113 『ではバケツさん殿。よろしく頼む』
「ところでヘイフリックさん。私の方からも個人的に護衛をつれていってもいいですか?」
「それは……少し待っていてくれ」
「あ、はいー」
どうせならミカちゃんと姫ちゃんにも声をかけたいので聞いてみたところ、相談が必要な案件だったみたいです。
上司にでも聞いているんでしょうかね。
……騎士団長の上司って王様ですかね? それとも将軍とかいるんでしょうか。
【ザブリナ王国】のそういうところって全然知らないんですよね。
興味もまったくなかったですし。
「お待たせした。すまないが今回は我々のみで実行することになっているので無理だ」
「そうですかー」
「すまないな。何分異変の内容が内容なのでな」
「あー……国宝ですもんねー」
「本来なら一開拓者である君の力を借りる事にも様々な議論があったのだがな。
解決に向かう気配すらなかったので私が押し通したんだ。
だからこれ以上はすまない。
さすがに私でも強くは出れなくてな」
「そういうことなら仕方ないですねー」
どうやら王宮にはプレイヤー開拓者をよく思わない人達もいるみたいですね。
プレイヤー開拓者達のおかげでどんどんフィールドエリアが開拓されて魔樹の侵攻を押し返しているというのに。
まぁどこの世界にもそういう人達はいるんでしょうね。
そういうリアルな人間模様とか、高度なAIを積んでいるNPC達ではどう発展するんでしょうね?
ちょっと楽しみなようであり、不安でもあります。
騎士団対プレイヤー開拓者みたいな事態に発展しなきゃいいんですけど。
その後は詰めの話し合いが行われ、時間や準備物など色々と指示がありました。
もちろん私の時間に合わせてもらう形になりましたが、それはあちらも当然折り込み済みだったようです。
ここで時間指定なんてされてダメな時間だったりしたら目も当てられませんからね。
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攻略するエリアは【首都サブリナ】の南側にあるそうです。
魔樹の伐採は一切行われていないところなのでそこまで行くのにもMOBや魔樹の襲撃が何度もありました。
ですがさすがは戦闘の第2と呼ばれるだけある『ザブリナ第2騎士団』です。
見事な連携と強さであっという間に駆逐してしまいました。
ミカちゃんが見たら悔しがるでしょうね。
『ザブリナ第2騎士団』の面々はほとんどが完全武装の軍馬に跨って行動しています。
魔樹の森の中だというのにその動きは平原を走っているかのような流麗な手綱さばきです。
騎士団ってすごいんですね。
ちなみに私は小さめの馬車に乗り、周囲を騎士達に守られながら進んでいます。
当然ながら戦闘には完全ノータッチです。
私の役目は『ディヴァインゴブレット』を攻略予定のエリアの前で使い、封印を解除すること。
その後は内部調査をして必要なら再度『ディヴァインゴブレット』を使用するみたいです。
一応『王宮図書館』の文献などに記載があったみたいで、情報は得ているみたいです。
『王宮図書館』とか胸が踊る単語が出てきましたが、どうやったら入館許可が下りるんでしょうね。
今回みたいな依頼をこなしていけば貰えたりするんでしょうか。
でもこれで今後の『言語』の使い道がわかってきましたね。
おそらくは図書館2階同様にさらなる進化をしないと読めない類なんでしょう。
許可が下りた時のためにも進化させておきたいところですね。
あ、ちなみに今回のNPCクエストの報酬はなんとSP45です!
大盤振る舞いもいいところですよね。
それだけ厳しいクエストなんでしょうか。
でも私のやることって『ディヴァインゴブレット』を使うだけです。
MOBは全部騎士団の人達が処理しますし、探索だってそうです。
もしかしなくても美味しいですよね。
いやぁでも高ランクの『ディヴァインゴブレット』の製作が出来なければ受けることなど出来なかったわけですし、これもまた日々の積み重ねの賜物ってやつですね。
なので今からSPの使い道を考えるだけで楽しくなってしまいます。
候補は『細工職人』、『裁縫・改』、『皮革・改』、『木工・改』、『錬金術・改』、『解読・改』、『発見・改』、『集中・改』といったところですね。
他にもLv100がありますが、今は必要ないので除外です。
優先順位1位は『細工職人』でしょうか。
あとは『裁縫・改』と『錬金術・改』が最下位で他は団子ですね。
異変解決後の報酬を合わせればSPは80にもなります。
『細工職人』の進化に必要なSPは30です。
でもこれは惜しくないですね。
『細工』は現在の私の生産に於いては『鍛冶』に続いてなくてはならないものですし。
そうすると残りのSPは50です。
『皮革・改』、『木工・改』、『解読・改』、『発見・改』、『集中・改』は各それぞれSP15で進化できますのでこの中から3つですね。
すでに『ダブルオプション』を製作できるようになっていますので、素材のランクが上がっても大した意味はありません
『トリプルオプション』は何かしら別の条件を満たさなければいけませんしね。
そうなると必然的に残りの3つ、『解読・改』、『発見・改』、『集中・改』となりそうです。
ではでは決まったところで暇な道中ですので、『細工職人』を進化させちゃいましょう。
まぁ進化させても工房に戻るまでは試せないんですけどねー。
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魔樹が支配する森というのは実は私は初めて入ったわけですが、暗くてじめじめしていておどろおどろしいところです。
でも小さな馬車が通れるくらいには間隔が空いていたり、騎乗戦闘が出来たりと鬱蒼とした森というわけではありません。
もちろんそういうルートを騎士団の人達が選定しているのでしょうけど。
馬車に揺られる事早4時間あまり。
遂に目的の場所に到着したようです。
魔樹の支配する森を通ったにしては早いように感じますが、結構な距離を移動しているはずです。
それはつまり『ザブリナ第2騎士団』の実力が相当高いという証明でもあります。
現状の戦闘系トッププレイヤー開拓者ではこうはいかないでしょう。
やはりまだまだNPCの方が強いですね。
目的地はひと目でわかる結界のようなものに覆われていて、さらにその結界の前には小さな祭壇があります。
あそこで『ディヴァインゴブレット』を使用すると結界が解けるそうです。
つまりここからは私の出番ってやつですね。
いやぁストレス排除機能のおかげでお尻が痛くならないとはいえ、馬車に超時間揺られるというのはなかなかどうしてつらいものです。
しかも同乗していた騎士団の人は護衛ですので、会話がまったくありませんでした。
1人で4時間も馬車で揺られるのはつらいです。
出来ればお喋り出来る人を同乗してほしかったです。
……ミカちゃん達と一緒に来たかったです。
こんなことになるんならもっと強くおせばよかったですね……。
まぁそれで許可が下りるかどうかは微妙なところですけど。
とにかく出番ですので準備をしましょう。
とはいっても『ディヴァインゴブレット』を受け取って祭壇で使用するだけですので準備という準備はいらないんですけどね。
専用の衣装とかもないみたいですし。
「ではバケツさん殿。よろしく頼む」
「はいー」
ヘイフリックさんから『ディヴァインゴブレット』を受け取り、祭壇に置くとシステムウィンドウが出てきて使用するかどうかの選択肢が出てきました。
いやー実にお手軽です。
はいを選べばそれで使用できちゃいますからね。
「おぉ……! やはり文献は間違っていなかったようだな」
祭壇で『ディヴァインゴブレット』を使用すると眩い光が辺りを白一色に包んだと思った瞬間には何かが砕け散る音がしました。
あまりの眩しさに目を閉じていて何が起こったのかわかりませんでしたが、目をあければ目の前にあった結界がなくなっています。
つまりは結界の解除に成功したようです。
はー。なんといいますか。すごく簡単ですね。
でもここからが本番です。
何せ封印が解除されたこのエリアを攻略することこそが目的なのですから。
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「では予定通りに調査班の報告を待ってからバケツさん殿には進んで頂く。
護衛も予定通りの人数となる。
『ディヴァインゴブレット』の使用が必要な場合は先程と同じようにやっていただくのでよろしく頼む」
「了解ですー」
「ではまずはここで休んでいてくれ」
「はいー」
攻略が始まったと言っても、騎士団とプレイヤー開拓者では方法が異なるようです。
プレイヤー開拓者はPT単位でMOBを倒しながら進んでいきますが、騎士団はまず調査班を送って調査してから行くようです。
まぁ私という非戦闘員がいるからというのもあるのでしょう。
それでも攻略にはそう時間はかけられません。
何せ私のタイムリミットがありますからね。
すでに行きに4時間かけています。
タイムリミットは『ゲーム内時間』であと10時間くらいです。
……こうしてみるといけそうな気がしてきますね。
でも騎士団の人達も女神様の祝福を受けているとはいえ、ここまで小休止程度はあるもののそれを除けば動きっぱなしです。
10時間丸々使えるわけではないのです。
まぁ女神様の祝福を受けていれば寝ずに2,3日くらい動く事も可能ですので出来なくはないんですけどね。
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簡易設営された拠点で待っているとさっそく調査班が戻ってきたみたいです。
1時間もかかっていませんので早いんでしょうね。
それともさっそくトラブルでしょうか?
私の出番ですか?
「――わかった。交代して休め。
バケツさん殿、さっそくで悪いのだが出番のようだ」
「わかりましたー」
どうやら予想は的中のようです。
これは結構私の出番多そうな予感がしますよ?




