131 インターミッション 『そのままで!』
連載再開です。
本日は三話投稿ですので、最新話から読むとあれ?ってなるよ!
「はぁ~……バケツさんまだ復帰しないのかなぁ~……」
『魔導ミシン』で新作を縫いながらも思うことは、私たちの『クラン』――『Works』の中心人物のこと。
トレードマークの『バケツヘルム』を被って、誰よりも生産に邁進していた生産系トッププレイヤー開拓者。
それが、バケツさん。
初めは不審者扱いされて話を聞いてもらうのにも一苦労でした。
でも、私の熱意が通じたのか、それとも私の作ったフリフリちゃんたちの可愛さに気づいてくれたのか、今では『Works』の一員であり、中心人物。
誰よりも長いログイン時間。
誰よりもアイテムを生産し続ける集中力。
そして、生産系プレイヤー開拓者のトップを走りながらも、ストイックにオリジナルを作り続けている、その気高き生産者精神!
私はバケツさんの仲間であると同時に、バケツさんを尊敬しています。
誰だって同じことを続けていれば飽きる。
でも、バケツさんはずっとやり続けることができるんです。
これは単純なようでとてもすごいこと。
同じことばかりしていれば、慣れなどからどこかで手を抜くことを覚える。
それは悪いことではありません。
でも、バケツさんはそんなことしない。
同じ生産系プレイヤー開拓者である私だから、わかるんです。
バケツさんは絶対手を抜いたりしない!
そんなバケツさんだけど、大型アップデートを控えたこの時期に突然ぷち引退を宣言してしまいました。
あれはかぼちゃイベントが終わって、大型アップデートの告知がされて少ししたくらい。
突然、『Works』全員に『メール』が届き、「重要な話をしたいから空いている日時を知りたい」、と書いてありました。
個別に話すのではなく、みんな一緒に聞いて欲しいという話だったので、みんなの予定を合わせて返信しておきました。
一応私はこれでも『クランマスター』ですから。それくらいのことはやります。
予定のすり合わせが終わり、当時には『Works』以外にも、ミカンさんや姫さん、アリミレートさんに『クラン』――『ゴスペル』、『キコリドットコル』の方々など、結構な人数がバケツさんの工房のリビングへと集まっていました。
全員が座るのは無理なくらいの人数だったので、そのまま立ったまま話が始まりました。
バケツさんの工房はそんなに広くないから仕方ないのです。
「えーと、忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。突然ですが、私、バケツさんは大型アップデートまでぷち引退することになりました」
狭いリビングにぎゅうぎゅう詰めなこともあって、バケツさんの放った言葉を私はうまく飲み込めませんでした。
あのバケツさんがぷち引退?
いつでも生産に邁進していたバケツさんが?
いつログインしてもいてくれる安心感抜群のバケツさんが?
ありえない!
「突然のことで驚かせてしまってごめんなさい。でも、リアル都合なのでどうしようもないんです」
驚きすぎて、誰も言葉を発することができない中、バケツさんは言葉を続けます。
私はきっと口を開けっ放しにして、間抜けな顔でその話を聞いていたと思う。
会社の同僚にも、「驚いたときに口を開けっ放しにするのはやめなさい」と何度も注意されていましたし。
「でも、予定通りにいけば大型アップデートの前には戻ってこれるはずです。だから安心してください。『ふろんてぃあーず』を辞めるつもりはありませんから」
戻ってくる。
その言葉に、驚いて止まっていた思考が動き出した気がします。
でも、結局私はバケツさんの話が終わるまで何も言えませんでした。
他の方々からは様々な質問が飛び交っていました。
でも、リアル都合である以上、深く聞くわけにはいきません。
私たちは仲間であっても、リアルのことを話したりするような関係ではないんですから。
それを痛感して、なんだかとても泣きたくなりました。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「じゃあ、お店は『Works』の方で管理をお願いしますね」
「わかりました。従業員の方々へのお給料は【開拓者組合】へ委託してあるんですよね?」
「その辺は大丈夫です。『現実時間』で二ヶ月分を渡してありますので」
「……営業時間は変わらず、ですか?」
「はい、そのままでお願いします」
「補充時間が決まってる方がやりやすいからな。俺たちもそのままの方がいいだろう」
「そうだね」
「そうだよ」
「「そのままで!」」
バケツさんの衝撃の報告が終わり、残りはバケツさんが経営しているお店の話なので、『Works』のメンバー以外は解散となりました。
【首都ザブリナ】にある本店は、私たちが『Works』が借り受ける形でそのまま営業を続け、【ドトリル】にある買取専門店は営業を停止することになりました。
『Works』のメンバーも全員が各自自分のお店を持っています。
でも、バケツさんのお店ほど客足が良いわけではないんですよね。
だから、バケツさんのお店に製作したアイテムを卸して売ってもらえるなら、かなりありがたいんです。
バケツさんのお店は、おそらく【ザブリナ王国】で一番の客足を誇っていると思いますし。
現状では、制作したアイテムの製作者は特定できないと思うので、誰が作ったものかは関係ありません。
コレクターでもない限りは、製作者を気にする人は少ないでしょうし。
「では、ララルさん。権限はララルさんに渡しますので、よろしくお願いしますね」
「……わかりました。でも、借りるだけですからね! 絶対絶対戻ってきてくださいよ!」
「もちろんですよ。辞める気はないって言ったじゃないですか」
「絶対ですよ! 約束してください~!」
「はいはい、約束しますー。指切ります?」
「きります~!」
こうして、翌日からバケツさんは本当に【ふろんてぃあーず】から姿を消してしまいました。
会社から帰宅してすぐにログインして、フレンドリストを確認しても、そこにはバケツさんの名前は灰色なんです。
私のフレンドリストでバケツさんの名前が灰色になったことなんてなかったのに……。
その日は、とても落ち込んでしまい、お店の補充をしただけでログアウトしてしまいました。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……こんにちはぁ~」
「あ、るーるーさん。こんにちは~」
「……新作を作ってきました」
「わぁ~! ありがとうございます~!」
ボーっとしつつも作業を続けていると、るーるーさんが来てくれました。
なんと新作を持ってきくれたみたいです。
るーるーさんの新作はいつも美味しいから楽しみですね~。
「……気晴らしになると思って」
「あ~……すみません。心配かけちゃいましたよね……」
「……わたしも……同じだから」
「るーるーさん……」
るーるーさんも私と同じで、バケツさんのことが心配であまり生産に集中できないようです。
こんな時は気分転換! ということで来てくれたみたいです。
「あー!」
「ずるいー!」
「「ボク(僕)たちもたべたーい!」」
「ミー君ムー君!?」
「……ふたりの分もあるから大丈夫だよ」
「ほんと!?」
「やったね!」
「「来て正解だったね!」」
テーブルにお茶やお菓子をセッティングしている間に、ミー君とムー君が匂いに釣られてやってきていたようです。
もしかしたら、ふたりも私やるーるーさんと同じようにバケツさんが心配で集まってきちゃったのかも?
でも、ふたりは男の子なのでそんなことは言わない気がする。
「じゃじゃーん!」
「ぱんぱかぱーん!」
「「今日はプレゼント持ってきたんだ!」」
「プレゼント、ですか?」
「……もしかしてバケツさんに?」
「正解!」
「当たり!」
「「復帰したら驚かせるんだ!」」
お茶とお菓子を楽しむと、ミー君とムー君が様々なアイテムをテーブルの上に並べていきました。
どうやら、バケツさんと一緒に人形の魔改造をしたときに使ったアイテムをたくさん作ってきたみたいです。
確か、このアイテムはミー君とムー君ほどの『錬金術』のスキルを持っていても作るのが大変だったと聞いています。
バケツさんと三人で夢中になって作っていたのは聞いています。
これならサプライズプレゼントしては、大成功するのが目に見えますね。
心配して落ち込んでいる私とは違って、ミー君とムー君はバケツさんの復帰を疑ってすらいない。
それどころか、復帰したら驚かせてやろうとプレゼントまで用意している。
あ~……私はだめだなぁ~……。
私は結局のところ、バケツさんの必ず戻ってくるという言葉を信じきれていなかった。
でも、ミー君とムー君は違う。
信じて、疑わず、それどころかこんなに素敵なプレゼントまで用意して……。
「……ララルさん」
「えぇ、私たちも負けてられないです~!」
信じて待とう。
そして、ミー君とムー君に負けない復帰プレゼントを用意してあげますよ~!
書籍化します!
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