141 『むっ……』
結局、行列が長すぎて『スキルポイント変換神官』で変換料金などを確認するのは諦めました。
神殿があるところなら『スキルポイント変換神官』はいるはずなので、人の多い各首都ではなく、他の街などで確認した方がよさそうです。
ゲートでつながっている街は、必ず神殿がありますからね。
『ドトリル』なんかは人もそれほど多くありませんし、狙い目でしょう。
「神殿以外にも神社あるんですねー」
「でも特に何も祀ってないみたいですよ~。おみくじができるだけみたいですね~」
神殿を出て、やってきたのは観光名所になっている建物――神社です。
和テイストな【タバリスト皇国】ですので、神社はとても似合っていますね。
神殿よりもずっとこっちの方がいいです。
でも、甘ロリさんの解説によれば、この神社では特に何も神様を祀っていないみたいです。
神社って仏様とか祀ってるものじゃないんですか?
「そりゃここはうちらの『クラン』のホームやからな」
「こんにちはー」
「おう、こんにちはや!」
「ホームなんですか!? す、すごいですね~」
「……凝ってますね」
「せやろ! かなり頑張ったんや!」
綺麗に掃き清められた境内を散策していると、おみくじ売り場の巫女さんが会話に混ざってきました。
大きめの狐耳に巫女服という、お稲荷さんスタイルですね。
甘ロリさんが小さく「エセ関西弁」と言っていましたが、どの辺がエセなのかよくわかりません。
狐耳の巫女服さん――イナリさんは『クラン』――『エセ関西弁協会』のメンバーのひとりだそうです。
エセ関西弁って『クラン』名だったんですね。すごい名前です。
「それにしても、神社なんてよく建てられましたねー」
「宮大工の経験者がおってなー。そいつがはりきってなー」
「……まさかプレイヤーメイドなんですか?」
「そのまさかや! とんでもないやろ!」
「建物を建てるのは、『木工』とかでも補助くらいはできるみたいですけど、『建築』スキルとか相当高くないと無理だって掲示板でみたことありますねー」
「そうなんよ。だからほとんどスキルなしで建てよったんや。それでも建築法とか色んな基準法を無視できるから楽だっていっとったわ」
「重機の代わりはプレイヤーができますしね~。リアルよりは建てやすいんでしょうか?」
「何にしてもすごいですねー。観光名所になるわけですー」
「せやろー! あ、おみくじひいてかない? うちのは凶とか入ってへん良心的なおみくじなんよ!」
「良心的……」
イナリさんに勧められて、一回100ニルのおみくじを引いてみましたが、私とるーるーさんは末吉。
甘ロリさんは入っていないはずの大凶をひいていました。
「良心的とは~!」
「凶が入ってないだけやでー。大凶が入ってへんとはいうとらへんでー」
「詐欺です~!」
イナリさんと甘ロリさんってなかなかいいコンビになるんじゃないですかね?
ふたりで漫才とかしてみてはどうでしょう?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
おみくじでわいわいやっていると、私たち以外にも観光にきた人たちがやってきて、今度はそちらにイナリさんが営業に向かっていきました。
楽しそうで何よりです。
ぷんすかしている甘ロリさんを宥めつつ、境内の散策を続けましたが、基本的にそこまで広くはない神社なのですぐに見終わってしまいました。
『エセ関西弁協会』のホームということもあって、メンバー以外立入禁止の区域が半分以上を占めているようなので仕方ありません。
それでもとても手作りとは思えないほど完成度の高い神社ですからね。十分に楽しめました。
一からお店を設計する機会があったら頼んでみるのもありかもしれませんね。
まあ、私にそういった拘りはないので機会はないかもしれませんけど。
それに宮大工と普通の大工は違うかもしれませんし。よくわかりませんけど。
「次はどこにいきますか~?」
「任せますよー」
「……お城の方にいきます?」
「でも西洋風のやつみたいですよ~?」
「まあ、一応見るだけ見てみますかー」
各国には必ずその国を治める王様がいます。
女神によって遣わされた開拓者という設定ではありますが、王様に謁見できるようになるには、相応の働きをしなければ無理でしょう。
なので、現状では私たちにとって王様はお城にいるっぽいNPCという認識でしかありません。
まあ、私はなんだかんだで、NPCクエストを色々クリアしていますから、他のプレイヤーよりは近い位置にいるとは思いますけど。
それでも、王様に謁見できるほどではないです。
謁見したいとも思いませんけど。
もちろん、報酬次第ではやぶさかではありませんよ?
そんなわけで、【タバリスト皇国】にも当然お城があります。
無論、勝手に入ったりはできないので外から眺める程度ですが、和テイストのこの国でも外観は洋風です。
形状はその国によって違いますが、そこまで大きく違いはないんですよねー。
お城マニアとかだったら、細かな違いを認識できるのかもしれませんが、私たちには無理です。
なので、結局感想も――
「変わんないですねー」
「変わりませんね~」
「……尖塔の数が一個多い……かも? ……同じかな?」
といった程度です。
ただ、他にもお城観光に来ているプレイヤーらしき人たちも、同じような感想を言い合っていましたのでそんなものでしょう。
「もう見るところないですかねー?」
「結構楽しめましたね~」
「……桜綺麗でした」
「やっと見つけた! あなたがバケツさんね!」
のほほんとお城を遠目に見学し終わったところで、何やら呼び止められてしまいました。
こういうパターンは、あまりいい予感はしないものです。
ですが、声の方に振り返れば、そこにいたのはミーとムーの小学生コンビよりもちんまい子でした。
動きやすさ重視の軽装、というよりはリアルでも着ている人がいそうなほどカジュアルな服装です。
防御力という面からみれば、まったくなさそうな感じですが、オリジナルならそうとも言えません。
ていうか、オリジナルでしょうね。
あんな服は普通には売ってませんし。
周りの人たちと比べるとかなり浮いているのがわかりますね。
まあ、それを言ったらロリータファッションの甘ロリさんはもっと浮いているわけですが。
「何か用ですか~?」
「誰よあなた! あなたになんて用はないわ! わたしが用があるのはバケツさんよ!」
「むっ……いえいえ、そうでもないんですよ~。私たちは三人で観光している最中です。知り合いでもない人から約束もなしに呼び止められた場合、対処するのは私の役目ですので~」
呼び止めてきたちんまい子を確認したすぐ後には、甘ロリさんが私にアイコンタクトを送ってきたので首を振っておきました。
ちんまい子の態度はとても良いとはいえませんし、まったく知らない子です。
彼女の態度から、甘ロリさんも対応方針を決めたようですね。
私たちは、【ザブリナ王国】では生産系トッププレイヤーです。
観光先で何かしらトラブルに巻き込まれる可能性があるのはわかっていました。
ですから、事前の打ち合わせでそういったトラブルが発生した場合は、『クランマスター』である甘ロリさんが前面に出て対処することに決めていたのです。
いじられキャラの甘ロリさんですが、こういうときにはとても頼りになりますからね。
伊達に『クランマスター』やってません。
【ユングスメリス共和国】では、特に何もなかったので【タバリスト皇国】でも平和に終わると思ったんですけどねー。世の中そうそうあまくないみたいです。
「事前の約束はありますか~? まさか知り合いでもないのに、プライベートな観光中に突然割って入って、我を通そうなんてするほど非常識な振る舞いをされる方なんですか~?」
「むぐっ」
「バケツさん個人に用があるのでしたら、お店の方に連絡してください~。『Works』のバケツさんに用があるのなら、『Works』の方に連絡してください~。それ以外でしたらお引き取りください~。通報しますよ」
実際にここで通報したとしても、この程度の状況では運営が対処することはないでしょう。
でも、今でもスティール系の『オプション品』を安定的に製作できるのは私だけという状況は続いていますし、『魔導人形』など独占しているものも多いです。
そういった理由から、私を引き抜きたい『クラン』はいくらでもありますし、強引な手段を取ろうとするプレイヤーもあとを絶ちません。
つまり、甘ロリさんのこの対応は決して間違っていないのです。
その証拠に、少しでも私たちが有利になるように録画してますしね。




