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146 『その辺はジレンマアルネ』



 今回のイベントは、『パーティ募集システム』と『パーティオートマッチング』を活用してもらうためのイベントでもあります。

 基本的には、このふたつのシステムはその場限りの野良PT(パーティ)を組みやすくするためのシステムといえるでしょう。

 ですが、すでにメンバーが決まっている固定PT(パーティ)などでも使えないわけではありません。


 例えば、『パーティオートマッチング』は設定したフィールドエリアに瞬時に移動でき、目的を達成すれば元の場所に戻ってこれるという利点があります。

 固定PT(パーティ)を組んでいたら使えない、というのでは勿体無いですよね。

 ですので、その辺も運営はきちんと考慮してくれているようです。


 具体的には――


「予め、PT(パーティ)を組んでおいて、上限じゃなければ人数制限をつける。上限ならそのままPT(パーティ)リーダーが『パーティオートマッチング』を使えば」


 準備を整えて、解説していたミカちゃんが瞬間移動系のエフェクトを残して消えました。

 なるほど。設定した人数にすでに達した状態で『パーティオートマッチング』を使うことで、条件を満たした状態にすることができるんですね。

 公式での説明にはそんなこと一言も書いてなかったんですけどね。

 さすがミカちゃんです。


『こうなるわけ。今あたしはこうして『砂に埋もれし都』にいるって寸法よ! わかったー?』

『わかったー。じゃあ、がんばってねー』

『任せろー! おっしゃいくよー!』


 今回ミカちゃんが持ってきたお願い、交流を兼ねた他『クラン』とのイベント攻略。

 私も相手側も、自分たちの工房を使わせる気がなかったわけですが、私が工房を新たに用意したことで、相手側もさすがにそこまでされるとは思わなかったようです。

 ミカちゃん経由ですが、謝罪と感謝を伝えてきました。


 自分たちの工房を使わせたくないのは私もよくわかります。

 なので、妥協案として【レンタル生産施設】を使うつもりだったようです。

 私としては初級の設備を今更使うのはいやなので、その妥協案には反対でしたけどね。


 相手側も新たに工房や設備を用意するのにかかる費用がどの程度かかるのかは、さすがにわかります。

 今回の交流会は謂わば、今後の『ミストナイツ』と『遙か時の彼方』との協力体制への試金石のようなものです。

 ですが、試金石だからといって主導権を渡すのは両『クラン』ともに納得がいかなかったようです。

 小手先の牽制合戦で埒が明かない状況になり、ミカちゃんが私なら何か起爆剤になってくれるかと思って今回の行動を起こしたみたいです。


 『ミストナイツ』と『遙か時の彼方』はどちらもそれぞれの国でトップ『クラン』として活動していますから、引くに引けなかったみたいです。

 小さなプライドのために面倒なことになってしまったパターンですね。

 当人たちに言ったら怒られるでしょうけど。


 まあ、結果として、ミカちゃんの作戦ともいえない、私へぶん投げるという手段で見事に主導権を勝ち取ったわけです。


 費用をミカちゃんが知りたいというので、あとで教えたのですが、かなり驚かれました。

 でもこれでもケデリック商会の紹介状のおかげで安く済んでるんですよ?

 私的にも大した額ではないと思ってましたし。

 でも、私以外はそう感じなかったみたいです。

 スティール系装備の『ダブルオプション品』で儲けすぎたんですかね?

 少しみんなと金銭感覚がずれているような気がします。


 何はともあれ、ミカちゃんに「嘘でしょう……?」と言わしめた金額をポンとだして用意した工房のおかげで、平行線を辿っていた両『クラン』の主導権争いも終結して、やっとイベントでの協力体制もできあがりました。


 当然ながら、主導権を勝ち取った『ミストナイツ』を中心として今回のイベントは攻略されます。

 おかげで、ミカちゃんの機嫌はうなぎ登りってもんですよ。

 先程まで『パーティオートマッチング』の固定PT(パーティ)での利用方法を解説していたわけですが、それも終始笑顔でしたからね。


 まあ、ミカちゃんは色々と引っ張っていくタイプですからね。

 主導権を握るのはよくても、握られるのは嫌なのですよ。


 それに、今回私にかかる負担が大きいことを考慮して、『ミストナイツ』と『遙か時の彼方』が先行して集めてくる素材の三割をもらえることになりました。

 残りの素材で、生産したものを戦闘組へ還元しながらイベントポイントを荒稼ぎするという作戦のようです。


 二カ国のトップ『クラン』の戦闘組が集めてくる素材ですからね。

 きっと相当な量になるでしょう。楽しみですね!


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ところで、『Works』にはクールーさんという料理人がいます。

 ですが、リアル事情により私がぷち引退をする少し前に休止してしまったんですよ。

 クールーさんの営んでいた『クールー飯店』は、美味しい上に効果的なバフがつくことで有名なお店だっただけに惜しまれながらの休止でした。

 ですが、そのクールーさんが帰ってきました!

 やったね! また美味しい料理が食べられるよ!


「本場で習ってきたネ。今日はごちそうヨ!」

「本場って中国にいってたんですか~?」

「……すごいです」

「そうネ! 勉強になったヨ!」


 なんとクールーさんは休止している間に中国へ行っていたみたいです。

 本場の中華を学んできたらしく、クールーさんの復帰祝なのに本人が作ったごちそうがテーブルの上にいっぱいです。


「ん~~~! おいし~! 見事に腕をあげましたね、クールーさん~!」

「……こ、この中華菓子……美味しい……研究しなきゃ」

「美味しー! それにバフの方もちょっとだけ効果増してるんじゃないですかこれ」

「どうやらそうみたいアル。リアルの腕が上がったことで味と効果が増したみたいネ」

「リアル工程重視の場合は、そういうところでも変化があってすごいですよねー」

「私もプロの人に習った方いいんですかね~」

「……教室に通うとか」

「あ~……でも、正直通ってる時間プレイしたいですね~」

「俺の場合は、鍛冶を本格的に習うには時間がなぁ」

「その辺はジレンマアルネ」

「ですねー」


 【ふろんてぃあーず】は、現実と同じ工程でも生産することが可能です。

 スキルの補正や素材のランク、設備や道具の補正ももちろん効いてくるので、現実でそれなりの腕を持っていれば、リアル工程の方が良い結果がでるときもあります。

 今回のクールーさんのように、本場で勉強してきた結果がこうして、味やバフ効果の向上として現れているとリアル工程で試したくなったりしますね。

 でも、私の場合は鍛冶ばっかりですからねー。

 リアル工程は知識でしか知りませんから、逆に悪い結果になりそうです。

 こういった部分は、本当に現実の腕前が試されるところなので、安易に素人が手を出すべきではないんでしょうね。


 クールーさんは本場で勉強するくらい、現実でも料理の腕前が凄そうですし。


 ちなみに、クールーさんの復帰祝いにちょっと面白い武器を贈りました。

 こちらです――


 ====


 王鉄包丁

 短剣/★3/ATK+72/耐久70

 術式:DEX+1


 ====


 なんと、生産道具としても、武器としても使える両得な武器なんです。

 カイザーアイアン系武器を何度も作ったからこそ、製作できた一品でしょうね。

 道具としては上級道具よりは多少劣るようです。

 まあ、武器としても使えるものですし、それは仕方ないでしょう。

 むしろ、比重は武器の方に傾いているくらいです。

 何せ、道具として認識されませんでしたからね。


 ただ、今までクールーさんが使っていた包丁よりはずっといいものなので、大変喜ばれました。

 他のみんなも羨ましそうにみていたくらいですからね。

 まあ、ここで自分に作って欲しいと言わないところが『Works』のメンバーらしいところです。

 私はそういうの嫌がりますからねー。

 小学生のミーとムーですら、そういうことは言いませんからね。

 良い仲間に恵まれました。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 クールーさんの復帰祝いからの帰り道に、ミカちゃんから『メール』がきました。

 内容は、今回の狩りで得た素材と、この素材を使った生産を行う際のスケジュール調整でした。

 ちょうど、復帰祝いで『Works』のメンバー全員が集まっていたので、今回のことを話しておきました。

 みんなも私が新たに用意した工房に興味津々でしたし、他国のトップ『クラン』の専属生産者の腕前を見たがっていました。

 ですので、私以外にもPT(パーティ)メンバーが必要でしたので、お願いしておきました。

 みんな二つ返事で請け負ってくれたので、ここからは『クランマスター』である甘ロリさんの出番になるみたいです。


 ただ、新たに用意した工房を今後、『Works』に入るかもしれない弟子に解放する案を話したときに、甘ロリさんに怒られてしまいました。

 自分の弟子ならともかく、『Works』メンバーの弟子にも解放するなら『Works』からも資金を出させない、と。

 確かにその通りですよね。

 私は弟子を取る気がまったくないですし、今回のイベント以降は使う予定もなかったので気にしていませんでしたが、貸してもらえる甘ロリさんたちはそうでもないわけです。


 ただ、提供される素材の三割をもらう約束もあるので、今のところ保留にしておきました。

 まだ誰も弟子を取っていませんしね。

 でも、甘ロリさんが決めたら、それに従うつもりですよ?

 だって、『クランマスター』の決定ですからね!



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