117 『でかー!』
イベントアイテムの製作をミカちゃん達の注文以外ではしなくなったのもあって、スティール系装備の製作が少し増えました。
ソレ以外は全部自由時間に回るわけですが、自由時間といえば『魔術陣』。
『魔術陣』といえば『魔法陣』がLv100に到達しました。
『魔術陣』に大きく関わる、というか根幹のスキルですので優先度は高いのですが、如何せんSPが足りないといういつもの事態です。
『魔法陣』が進化すると『魔法陣・改』になりますが、そのためにはSPが30必要です。
今現在のSPは23ですので、もう少しですね。
異変解決を含むNPCクエストのおかげでたくさんスキルを進化させたのでガンガンLvも上がっている最中です。
恐らく近いうちに『魔法陣』も進化できるでしょう。
……でもSPが報酬のクエストはいつでも待っていますよ。大歓迎です。
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結構長かったように感じたイベントも遂にあと今日で終わりです。
イベントポイントラインキング上位10人はシークレットになっていてわかりませんが、ミカちゃんと姫ちゃんはその10人に入っています。
11位のイベントポイントと名前は公開されているのでそれより上なら入っていることになりますからね。
上位10人が買い占めに走っているはずですが、『影の涙』の高騰は完全に止まって急激に下がってきています。
売りどきを見誤った人が大量放出しているんでしょうね。
なのでまだまだランキングの変動は激しいのかもしれません。
何はともあれ、それも今日で終わりです。
イベント終了時間は始まった時に告知されていますが、掲示板ではその前に何か最後のイベントがあるんじゃないかと噂されています。
現に今まで毎日たくさんレイドボスが出現していたのに今日はまだ1体も出ていないのです。
「――わかった、すぐいく!」
「ん」
「なになに? 進展あったの?」
手持ちの資金が尽きるまで『影の涙』を露店で買い漁ったミカちゃんと姫ちゃんでしたが、レイドボスも出現しないので工房でお喋りしていました。
ですが2人同時に『コール』が来て何やら慌ただしくなってきましたよ。
「東西南北の門を出て少し行ったところに突然巨大な水晶が出現したんだって!
しかも影がまとわりついてるからイベント関連だろうって!
まぁこの時期に出てきてるんだから間違いないだろうけど」
「ん。行く」
「門出てすぐなら私も行こうかなー」
「なら一緒にいくよ! れっつごー!」
「ごー」
イベント最終日だからなのか、どうやら何か特別な事が起こっているみたいです。
これでイベントランキングがまた大きく変動しそうな予感がしますね。
フィールドエリアに出現している以上は戦闘前提でしょうが、まだ何も起こっていないようですし、少し見学するくらいなら大丈夫でしょう。
何よりそんな大きな水晶なら見てみたいですからね。
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「でかー!」
「大きい」
「すごー……。これは見学にきて正解だったねー」
「てかこんなもんどうするんだろう? 中からわんさかイベモブが出てくるとか?」
「レイドボス」
「強いのが出てきそうな感じはあるよねー」
「どっちにしてもまだ時間かかりそうだねこれ」
「最初は影が少なかったんだっけ?」
「らしい」
「で、今は10分の1くらいっと」
どうやらこの巨大結晶、出現当初は影の量が少なかったみたいです。
時間経過と共にどんどん量が増えているみたいで、影が満ちたら何か起こるんだろうとみんな予想しているみたいです。
まぁそれが妥当でしょうね。
ちなみに予想では『現実時間』の21時前後に影が満ちるみたいです。
さっそく検証部隊が計算して掲示板に情報がアップされていました。
21時頃ならゴールデンタイムまっただ中ですし、参加できる人数も相当なものになるでしょう。
何はともあれ見学も出来たので私はもう満足です。
戦闘面では役に立てませんからね。
せいぜいそれまでにミカちゃんと姫ちゃんから新たに注文されたものを製作しておくくらいでしょう。
さぁて工房に帰りましょうかね。
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掲示板では時間までに様々な議論がなされているみたいです。
何せイベント参加者達はレイドボスが出現しなくて暇を持て余しているようですから。
ミカちゃん達も『影の涙』を購入する資金が尽きていますので掲示板にちょこちょこ書き込みしているみたいです。
本人確認にチェックを入れておけば匿名ではなくなるので、有名人の2人は特に発言力が大きいですからね。
戦力としても最高クラスですし、ミカちゃんは指揮能力もあります。
姫ちゃんも『魔導人形:蟲型・蜘蛛』と最強の支援能力がありますしね。
掲示板での議論も大量出現タイプと強化個体タイプ、その両方のタイプとで色々な戦略が練られているようです。
無論この3パターン以外にもあるかもしれないので議論は白熱しているわけですけどね。
みんなイベントのラストという事で張り切っているみたいです。
ランキング上位者以外も楽しみにしているみたいですしね。
門から少し進んだところにあるので門の上辺ならちょっと遠いですがリアルタイムで見学できるかもしれません。
そんなことが掲示板に書かれていたのでミカちゃん達の注文分が終わったら確認しにいってみようと思います。
まぁ、考えることはみんな一緒だと思いますので混雑してそうですけど。
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「ここからなら一応見れるっちゃ見れるね」
「遠い」
「まぁ……それは仕方ないんじゃない? それにあたし達はここ使わないし。
ユリ、何か考えてきたんでしょ?」
「んー。コレ使えるかも?」
「おおさっすが」
門の上は一応通路が通っています。
衛兵の人達が見回りをするための通路ではあるのですが、一般にも解放されていたりします。
まぁあんまり登ってくるひとはいないみたいですけど。
でも今回はかなりの人数がいて混雑しています。
イベントラストの大舞台が予想されていますからね。
戦闘に参加できない人達でもみたいわけです。
私もその一人なんですけどね。
ですが巨大結晶は門から少しいったところにあるので、正直あまりよく見えません。
一応これを考慮しておいたのでレシピの中に何か使えそうなのはないかと探しておいたんですよね。
「『オペラグラス』?」
「そそ。望遠鏡の方を探したんだけどいいのがなくってこれにしてみたー」
「他にも結構それ持ってる人多いね」
「みんな考えることは一緒ってことだねー」
あまり倍率はよくないので全然人気がない『オペラグラス』ですが、こういうときには便利です。
なのでちゃっかり商売している人なんかもいますね。
お祭り価格でぼったくってるみたいですけど。
「さぁてんじゃまだ時間には早いけどあたし達はあっちで待機するね」
「ん。いってくる」
「いってらっしゃーい。頑張ってねー」
「もちろん!」
「ん」
予想されている時間にはまだ少しありますが、もう巨大結晶の回りにはたくさんの人が集まり始めています。
予想は所詮予想ですからね。
まとっている影が満ちたからって確実に何かが起こるわけではないでしょう。
でも期待は出来ます。
イベントなわけですからね。
起こらないわけがないのですよ。
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巨大結晶の回りには戦闘態勢を整えた数多くの戦闘系プレイヤー開拓者が待機しています。
門の上には私達のような見学者が密集していて暑苦しいくらいです。
『現実時間』でもうそろそろ21時です。
さぁ一体何が起こるのかとても楽しみですね!
「あ」
それは誰の声だったのか、それとも私の声だったのか。
でもそんな声は一瞬にして掻き消されました。
予想していた時間が過ぎた瞬間――巨大結晶に纏わりついていた影が満ち、周囲を包み込むかのように一気に広がった影は門の上に詰めかけていた私達すら飲み込んで大きく広がったのでした。




