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143 『は、はい』



「ん~……なんだかんだでやっぱり【ザブリナ王国】が一番ですね~。落ち着く~」

「ですねー。もう慣れちゃいましたからねー」

「……住めば都です」

「この雑多な町並みがやっぱりいいんですよ~」


 【タバリスト皇国】から【ザブリナ王国】へと戻ってきました。

 観光旅行もこれで終わりです。最後にちょっとだけトラブルもありましたが、大事には至っていないので問題ないでしょう。

 一番の目的である素材は十分な量を確保できましたしね。


「では、買ってきたものを試したいですし、今日はこれで帰りましょうか~」

「……研究しがいがありそうです」

「了解ですー。では、帰りましょー」


 私たち三人のお店は隣り合っているし、工房もすぐ近くです。

 まあ、工房は私しか持ってないですけど、神殿からお店に戻るとしても道は同じです。

 代用品とはいえ、新しい素材を早く試してみたいのはみんな一緒です。

 生産者ですからね。考えることは同じなのですよ。


 もう『ゲーム内時間』では、本公開開始から一年くらい経っています。

 神殿にはあまり来る機会はないですが、南門の【開拓者組合(ギルド)】通りはよく通る道なので、すっかり慣れ親しんだ道です。

 でも、今でも新規プレイヤー開拓者が参入していますので、初心者装備の人を見かけることは多いです。

 それ以上に今まで見たこと無いような装備の人が多くなっていますが。

 彼らはおそらく他国の開拓者なのでしょうね。

 オリジナル装備は、他国の生産者の人たちもたくさん作っていますからね。

 【ザブリナ王国】でも、向田さんを筆頭にオリジナル装備ばかり作ってる人もいますし、私もたまに作ります。

 まあ、それでもスティール系を作れる人が増えてきたせいで、オリジナルよりもレシピ通りの装備の方が多めでしたけど。


 それが今や半々に近いくらいの数になっていますね。

 それだけ他国から来た人が多いということでしょう。


 普段、街の外にすら滅多に出かけない私ですら他国まで観光に行っていたりするんです。フィールドエリアに出かけるのが当たり前の戦闘系プレイヤー開拓者たちなら、他国くらい気軽に行っちゃったりするんでしょうかね。


「また連絡しますね~」

「……できたらもっていきます」

「あ! あ! その時は私も呼んでくださいね~!」

「……もちろんです」

「やった~!」

「よかったですねー。ではまたー」

「また~!」

「……またです」


 私の工房までは、雑談に花を咲かせていれば、あっという間でした。

 それにしても、るーるーさんのお菓子を全然食べられなかった、甘ロリさんのお菓子への食いつきっぷりはすごいですね。必死過ぎます。

 まあ、今回は特に負けまくって食べらなかったからでしょうけど……いや、そうでもないですね。いつもこれくらいお菓子には必死でした。うん。

 るーるーさんと仲良くなれて、本当によかったですね、甘ロリさん。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『あ、百合! 運営からの『メール』みた? やっとマッチングシステムでのイベントやるみたいだよ! おっそいよねー!』


 代用素材で何かできないかと色々作りましたが、成果はやっぱりありませんでした。

 わかっていたので、特に気にせず王鉄鋼を素材とする装備を製作し始めようとしたところで、ミカちゃんから『コール』が届きました。


『メール』? あ、そういえばなんかきてましたね。


『もしかして、見てないの!? もー! また集中しててスルーしたなー!』

『そういわれてもー。今見たから大丈夫だよ。そういえば実装されたっけ、『パーティオートマッチング』と『パーティ募集システム』』

『そうそう! 便利は便利だけど、あたしたちみたいに固定PT(パーティ)ができてるとあんまり意味ないなーって! じゃなくて! イベントよ! イベント!』


 ミカちゃんに促されて確認した運営からの『メール』には、イベント開始の告知が書かれていました。

 大型アップデートで実装された新システム『パーティ募集システム』と『パーティオートマッチング』を使ったイベントのようです。


 『パーティ募集システム』は、今までは【開拓者組合(ギルド)】か掲示板、もしくはその場で声をかけて募集していたPT(パーティ)を、システム的に補助してくれるシステムです。

 専用のUIユーザーインターフェースが用意され、様々な募集項目を設定してPT(パーティ)メンバーを募集できるシステムです。


 どこにいても使用できるシステムなので、何かしながらでもPT(パーティ)を募集したり探したりできる便利なシステムですね。


 『パーティオートマッチング』は、これもPT(パーティ)のシステムなのですが、『パーティ募集システム』とは少し違い、戦闘系開拓者専用のシステムといえます。

 様々な募集項目が設定できるのは変わりませんが、規定の人数に達すると自動でフィールドエリアまで移動してくれるのです。

 目的地がフィールドエリアのみなので、生産オンリーな私などにはまったく縁がなさそうなシステムです。

 まあ、採取ツアーなんかで使うかもしれないって程度でしょうか。

 ちなみに、この『パーティオートマッチング』は、終了目標を設定しなければならず、終了目標を達成するとフィールドエリアに移動する前にいた場所まで自動で送り返してもくれます。

 フィールドポータルが実装されたからこその自動移動でしょうかね?

 あ、もちろん、『魔石』は消費されます。

 『パーティオートマッチング』を利用する段階で、担保として一定数の『魔石』を預ける形になるみたいです。

 消費する『魔石』は、規定人数に達した時点で一番近くにいた人の数になるみたいです。

 あまりの『魔石』は、そのときに戻ってきます。


 ただ、『パーティオートマッチング』はテスト段階での実装ということで、今後そのまま残るのか、改良を加えられるのか、はたまた使用中止になるのかはわかりません。


 その点、『パーティ募集システム』は特にテストとか書いてませんでしたので安心ですね。

 まあ、使わないと思いますけど。


『さらっと読んだ感じでは、他国の人とPT(パーティ)を組んで行動するとイベントポイントがもらえる?』

 『そうそう、バランス良く三国各二名ずつが一番ポイントがもらえるみたい』

『ふーん』

『ふーんって……。まあ、百合はそういうだろうと思ってたけどね。生産じゃPT(パーティ)組むメリットないって』

『だねー。共同製作でだってPT(パーティ)組むメリットなんてなかったもん』

『でも、ほら、イベントだし? ポイントもらえるし……』

『んー? 何? ミカちゃん誰かに頼まれた?』

『あ、いやそのー! えへへー』


 私のことをよく知っているミカちゃんですから、私がPT(パーティ)を組んで生産しているなんて聞いたこともないはずです。

 今回はメリットがあるみたいですが、一定範囲内にPT(パーティ)メンバーがいなければいけないみたいですので、私の工房で製作する場合は必然的に工房を貸すことにもなるでしょう。


 正直なところ、『Works』のメンバー以外で工房を貸したいとは思えません。

 別に汚されるとかそういうのはシステム的に問題ないですが、気分の問題です。

 そのことを知っているミカちゃんがこんな話を持ちかけるということは、つまりはそういうことなんですよね。


『いやー実はねー……。【タバリスト皇国】の『クラン』に『ミストナイツ』のメンバーの知り合いがいてねー。流れで……えへへ』

『その『クラン』の専門生産者に頼まれたのね……』

『ほ、ほら、せっかく他国に行けるようになったんだし、百合も交友関係を広めるチャンスじゃん! だ、だから、どう……かな?』

『私の工房を使う前提なの?』

『あ、それは百合に任せるよ。【レンタル生産施設】でも問題ないみたいだし』

『私は【レンタル生産施設】の設備ではやりたくないけどねー』

『まあ、そこはほら、百合に任せるよ? でも工房を知らない人たちに使わせたくないんでしょ?』

『当然』

『で、ですよねー……』


 ミカちゃんも、あんまり交友関係を広げない私を心配してくれたのかもしれません。

 それに私の工房目当ての人たちではないようです。

 ただ、今更【レンタル生産施設】の初級設備で生産活動をするのは、正直なところかなり嫌です。

 でも、知らない人に工房を使わせるのはもっといやです。


『相手側は工房もってないの?』

『あーどうだったかなー。でも【レンタル生産施設】の話が出てた時点でお察しじゃない?』

『ミカちゃん』

『は、はい』

『断ることは?』

『で、できれば受けてほしいなー……。そ、そのぅ……実はですね。その『クラン』、『遙か時の彼方』って名前なんだけど、【タバリスト皇国】ではトップなんだよねー……。だから、色々と今のうちに恩を売れると助かるなー……なんて?』

『トップの『クラン』なら専用工房とか持ってるんじゃ?』

『あっちの工房を使うって条件ならやってくれる?』


 【タバリスト皇国】のトップ『クラン』という話ですが、そんな『クラン』が専用の工房すら持っていないのはちょっと不自然ですので、おそらくあちらもあちらで自分たちの工房は使わせたくないのでしょう。

 オリジナルレシピや製作方法で秘密にしたいことはあるでしょうし。


 他国が解禁され、プレイヤー人口が一気に三倍近くになったわけですから、今後、大人数でのレイドボス戦やイベントなどもでてくるでしょう。

 その時のために出来る限り強い『クラン』と連携したいのはわかります。


 ただ、そのために私を売るのはどうかと思います。

 いや、売るっていうのは言い過ぎですね。

 ミカちゃんも私の交友関係の狭さについて心配していたわけですし。


 大親友である、ミカちゃんのお願いですから叶えてあげたい気もします。

 でも、無条件で聞いていては、ミカちゃんのためにもなりません。

 何かよい妥協案はないですかねー?


 そうだ、姫ちゃんならいい意見を出してくれるかもしれません。

 さっそく連絡しましょう!



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