118 『生産組の守りを優先! 1人も落とすなよ!』
「設備と非戦闘員の回りを固めて! 堅守!」
「「おお!」」
巨大結晶から広がった影に飲み込まれてから数分。
すでに状況は動き出し止まることができなくなっています。
その中でも門の上で見学しようとしていた私達非戦闘員は慌てふためいて何もできなかったのですが、ミカちゃん達戦闘系プレイヤー開拓者は当然のように周囲の状況を把握して動いてくれています。
どうやら影に飲み込まれたあとは違うフィールドエリアに飛ばされたようで、半球状の影の中から出れなくなっているみたいです。
その中には巨大結晶と私達。
そして生産で使う設備と道具類が設置されているというなんとも不思議な状況です。
ミカちゃん達が非戦闘員と設備の周囲を固めた頃には巨大結晶から影を纏った異形――イベントMOBがどんどん湧き始めていました。
ただ湧いているのは雑魚ばかりで、レイドボスどころか強MOBもいません。
おそらくはこれは前哨戦。
周囲を守られてやっと冷静になり始めた私を含めた非戦闘員のプレイヤー開拓者達が口々に予測し始めていますね。
そして冷静になればそこはプレイヤー開拓者。
色々とこのフィールドエリアの特殊性がわかってきました。
まず外と『コール』や『メール』などの連絡機能が使えなくなっているみたいです。
『IDメール』も【ふろんてぃあーず】内への転送が遮断されているという徹底ぶり。
ただもちろん【ふろんてぃあーず】外へは大丈夫なようです。
そして何より掲示板へのアクセスが不可能になっています。
このフィールドエリアは外からの助けを借りずに自力で攻略しろということでしょうね。
なかなかおもしろい試みです。
「雑魚から見たこと無い素材とレシピが出てきてる!
レシピはトレード可能みたい!」
「こっちもだ! 武器や防具のレシピもあるぞ!」
「必要素材も雑魚から出たものみたいだな」
「設備も道具も素材もあるってことは今ここで作れってことか!
生産者の人頼めるか!?」
巨大結晶から出現しているイベントMOBを蹂躙する勢いで蹴散らしていた戦闘系プレイヤー開拓者からどんどん報告が上がっています。
驚きなのは素材どころかレシピもドロップしている点でしょう。
これが私達も巻き込んだ理由というわけですか。
でも門の上に見学者が集まっていなかったらどうなっていたのでしょう?
それに他の門でも生産者が集まっているとは限りません。
もしこのレシピで製作できるアイテムが攻略に必須なら詰んでないでしょうか?
「まだ効果がわかんないから一先ず1個ずつ作って!
有用そうなら数作る方向で!」
「生産者は設備の近くまで来てくれ! レシピを見て難易度を確認して無理はしないでくれ!
素材の数は有限だ!」
「ん。バケツさんよろしく」
「あ、うん。姫ちゃんもがんばって!」
さっそくミカちゃん達が先頭に立って指示を飛ばしています。
そして素早く姫ちゃんがかき集めた素材を持ってきてくれました。
私以外にも生産者がいるようで、その人達も設備の近くまで来てさっそくレシピを確認しています。
「これなら俺は大丈夫だ」
「私は無理そうだから中間素材の製作にするわ」
「猶予がどのくらいあるかわからないしな。ここは分担しよう」
「あ、じゃあ私はこの『聖銀』系を担当しますー」
「すげーさすがバケツさんだ。こんなの無理だぞ」
「スティールレベルか、これ?」
「たぶんそのくらいですねー」
「他の門でも同じことが起こってるなら大変だぞ……」
「ま、まぁレシピは結構あるし、なんとかなるんじゃないかしら?」
「そうだな。今は他の事よりこっちだ。
生産組も戦闘組に負けないように頑張るぞ!」
「「おおー!」」
設備の回りに集まった生産者のみんなも闘志を燃やしてやる気は十分なようです。
私が担当することにした『聖銀』系のアイテムですが、中間素材の量からしてもスティール系装備レベルです。
でもスティール系装備の『ダブルオプション品』を製作できるようになっている私なら問題ないでしょう。
問題があるとすればそれは設備と道具のランクでしょうか。
用意されている設備と道具はどうみても上級のものではないです。
というか見たこと無い設備と道具なんですよね。
まぁ一先ず試してみましょう。
それほど猶予があるとは思えないですしね。
何せ見学者すら強制的に拘束したフィールドエリアです。
拘束時間が長時間に及ぶとは到底思えませんから。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「『堅銀』装備一式あがりだ!」
「『鋭銀』武器もあがったぞ!」
「『爆銀』アイテムも順調よ! もってって!」
入手したレシピを手分けして試作し、性能を検証した結果、どうやらこのフィールドエリア限定で高い効果を発揮する装備やアイテム類であることがわかりました。
そうと分かればドンドン量産していってるわけです。
ただ装備は耐久を回復出来ない上に耐久値も少ないので結構すぐに壊れてしまうのでこちらもたくさん作る必要があるみたいです。
製作された装備が戦闘組に行き渡るに連れ、イベントMOBの殲滅速度も上がっていき、どんどん素材がこちらに流れてきています。
消耗品のアイテムもガンガン製作されて消費されているようですし、生産組は大忙しです。
見学者の中には当然生産にも戦闘にも貢献できない人がいたりしますが、そういう人は完成した装備やアイテム、戦闘組からの素材の運搬などやることがいっぱいです。
なので結局は拘束された全員が動き回っている事になっています。
ちなみに私の製作している『聖銀』装備ですが、これがまた酷い効果です。
他の装備よりも製作難易度が高い分、効果が高く、且つ耐久値も高いのでなかなか壊れないようです。
戦闘系トッププレイヤー開拓者に優先して配布されていますが、彼らの活躍が目に見えるほど上がっているのです。
ミカちゃんなんて最初に製作した『聖銀のショートソード』で完全に無双してます。
でもやっぱり中間素材の量が多いので製作には時間がかかります。
効果がわかってからは助手に何人かついてくれていますが、彼らは結構スキルLvも高く腕もいいのに苦戦しているようです。
……こういう時に自分の突出具合がよくわかるというものですね。
合間に話してみれば彼らはトップクラスと言えるほどのものなのですから。
まぁ私のログイン時間はその中でも断トツのトップなのは間違いないですからね。仕方ありません。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「巨大結晶に動きあり! 全周警戒!」
「生産組の守りを優先! 1人も落とすなよ!」
「「おお!」」
イベントフィールドエリアに拘束されてから1時間もしないくらいでしょうか、遂に巨大結晶に動きがあったみたいです。
今までは雑魚のイベントMOBを出現させ続けていたのですが、どうやら今度は強MOBを出現させ始めたみたいです。
ですが、みんなのがんばりで数々の特攻装備やアイテムが戦闘組に行き渡っています。
『聖銀』装備もそこそこの数を製作できているので、所持している人が特に活躍しているみたいですね。
具体的にはミカちゃん達のPTと『ゴスペル』のメンバーですね。
彼女達は戦闘系トッププレイヤー開拓者ですし、周りも納得しています。
こういうのは配布する順番とか揉めそうでしたが、周囲からも認知されているメンバーが多くて助かりました。
まぁ一部では不満がありそうでしたが、結構な人数が賛成したので大丈夫でしょう。
議論している間にも雑魚のイベントMOBは大量に出現していましたからね。
忙しくてそれどころではなかったでしょう。
そして今は出現しているのが強MOBなのでもっと忙しそうです。
強力な特攻装備やアイテムがあるので今までよりは楽に倒せているようですが、問題はその数です。
周囲を完全に守られている私達からも見えるくらいには数が多く、なかなか怖いです。
こんな環境で製作するなんて初めてですしね。
それは私だけではなく、他の生産者の人達も同じ事がいえます。
強MOBの押し寄せる迫力に手がとまったり、普段はしないミスをしたりと、結構な被害が出ています。
「みんな落ち着け! 戦闘組が守っている間はこっちには来れない!
冷静に製作するんだ! 俺達の作ったものが勝敗をわけるのは明白だ!
気合いれるぞ!」
私の助手をしてくれていたガタイのいいプレイヤー開拓者が戦闘で生じる派手な音をかき消すかのような大声でみんなに呼びかけています。
私の助手をしていたのですぐちかくだっただけにその大声に正直びっくりしました。
叫ぶなら事前に言って欲しかったです。
おかげでミスるところだったじゃないですか。
まぁでもそのおかげで強MOBに気が向いていた生産者のみんなも自分のやるべき事に集中し始めました。
この人すごいですね。
私には真似できないことです。
「いきなり大声を出して悪かったな。
さぁ俺達もやろうぜ!」
「あ、はいー」
「ですね。ボク達の頑張り次第で前線の活動が変化するんですから特に頑張らないと」
「そうよ! 今日ほど生産やっててよかったって思ったことないわこれ!」
「確かに。直に反映されてるからな。
俺達が頑張った分だけあっちも楽になるんだ。
やりがいがあるってもんだぜ!」
「まぁ一番大事な部分はバケツさん頼みだけどね!」
「違いねぇ! 頼んだぜバケツさん!」
「さすがバケツさんよね。他の門の人達は『聖銀』の製作無理だろうし、うちらはほんとラッキーよね。
経験値的にも美味しいし!」
「ボクもう3つもLv上がってますよ」
「俺も3つ上がってるな!」
助手を努めてくれている人達から楽しげな声が上がっていますが、確かに難易度的にも経験値は美味しいでしょうね。
私は1つもあがってませんけど!
でも確かに自分達が作ったものが目の前で効果を発揮しているのです。
そして求める声も直に聞こえてくる。
これほど生産者としてやりがいを覚える事もないでしょう。
私は掲示板や店員さんから間接的にこういった声を聞いていますのでよくわかります。
やはり求められる、必要とされるというのはとても心地よいものです。




