16 『私結構嫌いじゃないですコレ』
【ザブリナ王立図書館】は小さなお城のような建物です。
紙が安く売っているので本はそれほど貴重品というわけでもありませんが、それでも希少な本なども当然あるみたいですので、図書館の警備は結構厳重です。
入り口への階段を登る前に衛兵が2人。登ったあとにも2人。
さらには受付のそばにも2人いますし、奥の階段脇には4人もいます。
まぁ別に私は何か悪さをしにきたわけではない、真っ当な利用者なのでそんなことは気にしないでもいいのですけどね。
ただまぁ、普通に物々しいです。
最初の最初に資金不足という形で出鼻を挫かれた入館料の1万ニルを払うと、『入館パス』をもらえました。
以後コレを見せれば入館料は必要ないらしいです。
ちなみに本を借りる場合は保険料として、1冊1000ニル程度かかるみたいですね。
システム的に延滞できない仕様らしく、期限が過ぎると勝手に回収されるそうです。現実にあったらとても便利なシステムですよね。
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図書館の中は衛兵以外はほとんど人がいません。
みんな狩りや生産に夢中で、図書館でゆっくり本を読もうなんて心境にはならないのでしょう。入館料も高いですし。
実際私も余裕ができるようになった現在まではずっとこれませんでしたし。
というわけでさっそく読みましょう。
βテストの頃の図書館というものは本を読むだけの場所でした。
ソレ以外では少しだけ関連するクエストがあった程度で、サブストーリー的なおまけの知識が手に入るだけの場所でした。
事実私もそのサブストーリーが読みたくてきたのですが……蓋を開けてみたら何やら本公開時の修正が入館料だけではなかったようです。
あ、もう1つ大きな修正ありましたね。
それは本を読むためのスキル『言語』です。
NPCが話す言葉も書かれている文字も日本語なのに、なぜか本を読むのに必要となるこのスキル。
装備していないとほとんどの本が一切読めないという謎スキルです。
受付の司書さんにもその辺の説明を受けていたのでもちろん取得しておきましたが、今のところ本を読む以外ではまったく必要ないスキルです。
たぶん何かの派生スキルの前提となるスキルだったりするのでしょう。
βテストにはなかったスキルなので育った後が楽しみですね。
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【ザブリナ王立図書館】の蔵書はかなりの量です。
それこそ現実の市営の図書館程度の量は軽く超えています。
でも残念なことに入館料を払っても2階に上がることができないので、半分近くは読めないらしいです。
2階にあるのは所謂禁書などの類というほどではなく、その一歩、二歩手前くらいの制限がかかっている書物なのだそうです。
どうしたら読めるようになるのかは「信用を得て下さい」と司書さんに言われただけでした。
【ふろんてぃあーず】の信用とは普通は社会的信用――【開拓者組合ランク】でしょうか。
認知度も高い重要なランクですので信用としては十分だと思います。
あとはまぁ司書さんへの個人的な信用ですかね。
この辺は普通に図書館通いをしていれば得られそうな気がします。
利用態度が悪かったり、本を破損させたりする気なんて私にはありませんしね。
図書館では静かに、本は大事に扱いましょう。
歴史のコーナーで見つけた『サブリナ王国物語』を読み終える頃には、βテストと本公開での図書館の位置づけの違いを知ることができました。
なんと、いくつかのレシピを得ることが出来たのです。
普通はレシピはクエストで入手したり、購入したりするものです。
ですが、『サブリナ王国物語』を読んでいる間に得られたレシピはなんと3つ。
1つ1つ手に入れていかなければいけなかったレシピが1冊で3つというのはちょっと驚くべきことです。
【訓練所】で貰える初級のレシピ以降はレシピ自体の入手が面倒になる事を知っていた私としては、この副産物はとてもうれしいです。
いえ、違うのでしょうね。これは副産物ではなく、図書館というものはレシピを集める場所という、位置づけに変わったのです。
本公開からの修正点なので知っている人がほとんどいないのも頷けます。
よく見れば図書館利用者は割りと裕福な衣装をまとっている人ばかりです。
戦闘用の装備をしている人なんて私の『バケツヘルム』くらいなものでしょうか。
つまりはここにはプレイヤーは私だけのようです。
これでは掲示板で話題にならないのも頷けるというものです。
βテスト時にただのおまけ要素として存在していた図書館が、これほど有用な施設になっているとは誰も思わないでしょうしね。
さらに言えば、レシピは生産者が必要とするものであり、譲渡するには一定数製作しなければいけないのでますます戦闘をメインとした開拓者には必要がないものです。
いずれは発覚する事実でしょうが、今は私だけの秘密として掲示板への書き込みは控えてさせてもらいましょう。
せっかく人も少なくて静かに過ごせる場所なのですから。
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昼食休憩挟みつつも閉館時間までたっぷりと読書を楽しみつつ、レシピ集めを続けました。
おかげで結構な出費となるはずのレシピが、それなりの量集まってくれました。
これだけで入館料の元は取れた感じです。
ずっと同じ体勢で読んでいたので体がバキバキに固まってしまったような気分になっていますが、実際にはそんなことはありません。
でもついつい体を伸ばしてしまうのは仕方ないことですよね。
図書館をあとにして【レンタル生産施設】へと足を運んでいるとミカちゃんから『メール』が届きました。
内容は「『魔術陣』を売って欲しい」というものでした。
それなりに露店で売れ出したので、そろそろ来ると思っていましたので予想通りです。
在庫も増やさないといけないし、ちょうどいいですね。
でも『魔法紙』を購入していてはお金がいくらあっても足りません。
私は生産者です。なるべくお金をかけずにやりくりするなら製作してしまえばいいのです。
図書館に行くまでは『魔法紙』に関しては店舗で購入するものという認識でしたが、今は違います。
入手したレシピの中に『レシピ/錬金術:魔法紙』があったからなのですよ。
βテストの頃には『魔法紙』のレシピは発見されていませんでした。
なので私も『魔法紙』は作れない物だと思っていたのです。素材となりそうな紙は売っているのに。
そんなわけで新たに『錬金術』のスキルを取得して、さっそく【訓練所】で講習を受けてきました。
図書館の閉館時間までいたのですっかり時間は夜タイムです。
24時間営業の【訓練所】に感謝ですね。まぁまだ店舗は元気に営業している時間ですけど。
露店や店舗を周って必要な素材を買い集め、お馴染みの【レンタル生産施設】へやってきました。
レシピが手に入ったとはいえ、すぐに『魔法紙』を作れるようになるわけではありません。
まずはスキルLvをあげないことには失敗してしまいますからね。
『錬金術』の基礎といえばポーションです。
言わずと知れた回復アイテムの代表格ですが、【ふろんてぃあーず】でもそれは変わりません。
初期スキルで選べる回復手段が『祈り』か『生命力回復力強化』くらいなので特に重要です。
『祈り』はかなりLvを上げないと即効性のある回復手段にはならないし、基本的には生命力回復力を向上させる感じになります。
なので序盤はアイテムでの回復が基本手段となるわけです。
NPC店舗にも在庫という制限がある以上はポーション不足が問題になりそうに思われますが、そこは戦闘系のプレイヤーの生命線なので、兼業生産者のほとんどが錬金術を取得して対策していました。
おかげでポーション不足にはなっていないようなのですが、逆に言えばポーションで稼ぐのは難しいということです。
そういった傾向を予想していたのもあり、『錬金術』は取得していなかったのですが思わぬところで出番は来るものですね。
今日から私も錬金術士デビューです!
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ポーションは基本的に講習報酬として貰えた『初級錬金術セット』に入っている『乳鉢』と『乳棒』で、素材をすり潰して液体と混ぜながら『アーツ』を使用して作ります。
この液体というものが曲者で、レシピには本当に液体としか書いてないのです。
でも素材として存在する液体は、ただの『水』や『草原の湧き水』、『清水』、『蒸留水』などたくさん存在します。
ちょっと加工すればまた別の液体が作れますし、掲示板にはポーションを煮詰めて濃くした『濃縮魔法液』なんてものもあるという話も出ていました。
当然ながら使用する液体によってランクが代わり、性能面にも影響してきます。
さらには複数の液体を混ぜることによって、また違うポーションを製作できるなど、かなり奥が深い事になっていたりします。
研究好きな人には堪らない仕様でしょうね。
掲示板にも専用のスレが立っていて、激論が交わされているほど熱いスレになっているくらいです。
まぁ私はその結果から導き出された美味しいところだけを掬わせていただくことにしましょう。
欲しいのは『魔法紙』が製作できる程度のスキルLvですし、あとはまぁ売れればいいかな、と。
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ゴリゴリゴリゴリ、ポーションを作る作業というのは無心になれますね。
私結構嫌いじゃないですコレ。
このすりつぶす作業はインゴットを作る際の不純物排除の感覚に似ているような気がします。
どちらも無心になれますから。
スキルLvが低いうちは複数の液体を掛けあわせた、凝った配合なんてしても失敗するだけなので単純なものを作っていきます。
それでも至って普通の性能の『生命のポーション・小』が出来上がったので問題ありません。
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生命のポーション・小
アイテム/★3/HP+50/使用回数3回
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ちなみに出来上がったポーションには入れ物となる『瓶』が必要です。
これがないと持ち運びできませんからね。
『瓶』の大きさによって出来上がるポーションの使用回数が変化したりもします。
今回は小サイズなので使用回数3回のようです。
さぁ、この調子でどんどん作って『魔法紙』を目指すとしましょう。




