128 『よっし! じゃあしゅぱーつ!』
「すごい」
「へへへー」
「えへへー」
「「頑張っちゃった!」」
『魔導人形:獣型・大狼』の魔改造を終えて、さっそく姫ちゃんに連絡したところすぐに来てくれました。
私が新しい魔導人形を製作しようとしていたことはもちろん姫ちゃんも知っていましたからね。
というか魔導人形は操作が複雑すぎて姫ちゃんくらいしかまともに扱えないでしょうし。
『魔導糸手袋』や『人形遣い』系のスキルLvだって姫ちゃんに匹敵するプレイヤー開拓者はまずいないはずです。
まぁその辺は姫ちゃんに人形を優先的に販売しているので当然なのですけど。
「じゃあさっそくだけど、姫ちゃん」
「ん。任せて」
『魔導人形:獣型・大狼』を姫ちゃんにトレードして渡すと、ミーとムーが待ってましたとばかりに魔改造の内容を伝えています。
今回の魔改造は双子の構想を三人で形にしていったものなので、説明役も双子にお任せです。
前回の『魔導人形:蟲型・蜘蛛』はそれぞれ別々に魔改造していましたからね。
今回は一貫して双子が構想を練っただけあり、統一感というものがあります。
とはいっても今回の魔改造は色々と大変だった部分もあるので『魔導人形:蟲型・蜘蛛』に行った魔改造よりは抑えめであったりします。
「わかった」
「じゃあまず慣らしから!」
「慣れたら一気に!」
「「れっつ起動!」」
「ん」
双子の説明が終わったようで遂に『魔導人形:獣型・大狼』が動き出すようです。
名前の通りに操作者である姫ちゃんの倍以上の体高を誇る超大型の人形です。
ただ起き上がっただけでも見上げるほどになるので迫力があります。
まぁでもこのへんは『魔導人形:蟲型・蜘蛛』でも同じようなものです。
すでに『魔導人形:蟲型・蜘蛛』を手足のように操ることができる姫ちゃんですから、慣らし運転もすぐに終わりました。
躍動感溢れる狼の動きを慣らし運転ですら完璧に再現する姫ちゃんの腕前は本当に脱帽ですね。
そしてこれからが本番。
姫ちゃんの指の動きが急速に上がると同時に『魔導人形:獣型・大狼』の毛が逆立ち、内部から幾本ものアームが出現します。
これが今回の魔改造の正体。
現れたアームにはそれぞれ色々な武器が装着されています。
無論その全てがスティール系の武器です。
用意しておいた的に向かって『魔導人形:獣型・大狼』が駆け、交錯する一瞬で的はバラバラになり、破片をさらに細かくされてしまいました。
慣らし運転で見せた速度の二倍から三倍のスピードが出ているのではないでしょうか。
そのスピードの原因も当然わかっています。
アームは何も攻撃するためにあるだけではないのです。
アームは胴体だけではなく、『魔導人形:獣型・大狼』の身体の至る所から出せるので加速や衝撃吸収などスピードをあげるための専用の改造が施されているものだってあるのです。
ただ、当然ですが一本や二本でこれほどの加速をさせることは不可能です。
一度に十本近いアームを駆使しているからこそあれほどのスピードが出るのです。
「すごい」
「確かにすごいけど」
「すごいんだけど」
「「すごいのは姫さんだから!」」
加速用のアームを十本近く操り、さらには攻撃用のアームも同じ数だけ動かしているのです。
それもあの残像すら残しそうな速さの中で。
『魔導人形:蟲型・蜘蛛』でも高速戦闘は行っていたでしょう。
あれもかなりのスピードを出せるはずですから。でも『魔導人形:獣型・大狼』の加速はそれ以上です。
正直なところ、私たちも姫ちゃんでもすぐにはこのスピードに慣れることはできないだろうと思っていました。
でも蓋を開けてみればこの通り、とんでもない速さで動く『魔導人形:獣型・大狼』を完全に制御して、的を粉砕しています。
ごめんなさい、姫ちゃん。見くびってました。圧巻です。
用意しておいた的を全て粉砕し、色々と動作を検証し始める姫ちゃん。
さすがは検証魔。私たちもその検証を眺めながら自分たちが行った魔改造の結果に大満足です。
『魔導人形:獣型・大狼』に仕込まれたアームは全四十本。
各四肢に五本ずつ。尻尾に五本。胴体に残り十五本が内蔵されており、四肢のアームは加速や衝撃吸収など、移動系に特化しています。
尻尾と胴体に内蔵されたアームが攻撃や防御を担当し、『魔導人形:獣型・大狼』のお腹にはたくさんの武器がセットされています。
『魔導人形:獣型・大狼』の内部でアームに装着する武器を変更することができ、様々な状況に対応できるようになっているのです。
『魔導人形:蟲型・蜘蛛』も強かったですが、『魔導人形:獣型・大狼』に比べればまだ可愛い方ですね!
下方修正が入らないかちょっと不安ですが、まず操作出来る開拓者が姫ちゃんだけですから大丈夫でしょう。
それに早々作れるものではないですしね。
『魔導人形:蟲型・蜘蛛』だって二体目を作るのは正直かなり大変です。
それ以上に大変な『魔導人形:獣型・大狼』は言わずもがな。
……まぁ魔改造しなければ苦労も半分くらいなんですけどね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
姫ちゃんへの『魔導人形:獣型・大狼』の引き渡しも終わり、ハロウィンイベントも終盤です。
天秤の傾きは納品側に大きく傾いています。
それもこれも誰かさんがシークレットの納品をやりすぎたせいです。
えぇ、私です! だってお菓子が美味しいんですから仕方ありません。
未だに天秤の傾きに対して運営から説明はありませんが、掲示板ではやはり天秤の傾きによってイベントが分岐するだろうという予測が大半を占めています。
納品側に傾いていますので、生産系に有利なイベントになるだろうという意見が多いですね。
その影響か、討伐系のイベントでラストスパートをかけて頑張っている人たちもいるみたいです。
まぁ結局は予想でしかないのでそれほど多いわけではないみたいですけど。
このペースだと、納品側に傾いたまま月末を迎えそうな感じです。
さすがに来月になってまでイベントは続かないでしょうから、もうそろそろ何かしらが起こるのでしょう。
まぁ私はいつもどおりにのんびりスティール系装備の製作ですけどね。
さて続き続き……と思ったところでなんともタイミングがいいのか悪いのか、『メール』が届きました。
開いてみると、運営からのようです。
「そうきたかー」
『メール』の内容は思った通りにイベントの進展を告げるものでした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『ユリー、用意はー?』
『大丈夫だよー。必要になりそうなものは準備万端ー』
『さすがバケツさん』
『私たちも出来る限り用意しましたよ~。でもやっぱりバケツさん頼みになりそうですけど~』
『納品としっかり書いてありましたし、色々用意しておくのは悪くないと思います……』
『だねー。まぁ楽しめればそれでいいよー』
『よっし! じゃあしゅぱーつ!』
いつもの女子会メンバーが目指すのはイベントが進んだことにより解放された『カボチャの迷宮』です。
あの運営からの『メール』に記載されていたのは『カボチャの迷宮』の解放と天秤の傾きにより、迷宮内では納品系のイベントがたくさん起こるだろうというお知らせでした。
やはり掲示板での予想通りになりましたね。
ただ『カボチャの迷宮』の情報はまだあまりないのでミカちゃんと姫ちゃんという強力な護衛も一緒です。
普段のPTメンバーとはタイミングが合わなかったのでちょうどいいらしいです。
まぁ『メール』が来てからまだ1時間経ってないですしね。
さてさて一体何が待ち構えているのか楽しみですね。
私としては美味しいお菓子がたくさんもらえるのを期待しています。
というかそれ目当てで今回の迷宮探索に参加しているわけですし。
イベントで美味しいお菓子が報酬で貰えていなかったらたぶんスルーしていたでしょうね。
『カボチャの迷宮』は【首都サブリナ】の至る所に入り口があるようです。
今までイベントクエストを発行していたカボチャが居た場所が入り口になっているようですから、そりゃたくさん入り口があるわけです。
私たちも工房から一番近い入り口から入ることにしました。
中はなんというか……洋館でした。
入り口がなんとも不思議なコウモリのデザインだったので、ちょっと拍子抜けです。てっきり洞窟系なのかと思っていましたからね。コウモリといったら洞窟でしょう。
「ようこそ、『カボチャの迷宮』へ。ここからは皆様には力を合わせてミニゲームを攻略していってもらいます」
洋館の中で待っていたのはイベントクエストを発行していたカボチャでした。
彼? 彼女? の説明によると、たくさんのミニゲームの中からランダムに三つ選ばれたものをこなしていくのが趣旨のようです。
あれ? 納品系イベントどこいったの? と思っていたら、一つ目のミニゲームが完全に納品系でした。
「館内に隠してある素材で製作、ね」
「注意しなければいけないのは、捜索中にイベントMOBに見つかると一定時間動けなくなるところですね~」
「ん。倒してもだめ」
「……慎重に行き過ぎても時間制限があるようですからだめですね……」
「まぁ、とりあえずやってみようか」
もし討伐系に天秤が傾いていたらミニゲームの内容もMOB討伐になっていたのでしょうかね?
まぁもう天秤を動かせないようですし、ミニゲームに集中するとしましょう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
洋館はそこそこ広く、三階建てのようです。
中にはたくさんのイベントMOBが徘徊していて、なかなか難易度が高そうです。
広いのでみんなばらばらに素材集めをすることになりました。
イベントMOBと戦うことはないので大丈夫でしょう。
……まぁ捜索開始して1分もしないうちにイベントMOBに見つかって20秒の停止ペナルティを食らったのは私だけですけど。
他のみんなは上手に隠れたり、見つからないような位置取りをしたりして素材を回収しています。
……ミカちゃんや姫ちゃんはわかるのですが、甘ロリさんとるーるーさんがイベントMOBに未だに見つかっていないのがちょっと悔しいです。私も頑張らないと。
結局必要そうな素材を集め終わった頃には、十回以上イベントMOBに見つかって停止ペナルティをもらっていました。
……私このミニゲーム苦手ですね。
でも製作では大活躍でしたよ!
まぁ製作難易度は決して高いものではなかったので甘ロリさんもるーるーさんもさくさく作っていましたけど。
というわけで、カボチャに納品を済ませ一つ目は完了です。
その後も基本的にイベントMOBに見つからないように洋館を探索するのを前提としたミニゲームをこなしていきました。
二つ目のミニゲームは色んな部屋に配置された宝箱から目的のものを回収して納品するミニゲームでした。
るーるーさんが最初に入った部屋で一発で目的のものを見つけるというミラクルを起こして開始1分でクリアできたりしましたが。
三つ目のミニゲームはイベントMOBの背中に素材が貼り付けられているのを見つからないように回収するというかなり難易度が高いものでしたが、ミカちゃんと姫ちゃんが大活躍して事なきを得ました。
ミニゲームによって難易度が大きく変わるのでなかなか運の要素が強いようです。
時間制限もありますから尚更ですね。
三つのミニゲームを無事クリアすることが出来たので、報酬として『カボチャコイン』を三枚貰えました。
どうやらこのコインと引き換えに様々なイベントアイテムが貰えるようです。
『カボチャの迷宮』には何度でも挑戦できるみたいですし、貰えるイベントアイテムの内容次第では頑張りたいですね。
……慣れれば見つかる回数も減ると思いますし、たぶん。




