132 インターミッション 『期待してるぞー!』
連載再開です。
本日は三話投稿ですので、最新話から読むとあれ?ってなるよ!
ゆっくりと光が近づいてくる。
水の中に揺蕩うような感覚の中、ゆっくりと光に向かって浮上している様。
あぁ……これは夢ですね。
そして、今私は目覚めようとしているんです。
そこまでわかってしまえば――
「あ、起きた。おはよう、百合。元気?」
「おは。誰か呼んでくる」
「任せたー。おーい、気分はどう? 百合、目覚めはいい方だったよね。顔色はいいぞー?」
「……おはよう、ミカちゃん。今何日?」
「おはよ。アップデートまであと四日。ぎりぎりセーフだね」
これは朗報です。
目覚めたら大型アップデートの日はすでに過ぎていて、大きく遅れを取っていた、なんてことになる可能性もありましたからね。
あと四日もあるなら、十分に休息をとってそれからログインしても間に合います。
「連れてきた」
「ごくろー」
「姫ちゃん、おはよ。ありがとうね」
「ん」
「んじゃまた後でねー」
「また」
「うん、またねー」
ああ、早くログインしたいですねー。
でも、無理をしてはだめですからね。
ここは我慢してのんびりするとしましょうか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「雪降りそうなくらい寒いわー、外」
「寒い」
「寒そうだよねー」
もうすっかり冬ですね。
窓から眺めることしかできないけど、凍えそうな曇り空とミカちゃんと姫ちゃんの言葉から相当寒いことはわかります。
でも、この部屋は空調管理が完璧なので、私はまったく寒くないです。
それどころか非常に快適です。
でも、それが時々寂しく感じることがあります。
私もミカちゃんや姫ちゃんみたいに一緒に寒がりたい。
「そうそう、掲示板でついに百合不在がバレたみたいだよ」
「簡易鑑定」
「あーついに製作者を見れる人がでてきたんだね」
「まあ、『オプション品』がまったく売られてない時点で怪しいと思われてたみたいだけどね」
「ん。錬金アイテム充実してた」
「ミーとムーがいっぱい補充してくれたのかな」
「そうみたいね。百合、あの子たちと仲いいよね」
共同制作で、ということならミーとムーとは何度も一緒にやっているのでそう思われるのも仕方ないですね。
でも、それ以外だと『Works』メンバーなら甘ロリさんやるーるーさんの方が仲は良いと思います。
決して私が小学生レベルなのではないのですよ。
「色々一緒に作ってるからね。あの子たちほどの『錬金術』スキルを持っている知り合いいないしー」
「ん。すごい」
「確かにあのオオカミ凄いよねー。でも、姫。結構大変なんじゃない?」
「そうなの?」
「実は大変。でも大丈夫」
「やっぱりアームの数を増やしすぎたのかなぁ。最初の状態に戻す? 六十本に増やしたのはやりすぎだったと私も思うし」
姫ちゃんが現在主力にしている人形――『魔導人形:獣型・大狼』は最初に魔改造したときに内臓アームを四十本搭載していました。
でも、そのあとにミーとムーと一緒に悪ノリして二十本ほど増やしたんですよね。
姫ちゃんがあまりにも完璧に『魔導人形:獣型・大狼』を操るものだから、いけると思っちゃったんです。
実際に、テストプレイでも姫ちゃんは六十本のアームを初見で使いこなしていました。
でも、どうやら無理をしていたみたいです。
これは反省ですね。やっぱり悪ノリはだめですね。
「でも、別に使わないときには仕舞っておけばいいんじゃないの? 必ずしも全部使う必要はないし」
「んー……そうもいかないんだよねぇー。『魔導糸手袋』は十本の糸までしか出せないから、どうしても連動させるしかないんだ」
「ん。糸一本でアーム十本くらい動く」
「うわー……それはめんどくさそうね」
「アームそれぞれを個別に動かすには、もっと複雑な機構がいるんだよねー。でも、それを作るにはオリジナルで製作するしかないみたいだから」
「プロの手助けがいるってことね」
「だねー」
『魔導科学』のレシピに複雑機構みたいなものがあればよかったんですけど、そうそううまくはいかないみたいです。
何より、そういったパーツになりそうなものってレシピはあまりないんですよね。
今後のアップデートで追加されたりしなければ、オリジナルで作る以外ないのですけど、さすがに私では作れません。
理想としては、アーム一本一本に対して細かな動きを可能とすることでしょうか。
姫ちゃんの器用さを持ってすれば、専用の機構を用意すればできそうな気がします。
いや……姫ちゃんならできるでしょう。それだけ姫ちゃんはすごいんです。
今のような手段では、ただただ姫ちゃんに無理をさせるだけだとわかりましたし、今後の課題ですね。
「最近姫のばっかりだし、次は私の武器作ってよー」
「そうは言っても、ランクの高い新しい素材って何か出た?」
「あーえーうー……ないかも」
「王鉄鋼」
「あー! あったね! ボスドロップ!」
「おお? 期待できそうー」
姫ちゃんの装備ばかり作っていたのもあって、ミカちゃんからおねだりをされてしまいましたね。
でも、現状のレシピや素材では限界があるんですよね。
どこかで新しい素材やランクの高い素材を手に入れないと、実験すらままなりません。
だから、新素材、しかもボスドロップというランクの高そうな素材なら期待が持てます。
「まだ全然数集められてないし、対応するレシピもないみたいだし、加工に挑戦したプレイヤーも全敗しているやつ!」
「それはすごそうだねー」
「バケツさんなら」
「そう! 百合ならいけるんじゃないかって掲示板でも言われてたんだよ。でも今ぷち引退中じゃん? だから残念だなーって」
「もしかしたら、スティールよりも強い装備が作れるかもねー。まずはインゴット化からだけど」
「期待してるぞー!」
「楽しみ」
大型アップデートで、レシピやアイテムの追加もあるでしょう。
でも、それ以外にも追加されるだろうものはたくさんあると思います。
特に、フィールドエリアなどの戦闘系は絶対何かしら追加されるはずです。
生産系プレイヤー開拓者よりも戦闘系プレイヤー開拓者の方が圧倒的に人数が多いんですから。
それに備えて装備を強化しておくのは、戦闘系トッププレイヤー開拓者のミカちゃんなら当然です。
でも、ミカちゃんが装備している武器は、現状でもトップの性能を誇っていますから、中々難しいんですよね。
それだけに、希少な素材の情報はありがたいです。
「それで、いつからログインできそうなの?」
「今のところ順調に馴染んでるみたいだから、明後日くらいから許可できそうだって」
「おー、思ってたより早いね! じゃあララルさんたちにもそう伝えておくね!」
「よかった」
「うん、お願いね。ログインしたらみんなに復帰の『メール』を送って、お店のこともやらないとねー。忙しくなりそう」
「あ! そうそう、たぶん夜くらいかな? 時間空けておいてね!」
「ん。空けておいて」
「なになに? 何かあるの?」
「ふっふー。それは秘密なのだよ、バケツ君」
「内緒」
「えー教えてよー」
私のぷち引退も、明後日まで。
さあ、【ふろんてぃあーず】が私を待っています。
大型アップデートもすぐそこまで来ていますし、楽しみですね!
書籍化します!
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