15 『という具合に大混乱です』
残りのレンタル時間を考えると作ったことがないものよりも、作ったことがあり、時間が読める物を作っていくことにした方がいいでしょう。
『バケツヘルム』は当然として、あとは『カッパーグリーヴ』なんかを作っていくと『オプション品』がいくつか出来たのでラッキーでした。
『カッパーグリーヴ』は『耐久強化・微』だったので一応ラッシュさんに購入するか『メール』で聞いてみましたが、「今回はパス」ということでした。
まぁ耐久は攻撃を受ければ受けるほど減るとはいえ、すぐになくなってしまうというものではないのでいらないですよね。
盾などのよく攻撃を受ける装備ならありですが、足装備ですからね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
全ての『カッパーインゴット』を処理し終わったところでミカちゃんから『IDメール』が届きました。
『現実時間』ではまだそれほど時間は経っていないはずなのですが、寝てないんでしょうか。ちょっと心配です。
ミカちゃんからの『IDメール』の内容は自分もわからなかったので、掲示板で製作者は伏せつつも見た目や性能を載せたので後で反応を見てみてほしいというものでした。
ほんと寝ないで何やってるんでしょうこの子は。
掲示板に載せたことに関しては特に問題ないのでいいのですが、徹夜明けなんだからそれより寝て欲しいところです。聞いた私がいうことじゃないと思いますけど。
掲示板を確認してみましたが、反応はなかなか良い感じですね。
お店で売っているレベルの物だという書き込みには大げさだと思ったりもしたけど、欲しいという書き込みも多いようです。
ですが値段に関してはそこまで高値にはならないみたいですね。やはり性能がいまいちなせいでしょうか。
その他にも大金を持っている人が効率を求めているプレイヤーが多いのも原因でしょう。もう少し時間を置けばデザインにも目が向いて値段が上がる気がします。
私の装備も空いている箇所の方が多いくらいなので自分で装備することにしましょう。
掲示板に載せたものなので装備していたらいくらか反響はあると思いますが、すでにバカ事件のおかげで知名度が高くなっているので今更です。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
レンタル時間も終わりに差し掛かり、買い取った素材もある程度は使ったのでコレ以上の延長はしないで売りに行くことにします。
でもその前に【開拓者組合】で評価してもらうのを忘れてはいけません。
結構な数を作ったのでたくさんの評価を貰えるはずですからね。
ちなみに消耗品の場合はいくつかセットでなければ評価はもらえないみたいです。
ポーションとか1個1個評価が貰えたらそれだけでランクがすごいことになりそうですし。私の大好きな『魔術陣』は2枚で評価対象みたいでした。
評価判定待ちでボーッと【開拓者組合】の中を眺めていると、私の装備している『サロペットスカート』がオリジナルであることに目聡く気づいた人が何人かいるみたいです。
PTメンバーと何やら話し合ったあとにこちらに近づいてくる彼らは、装備一式をしっかりと全員分集め終わっている脱初心者組のようです。
初めたばかりでは当然装備が揃っていないのは当たり前です。
狩りをしたり、商売をしたりして装備をきっちりと段階的に揃えている人は順調に進んでいる証。
軽装系はあまり製作していないので詳しくありませんが、PTメンバーの半分くらいは重装系で揃えているようなのでわかります。
カッパー系で統一されていることからも、彼らがトッププレイヤーなどの効率組ではないことがわかる。
効率組はまず最初の最初にNPCの店舗でカッパーを通り越して、ブロンズ辺りを数人の初期資金を合わせて購入していたりしますからね。
見た感じだとブロンズ系がないのでそう判断したわけです。
ということは次に求めるのは――
「すみません、今時間よろしいでしょうか?」
「はいはい、大丈夫ですよー」
「よかった。実は私達、1段階目の装備で『オプション品』を探していまして、もし持っていましたら交渉させていただけないかと」
1段階目装備とはカッパー系などの最初の最初に製作できる装備群の通称です。
カッパー系と言わないのは求めているのが重装に限らないからでしょう。
掲示板などである程度知名度があるといっても、それは開拓者全員が知ることではありません。
なので見たこと無い装備である『サロペットスカート』と『バケツヘルム』を装備している私を見て重装、軽装どちらもいけると思ったのかもしれません。
「今評価してもらっている中にいくつかあるので、それでよかったらいいですよー」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「とりあえずお礼は交渉後ということでー」
「はい、よろしくお願いします」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
評価査定から返ってきた装備の中から『オプション』のついているもので、彼らの目に止まった物の値段交渉を初めてみると、どうやら彼らは情報収集が足りないことがわかりました。
「――つまり、『オプション品』納品クエストの値段は相場よりも安いのですか……」
「だからこそ残っているのですよー。今ならアレに2,3割増しで露店に並べてもすぐ売り切れますよー」
「……ほらやっぱりウチの言ったとおりやん」
「いや、うん……ごめん」
まぁ簡単に言えば彼らは『商人』スキルを持っていなかったので相場情報を知らなかったみたいです。
それで納品クエストであった『オプション品』の値段を参考にしてしまったわけです。あの誰も受けなくて残っているクエストを。
戦闘メインの開拓者にはよくあることだと思います。
露店を見て回ってもタイミング悪ければ『オプション品』には出会えないし、出会えたとしても相場通りに売っているかも露店主次第です。
さらにはまだ現状では『オプション品』自体がレアなので、狙った『オプション』に出会えない確率の方が高いです。
そこでいつも見るクエストの値段を参考にしてしまうのは仕方ないでしょう。いやでも目につきますからね。
でも彼らのPTの中にも、ずっと残っている事をしっかりと疑問に思う人もいたみたいですのでマシな方なんでしょうね。
残っている『オプション品』納品クエストの値段を参考にして交渉してくる開拓者が結構いるそうです。
当然相場よりも安い値段なので売り手側は拒否するのですが、中には足元を見られていると勘違いしてしまう人達も一定数いるようなのです。
説明書を読まずにゲームを始める人や、情報収集をしない人の一部なんかがこの辺りなのでしょう。
ちらっと覗いた掲示板の愚痴スレに書いてありました。
今回私が相手をした彼らは常識を弁えていましたし、きちんと大人な態度で最後まで交渉に望んでいたので、残っている『オプション品』納品クエストの真実なんかを教えてあげましたが、いちいちこんなことを教えていたら面倒この上ないです。
結果的に彼らは私の話に納得し、相場通りの値段で『オプション品』を1つ買って行きました。
まぁでもその後が大変でした。
【開拓者組合】には当然他にも『オプション品』を欲しがる人がいっぱいいるわけです。
順調に進んでいればみんな先ほど交渉したPTくらいには装備更新が進んでいるわけですからね。
つまりは――
「次は俺達の番だ!」
「何いってんのよ! 次は私達の番よ! 横入りしないでよ!」
「この『バケツヘルム』っていくらなんですか?」
「そのブレスレットってオリジナルでしょ? 売ってないんですか?」
「その肌着は売ってないんですか? 買いますよ!」
「『オプション品』の依頼とかできないの?」
「クラン作る予定なんですけどどうですか!?」
という具合に大混乱です。
最後のは当然無視しますが、ひとりひとり相手にしていたら時間がいくら合っても足りません。
「はーい! ストップ!
これから露店を出します!
製作依頼は申し訳ないですけどやっていません!
販売リストにないものを求められても困るので、交渉は申し訳ないですけど受け付けません!
納得出来ない方は他の露店へ足を運んで下さい!
では通して下さい!」
大声を張り上げて【開拓者組合】の営業妨害になる前に混乱を止めることが出来たので、そそくさと移動して急いで露店の準備です。
さすがにあの場面で私の邪魔をしてくるような人はいなかったので、モーゼのなんとかのように人の波が割れたのは結構面白かったです。
焦って値段の間違いがでないように気をつけながらも準備が終わると、ぞろぞろと私の後ろについてきた開拓者達が一斉に販売リストに目を通していきます。
そこで半分近くの人は諦め、残った人達が次々と商品を購入していってくれました。
順調に進み、1段階目装備の『オプション品』を求めている人が多いのは事実でしょうが、全員がそうではないですからね。
戦闘スタイルの変更や、純粋にゆっくり楽しんでいるプレイヤーの方が圧倒的に多いはずです。
今回私のあとについてきた開拓者は『オプション品』やオリジナルアイテムを求めた人が多かっただけで、まだまだカッパー系などの1段階目装備は需要が高いのですよ。
余談ですが、姫ちゃんから下取りした『カッパーマジックホビングローブ』もいつの間にか売れていました。
非常にピーキーな装備とはいえ、ちゃんと需要は存在するみたいです。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
買取も順調にこなし、露店開始と共に置いておいた「クラン勧誘お断り」の張り紙のおかげか、勧誘してくる人は1人だけですみました。
その1人も張り紙を見せるとすごすごと退散していきましたので特に問題はありません。
『魔術陣』の売れ行きも少しずつ増えてきて、そろそろ在庫を増やすタイミングになりそうですね。実に楽しみです。
素材買取をたっぷりしても資金に結構余裕が出来てきたので、初めの初めで出鼻を挫かれたあそこに再アタックを仕掛ける時期が来たようです。
さぁいざ行かん、図書館へ!




