122 『ん。バケツさんがんば』
「はー。なんか世界観おかしいよねー?」
「だぁねぇ」
「全然違う」
目に映る景色は蒸気が吹き出し、太いパイプが地面にいくつも設置された金属質の世界です。
至る所で蒸気が吹き出しているせいか、ちょっと空が煙っているくらいです。
これはアレですかね。
「スチームパンク?」
「それだ!」
「ん」
私達以外にもこの世界観がガラッと変わってしまったスチームパンクな街にやってきた人はみんな同じような感想を持っているでしょうね。
現にみんな街に入ってから私達同様に立ち止まって唖然としていますから。
ここは新たに開拓された街――『リベール』。
ハロウィンイベントが始まってから活発になった魔樹伐採によって新たに開拓された街なのです。
2つ目のセーフティエリアを伴ったフィールドエリアなのですが、ちょっと……いやかなり特殊なエリアだったのです。
『ミズーリの村』のと違って最初から建物も住人もいるという、今までどうしていたのかと最初に疑問が来るようなところです。
でもそんな疑問も街に来てみれば吹っ飛んでしまうのです。
何せ中世ファンタジーからいきなりのスチームパンクですからね。
「それにしても運営も思い切ったわねこれ」
「ん。ロボもいる」
「でも動力は蒸気機関の他にも『魔石』も使われてるみたいだよー」
「んで、どうなの? 作れそうなの?」
「んー。レシピの難易度はそれほど高くないけど、スキルが足りないねこれ。
でも見たこと無いよ、『魔導科学』なんて」
「派生か、何かしらの条件を満たさないと取得できないタイプなのかな」
「掲示板」
「お? 新情報?」
「どれどれー?」
まだ開拓されて間もないこの『リベール』は、現在たくさんの人達が集まってきています。
人が集まれば人海戦術でどんどん情報が集まってきます。
そういった情報は掲示板にまとめられどんどん更新されていくのです。
私達3人もタイミングがよかったのもあって開拓されて間もない今、遊びにきているのですが、さっそく新たなレシピなどもゲット出来ています。
でも見たこと無いスキルが必須のレシピばかりで、現状では何も作れないようです。
「学校? で取得できるみたいだね」
「えぇー! 【ふろんてぃあーず】でも勉強とか勘弁してよぉ!」
「ん。宿題やった?」
「……まだ」
「がんば」
「あははー。ミカちゃんがんばれー」
「……はぃ」
掲示板情報によるとどうやら『リベール』の街で手に入るレシピで必須スキルとなる『魔導科学』は『魔導学校』と呼ばれる建物で取得できるようになっているみたいです。
ミカちゃんが言ったように勉強したりするのでしょうかね。
私としては学校はあんまり通えなかったのもあって【ふろんてぃあーず】で体験できるなら是非したいところなんですけどね。
ミカちゃん達は現役の学生ですから、昼に現実で学校、夜にも【ふろんてぃあーず】で学校ではさすがに息が詰まってしまうでしょう。
まぁミカちゃんの場合は今日出た宿題の方が切実でしょうけど。
ミカちゃんと姫ちゃんは同じ学校で同じクラスです。
なので宿題も同じように出ているはずですが、姫ちゃんはあの言い方だともう終わらせたのかな?
さすが姫ちゃんですね。
ミカちゃんも見習って欲しいところです。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「よし、これなら戦闘にはいらない!」
「ん。バケツさんがんば」
「そうだねー。まぁ名前からしてそうじゃないかとは思ってたけどー」
一路『魔導学校』のある場所までやってきてパンフレットを眺めた結果、『魔導科学』は生産でしか使えないスキルのようです。
しかもどうもここ『リベール』でのみ取得できる特殊なスキルのようで、派生も進化も今の所存在しないそうです。
取得方法もそれほど難しくなく、『魔導学校』で少し授業を受けて試験をするだけみたいです。
すでに何人かチャレンジしており、ほとんどの人が取得できたようです。
落ちた人は戦闘系特化だったり、授業を真面目に聞いていなかったりと生産者なら問題なさそうですね。
そうとわかればミカちゃん達はスルーのようです。
まぁ彼女達は戦闘特化ですからね。
2人の装備も私が作っているのですから私が取得しておけば問題ないわけです。
「んじゃ一通りみたら各自で行動しよっか」
「賛成」
「そだねー」
まだ見ていない場所もたくさんあるので、一端『魔導学校』での授業はお預けです。
『魔導学校』は逃げませんからね。
時間も限られていますし、ここは2人との観光を楽しみましょう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『リベール』は蒸気機関と『魔導科学』に支えられた街です。
開拓される前まではどうやら巨大な半球状のバリアで耐え忍んでいたみたいですが、それもそろそろ限界というところで開拓されたみたいです。
なので街の住民から私達開拓者はとても歓迎されているみたいです。
限られた資源でなんとかやりくりしていた状態からも脱却できるので、住民達の歓迎も納得ですね。
私達開拓者以外にも【首都サブリナ】からNPC達が何人もやってきているみたいですし。
ちなみに『リベール』は【首都サブリナ】周辺ではなく、『ドトリル』の南に出現しています。
もちろん文献や伝承にもそこに『リベール』が存在したなんて情報はないみたいですけど。
ほんと不思議な世界ですよね。
でも魔樹に飲み込まれても生存し続けていたというのも初めての事だったみたいで、結構NPC達の間では驚愕の出来事だったみたいですよ?
普通は魔樹に飲み込まれたエリアは誰も生存できず、建物なども崩壊してしまうそうです。
ですが『リベール』では優れた『魔導科学』と蒸気機関のおかげでなんとか耐えられたのですからすごいですよね。
これからも魔樹はどんどん侵攻してきます。
この『魔導科学』の力があれば魔樹に飲み込まれてもNPC達はある程度生存することができるようになるのですから期待されているのでしょうね。
でも再開拓された際に同じ場所に出現するわけではないのが実証されていますし、『リベール』はある程度自給自足が可能だったから今まで耐えられたようです。
【首都サブリナ】では人口も多いですし、周辺のフィールドエリアから開拓者が日々様々な素材を入手してこなければ成り立ちません。
もちろんそれは食材も含まれているので【首都サブリナ】が魔樹に飲み込まれたら一ヶ月と持たないだろう、という話が掲示板にあったりもしました。
逆に『ミズーリの村』だったら完全な自給自足が出来るのでバリアが維持できれば相当長い期間持ちこたえられそうな気がしますね。
まぁそうなると『クールー飯店』で美味しいご飯が食べられなくなるので掲示板でも全力死守の構えのようです。
『クールー飯店』以外にも『オプション』付きの美味しい料理を出すお店が少しずつ増えてきていますし、今やランクの高い食材を大量に入手できる『ミズーリの村』はなくてはならない大事なフィールドエリアなのです。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「それでは時間です! 試験はここまでとなります!
結果発表は10分後に行われますので、このまま待機をお願いします!」
ミカちゃん達との『リベール』観光から『ゲーム内時間』で数日。
『現実時間』だと1日も経ってないのですが、『魔導科学』の授業はあっさりと終わってしまいました。
まぁ掲示板情報で予め知っていたので驚きはありませんが、試験内容は毎回変わるみたいで予め答えを暗記しておくなども出来ません。
ちなみに私は真面目に授業を受けたので試験もばっちりでした。
久しぶりに受ける学校の授業というのは新鮮でとても楽しかったので大満足ですけどね!
まだ開拓されて間もないというのもあって、授業を受けに来る人はプレイヤー開拓者が多いみたいですが、中にはNPC開拓者と思しき人もいたみたいです。
外見からはなかなか判別が難しいですが、プレイヤー開拓者に比べてNPC開拓者は普段着の傾向が強いです。
そりゃ戦うわけでもないのに装備を着込んだまま過ごしたくはないですよね。
快適な状態を維持するようになっているのでプレイヤー開拓者はその辺が結構無頓着です。
まぁいちいち着替えるのが面倒というのもありますが。
例え『鞄』からの操作で一発で着替えられるとしても。
そういった事もあってプレイヤー開拓者とNPC開拓者の見分け方というのも少しずつ確立されつつあります。
もちろんプレイヤー開拓者で普段着を用意している人だっていますので、確実ではありませんが。
待機している教室で暇つぶしにNPC開拓者探しをしていればあっという間に結果発表です。
真面目に受けていた私ですので、当然合格です!
お目当てのスキル――『魔導科学』は事務員の人からあっさりと貰えて終わりでした。
まぁ結構人もいましたからね。
いちいち仰々しくやっていたら時間がいくらあっても足りません。
これでやっと新たに入手したレシピが製作できます。
ちなみに『魔導科学』はLvこそありますが、進化も派生もないそうです。
そこはちょっと残念ですが、SPの消費なく入手できる数少ないスキルですし、Lvが上がればもちろんSPは貰えます。
もしかしたら結構美味しいスキルなのかもしれないですね。
ちなみに新たに入手したレシピに『魔導科学』は必須ですが、設備や道具は今までのもので問題ないようです。
どうせなら新しい設備なんかがあったら触ってみたかったのですが、そうなるとまたお金がかかりますからね。
私は大丈夫ですけど、他はそうでもないでしょう。
ですのでこれが妥当なのかもしれませんね。




