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120 『まさかこの量を……? 信じられない』

 戦闘組の主戦力は遠く離れた祭壇。

 残された最低限の防衛戦力ではとてもではないけど迫っているイベントMOB(モンスター)達の侵攻を抑えることなんてできないでしょう。

 現に圧倒的な数に押されて私達を守るどころか自分たちが死なないようにするので手一杯のご様子。


 まぁそれでも死に戻りは本当に死ぬわけではないですし、イベントのクライマックスで間違いないだろう今をみんなで一緒にクリアできないのは心残りではありますが仕方ないでしょう。


 雪崩のように迫ってくるイベントMOB(モンスター)達を横目にそれでも私達は最後の最後まで生産者らしく、道具を振るいます。

 そう、助手を務めてくれた3人共決めましたからね。


 さぁ来るなら来なさい。

 私達は最後まで諦めず今作っているものを完成させますよ!


「あ」


 ――とか思っていた時期が私にもありました。

 現実はそんな私達の決意なんてどこ吹く風です。


「すげえ」

「これが噂の『蜘蛛姫』」

「まさかこの量を……? 信じられない」


 助手の3人が手を止めて見てしまうほど、今私達の目の前で起こっている出来事はすごいものです。

 突如空から降ってきた巨大な塊――姫ちゃんの操る『魔導人形:蟲型・蜘蛛』が8本の足に仕込まれた大剣を縦横無尽に振るい、人型が繰り出す連撃の嵐が大剣を逃れたMOB(モンスター)を切り刻んでいっています。

 こちらに背を向けているのでよく見えませんが、恐らく牙も接敵したMOB(モンスター)を食い散らかしているはずです。

 さらには『魔導人形:蟲型・蜘蛛』の射程範囲外でも転倒したり、MOB(モンスター)同士で攻撃を始めたりとまさに大混乱の様相を呈しています。


 姫ちゃんいつの間に『魔導人形:蟲型・蜘蛛』に10本の糸を使わなくてよくなったのでしょう。

 そうでなければ今の状況を説明できません。

 何せ『魔導人形:蟲型・蜘蛛』を動かす際には10本の糸を自由自在に操れなければいけないのですから。

 例え姫ちゃんでもそうやすやすと糸の数を減らせるとは思えません。


「ひ、姫さんー! きついきついきつい!」

「うああああああこっちがあっちでこっちがあああああ」

「無理無理無理無理!」

「がんばれ」


 どうやら姫ちゃんが1人で頑張っていたわけではなかったみたいです。

 激しく戦闘している『魔導人形:蟲型・蜘蛛』の後部に姫ちゃんの他にも3人のプレイヤー開拓者が無理やり乗っているみたいです。

 その3人がどうやら姫ちゃんお得意の妨害行動を代わりにやっているみたいです。

 でも結構な数のMOB(モンスター)を相手に、しかも激しく動いている『魔導人形:蟲型・蜘蛛』の後部に搭乗しながらやっているのですから驚きです。

 もしかしなくても彼らは相当な実力者なのでしょうね。


 でもそのおかげで時間はかなり稼げたようです。

 もうだめかと思った雪崩のようなイベントMOB(モンスター)の侵攻は姫ちゃん他3人のおかげでなんとか食い止めることが出来、一番遠い祭壇に集結していた戦闘組の半数近くが戻ってくることができました。

 あとはもう蹂躙劇が始まるだけです。


 でもその代償は結構大きかったみたいです。

 姫ちゃんの『魔導人形:蟲型・蜘蛛』もかなり無茶をしていたので至る所がぼろぼろです。

 耐久値も相応に減少しているでしょう。

 下手すれば破損状態になっている場所もあるかもしれません。

 魔改造をしまくっている『魔導人形:蟲型・蜘蛛』ではありますが、耐久値自体は増加していません。

 なので意外と無茶な操作は厳禁な精密な子なんですよね。


 でもそれだけ頑張らないとあれだけの数を少しの間とはいえ、押しとどめることは不可能だったでしょう。

 姫ちゃん達が頑張ってくれたからこそ間に合ったのです。


「姫ちゃん!」

「ん。間に合った」

「ありがとう。私達もうだめかと思ってたよ」

「一緒にクリアする」

「うん、そうだね。ここまできたんだもん。

 一緒にクリアしよ!」


 死に戻りを覚悟していた生産者の面々も姫ちゃん達の決死の活躍に大興奮で大盛り上がりです。

 今日一番の盛り上がりじゃないかと思えるほどにみんな大興奮ですね。

 それはもちろん私も例外じゃありません。

 ぼろぼろの『魔導人形:蟲型・蜘蛛』と一緒にやってきた姫ちゃんに興奮のあまり抱きついて歓迎しちゃいましたからね!

 みんな見ていたわけですし、今になってちょっと恥ずかしくなってきました。


「修理お願い」

「任せて!」

「ぼ、ボクたちの方もお願いします~」

「おう! そっちは俺達に任せろ!」

「今行くわ!」

「うわぁ! これは酷い状態ですね!」


 『魔導人形:蟲型・蜘蛛』に一緒に搭乗していた人達も相当無茶をしたのか装備が酷い状態になっているみたいです。

 でもまだそちらは生産組が作った強力なイベント装備だったので交換するだけで済みそうです。


 問題はやはり『魔導人形:蟲型・蜘蛛』でしょう。

 修理で対応できる部分はそれでいいのですが、魔改造で無理やり装備しているパーツは破損状態になっていると通常とは違うプロセスでの修理が必要です。

 予想通りに破損状態までいっているパーツが何個かあったので、ここではちょっと修理ができません。

 なので製作してあったイベント装備を『マリオネットカスタマイズ』で無理やり装備させてお茶を濁しておきましょう。

 でも耐久値が低いので注意が必要です。

 その点を姫ちゃんにしっかりと伝えておかないと。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「4班掃討終了!」

「6班ももうすぐおわる!」

「雑魚MOB(モンスター)も打ち止めのようだな」

「あとは『影の主』だけよ!

 範囲攻撃に注意しつつ遠距離から削れるだけ削って!

 自信があるもの以外は接近しちゃだめよ!」

「「おう!」」


 『影の主』が出現してからすでにそこそこの時間が経過しています。

 同時に出現していた雑魚MOB(モンスター)なんかは大部分が倒されて、追加で出現していた分ももうほとんどいなくなっています。

 でも問題は雑魚MOB(モンスター)の量ではなく、『影の主』の攻撃方法です。

 『影の主』は近くにいる人を飲み込む影を放射して、捕まると一気に生命力を吸い取られてしまうようです。

 その攻撃は同時に『影の主』の生命力を回復させるようで、回避に自信がある人じゃないと回復させるだけになってしまうのでなかなかダメージの蓄積がうまくいっていません。


 でも回避に自信がある一部の戦闘系プレイヤー開拓者が『影の主』の攻撃を回避し続けているおかげで遠距離攻撃をしてもそちらに攻撃が行くことはあまりないようです。

 時折思い出したように『影の主』から遠距離攻撃が飛んできますが、それがまたすごい威力なようです。

 なので遠距離攻撃をしているプレイヤー開拓者も気を抜けません。

 それでも近接攻撃をし続けなければその遠距離攻撃が連射されるのですからたまったものではありません。


 回避に自信がある人筆頭が我らがミカちゃんです。

 『聖銀』武器を握って縦横無尽に影の放射を回避しつつ攻撃を加えているのですからとんでもありません。

 他の人は回避に比重をおいているのにミカちゃんは攻撃重視ですからね。

 それでいて他の人より危なげなく回避しているのです。

 さすがミカちゃんですね。


 私達はどんどん消費される強力なイベント装備の製作です。

 『影の主』だけになってからはもうほぼ一方的に攻撃しているような状況でもあるのでとにかく消費が早くなってきました。

 でも雑魚MOB(モンスター)からドロップしていた素材はもう今あるだけです。

 何せ雑魚MOB(モンスター)の出現が止まっているわけですから。

 消費されていくのに補充がないのですから、いつかは製作できなくなるでしょう。

 それも近いうちに。

 それまでに決着がつくとは現状ではとても思えません。

 そうなると持ち込んだ装備でどうにかするしかないわけですが、この場所で製作できた装備はどれも持ち込んだ装備よりも強力なものです。

 火力が今より下がるのは確実でしょう。


「かなり時間がかかりそうだな」

「えぇ、もう中間素材を作れる素材がないわ」

「バケツさんがあと2つくらい作ったら終わりだねこれ」

「あとは持ち込んだ装備でなんとかするしかないですねー」


 そうこうしている間にとうとう素材が尽きたみたいです。

 なるべく『聖銀』装備を多く作れるように素材を回してもらっていましたので、他のところでも製作ができなくなっているみたいです。

 そうなるともう生産者がやれることはたまに修理と応援くらいなものです。


 戦闘と兼業でやっている生産者でも一応遠距離攻撃が可能な人は混ざっているみたいですが、正直焼け石に水です。

 戦闘系トッププレイヤー開拓者とは戦闘能力が雲泥の差ですからね。

 それでもないよりはマシなので、『影の主』からの反撃に注意しつつも参加が推奨されています。

 私は所持していた『魔術陣』は全部姫ちゃんに渡してあるので何も出来ません。

 ここでみんなの応援をするくらいですね。


 さぁみんな頑張って!


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ――なんというか『影の主』は今までの雑魚の雪崩や『ディヴァインゴブレットダミー』などの特殊なギミックと比べるとすごく単調でした。


 そう、過去形なのです。

 時間はかかりこそすれ、攻撃方法に変化はなかったですし、その他の行動が変化したり、追加があったりもありませんでした。

 つまりは近接が攻撃を全て回避し、遠距離で削る。

 これで終わってしまったのです。


「なんか最後はあっけなかったなぁ」

「何かあるかと思ったんですけどねー。

 結局何にもなしでしたねー」

「それまでの方がよっぽど大変だったわねこれ」

「あ、見てください。フィールドが」


 『影の主』の生命力が消失し、光の粒子となって完全に消えると同時に半球状に展開していた影がどんどん薄くなっていっているようです。

 そしてその奥には見慣れた景色が見えてきました。

 どうやら門の上ではなく、巨大結晶があったところに強制転移させられていただけみたいですね。


「他の門はどうだったんだ?」

「専用スレがあるわね。どうやら他はすでに終わってたみたい。

 でも『影の主』については書かれてないわ。

 最後の祭壇までね」

「つまりボク達のところだけ?」


 完全に影のバリアが消えた所で掲示板へのアクセスなども可能になったようです。

 そして私達の周りには結構な人集りが出来ていたりします。

 やっぱり最後だったからでしょうね。


『【ザブリナ王国】/異変:異形なる影の下僕が解決されました』


 『女神(システム)インフォ(インフォメーション)』による異変の解決があり、どうやらイベントはこれにて終了のようですね。

 集まっていた人達から一斉にお疲れ様でしたコールが巻き起こっています。

 私達も合流したミカちゃん達と一緒にお疲れ様コールに混ざるとしましょうか。


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