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22 『やっぱり理想と現実は違います』



 ブロンズ系装備の安定生産は出来ても、やはりまだ『オプション品』となると話は別になります。

 買い取った素材の量も量なので『オプション品』が出始めるだろうLvまでスキルLvを上げるのは苦労しませんが、その分時間がたっぷりかかってしまうのは仕方ないでしょう。

 普通の感性の持ち主ならずっと生産作業を続けるのは苦痛のはずです。ミカちゃんがそう言っていましたのでそうなのでしょう。

 でも私はちっとも苦痛とは思わないですけどね。

 むしろ楽しいです。カンカン叩くだけで色んな物が出来上がっていくんです。

 何度見ても、何度やっても楽しいです。

 こういうのが向いているというのでしょうね。


 それでもさすがにずっとカンカンしていると飽きてくるのは否めません。

 そんな時にはコレです。

 細かく似たような図形や文字と思しきものがたくさん散りばめられた、『魔術紋様』を正確に写していると心が洗われるような気分になります。

 これを癒やしと言わずしてなんと表現するべきなんでしょう。いえ、癒やしで正解なのですからいいんですけど。


 ミカちゃんから頼まれていた『魔術陣』は先程お喋りした時にいくつか渡してあるので今描いているのは残りなんですが、そんなこととは関係なくずっと『魔術陣』を描いていたいです。


 でも私は知っています。我慢は大事だということを。

 好きなことばかりしていてはいずれ薄れてしまうものなのです。

 空腹というスパイスが何物にも勝る存在であるように、『魔術陣』は私にとってのご馳走なのです。

 美味しく食べるためには他のやるべきことをしっかりとこなしてお腹を空かせなければいけないのですよ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 夕食や入浴などの諸々を終わらせ再ログインし、生産作業の終わりが見えてきた頃には『ゲーム内時間』はもうすぐ夕方です。

 このままではまた図書館に行く時間がなくなってしまいます。

 慌てて【レンタル生産施設】を飛び出し、図書館に向かいますが今日はゆっくり図書館内部で読むのは諦めて貸出料金を払ってでも本を借りて行く事にしましょう。

 1冊1000ニルとお高い貸出料金ですが、だいぶ余裕がある今なら問題ありません。3冊借りてもブロンズ系装備1つ売れば、その利益幅でお釣りが来ますからね。


 時間が合えば図書館に足繁く通っていますので、『言語』のLvもかなり上がっています。

 でもスキルLvが上がっても特に何もないので存在を忘れそうになりますが、装備していないと本が読めないのですぐに気付けます。

 本当になんでこんなスキル作ったんでしょうね。不思議です。


 無事読む予定だった本を3冊ほど借りられました。

 貸出期間は『ゲーム内時間』で1週間だそうです。

 1週間したら強制的に本は回収されるので返しに行かないでもいいですが、たぶんその前に読み終わって返すでしょうね。

 ちなみに一度に借りられる本は『言語』のスキルLv割る10冊分までだそうです。借りた本を全部返さないと次は借りられません。

 意味ありましたね、スキルLv。びっくりです。


 【レンタル生産施設】への帰り道では甘ロリさんへの返事を考えていました。

 姫ちゃんの助言もあり、断ることばかり考えていた私は今はもういません。

 でもただクランに入るのではすぐに抜ける事になりそうなので意味が無いです。

 最低限、私にメリットがあるような条件を出させてもらいましょう。


 ミカちゃん曰く、私は曲がりなりにもトップ生産者の1人という話ですし、実際に色んな事が生産を通してわかっていますし、掲示板などからの情報収集もしています。

 そういった事情からそれなりの情報通になっている私とギブアンドテイクを前提とした情報交換というものが本当に実現するのか怪しいです。まぁ全部知っているなんて烏滸がましいことは言いませんけど。

 それに甘ロリさん経由で製作依頼などされても困りますし、ランクの高い素材加工品を求められてもさらに困ります。


 クランに入るということは甘ロリさんなど、他のクランメンバー達との交流などもあるでしょう。

 中には反りが合わない場合だってあるはずです。


 ミカちゃんには「何も考えずに飛び込んでみろ」、と言われはしましたが、本当に何も考えずにクランに入るわけにはいきませんからね。

 色々と考えてしまうのは仕方ないでしょう。

 フレンド登録みたいに簡単で割り切りやすいものだったらよかったのに。


 色々考えながらの道はあっという間です。


 【レンタル生産施設】で再度個室を借りて残りの作業を片付けると、あっという間に本日のログアウト時間です。

 まだ材料は残っていますが仕方ありません。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 翌朝、諸々を済ませてログインです。

 『ゲーム内時間』は営業している店舗も少なくなる深夜帯ですが、相変わらず活発に活動している開拓者はいっぱいいますので評価を貰って露店で販売です。


 前回の露店で私がブロンズ系装備を安定生産できるようになった事はすでに掲示板にも載せられていて、【開拓者組合(ギルド)】で評価査定を待っている間にもそわそわしていた開拓者の人達がいっぱいいました。

 そういった経緯もあり、やはり露店を開けばすぐにブロンズ系装備は完売です。

 今回も結構な量作ってきたんですけどね。

 そうはいっても個人で作れる量ですので、全体を賄えるわけなんて当然ありません。


 手に入れられなかった人もかなりいたようですが、特に何かあるわけではありませんでした。

 それでも掲示板に情報が載せられているので、露店を開くのはいらぬトラブルを呼びこむことになりそうな気がします。

 こういった場合にこそ店舗での販売が有利に働くんです。


 まず販売は私ではなく店員さんにやってもらえますし、店で大きな騒ぎを起こせばすぐさま衛兵がやってきてくれますからね。

 抑止力としてもとても大きいです。

 例え衛兵が来るほどではない騒ぎだったとしても、店舗の持ち主は個別に入店制限をかけることができます。

 店員さんもお店に付属のお客さんのチェック機能を使えますので、私がいなくても警戒すべき相手を判別してくれます。

 ですのでしっかりした店員さんを雇わないと、また別なトラブルの元になりますのでその辺も大事です。

 一応【開拓者組合(ギルド)】を通して店員さんを雇う事が出来るので、ある程度は信頼性があるみたいですが、最終的に採用するのは私自身です。

 人を雇った経験なんてまったくないですから、練習したいです。切実に。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 買取も順調に進み……というかまず買取が出来ないと次のブロンズ系装備の販売が出来ないわけですから、皆さん積極的に売りに来てくれます。

 そんな買取対象素材を持ち込んでくれる開拓者の人の話では、少しずつ★3のブロンズ系装備を販売する露店が増えてきたそうです。

 でも残念ながら本当に少しだけで、私みたいに大量に販売するところはまったくないそうです。

 大量に作るのは時間かかりますしね。

 さらにはプレイヤーの生産者自体が少ないですからね。まだまだ私の一人勝ち状態は続きそうです。


 買取をある程度のところで辞め、店舗を借りる資金を確保しておきます。

 色々考えて賃貸で店舗を借りることに決めました。

 でも不動産屋さんは閉まっている時間なので、店員さんの募集をするために【開拓者組合(ギルド)】に向かいます。


 適当な受付嬢に要件を伝えると別室に案内されました。

 店員さんの募集自体そう多い案件ではないでしょうから、カウンターではなく別室での対応になるみたいです。

 まだ借りる店舗も決まっていませんが、営業時間は販売対象が24時間いつでも活動時間の開拓者ですので、出来れば24時間営業したいです。

 でもどのくらいの人数雇えば可能なのか、あんまりよくわかっていません。


 わからないのであれば詳しい相手に聞いてみればいいんです。

 なので担当の人に色々と聞いてみるつもりです。

 今日すぐに店員さんを決めなければいけないわけじゃないですからね。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 やってきた中年の職員さんに色々相談してみたところ、24時間営業はやめたほうがいいという結論に達しました。

 雇う必要のある人数も予想よりも多く、さらには深夜帯の給金は割増になるので資金的にも辛いです。

 現状ではメインとなる販売品のブロンズ系装備が補充されればすぐに売れてしまうので、その後は販売品にもよるが店を開いている意味が買取くらいしかなくなってしまいます。

 それなら一般的な営業形態でやった方が面倒も少ないし、金額的にも優しいです。

 買取も一般的な営業時間帯で十分に量が集まるだろうという話です。実際露店を開く短い時間でも問題なく買取できていますしね。

 雇用も練習という部分がありますので無理をする意味はまったくありません。


 聞きたいことは聞けましたので、店員さん候補の情報を貰い一旦辞去することにします。


 やっぱり理想と現実は違います。

 一先ずは一般的な営業時間で店舗を借りてやってみようと思います。

 経過を観察しつつ、販売品、資金面で余裕が出てきたら営業時間を変更して雇う人数も増やしたらいいんですからね。

 いっそのこと大きなお店を購入してしまうのも手です。まぁ資金的に遠いですけど。


 『ゲーム内時間』はまだまだ深夜帯です。

 夜遅くにお仕事とはいえ、懇切丁寧に相談に乗ってくれた職員さんには感謝の念が堪えません。

 育毛剤とか作れたら是非とも差し入れしてあげましょう。

 なかなか生え際の後退が激しい感じでしたので。


 店員さんの次は店舗を確定させるわけですが、残念ながら今の時間は不動産屋さんはやってません。

 ですので休憩代わりに借りてきた本を読みつつ、のんびり生産しながら待つことにしましょう。


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