絶対知らせるよー」
2人と別れたあとは私のお城にしっかりと施錠して【開拓者組合】に向かいます。
『個人倉庫』を借りて、店員さんを雇わないといけないですからね。
受付嬢にその旨を伝えると『個人倉庫』に関しては本当に簡単に済みました。
『ゲーム内時間』で30日毎の更新の契約となり、解約しない限りは所持金からの引き落としで自動更新となるタイプのようです。
枠もいくつか選べたので下から2番目の枠にしておきました。
それ以上の枠は桁が1つ増えてしまう金額になるし、今のところ必要ありませんからね。
ちなみにこの契約に『商人』スキルは必要ありません。
『個人倉庫』は戦闘系の開拓者も使うものですからね。特別な配慮みたいです。その代わり【開拓者組合】への登録は必要ですけど。
『個人倉庫』の契約が終われば次は店員さんです。
前回同様個室に案内され、対応してくれたのは同じ職員さんではありませんでしたが話は通っていたようで、もらっていた情報からみんなで相談して決めた人達を面接させてもらうことになりました。
【開拓者組合】からの紹介なので面接自体行わないパターンも多いそうですが、私は練習も兼ねているのでやりたいのですよね。
時間的にまだ夕方前の時間なので、1時間後に面接ということで決まりました。
一応面接で聞くことはミカちゃんと姫ちゃんと話し合ってあるので大丈夫ですが、ちょっと緊張しますね。
案内された個室はそのまま使っていいということだったので、待ち時間は借りてきた本でも読んで気を紛らわせましょう。
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結果からいうと、面接は概ね和やかに終わりました。
絞り込んでおいた店員さん候補は、私の負担にならないような性格の人を選んであったのも理由の1つでしょう。
何せ私のお店の店員さんなんですから、私の負担になるような性格の人を選んでしまっては辛いです。
面接結果から最終的に雇用する事にした3人を【開拓者組合】側に伝えて、その場で雇用契約やシフトについても希望を聞いたりしました。
開店日から3日は3人全員に出勤してもらいますが、それ以降はシフト制の予定です。
滞り無く全てが済み、【開拓者組合】側へ仲介料などの支払いをして完了です。
開店日は『ゲーム内時間』で明後日の昼タイムの8時です。
それまでに販売する装備やら何やらを揃えないといけません。
とはいってもまだ時間はありますし、露店をしながら宣伝もするつもりです。
さぁ忙しくなりますよー!




