145 『おー……広いね』
本公開からすでに『ゲーム内時間』では1年以上が経過しています。
私たちの出身国という位置づけになる、【ザブリナ王国】の【首都ザブリナ】でも、空き家や空き地はプレイヤー開拓者たちが購入したり、借りたりしています。
『クランホーム』にしたり、お店にしたり、工房にしたり、用途は様々ですが、大通りに近い場所ほど値段は高く、そして需要があります。
逆に、大通りから何本も道を挟めば、交通の便がどんどん悪くなっていきますし、場所によってはまるで迷路のような路地を通らなければいけないところもあり、とにかく辿り着くまで大変だったりします。
そういう場所は、当然ながら大通り近くの物件に比べると、需要が低く大分お安くなります。
まあ当然ですよね。
街の外に出るにも、路地の奥にあるような物件では徒歩移動を強いられますし、時間もかかります。
『パーティオートマッチング』が実装されたので、どんなに遠くにいても瞬時に狩場にいけるようになったとはいえ、装備は狩りを行えば消耗します。
消耗品は当然消費しますし、完全に引きこもってプレイすることは難しいでしょう。専属の生産者がいれば別かもしれませんが。
何にせよ、路地奥の物件は未だ需要が低く、そして安いままでした。
その中でも、私の工房に比較的近い位置にあるそこそこ広めの買い取り希望物件をいくつか見繕ってもらいました。
事前にケデリック商会に連絡して、紹介状を書いてもらったおかげで、安い物件がさらに値引きしてもらえたり、サービス満点です。
でも、ケデリック商会からの紹介状があったために、最初に紹介された物件は大通りに面した最近空いた物件だったりしたんですけどね。
その物件は、工房とお店が一緒のかなり大きなお店でした。もちろん、お値段も相応で、即金では買えそうもないほどです。
……分割してもらえれば買えちゃいそうだったんですけどね。でも、そんなに大きなお店では並べる物がないので意味がありません。
それに、今回は工房だけで十分ですからね。
「これで契約完了にございます」
「ありがとうございますー」
「いえいえ、こちらこそ持て余していた物件でございますので、大変助かったところにございます」
需要の低い物件だったこともあり、不動産屋さん的にもありがたかったみたいです。
でもそのあとに大型の物件をまた勧められてしまいました。
工房を買ったときも使った不動産屋さんですし、今回購入した物件は複数人で使える広い物件です。
きっと弟子を取ると思われたんでしょうね。
弟子を取れば販売可能なアイテムがそれだけ増えるということ。
今までのお店よりも、大きなお店を持った方がよいのは自明の理です。
そういったことを少し遠回しに言われ、勧められたのですが、残念ながら目的は別ですからね。
曖昧に笑って流しておきました。
不動産屋さんもプロですので、それ以上は勧めてはきませんでした。引き際も大切です。
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ケデリック商会の紹介状のおかげで、思った以上に安く、そして広い物件を購入できました。
工房からもそれほど遠くないですし、良い買い物だと思います。
……ミカちゃんの案件が終わっても使うかどうかはわかりませんが。
次は、設備ですね。
道具に関しては、不動産屋さんが開店するまでの待ち時間で、ぱぱっと製作しましたから問題ありません。
多めに製作したのですが、予定よりも広い物件を購入できてしまったので、ちょうどいいですね。
その分予備はなくなりましたが。
設備は専門店で中級のものを購入します。
上級の設備は高すぎて数を揃えるのは無理ですからね。
それに、上級の設備なら私の工房に揃える方が先決です。
中級の設備なら数を揃えても、それほどの出費にはなりませんし。
あ、でも、一応中級以外にも初級の設備も一通り揃えておきましょう。
うちの工房でも、一応初級中級と全て揃えてありますからね。
初級と中級の設備自体は、スペースもそれほど取りません問題ありません。
上級は大きいんですよね。
さらにその上となると、今の工房も手狭になってしまうんでしょうかねー。
設備専門店でも、最近弟子を取る開拓者が多いからか、特に疑問に思われることもありませんでした。
むしろ、わかってますよ、という生暖かい視線だったように思えます。
きっと、可愛い弟子のために設備を揃えてあげようとする生産者がいたのでしょうね。
中級以上は別としても、初級の設備一式なら、新たに弟子のために揃えられる生産者はそれなりにいそうですしね。
設備自体は『鞄』から簡単に設置できますので、輸送も設置も大した手間はありません。
他には精々個人倉庫を設置しておくくらいですね。
複数人で使用できるタイプの個人倉庫は、新しい契約が必要です。
まあ、契約自体は簡単ですし、【開拓者組合】ですぐに済みました。
この複数人で使用できる個人倉庫は、中身が共有されるのではなく、それぞれの契約している個人倉庫にアクセスできるタイプのものです。
契約した人だけが使えるタイプのものより、当然ながら契約料は倍くらい高いですが、ぶっちゃけ誤差レベルですね。
私の工房にも、ミカちゃんや姫ちゃん、『Works』のみんなが来ることが多いですし、こっちのタイプに契約し直しちゃいましょうか。
ちなみに、【開拓者組合】など不特定多数の人が使用するために設置されている倉庫もこのタイプです。便利ですよね。
一先ず、これで工房の用意は終わりでしょうか。
紹介状のおかげで大分安く済んだので、ケデリックさんには感謝しないといけませんね。
でも、どこから嗅ぎつけたのか、カイザーアイアン装備の★3の納品依頼を押し付けられたので、それで相殺でしょうか。
ちなみにこの依頼、術式ボーナスの指定がされています。
私が今のところ可能なものだけに絞られていますが、今までの依頼よりは難易度が遥かに高くなっていますね。
まあ、現状では『ダブルオプション』付きのスティール系装備の方が総合的に強いので、カイザーアイアンの売れ行きはあまりよくありません。
値段もスティール系より高いですしね。
それでも、スティール系装備が売り切れたあとなら購入者がいますから、お店に並べればその日のうちに完売するんですけどね。
カイザーアイアンといえば、掲示板で情報公開したことにより、調子に乗って他にも情報公開しろと騒いでいる人がいるみたいです。
術式ボーナスについても、もっと簡単な方法やコツなんかを教えろとか書き込みされており、スティール系の『オプション品』の作り方や上級設備や道具の取得方法なんかも教えろとか書いてありましたね。
道具はともかく、設備は試験に受かれば買えるはずなんですけどねー。
他の国の人も違う国の掲示板を閲覧、書き込みできるようになり、賑わっているスレはさらに賑わうようになっています。
その分、トラブルも多くなっているようで、書き込みを削除される人が増えています。
どこの国でもルール違反な書き込みは、同様の処罰をされるはずなんですけどね。
盛り上がっているスレだからこそ、ヒートアップしてしまうのでしょうか。
まあ、どちらにしても騒いでいる人がいようがいまいが、公開する情報を決めるのは私です。
必要以上の情報は出すつもりはありません。
私のやり方は賛否両論あるでしょう。
でも、これが私なので仕方ありません。
独占できるものは独占して、がっつり利益を貪るのですよ。
まだまだお金は必要ですしね!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おー……広いね」
「広い」
「ここなら大人数でも作業できるでしょー?」
購入してきた設備を設置し終わった頃に、ミカちゃんと姫ちゃんが合流してきました。
初級と中級の設備を設置し終わっても、この工房はまだまだスペースがあります。
私の工房と比べると、三倍以上広いですからね。
「これはちょっと……いくらしたの?」
「高そう」
「これがそうでもないんだー。何せケデリックさんが紹介状書いてくれたからねー。持つべきものは権力のあるNPCとの縁だねー」
「おおー」
「ケデリック商会の商会長か~。さっすがー」
「それより、工房の準備は終わったけど、そっちの話し合いはどうなったの?」
あっという間に工房の準備は終わってしまいましたが、結局のところ相手側の意見はどうなったのでしょう。
今更、【レンタル生産施設】でやりましょうとかはないでしょうけど、無駄になるのだけは避けたいですね。
「基本的には任せるってさ」
「基本的」
「どういうことー?」
「『ミストナイツ』の主催っていうか、招かれる側としてお任せすると」
「……私、『ミストナイツ』のメンバーじゃないんですけどー?」
「ま、まああれだよ! 文句はないってことだよ! あははー!」
「まったくもー。でも、イベントの効率考えると【ザブリナ王国】側の生産者をもうひとり入れておかないといけないんじゃないの?」
「あ、うん。そうだねー。お願いします」
「お願いします、じゃないでしょ!」
「素材に関しては全部無償提供するから~! お願いします~!」
「ふむ? ふむふむ。ならいいでしょう」
「……お、やったー!」
「バケツさん甘い」
「その分素材はたっぷり要求するけどねー」
「ひぃ!」
「ならよし」
どうやら『ミストナイツ』と『遙か時の彼方』の戦闘系のメンバーで、素材を大量に集めてくれるそうです。
戦闘系のメンバーも、PTを組んで狩りをするとポイントが入りますからね。
その狩りで得た素材が丸々こちらに回ってくるみたいです。
それならがっつり使い尽くしてやりましょう。
色々と無理をきいてあげたのです。
しっかり集めてきなさい、ミカちゃん!




